「新ロードス島戦記 序章 炎を継ぐ者」作:水野良 出版社:角川書店

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★はじめに

この作品は「新ロードス島戦記」の外伝を集めた短編集であり、それぞれ本編と関連はあるものの、時系列等は全くのバラバラです。

水野先生は外伝というより本編のつもりであり、尚且つその本編を補完するように、各キャラの逸話が色々と明らかになります。

ちなみにこの本には「戦記」でお馴染みの出渕裕先生が挿絵を描かれた旧版と、「新」に合わせて美樹本晴彦先生が描かれた新装版があります。

詳しく見比べた訳ではありませんが、修正などがあるかもしれないので、このレビューでは基本的に新装版を元に書き進める事にします。


T 炎を継ぐ者

★1

最初から表題作です。舞台は新王国暦508年の風と炎の砂漠。主役はスパークの従兄弟にして、炎の部族の前族長ナルディアです。

ナルディアは水野先生のお気に入りのキャラだそうですが、それだけに大小ニースやレイリアと同じく過酷な人生を歩みました……。

アズモやカシューといった個性的過ぎる男達に求愛され、最期は炎に身投げして炎の精霊王フェニックスに転生したという逸話まである。

作者に嫌われるのも大概だけど、気に入られるのも大概だという事でしょうか。今回はそんな彼女が炎の部族の族長になって間もない頃の話。


炎の部族がエフリートを解放する4年前。長らく続いていた風の部族と炎の部族の戦いは佳境へと向かっていました。

新王国歴504年に両部族の戦いにカシューが現れ、風の部族は傭兵であった彼を王として頂き、506年にフレイム建国

そして507年にマーニー・ローランといった都市がフレイムに併合。更には508年のこの年、フレイムは攻勢に出ました。

神聖王国ヴァリスの援軍を受けてオアシスの街ヘヴンを奪取。更には炎の部族の族長ダレスは戦死、討ち取ったのはカシューでした。


残った民は更に辺境のムンロ砦に落ち延び、回収できなかったダレスの遺体はフレイムが届けてくれたので荼毘に付しました。

こうしてダレスの娘ナルディアは族長となったのです。彼女は従弟のスパークが成人して族長の地位に就くまで、部族を守らねばならない。

ダレスはひたすらに強さを求める男でした。男子たるもの強くあらねばならないとし、力のない者は奴隷のように扱うほど厳しい男でした。

当然彼は娘のナルディアよりも、男子である甥っ子のスパークを可愛がりました。彼の望んでいたのは男子の跡取りであり、娘ではなかった。


ナルディアは父に愛を与えられず、それでも父の跡を継がねばならなかったのです。若干14歳の少女に、1つの部族はあまりにも重い……。

ちなみに炎の部族の人口は10万人と結構多かったりする。ヘヴンを追い出された今となっては、食べていけるかどうかも怪しい。

かつて炎の部族は砂漠の半分を支配していました。それがヘヴンを失った今、残る拠点はこの砦のみ。このままでは炎の部族は滅びる……。


一応カシューは炎の部族との和平を望んでいます。彼はフレイムを「砂漠に住む全ての民の国」であると考えているのだから。

しかし「炎の魔神」を読んでも分かるように、両部族の確執は根深い。どんなにカシューが和平を望んでも、互いに殺しあってきたのだから。

でも実際風の部族は彼を迎えた事で飛躍的に変わった。大陸の技術を取り入れ、各方面にコネを作り、今や炎の部族は到底適いません。


一方炎の部族の戦士達は、その誇りの高さがかえって部族を追い詰めている。和平するぐらいなら誇り高い戦死をという雰囲気です。

風の部族の族長ムハルドや継嗣シャダムはすんなりとカシューを受け入れ、変化を受け入れた。その辺が両部族の運命の分かれ道です。

これを見る限り、4年後の戦いとナルディアの犠牲があればこそ、炎の部族はフレイムを受け入れられたという気がしてきます。

どんなに誇りが高くて頑なであっても、炎の部族の戦士達はナルディアを慕ってる。だから禍根を棄ててまで彼女の意思に従おうとした。


人の上に立つ人物の資質とは、戦士の力だけではない。人々をまとめる事のできるカリスマが必要なのだと思います。

カシューにもそれがあったから風の部族も変化を受け入れたように思えるし、ナルディアにも十分その資質がある。勿論スパークにも。


★2

起死回生の策として、ナルディアはまず外交関係から整理します。実は現在の炎の部族はファラリス教団と繋がっているのです。


かつてダレスはフレイムに追い詰められていた事もあり、彼らを招いたのです。もちろん戦力にはなる。回復魔法で怪我人も治して貰える。

ところが戦力が多少増えても敵はもっと増えた。マーニーやローランが併合を受け入れたのも、ヴァリスの介入も、ファラリス教団の影響です。

更にはカシューだってファラリス教団に対抗すべく組織された傭兵隊の中にいたのです。結果論ですが、リスクの高過ぎる味方なのです。


既に敵は1万に達するという大軍です。とにかく部外者を取り除き、純粋に風と炎の部族同士の戦いに持ち込む。それがナルディアの理想。

後にパーンをヴァリスの聖騎士として丁重に扱ったのもそういう背景があったからです。敵を増やしたくない、そんな切実な理由があった。

後にスパークは逆にファラリス教団を味方につける訳ですが、あれはマーモだからこそ許された事です。このロードス本島では無理です。


ナルディアはファラリス教団の追放を宣言します。勿論部族会議の場では反論もありますが、彼女の理論を看破するほどでもない。

この時点で既にロクな参謀もいないらしい。ナルディアに知恵を貸そうというヤツはいないんだろうか。ドラマCD版のアブールとか。

一応ナルディアはルゼナンを味方につけています。彼はスパークの母親の兄であり、後にフレイムの大臣となる部族の有力者です。る

スパークが16歳になれば族長の地位を譲る、そういう約束で彼を味方につけてます。もっとも彼女は族長の地位にこだわってないけど。


これを受けてもファラリス神官戦士団のリーダー格である闇司祭エズードは一見穏やかです。

彼はマーモ出身のファラリスの高司祭であり、およそ100名の戦士団を率いている。年齢不詳の美男子ですが、何処か怪しい男です。

エズード「働きに不満でもありましょうや」

ナルディア「働きには、不満はない。存在そのものに不満があるのだ

ナルディアも言い方キツイ、存在そのものを認めない宣言です。しかしこれがエズードの憎しみを買うようになっていくのです。


こうしてナルディアは教団へ部族の宝を渡す事で手を引いてもらいます。更に周辺の諸勢力にも教団との決別を告げる使者を立てました。

その際カシューが領土拡大の野心を抱いている事も仄めかします。建国王なら、より広い領土、より多くの民を従える欲求を持ってると。

これは本編でもしばしば話題になる事ですが、実際カシューには野心はない。フレイムの王となる事で十分満たされている様子でした。


あとは諸国や諸都市の反応ですが、基本的に首を突っ込む義理はない。多分できる限り中立を保つでしょうね。

アラニアはフレイムの拡大を恐れているだろうから、できれば風と炎の部族には争いを続けて欲しいと思うでしょう。

実はかつてナルディアはノービス伯アモスンに献上品を納め、剣舞を披露した事もある。その時の恥辱が無駄にはならない筈。

ライデンも現時点でフレイムとは大陸との貿易のライバル同士だし、マーニーやローランもできれば独立していたいのが本音でしょうね。


もっともそのいずれも邪神戦争の頃には全てフレイムに屈しますがね。ライデンは魔竜シューティングスターの被害でフレイム領になるし。

アラニアは別に征服されてはいないけど、王都アランは陥落した。元はといえば貴族同士の争いが原因で、カシューはその仲裁をしただけ。

それでも街を攻撃された民にとってみれば、カシューは侵略者でしょう。とはいえ原因が強欲で無能なアラニア貴族にある点も確かですがね。

マーニーとローランなんて完全にフレイム領として馴染んじゃってるし。ナルディアの予想は当たらずとも遠からずといったところです。


しかし例え外交関係で成功を収めても、苦境は変わらない。そこで砂漠の地形と魔物を生かし、力を蓄えねばならない

幸い風と炎の砂漠は過酷な土地です。砂漠を越えて大軍を投入するのは大変な事だし、補給や行軍だって非常に労力がかかる。

できればカシューが失政でもやらかしてくれれば好都合ですが、それは相手次第。フレイムは建国間もないのでその可能性はあるけれど。


いずれにしろ強い意志で毎日を生き抜く事が大切。

ナルディア「刃を交えぬとも、毎日が戦なのだ」

特に族長は部族の意思を叶える義務がある。ましてナルディアはまだ若い、誰よりも気丈に振舞わなければいけない。


★3

翌朝、エズードがスパークを誘拐して部族内は騒然となります。スパークは炎の部族の未来そのもの、まさに部族の宝です。

しかも"砂走り"の生息地へ一直線らしい、明らかに殺す気マンマンですね。これが自分を侮辱したナルディアへの復讐です(子供か)。

聖職者らしからぬ行動に見えますが、ファラリスの教義は"為したいように為す"。そして人は弱い。結果その多くは邪悪な行動に走る。


ここで"砂走り"について説明しておきましょう。「炎の魔神」でサーディーを殺した事で名前だけは有名な魔物ですね。

彼らは正式にはデザートダイバーと呼ばれ、レベルは6。巨大化した羽虫の幼虫であり、元々は雨季に一斉に孵化する種族だったのです。

ところが盟約の影響で精霊力が乱れ、そのまま成虫になれずに巨大化して今に至ります。可哀そうなものですが、非常に危険な存在でもある。

彼らは砂に潜って移動し、得物を捕食します。外見は巨大な顎を持つムカデのような感じで、夜行性で、全長5mにも達します。

しかもその顎の威力は18点と強烈極まりない。勿論赤ん坊なんて確実に死ぬ。彼らの貴重な脱皮シーンは新ロードスの2巻で読めます。


ナルディアは大急ぎでエズードを追跡し、砂走りの生息地で彼と対峙します。

ナルディア「わたしに復讐すればよかろう。罪もない赤子をさらって、砂走りに食わせてどうなるという?」

エズード「わたしの気持ちが晴れます。そして、あなたには生涯、忘れることのできない記憶となるでしょうな」

何て卑劣な。ここまで分かりやすい悪人も珍しいものです。


しかし高司祭だけにその実力は恐るべきものでした。まず斬りかかってきたナルディアへ"ブラインドネス"?をかけて視覚剥奪

この状態では攻撃・回避共に−4もの修正を受けてしまい、ロクに戦えない。持続時間は3分間ですが、殺そうと思えば殺せるでしょう。

ただし本来この魔法は接触する必要があるので、このように遠距離からかける事はできません。ここでは呪いだと言ってますが、多分違う。

もしこれが呪い属性の魔法なら十中八九"カース"でしょう。しかしこの魔法は自動的には解けない。でもナルディアは数分で視力を回復します。


更にエズードは残酷にも四肢の自由を奪い、ナルディアを辱めようとします。多分これは8レベルの"クリップル"でしょうね。

これは足や腕といった部位をピンポイントで麻痺させる恐るべき魔法ですが、こちらは本当に呪いで自然回復しないのがやはり問題です。

かといって"ポイズン"では一度かければ全身麻痺しますし、どうみても毒物っぽくはない。それにこの際の持続時間は12時間です。。


多分水野先生としては、視力を奪ったのは距離を無視した"ブラインドネス"で、麻痺させたのは自然治癒する"クリップル"なんでしょう。


しかしナルディアは根性で抵抗して腕の自由を確保。そして暗闇の中エズードに胸を揉まれる恥辱と恐怖に耐え、機会を伺います。

結局はそのスケベ心が命取りでした。覆いかぶさった所で滅多刺しにされてエズード死亡。情けない、レベルの割りになんて情けない男だ……。

しかも微妙にやってる事がアズモと被ってるような気もする。そういえばアズモはダレスが族長だった時に随分苛められてそうですね。


★4

エズードを倒したナルディアは体の自由が戻ったのを確認し、スパークを助ける為に"砂走り"の群生地へ飛び込んでいきます。


砂走りは姑息なナマモノであり、足音を頼りに判断します。相手が多いと悟ったら出てきませんが、そうでなければ容赦はしない。

幸いスパークの身柄は確保できたナルディアでしたが、もしこの状況で彼が泣き出せば、たちまち砂走り達は襲い掛かってくるでしょう。

ちなみに彼らの砂の中での移動速度は10と特別速くない。馬やラクダでなくても、人間だって(足を取られなければ)逃げ切れそうです。


ナルディアは懸命に気配を殺し、スパークを抱き締めて砂漠に伏せます。しかしスパークはそんなナルルンの心配も他所に、熟睡(笑)

ナルディア「おまえは、大物になるよ」

こんな時から根性太かったんですね、流石は未来のマーモ公王です。馬鹿なのか大物なのか分からない


結局砂走りは彼らに気づかずに走り去り、駆けけつけてきた戦士達と共に砦へ引き返してこの件はお終いです。

しかし収穫もあった。戦士達の目にナルディアへの敬意が宿ったのです。図らずもナルディアは1つの武功を立てたのです。


しかしこの時の彼女の言葉は、不思議な予言のようになりました。

ナルディア「わたしが死ぬときは、炎の部族の未来が開けたときだ

この4年後、炎の部族はアズモの操るエフリートの力で攻勢に出ます。そして紆余曲折を経て炎の部族はフレイムへ加盟

ナルディアは自らの身をエフリートの残り火に投じて死に、部族の未来をカシューへ託す。そして彼はそれに応えていく事になります。


彼女は族長として戦い続けた、そして生き抜いた。決してただ死んだんじゃない、自分の命で未来を切り開いたのです。

ナルディアは死後炎の精霊王フェニックスへと転生したと言われ、伝説となります。彼女は民の新たな守護神となったのだと。

そして彼女の炎を受け継ぎ風の中で育った少年は、やがてたくましい戦士となり、ロードスの歴史を大きく動かす英雄となる……。


U 魔獣の森

★1

今度の舞台は英雄戦争から5年が経過した、新王国歴515年頃のアラニア。まだパーンやスレインが独立運動に勤しんでいた時代。

アラニアの森に住む魔獣使いのエレーナの物語です。またこの話の原作としてカセットブックの「魔獣の森」というものがあります。

この小説はそれをリメイクしたものですが、カセットブック版よりも悲惨な結果に終わります。しかしだからこそ「新」の物語へと繋がる。

エレーナはこの話では悲劇のヒロインのようなものですが、「新」の舞台となるマーモにおいて比類ない活躍を見せる重要キャラなのです。


その日セシルは独立を勧める為にナダールの村を尋ねました。ナダールはザクソンとは白竜山脈を隔てた場所にある村です。

その村は現在他の多くの村と同じように重税を課せられていて、税金を絞って村を省みない領主へ不満を抱いていました。

スレインはこの村を味方に引き入れる事で同じような村も独立運動になびくという計略を立てている。見た目にそぐわぬ策謀家ですね。


もしこれが成功すれば内乱の片棒を担ぐノービス伯アモスンは領地の3割を失い、国土の1/4が独立を宣言した事になるというのだから凄い。

しかもナダールの領主はアモスンの腹心で、留守がちです。しかしそれだけにもし裏切った時、伯爵軍の攻撃を受ける可能性があります。

ナダールの村長はそれを恐れ、迷っています。でも彼を説得できれば独立運動は大きく進展し、1つの国を興せる程の勢力に拡大する。


残念ながらセシルの説得は実を結びませんでした。その帰り道、彼はとある森に迷い込み、一匹のマンティコアと遭遇しました。

その時彼は剣を選びました。流石は武闘派魔術師、リウイと似たような行動パターンです。魔法よりも剣、やはり彼は戦士向きでは(苦笑)

ワールドガイドではセシルはソーサラー/セージ5でファイター3。結構な実力の魔法戦士であり、冒険者として彼を欲しがる人もいる筈。


でもマンティコアって結構強いですよ。その上この時点でも5レベルとは限らないし。せめて他に仲間がいれば……。

セシル「魔獣め、来るなら来い!」

マンティコア「剣を選びし未熟な魔法の使い手よ。行くつもりなら、すでに行っているとは思わぬか?」

セシル「それなら、こちらからいくぞ!」←美形のくせに熱血系

マンティコア「歓迎しよう。身を守るための戦いは、認められているゆえに」

なんて熱血な男なんだ。相手は自衛以外で戦わないと言ってるのだから、撤退を選んだ方が無難なのに(苦笑)


こうして戦闘になるかと思いきや、その場に現れたのは美しい女性でした。彼女こそは魔獣使いのエレーナです。

世界で唯一人魔獣支配の秘術を修める魔術師。年齢は18歳で、セシルは22になりますからやや年下の美少女ですね。

周りにはミノタウロス、ヒッポカンポス、リュンクス、ハーピィ、キマイラといった数多くの幻獣・魔獣を従えています。

勿論マンティコアも彼女の支配下にある。能動的に人を襲う事を許されず、自衛の為にのみ働くよう命令されているのでしょう。


普通の男性なら「メルヘ〜ンゲット〜〜!!」内なる心が快哉を上げているでしょう。しかしセシルは良くも悪くも普通の男ではない

女の子のような容姿を気にしているせいか、どうも言葉遣いや性格が男臭いです。それでも見た目は美しいのでアンバランスです。

本気になればきっとモテるだろうにね……。あと恋をした事はあるかもしれないけど、セシルの性格を考えると気づかなかったとか(笑)

しかしセシルは自分でも知らず知らずの内にエレーナに惹かれている。だけどそれは決して目に見える形の恋にはならないというもどかしさ。





エレーナが取り成したことでセシルは剣を納め、マンティコアの案内で森から抜け出す事ができました。

そしてザクソンへ帰還したセシルは自分の見たものをスレインやパーンといった仲間達に伝え、対策を練ろうとするのです。

この時のザクソン・ファミリーは丁度「火竜山の魔竜」の冒頭と同じです。パーンやディードもいて、小ニースを育てるレイリアさんもいる。

ほとんど家族ぐるみの付き合いなのがアットホームで素敵です。一度そういう日常の風景を扱った小説を読みたいものですね。


パーン「魔獣使い、だって?」

ディード「夢でも見たんじゃないの?」

セシル「夢なんかじゃありません!」←むきー!

実は彼らも反応が面白いのでからかってるらしい。確信犯かい。まぁ確かに面白いし、イジメ甲斐がありそうですが(コラ!)


そしてスレインの口から、エレーナと魔獣支配の秘術の経歴が語られます。

セシル「もったいぶらずに、説明してください」←師匠が相手でも超短気

スレイン「賢者が軽々しく話を始めたら、商売にはならないでしょう」

そりゃあそうなんだけど、スレインの場合本人の性格でもあるような気がする。それでいて知識を披露するのが実に楽しそう。

何でも知識を得ようという欲求は、それを披露したいという欲求と表裏一体なんだとか。スレインを見ていると確かにそう見える。


魔獣支配の秘術をルノアナ湖の遺跡で発見し復元したのが、今は亡き大魔術師グージェルミン、エレーナのお父さんです。

あのラルカス学長の友人にして右腕と言う程の高位の魔術師でしたが、学長とは話が合わずに学院を自主的に出てしまいました。

学長は秘術が魔獣と同じく危険だから封印すべきだと考え、導師は逆に魔獣の被害を防ぐ事ができるから研究すべきだと考えたのです。


そして導師は当時5つだったエレーナと、5つ年上の弟子ランディスと共に例の森に家を建て、魔獣達と一緒に暮らすようになった。

ところが秘術の力に野望を抱き始めたランディスは破門され、導師も亡くなり、エレーナは1人ぼっちで魔獣達を管理しているという訳です。


セシル「とにかく、彼女を救いだすべきです

スレイン「捕らわれているのは、魔獣のほうですからね」

セシル「そんなことは分かっています!でもそのままにはしておけないでしょう」

確かに放置はマズイかもしれない。今までは大丈夫でも、今後もそうとは限らない。誰かがその秘術を利用しないとも限らないし……。


またスレインは独立運動の今後も考えています。すなわちパーンをアラニア王として立てるか否か。

スレイン(わたしには力が必要なのですよ。そしてそのための時間も限られているのです)

現在独立運動は成功を収めつつある。もしパーンが望めば、可能でしょうね。ただし後に彼はこの申し出を断ります


仕事の話が終われば、スレインは小ニースに本を読んであげます。それは穏やかなひと時。きっとスレインにとったら至福の時でしょう。

スレインは可愛い娘綺麗な奥さんがいて、後に一国の宮廷魔術師になるんですよ。絵に描いたような幸せな家庭です、一見ね

しかしニースとレイリアさんのを思うと複雑です。確かに今のひと時は幸福なのかもしれないけど、それは波乱の前の僅かな静けさに過ぎない。


ちなみに小ニースに読んであげる本は古代書です。その辺がなんかズレてる親子ですね。(笑)

ニース「崇高なる魔法王ファーラムは仰せられた。我が王国に従わぬ蛮族どもに、魔術の偉大さを知らしめよ」←古代語で諳んじている

ファーラムは基本穏やかな男だと思ってましたが結構な事も言うんですね。あとこの言語は多分ナニールの記憶でしょう。


しかしもうちょっと本は選んだ方がいいと思う。まだ3つなんだから、もうちょっと可愛らしい童話とかないものか。

古代語の分からないパーンに至っては、意味が分からない。普通だったら3つの子供に教養で負けてたら劣等感を抱くものです。

でもパーンは純粋に小ニースを褒めています。なんか「それでいいのかな〜」と思いつつ、やっぱりパーンはカッコイイです(苦笑)


★2

ところがセシルの不安は予想よりも速く実現してしまいます。マーモの魔術師となったランディスが秘術を狙って現れたのです。

グージェルミン導師に破門されたランディスは、バグナードに弟子入りし、マーモの宮廷魔術師の第五席に位置する魔術師となりました。

主席はバグナード、次席はグローダーでしたね。第五席というのは結構な実力ですし、"テレポート"を使ってたから最低7レベル魔術師


彼はエレーナにとっては大好きなお兄さんであり、恋心すら覚えていた相手です。最初戻ってきた時は歓喜し、身体を委ねた程に。

ところが彼はエレーナをマーモへ連れて行こうとするのです。秘術を使ってマーモの魔獣達を軍事利用し、ロードスを統一する為に……。

彼は野心を抱いている。マーモのような実力主義の国で高い地位を得たいと思っている。その為に秘術は是非とも必要なのです。


かつてエレーナは愛しい彼が破門された時心を裂かれるような悲しみを抱いた。そしてこの変わりように、どれだけ胸を痛めた事か。

実は破門された時一緒についていきたかった。でも年老いた父親を置いてはいけず、悩んだ末にここに残ったんです。

本来ならそんな野心は捨てて、一緒に静かに暮らしたかった。でも彼は野心を捨てる事はできそうにない、なんて悩ましいんでしょう。


ランディス「優れた人間が、能力に見合った地位に就けるような世の中になるんだ」

エレーナ「人の能力は多様なもの。誰が有能で、誰が無能かを、どうやって正しく判断するの」

それに高い地位を得た者は、身内にその地位を伝えようとする。封建制だろうが民主制だろうが、完全な実力主義などありえない


エレーナはランディスを追い返し、泣きました。その精神に感応して魔獣達が騒ぎ始めますが、彼女は決して彼らを解放しない。

エレーナ(静まりなさい。わたしと一緒に、この森で暮らしつづけるのよ。
      ここだけが、邪悪な魔獣と魔獣使いが生きられる唯一の場所なのだから)←精神感応

なんて痛々しいんだろう。最愛の人を失い、それでも秘術と魔獣を制しなければならない。真の意味で呪縛されてるのは、むしろ彼女です。




ところがランディスは協力を拒むエレーナに揺さぶりをかけます。"ディスペル・オーダー"で魔獣達を解放していくのです。

魔獣が暴れて付近の住民に被害をもたらせば、エレーナを討伐しようとする人間が現れ、彼女はこの土地を離れざるを得ないだろうと。


ここで魔獣支配の秘術について触れておきましょう。残念ながらデータは公開されてませんが、幾つか推測は可能です。


まずこの秘術は統合魔術の産物であり、複数の系統魔術を統合して実行する高度な魔術です。

使用する際は意識の触手(探索の糸)を伸ばし、魔獣の精神に触れるとこれを精査。すると魔獣はこの糸を辿ってやって来ます。

そして更に糸を伸ばして支配の網で雁字搦めにし、最終的に名前を与えます。この名前そのものに魔法的強制力があり、相手は服従する。

その上服従させたものとは"ファミリアー"のように感覚共有が可能で、しかも"ファミリアー"と違って複数を掌握可能だといいます。


何やら色々なプロセスを踏んでいて、確かに複数の系統を利用していそうですね。特に名前を与えると言う点が興味深い。

ナシェルは風竜ワールウィンドに名前を与える事で心を掴んだ。竜にとっても魔獣にとっても、名前は特別なものなのかもしれません。


何とあの五色の魔竜を呪縛していたのもこの秘術によるものでした。実は"ギアス"ではなかったのかもしれません。

でも私はやはり五色の魔竜を呪縛していたのは"ギアス"だったと思います。まずブラムドの様子を見るに"ギアス"の特徴は確かにあった。

しかしエレーナの魔獣達は彼女に逆らって激痛に苛まれる事はない。秘術は彼らに命令を与える点でのみ使っていたのでしょう。

そもそもこの秘術は、それこそ"ファミリアー"のように対象と術者を繋げるだけなので、術者が死亡したら対象は呪縛から逃れます。


つまり秘術は当時竜達を利用する際に使ったもので、財宝を守らせる際には"ギアス"を使ったのでしょう。

当然"ギアス"をかける時も秘術の影響下なので、いかな竜達といえども逆らえず、甘んじてこの命令に従わざるを得なかった。


ちなみに"ファミリアー"は召喚魔術ですが、感覚共有という点で利用しているだけで、《召喚》に属する魔法ではない筈です。

種別《召喚》の定義は対象を空間を越えて呼び寄せ使役する事です。しかし秘術は呼び寄せるだけ、空間は超越しないのです。

また《召喚》系の魔法はどれも非解除です。ところがこの秘術は"ディスペル・オーダー"で解除可能な点、セキュリティーにやや難がある。


あるいはこの「意識の触手」というのも召喚魔術の作用の一部なのかもしれませんがね。

後に明らかになる事ですが、どうも竜語魔法の召喚でもこの手の意識の触手を伸ばしているようなので、召喚の特徴なのかもしれません。


以上の特徴を見るに、この秘術が召喚魔術を主にしたものだと推測できます。意識の触手と感覚共有はそれだとしましょう。

問題は「精神を精査して呼び寄せる」という点と、「魔法的強制力を持つ名前を与えて服従」させるという点です。

文字通り解釈するならこの段階で精神魔術を使っているように思えますが、そもそも召喚魔術は召喚と支配がセットになるものです。

しかしもしここで言う「召喚と支配がセット」というのは、元来の空間を超越した召喚でのみ言えることだと仮定するとどうでしょう。


召喚の作用である意識の触手で対象を検索し、精神魔術で対象を呼び寄せ名前を媒体に支配し、以後"ファミリアー"同様に感覚共有

あるいはもっと専門的な領域で他の系統を利用しているのかもしれませんし、この解釈自体が間違っている可能性も十分あります。

例えば複数の魔獣を同時に掌握している点、拡大魔術による超能力的な感覚が使われているという解釈だって成り立ちますね。

いずれにしろ確かに凄い術ですが、同時に危険な術です。グージェルミン導師が「野心家に秘術は教えない」と言ったのも分かる気がする。


★3

こうして魔獣達は周辺の住民へ猛威を振るいだします。それはナダールの村とて同じでしたが、幸いその場にはパーン達がいました。

彼らが遭遇した元エレーナ・プロダクションの一員はキマイラです。既に子供をてにかけ、始末しないといけない状況ですね。

あとここではキメラとなっていますが、それは合成獣全般の総称として使われる事が多い。この魔獣を限定するならキマイラです。


キマイラは5レベルまでの暗黒魔法が使えます。"ウーンズ"で攻めるキマイラにディードの"ミュート"がかかり、接近戦へと移行します。

あくまでも《防御専念》なパーンが抑えている内に魔法で攻め、弱ったところで攻勢に出たパーンによってキマイラは息絶えました。

パーンはキマイラに一対一じゃ勝てなかったとか言ってます。でも直後シューティングスターと戦う身で、キマイラ如きに手こずるか?


キマイラを退治した一行は魔獣の森へと向かい、後の防衛を村長に任せました。

村長「わたしらだけで、村を守れというのか?」

スレイン「独立とは、自治とはそういうものです。誰かに守ってもらうのではなく、自分たちの力で村を守る

パーンやスレインは困ってる人は放っておけない性格です。目の前に襲われている人がいるなら、危険な戦いでも身を投じる。

でもいつもいつも彼らがいる訳じゃない。彼らにできるのは村の手助けであって、最後に村を守るのは村人自身なのです。


本当に弱い民にとっては生き難い世界です。税を納めても保護されるとは限らず、未納した時に限ってやたら強気に責め立てられる。

この場合力が正義なのではなく、己の正義を貫くには力が必要なだけです。シンプルな摂理ですが、一般人にとってはそれが難しい。


★4〜5

エレーナは魔獣をなんとか鎮めようと必至に精神の糸を伸ばしていましたが、ランディスの解呪にはとても追いつきません。

既に手元に残っているのはリュンクスとラミアのみ。という事はミノタウロスとかも解放されてる、一般人が遭遇したら死にますね。

しかしこの糸はどの程度の範囲を探れるんでしょうね。例えば竜語魔法の"サモン・レプタイル"は無限でしたが、流石に限界はあるかな。


やがてエレーナはリュンクスの透視の力でランディスの接近を察し、対決を決意します。元より他に行く場所もないのですから。

ランディス「魔獣使いが生きられる場所は、マーモしかないんだ。珍しくもないからな」

エレーナ「もしも村人たちがわたしを殺しに来るなら、それが運命なのだと諦めましょう

彼女の意志は固い。どうあっても秘術を悪用させるつもりはないようです。例え最愛の人と対決しても。


この際エレーナは"ルーン・ロープ"を唱えますが抵抗され、ランディスは"スリープ・クラウド"でエレーナを寝かせます

さすがはランディス、実戦慣れしていますね。無力化を狙うなら低レベルの魔法を達成値を上げてかけた方が効果的です。

完全版が出るまでは無限拡大可でしたけど、今は制約があります。ランディスが7レベルだとしたら達成値+4までが限界です。


また"ルーン・ロープ"が使えるという事は最低6レベル魔術師です。18歳にして随分高度な術を使う。まるで"魔女"ラヴェルナです。

わざわざこの魔法を使ったのはランディスを傷つけたくなかったから。しかしその甘さと経験の不足が魔法勝負の敗因となったのです。


続いて駆けつけてきたセシルも"ファイア・ボール"の一撃であっさりバタンキュー。ちょっと情けない王子様ですね(苦笑)

しかし魔法勝負では最初からセシルには勝ち目がなかった。相手は最低7レベルですからね。せめて白兵戦に持ち込めれば何とか……。


ところがそこで例のマンティコア(命名テトラ)が現れました。エレーナを食う為にわざわざ帰ってきたのです、それが彼の長年の望み。

しかしテトラもまたランディスが咄嗟にかけた"ブレード・ネット"で拘束され、魔法の刃でテトラは動くごとに深手を負っていきます。

そしてトドメを誘うとした時に目を覚ましたエレーナに気を取られ、その隙にマンティコアの爪がランディスの胸を抉りました

死闘の最中に気が散るというのは死にフラグです。エレーナを庇ったのは秘術を守る為だったのか、それとも女性としてだったのか……。


父とランディスを失ったエレーナは死を覚悟した。ところが復活したセシルがテトラを倒します。カッコイイ王子様!

実はランディスと戦う前にカンタマをかけていたので軽傷で済んだらしい。もうちょっと慎重にいけば無傷で済みましたがね(苦笑)


しかし命が助かったエレーナは泣き叫びました。

エレーナ「なぜ、わたしを助けたの!どうして、あのまま死なせてくれなかったの!!

そしてランディスの遺体に縋り付き、彼の名を呼び続けるのです。そしてセシルは2人の関係を知った……。


それからもエレーナは森に留まり、魔獣達と共に暮らしました。幻覚を森にかけて人が入ってこれないようにして、一人ぼっちで。

何故そこまでして森に残ろうとするのか、魔獣達と暮らそうとするのか。それは彼女自身が呪縛されてしまっているから。

父を放逐し、兄を奪い、自分を縛る秘術。もはや存在そのものが呪いのようなものと、自分自身でも分からない程度に考えてるように思える。

でも魔法そのものに良いも悪いもない。全ては秘術ではなく、秘術に固執した人の脆さ。エレーナを縛るのは秘術ではなく、彼女自身です


エレーナ「助けていただいて、ありがとうございます」

セシル「例なんかいりません。ただ、わたしはあなたに幸せになってほしいと願うだけです」

エレーナ「あなたは、お優しいのですね。ランディスにも、あなたほどの優しさがあれば……」

それからもセシルはちょくちょくエレーナの家に遊びに行き、彼女の最も親しい友人であり続けました。

でも彼女の心からランディスの面影を消し去る事はできず、森から解放する事もできない。彼はこんなにも彼女を想っているのに……。


しかし時は心をも癒す万能の薬です。10年後には彼女をこの森の呪縛から解き放つ事のできる人物が現れます。

その人物の名はマーモ公国の公王スパーク。そして彼女はマーモに渡り、マーモの民の為にその力を遺憾なく発揮するのです。


V 暗黒の島の領主

★1

今度は前の二話と違って邪神戦争後のお話です。新ロードス島戦記のマーモ公国側のエピソード1的な作品です。

舞台は新王国歴526年、フレイムの統治下にあるマーモ。太守は風の部族の族長シャダムですが、彼は本国の用事で基本的に留守です。

その留守を預かるのがスパークです。今や彼は騎士叙勲と共に第二位の王位継承権を与えられた公爵であり、炎の部族の族長といってもいい。

つまり実質的にはフレイムの王子といった立場なのです。そんな彼がマーモの統治に挑むにあたり、一つの貴重な経験をするお話です。


他に王家に縁のある主人公といえば、あとオーファンの妾腹の王子リウイや、ダナーンの前王の甥であるレードンなんて思い出しますね。

しかしスパークをはじめ、彼らはそれぞれ王族としての印象は決して強くない。それでも身分の高さは付きまとっていましたがね。

そういう意味では「伝説」の主人公であるナシェルなんて実に王族らしかった。まぁ主人公同士を比較しても仕方がありませんけどね。


ここでマーモの地名や歴史について確認しておきましょう。最初は歴史です。


まずカストゥール崩壊時、カーディスを信仰する部族の女族長にして最高司祭でもあった"亡者の女王"ナニールが大きな権力を持ってました。

この部族は海を越えて遥々アラニアの地にまで進軍し、ある意味先の「英雄戦争」以上にロードス本島の脅威となったといいます。

この際コンクァラーの基礎となる砦が建てられます。その後アラニア建国王カドモスらにナニールが封印され、闇の森へ逃げ込み蛮族化。


そして200年以上前にカノンの貴族ブルネイがついにマーモの統一に成功します。この時にコンクァラーが建設されました。

しかし新王国暦285年、配下の近衛騎士たちに裏切られ、隠し部屋に潜伏しながら衰弱死。そのまま国は滅亡の憂き目に遭いました。

冒頭には反逆に遭うブルネイのシーンがあります。彼を守るべき近衛騎士は彼を裏切り、また救助を期待した3人の娘婿も彼を見捨てました。

そして彼らが王位を巡って血みどろの抗争を繰り広げている隙に蛮族やダークエルフの襲撃を受け、ブルネイの建てた王国は崩壊しました。


新王国暦500年に"暗黒皇帝"ベルドがマーモを統一し、マーモ帝国が建国。そして525年の邪神戦争までマーモ帝国は存続しました。

ベルド自身は510年の「英雄戦争」で戦死し、彼を慕う多くの臣下達は以後15年間帝国を維持しましたが、本島の連合軍に占領されます。

この際多くの民は"黒衣の将軍"アシュラムに率いられ新天地を目指しました。別の物語になりますが、彼らは南の大陸で新国家を築きます。

国はベルディア(ベルドの私領)と呼ばれ、"漂流王"と言われたアシュラムが即位。しかし彼は色々事情があって直接統治はしてません。


そして526年現在、マーモ公国が建国される事になりました。初代公王はスパークです。シャダムは正式な公王ではありません。

ここで考えたいのは、ブルネイにしろベルドにしろ恐怖政治を用いたという事です。ベルドは更に圧倒的カリスマ性で国を引っ張りました。

しかしスパークは恐怖政治も虐殺も重税も行わず、別の方法で統治を行っていきます。それがどういうものかは本編をご覧下さい。


続いて地理についても触れておきましょう。これは本編を理解する上でとても重要。


マーモの王都は伝統的にペルセイと呼ばれていました。またダークタウン(翳りの街)とも呼ばれましたが、今はウィンディスと改名。

王城もコンクァラーからウィンドレストと改名され、フレイムの統治下にあって帝国の影を払拭しようとしているかのようですね。

ちなみにこの城は古くはナニールの率いる蛮族が基盤を築き、ブルネイが建て、以後住人が変わる毎に増改築が繰り返されてきました。

結果忍者屋敷よろしく数多くの隠し部屋・通路があり、全てを把握するのは難しい。子供でなくても迷子になりそうな城となっています。


神殿関係を確認しますと、まず王城の地下に"破壊の女神"カーディスの躯が横たわってます。「戦記」でも出てきた場所ですね。

元はカーディス神殿でもありましたが現在は破棄されてます。そしてこの場所にアラニアから派遣された司祭によりマーファ神殿が建立。

郊外にはファラリス神殿もありましたが、「邪神戦争」においてヴァリス軍によって陥落。"闇の大僧正"ショーデルが戦死した場所です。


マーモ第二の都市はサルバド(伝統名はシャドーシティ)と呼ばれる港街であり、対岸にはカノンのルードがあります。

ちなみにウィンディスは島の中央南部にあり、サルバドは北東部にあります。それ以外の場所に農村が点在している模様です。


都以外の場所ですと、マーモの東海岸には闇の森と呼ばれる森があり、マーモ特有の植生を持つ変わった植物が数多く自生してます。

数多くの魔獣が住み着き、蛮族やダークエルフも住んでいる。ダークエルフの族長ルゼーブがフレイムの騎士団と相打ちになった場所でもある。

現在はルゼーブの召喚したエフリートの力で森の半分が燃え尽きていますが、それでも森は再生し、多くの住人は健在のようです。

ただし多くの大人のダークエルフ達はアシュラムに率いられて島を脱出しており、現在は足手まといとみなされた子供達が殆どだという。


島の西南方面には山岳地帯が広がり、これはウィンディスとサルバドを結ぶ線を横切って王都の北にあるエレファスまで細く伸びています。

エレファスは300年程前(新王国歴200年強)に大噴火を起こしたそうですが、活火山である火竜山と違って現在は休火山です。

この北の山からは"嘆きの川"とよばれるセスト川が流れていて、上流には燃える水と呼ばれるものが湧いていて汚染されてます。

また燃える水が存在するあたりは盆地になっており、川は複数の支流に分かれて無数の沼を形成し、燃える水だけでなく毒も湧いている。


このようにマーモは小さな島ながら多くの要素に溢れ、"暗黒の島"と呼ばれるだけに多くの邪悪な存在で溢れています。

「生者は勝者、死者は敗者」の言葉があるように、多くの危険と少ない恵みが特徴のこの島では他人を気遣う余裕のある人はそういない。

それだけに実力重視の風潮があり、生まれや育ちは大した意味を持たない。そしてそれは失敗への軽蔑という思想にも繋がるのです。


以上がマーモの概観です。これからスパークはこの島を舞台に活躍していくので、これらを念頭に置いて読み進めたいですね。





このマーモを統治すべく、スパークと仲間達はそれぞれ奮戦しています。


まず城ではスパークやアルドの監督で、城に隠された様々な仕掛けの探索。兵士達も報酬欲しさに率先して発見しているようです。

まるでベタなバラエティ番組みたいですね。『ボーナスを手に入れろ!チキチキ城内大探索大会〜〜!』………的な(笑)


しかしその仕掛けのあまりの多さにスパークも辟易。

兵士「隠し通路を見つけました!」←めっちゃ嬉しそう

スパーク「よりにもよって、シャダム公のいないときにか!」←めっちゃ不機嫌

兵士「も、申し訳ありません」←しゅん

スパーク「い、いや、あなたに不満を言ったのではありません」

相変わらずの直情型ですね、公爵になっても変わらないようで安心……していいものか。


実はこれこそがブルネイの潜伏した隠し通路です。スパークは自ら探索しようとしますが、1人は無茶ですよ護衛の人間も連れてかないと。

ていうかもうちょっと自重しろ。一応貴族なんだし、そういう時の為に部下がいるんだから。まだ高貴な身分には慣れていないようですね。


ただしフレイムの貴族という自覚は必要でも、炎の部族の族長という自覚はそれほど必要ではない。いっそ捨てられればどんなに楽か。

和解したとはいえ、風と炎の対立は消えた訳じゃない。特に炎の部族の老人達にとってみれば、族長であるスパークの今の待遇を不満に思ってる。

でもカシューは両部族の融和を目指しているし、炎の部族自体本国では少数派。時間をかけて民族性を上回る国家への忠誠を養う必要がある。


ちなみにこの探索においては、アルドがスケルトン?と思われるアンデッドに遭遇し、腰を抜かすというハプニングもありました。

相変わらず顔に似合わず気の優しい男ですね。覚悟を決めればそれなりに戦えるのですが、突発的な事態にはどうしても慣れないか。

なお「マーモで死んだ人間の中には、不死生物となって蘇る者がいる」と実しやかに囁かれています。これもある意味特産物(いらん)。

別にマーモでなくても不死生物にはなりますけど、比率は高そう。この島はカーディスの聖地であり、彼女は不死生物の女神でもある。


他の仲間も健在ですよ。ギャラックは騎士隊長となり、ライナはその妻となりました。今では喧嘩の耐えない仲睦まじい夫婦です。

グリーバスはマイリー神殿の司祭となり、リーフはギャラックと共に各地に蔓延る夜盗や帝国の残党を相手に転戦しています。

そしてニースはマーファ神殿の侍祭となり、神殿の責任者であるフェリーナ高司祭の補佐として地下の神殿で毎日毎日働いています。


スパークもニースには色々な思いがあるようですが、特に2人の仲は進展してない。

アルド「誰のことを考えているのですか?ずいぶん顔が赤いですよ

スパーク「ば、馬鹿な」←顔真っ赤

アルド「行きなさい、スパーク。迷うなど、あなたらしくないですよ

なんて分かりやすいんだろう、相変わらず隠し事とかできないタイプです。それでいて深く考えずに行動するタイプでもある。

でも失敗を恐れて何もできない人間になりたくもないと思ってる。憧れの英雄であるカシューやパーンに追いつくのが彼の夢なのだから。


★2

城の地下にあるマーファ神殿は主にカーディスの呪いからマーモを浄化する為にあり、信者の参拝は街中の礼拝所を用いる予定です。

ニースはこの地下の神殿で、多くのドワーフ職人達と共に神殿の建立の為に働いています。ちなみに方々に魔法の明かりが灯されています。

神殿を預かるフェリーナ司祭は40代半ばで、今年14歳のニースとは母子ほどの年齢差。マーファ信者らしく、とても優しい女性のようです。

他の住人は3人の女性神官とドワーフ職人のみ。門衛などもいないけど、まだ布教が進んでいないので参拝者もいない、少し寂しい場所です。


フェリーナ「若城主様がお見えですよ」

若城主って、似合わない。でも黙々と働き続けるニースに、スパークと一緒に出かけように言うフェリーナ司祭は優しい人ですね。

優しさや愛が根本となる暖かさを感じます。何処かレイリアや大ニースにも通じる。ニースが慕うのも当然の、大地母神の司祭らしい女性です。


ニースもニースで、スパークを見るや「普通の服も持っていたんだわ」と思考。一体どういう認識でスパークを見てるやら。

もしかしてスパークって家でも学生服を着るような男なんでしょうか。ニースのスパークに対する認識が実に微妙です。

1年前には大冒険と絵に描いたようなロマンスを共有した二人なんですから、胸をキュンとさせてもいいでしょう?(無茶な)

逆にスパークも彼女の位置づけが微妙です。聖女として剣を捧げるべきなのか、それとも1人の少女として支えていくべきなのか……。


また1年経っても相変わらずニースは幼児体型です。実母のレイリアよりも、血縁のない大ニースに似ているのは不思議なものです。

リプレイによれば、レイリアさんは身長165だそうで女性にしては高い。スレインはT&Tのキャラデータによれば177だそうです。

更にレイリアさんの3サイズはB85・W60・H90だそうです。でもニースはその遺伝子を感じさせないぐらいロリッとした体型(笑)


しかし性格的に1年前よりも女性らしくなった。大ニース程の神秘性はなく、スパークを積極的にデートに誘う快活な一面もある。

ニース「スパークは、わたしを誤解しています。わたしは聖女ではないんですよ

何を持って聖女と呼ぶべきなのかは正直分かりません。少なくともフラウスや大ニースは紛れもない聖女でしたけどね。

小ニースの方は、確かに高位の神聖魔法を使える。しかしそれだけで聖女となる訳じゃないし、ナニールの影響か妙な異物感もある。


スパーク「他人の評価など、どうでもいいではありませんか」

何を欲するか、何を為すかが大切。他人に評価されても人が変わる訳じゃない。それは爵位や身分と同じですね。

しかし他人の評価も本人の意図しない形で影響を与える事もある。周りの人間が「この人はこういう人間だ」と思えば、それが鋳型となる。

例えばニースは聖女だ聖女だと言われてきたし、スパークも族長だと思われてる。例え本質がどうであれ、その役割を担う必要も出てくる。


2人は普通の若者に比べるとずっと重たいものを背負ってる。それは身分だとか、宿命だとか、業だとか、望んで得たものではない。

それでも決して逃げないし戦い続ける。それがこの2人の偉いところだし、だからこそ2人はこの物語の主役となり得るのです。


★3

こうして若い二人はウィンディスの街を歩きます。一般から見たらデートでしかないし、実際2人をそういう関係だと見る人も多い。

ところが街には活気がない。一応市は出ているのですが、客引きの声なんて一切聞こえない。流通する品物も古いものばかりです。

帝国はアラニアやカノンから多くの職人を連れてきていたけど、彼らは母国へ帰っている。すると生産力に乏しいこの島ではこれが普通になる。


「人はパンのみに生きるに非ず」といいますが、裏を返せば「パンなしでも生きられない」という事でもあります。

そしてマーモはパンもパン以外の大切な物も欠けているようです。収奪が厳しかったせいでしょうか、生きる強さや希望がない

当然仕事にも身が入らない。当然です、どんなに働いても生活が楽にならないのなら、額に汗して働く甲斐がなくなってしまう。

これからのスパークの統治では、働くほどに豊かになるような社会が理想です。甲斐があるとなれば、彼らとて準ニートではいないでしょう。


そしてある意味活力だけはあるのが、建物と建物の間の裏通りにたむろする若者達です。この裏通りはいわば無法地帯です。

2人はそんな犯罪者予備軍と遭遇した訳です。そういう意味で2人は某国のダウンタウンに迷い込んだ日本人アベックみたいですね。

アシュラム様もそうでしたが、彼らは人を当然のように殺すダークタウンのチンピラです。しかしそれは行き場のない衝動のはけ口でもある。

彼らは無気力な大人に反発し、何かをしたいと思ってる。でもどうすればいいのか分からず、こういう歪んだ形で表現してしまう。


ニースはそんな彼らの本質を見抜き、諭そうとします。しかし説法なんて通じないので、"フォース・イクスプロージョン"で吹っ飛ばす!!

半径10mに渡り、打撃力30の気を炸裂させる強烈な神聖魔法です。ニースの魔力が12ですから、7振って19点ぐらいですね。

流石にそれでは死にかねないので、多分魔力を縮小したのでしょう。抵抗できる程度に威力を抑えれば、クリティカルして即死はない筈。

仮に魔力を半分の6程度に抑えて抵抗されると、出目7で11点程ですね。彼らもシーフ技能は持ってそうだし、即死はないでしょう。


彼女は憤りでも哀しみでもなく、僅かな笑みを浮かべてこれを行いました。そしてスパークに腕を絡めその場を去ります。

真の信仰心があれば説法が通じる、なんてのは詭弁です。言葉というのは相手に話を聞く意思があって初めて効果的になるもの。

でもこうして強烈なインパクトを浴びせれば、次は絶対に無視できない。その時こそゆっくりと話をするゆとりも生まれるのではないか?

口で言っても通じないなら、時には拳を振り上げる必要がある。まるで仏教の明王のような諭し方ですが、不思議と効果的に思えますね。


それにもし中途半端に接していたら、スパークは彼らを斬り殺す必要も出てきたでしょう。ちゃんと考えた上での行動だったんです。

平和主義と無抵抗主義は別物だし、このマーモでは普通の対応が通じない。それを最初に実践して見せたのが彼女だったんでしょうね。

これで若者達が何かを志すようになったとしたら、その有り余る活力はきっと国を盛り上げるのに役立つ。言わば彼らは大切な資源なのです。


スパークはパーンから「任務を果たすだけの男にはなるな」と言われた。それを理解するのが彼の騎士道だし、その手がかりにもなる。

ニース「わたしも同じようなものです。二柱の女神の魂を受け入れてなお命があるのは、果たすべき使命があるからではないかと思うのです」

でも今の彼女はそれは分からないし、自分の本質すらも分からない。マーファの聖女なのか、亡者の女王なのか、普通の娘なのか。

そこで他者との繋がりが大切になる。他者を理解すればこそ己を理解する事に繋がり、他者と繋がってこそ己を意識する事ができる。

実際ニースは「邪神戦争」の時にそうして助けられている。あの時スパークが抱き締めてくれたから、彼の存在を通して自分を認識できた


スパーク「ん、そうでしたか」←どきまぎ

ニース「そうなんです。だから……、また会いにきてくださいね

それが何を意味しているのか、近い将来スパークは知る事になる。ニースにとって、彼は特別な存在であったのだと。


★4

それから数日してギャラックが帰還し、グリーパスやライナも登場したりで、1年前の仲間達はニースを除いて勢揃いです。

でもスパークはあくまでも1人で行くつもりです。相変わらず無謀ですね、シーフ技能もなしに隠し通路に入るのは危険だってば。

スパーク「大勢連れてゆけば、秘密にならないだろう?」

城の構造は機密情報だから、その考慮は必要です。でも彼らに限っては、別に秘密にするような仲でもない


リーフ「隊長が行くと、とんでもない化け物が出てきそうよ。だって隊長ってば……」

スパーク「不幸だからな!

自分で言ってちゃ世話がない(苦笑)


隠し通路は塔の上にある見張り台の下の空間に繋がってます。盗賊であるライナが一緒なら、簡単に察しがついていたでしょう。

通路は一見行き止まりのようで、実はどんでん返しになっている芸の細かさ。しかもワン・ウェイ・ドア(一方通行)で中からは開かない。


この奥こそが冒頭でブルネイの隠れた隠し部屋です。ていうか隠し通路のどん詰まりにどんでん返しは要らないと思いますけどね。

隠し通路を見つけている時点で何かあることを公言しているようなものだし、通路が見つかれば仕掛けが見つかるのも時間の問題

それ以前に何故中からは開かないようにしたのやら。それじゃあまるで助けが来なければ死ぬ為に作ったようなもの。試したかったのか?

そういえば猫の手にも同じような部屋が登場しましたね。バネ仕掛けで内側には取っ手がない。簡単な構造でも恐るべき罠と言える。


そしてこの部屋でスパークはブルネイの亡霊と出会います。彼は自分が死んだ事は理解してますが、200年の時の流れには無自覚です。

彼がファントムだかスペクターだかは不明ですが、この世へ未練があってなるのが彼ら亡霊(ホーント)であり、非常に個体差が大きい。

何しろ生前は人間だったのですから、人それぞれ未練も違う。彼の場合は娘婿達が迎えに来ず、後継を指名できなかった事が未練です。

ホーントの中には正気を失ってる場合もあるし、敵対的なのもいる。そんな中ちゃんとスパークの説明を理性的に受け入れるだけ儲け物です。


スパークは彼に礼節を尽くして真実を話し、この古の英雄も自分が裏切られた上に国が滅んだ事を理解しました。

同じ恐怖政治を行った王でも、ベルドにはそれを越えるカリスマがあった。だから臣下達も彼の役に立とうとそれぞれ忠誠を尽くした。

でもブルネイにはそれがなかった。兵士が姿を隠した王を探さなかったのも、娘婿が彼の居場所を知りながら無視したのも、彼を恐れたから

彼のやり方は人道を除けば間違っていない。毒殺・虐殺・謀殺上等。彼がこの暗黒の島を統治するには、それが必要だったのでしょうね。


ブルネイ「なぜ、余の志を継ごうとはしなかった!いかに光をかざそうとも、この島は結局、闇に戻るのか!

彼はこの島を故郷カノンのようにしたかった。もし彼が倒れなければ、それは成し遂げられていたかもしれない。

彼は光でこの島の闇を照らそうとした。しかし光があれば影ができ、影の中には闇がある。そして闇は光がなくても闇なのです

同じように光でこの闇を支配しようとすれば、やはり恐怖と暴力が必要になる。でもスパークは闇そのものを受け入れるようになります……。


ブルネイ「我を浄化せよ、砂漠の民の末裔よ、新しきマーモの主よ。余が果たせなかった夢を、みごと果たしてみせよ!

それが彼の最期の言葉となりました。スパークが魔剣で介錯し、同時に彼はこの世への未練が消えたのか昇天してしまいました。

ていうかもしファントムだったら魔剣は効きません。でもスパークの事だし、単純に知らなかったという事もあるかもしれません(笑)


やがてスパークを心配して探しに来た仲間達により、彼は救出されます。それがブルネイとの決定的違いで、掛け替えのない宝です。

そして後日、本国の意向でマーモ公王スパークが誕生。フレイムからは飛び地なので、マーモ公国という形で治められるようになる。


W 生命なき者の王

★1

いよいよトリです。最後の物語の舞台も「暗黒の島の領主」と同じですが、こちらは新生マーモ帝国のエピソード1的な話になる。

ただし物語の大半でノーライフキングと化した"黒の導師"バグナードが登場し、「邪神戦争」後の彼の在り方を示す話でもあります。


バグナードはアニメ版ロードスでは基本悪役となりますが、それはメディアの都合。正史である小説版の彼は悪であっても絶対悪ではない

水野先生の物語の多くは善悪の対決ではなく、理想や立場が異なる者同士の戦い。バグナードこそは極端に自己中心的な理想の持ち主です。

彼の目的は「師ラルカスを越える」事と、「永遠に魔術を研究する」事。それを叶える為に生命なき者の王となった彼は、ある意味勝者。

その為に暴虐の限りを尽くした彼は確かに悪ですが、それすら肯定されるのもマーモ。アシュラムを裏主人公とするなら、彼は陰の主人公


ではここでノーライフキングについて説明しておきましょう。それは15レベルの最強の不死生物で、ある意味老竜よりも恐ろしい。

数種類ある吸血鬼の中でも最高位にあり、ルールブックでは古代語魔法/暗黒魔法10レベルと魔法に特化する。所謂リッチのような存在。

しかも器用度・敏捷度が+6され、知力・筋力・生命力が+12され、精神力が+18されるので、生前とは比べ物にならない程強化される。

その他吸血鬼としての詳しい能力は"ヘッポコーズ"を参照。特に「名乗れ!今こそ大英雄」は貴重な公式の吸血鬼退治なので参考になる。


バグナードの能力値は生前13・14・24・15・11・25なので、今は19・20・36・27・23・43となってますね。

陽光を浴びると毎ラウンド生命・精神点を1点ずつ消耗するので、バグナードの場合220秒までなら日光浴が可能です(笑)

また魔力は16にもなる。素で15のウォートを上回る。ただし彼の場合ファイター1のダークプリースト3のままです。

闇の神の寵愛を受けた訳ではないし、個体差の大きい種族なので。データ上のノーライフはファイター14扱い?と考えると相当貧弱ですね。


これについてはQ&Aにこんなのがあります。

Q.吸血鬼の自作ルールが説明不足だと思います。肉体戦闘能力をファイター技能に換算すると何レベルぐらいに相当するのか、教えてください。(「モンスターは−2」の法則で計算したら、バンパイアは9、ノーライフ・キングは14(!)になってしまった...)

A.清松 モンスターは怖くないとお話にならないからね。バンパイアで9、ノーライフ・キングで14と言われたら、まあ、そんなものかと。
みーちゃん そんなレベルあんの? 特に、古代王国の魔術師だったよーなノーライフ・キングに?
清松 暗黒神の加護じゃ。
みーちゃん 何か、ズルいぞ。
清松 NPCやモンスターは卑怯なものなのだ。
みーちゃん 威張って言うな。
清松 だって、そうしないと怖くないんだもーん。だから、オリジナル・吸血鬼を作るときには、攻撃点などが、ルールブックのデータで最低とみなして作ってしまえばよいのだよ。足りなきゃ足しちゃえ。
みーちゃん ズルいぞー、ズルいぞー。
1997年12月のQ&Aより

まぁ公式見解がこれですから、適当だと思える処理にすればいいんでしょう。その点水野先生の適当な作風は素晴らしい(いい意味で)。


この無敵とも思えるノーライフを倒すには、精神点を0にするか、頼るべき「邪な土」を浄化した状態で生命点を0にするか。

土についてはヘッポコを参照。とにかくこれが吸血鬼の生命線であり、これを聖水などで浄化する事が吸血鬼退治の第一歩なのです。


ちなみに彼らは血を吸わないと精神点を1日1点消耗する。バグナードの場合42日間の間に《精神力奪取》か吸血を行う必要があります。

流石に無作為に人を襲い過ぎれば討伐隊が組織される事は必至なので、殺さない程度に血を吸うか魔法で精神力を奪って補給するのがベター。

一応レッサー・バンパイアを増やす事も可能ですが、ネズミ算式に増える上に養うのも大変なので、基本バグナードはやらない筈です。


過去確認されているノーライフキングは3体で、バグナードは4体目になる。例えばナリオ集の「流星落ちる時」ではルテジア

「魔法王国カストゥール」ではアルヴィンス・デラクロス「ハイエルフの森」ではサルバーンなんかが出ていますね。

いずれも元はカストゥールの死霊魔術師(多分)で、遺失魔法も知っている筈。でも"知識の額冠"を所有したバグナードもそう劣らない。




この恐るべきノーライフキングに力を借りようとする男がいました。彼こそは魔術師ヴェイル、新生マーモ帝国の要とも言える人物です。

旧マーモ帝国においては第三席の宮廷魔術師であり、あのグローダーに次ぐ実力者です。最低でもソーサラー7レベルの優秀な人物。

ちなみにグローダーはソーサラー7のセージ8でした。しかし彼の魔術は10年ほど前から止まってるので、最早比較しても仕方がない。


彼はかつて妹のミネアと共に孤児でした。そんな彼をバグナードは拾って育てた。でも慈善事業でやっていた訳ではありません。

何しろ他の多くの子供達は才能がなければ捨てられた。幸いヴェイルは優秀だったので、実力主義のマーモにおいて出世できましたが。

今の彼はフレイムの勢力を一掃し、マーモ帝国再建を企てている。他多くの賛同者もいて、スパークの知らない所で彼らは暗躍しています。

その為に彼は師であるバグナードから援助を乞います。彼の所有する賢者の学院やナースから奪ったアイテムは大きな戦力になるから。


代償として4人の女性を買い、エサとして献上します。ただし彼女達は何も知らない。

ヴェイル「金で買えるような女どもだ、生きているに値しない

ヴェイルにとっては弱いことは罪です。自分は野良犬も同然の状態から実力でのし上がった経験があるせいでしょうか。

マーモによくある実力至上主義とでもいうべきでしょうか。彼はそれが一際強い。正に狼は生きろ豚は死ね!って事です。


どうもヴェイルはアラニアやカノンのように家柄だけで高い地位に就く、能力の伴わない貴族を嫌悪している様子です。

彼らはマーモだったらオーガーの餌になるような連中です。実際アシュラム様の父親もそうして人狩りにあって食われて死んだのです。


しかしミネアは兄の考えに反対します。今のフレイムはこの島を平和に治めようとしている。帝国を再建する意味なんてないと。

そして人が集まれば矛盾が生まれ、それを完全に解消する政治なんてない。よい政治とは矛盾を最低限に抑えるか感じさせない事なのだと。

つまり政治とは理念ではなく技術、しかし多くの為政者はそれを忘れている。そんな感じで協力すべきはフレイムだと兄を説得したのです。

実は彼女は魔術こそ使えないけど賢者として勉強をしている。その実力は兄にも劣らない程(5〜6ぐらい?)なので、こういう考え方ができる。


しかしそれでも考えを変えない兄に、ミネアは最後の訴えをします。

ミネア「わたしも、黒の導師の生贄に差し出してください

ヴェイル「な、何を言い出す」←狼狽してる

ミネア「わたしを犠牲にする覚悟がなくて、帝国を再建するという願いがかなうと思いますか?」

しかし結局ヴェイルは妹よりも理想を選んだ。思想はともかく、覚悟は本物であったという事です。


★2

こうしてミネアを含めた5人の女性はバグナードの秘密の屋敷に連れて行かれ、その命はバグナードに握られてしまいました。

庭には地獄の番犬ケルベロスが徘徊しているので逃亡は困難。しかしそれでもミネアはバグナードの討伐を画策しています。

従順な召使を装って屋敷内をくまなく探索。「邪な土」を発見してこれを浄化。そして隙を見てバグナードを銀の短剣で刺し殺す算段。

最早ホラーのヒロインですね。非力な少女が知恵と勇気のみで恐るべき敵に立ち向かうというやつです。「クロックタワー」みたいな。


その為に一度マーファ神殿に参拝し、ニースから聖水をもらっています。その時彼女はミネアの悩みを察したのか相談に乗ろうとします。

しかしミネアは彼女の心に感動を覚えつつも、ニースの取るであろう行動も考慮して丁重に断ります。彼女を巻き込む訳にはいかないと。

宿敵の存在を知らせたら乗り込んでいくのは目に見えてます。そうなるとスパークにも話が行き、兄の野望が知られてしまう(いい娘だ……)。

残念ながら立場上マーファに入信する事はできないけど、心はマーファ信者のつもりです。そして彼女の為にもバグナードを倒すつもりです。


ちなみに「邪な土」に浄化方法の規定はない。シナリオ的には土を見つける事が重要なので、浄化方法は適当でいいのです。

ヘッポコでは陽光を浴びせたりしてましたね。聖水をぶっ掛けるというのも、ベタだけど効果的っぽい。いずれにしろビジュアル重視。


それとミネア以外の4名の女性は以下の通り。

ケイト:マーモ帝国の騎士を戦争で亡くした未亡人。戦火に焼かれて財産を失い、使用人への給金を払う為に身売り。

アリーダ:5人の中では最年長で、少女時代から娼館で働いてきた。店を辞めた後にカタギに戻れず、再び身売りした。

コリン:幼い頃から修行を積んだ踊り子ですが、パトロンだった大商人が戦争で落ち目になり、借金のカタに売られた。

エイミ:異国の娘で、帝国の私掠船に誘拐された。地下酒場で奴隷のように働かされているところをヴェイルに買われた。

見事に先の大戦の犠牲者達ですね。彼女達の境遇はある意味運。しかし人生を諦めているという点で4人は共通します。

実はフレイムは奴隷解放を宣言していて、奴隷の所有や売買は禁止されたのです。なのに彼女達は逃げようとしなかった……。


★3〜4

その日からミネアの孤独な戦い始まりました。毎日を館の探索に費やし、その一方で1人ずつ仲間が消えていく

彼女達は順番にバグナードのエサとなり、レッサーにされるまでもなく殺されていったのです。何て恐ろしいシチュエーションなんだろう。

それでもミネアは諦めなかった。兄の夢は潰したくない、でも吸血鬼の凶行は見逃せない。本当にしっかりし過ぎ、何て強い女性なんだ


バグナードは吸血鬼の例に漏れず夜になってから顔を出し、女性達を1人ずつ指名して部屋に呼び、血を吸っていきます。

犠牲になる前なら単純に昼夜逆転した学者に見えるし、夜の相手をさせられるだけとも見える。でもそんな生易しいものじゃないのです。

既に不死生物である彼に性欲なんてない。彼が欲しがっているのはエサと娯楽です。女性達はその両方を満たす家畜のようなものでした。


最初の犠牲者は踊り子のコリンでした。本人は玉の輿に乗ろうと嬉々としていました。また前の贅沢な暮らしができるのだと。

実は踊り子とはいっても、ダンサーではなくてストリッパーのようなものです。バグナードの前でR指定がつきそうな踊りを披露します。


バグナード「おまえの踊りは、主人一人に媚びるためのもの。異なる視点の存在をまるで意識しておらぬ」←ダメ出し

コリン「な、何を言うのさ!てめえみたいな田舎者に、あたいの踊りの何が分かるって言うんだ!」

バグナード「生憎だが、わたしは田舎者ではない」←元はアラン在住

もしかして若い頃は毎日のように夜の街に繰り出していたのかな。最初はきっとアーチーみたいに緊張していたんでしょうけど(笑)


そしてバグナードは延々とダメ出しをします。彼女は性欲を掻き立てようとしているだけで、踊りそのものを見失っていると。

しかも性欲の失せた今のバグナードには、それすら意味がない。結果ただ醜悪なだけの見世物を延々見せられたようなものでした。

そしてコリンの血を吸い、レッサー化を希望する彼女を冷たく無視し、レッサーになる前の彼女を庭に放り投げてケルベロスのエサにする。

なんかロードス史上際立ってホラーな展開ですね。基本的にロードスは英雄譚なだけに、ホラーよりもスペクタクルな展開の方が多いし。


★5〜6

それからも犠牲者は出続けました。次の犠牲者は未亡人のケイト。驚くべき事に彼女は自分の運命を察していました。

でも彼女は逃げようともしませんでした。彼女は死を望んでいた。ただ自分で死ぬ勇気がないから、その身を他人に任せただけでした。

それは多分諦観ですね。運命に翻弄されている間に人生を放棄するようになり、自分の事なのに傍観するようになってしまったようです。


彼女は逃げるように訴えるミネアに過去を語りました。彼女の夫だったマーモの正騎士との関係を赤裸々に明かします。

死んだ夫とは同じ村の出身であり、彼は村一番の乱暴者でした。でも度胸はあったので、武功を上げて暗黒騎士になれたのです。

そして故郷の村に封じられてからケイトを無理矢理妻にした。正直彼の事は嫌いでしたが、彼は不思議と彼女には優しかったそうです。

そして彼はサルバドを舞台にした防衛線でアシュラムが賞賛する戦死を遂げた。その時彼女はホッとしたと言いますが、果たして……。


あとは前述通りです。既に彼女に帰る場所も行く場所もない。

ミネア「行き場などなくても……」

ケイト「あなたは強いのね、それに優しい。でも誰もがあなたほど強いわけじゃないし、優しくもない。
    この島では生きてゆくほうが辛くて、死ぬほうが楽よ。それでも生きているのは、自分以外の誰かのため

だから独りぼっちになった彼女は生きる理由がなくなった。という事は彼女も本当は心の何処かで夫の事を……。


更に彼女は助言をくれました。家畜を囮にして番犬を引きつけるといい。そしてエイミは盗賊の腕を持ってるから、合鍵を作れると。

ミネア「どうして、そこまで……」

ケイト「わたしだって、騎士夫人よ。帝国のことは、他人より分かっているつもり」

ミネア「わたしが悪いの!わたしと兄さんが、すべて……」

ケイト「わたしはもういいの、もういいのよ……

こうしてケイトも犠牲となりますが、最後に重要なものを残していきました。


ところがエイミとアリーダに事情を話しても、2人は逃亡を拒絶します。エイミは合鍵だけは作ってくれますがね。


まずエイミは幼い頃マーモに追いかけられた事がトラウマになっているので、同じく追いかけられる状況は御免だという。

実はマーモの盗賊ギルドでは、逃亡者を徹底的に怖がらせたそうです。そうして恐怖を刷り込み、逃げ出す気を起こさせないようにしたと。

生き物にとって死は最大の恐怖だといいますが、彼女にとっては追いかけられるのが最大の恐怖。追われるぐらいなら死んだ方がマシ


そしてアリーダに至っては「吸血鬼って何」と不思議そうな顔をしただけ。どうやら無知こそが彼女の生き方だったようです。

無知でいれば疑問を抱かず、余計な考えもしない。例え目の前に出口があろうとも気づかない。よって逃げるとか吸血鬼とかどうでもいい。

彼女の無知は、言わば心の鳥籠。この過酷な島で生きるなら、狭い狭い世界に閉じこもってる方が楽だと経験的に学んでいるようです。


なんて恐ろしいんでしょう、マーモは。深い闇は人間をこうも脆弱にしてしまうものなのか。しかしそれでもミネアは諦めなかった。

驚くべき事に彼女はエイミの鍵で地下の土を浄化し、バグナードに短剣を突き刺し、彼が消え去った事を確認して兄の元へ帰還します。


★7

ミネアは兄の経営する酒場へと帰還しましたが、そこには全く堪えた様子がなく、むしろ嬉しそうなバグナードの姿がありました。

ノーライフになると感情が希薄になる為大抵の事は飽きる。だから彼はその暇潰しとして、ミネアを泳がせていただけだったんです。

土は1ヶ所だけじゃないし、姿を消したのも任意に靄になっただけです。ていうかあの程度でノーライフが力尽きる筈がないんですけどね。


ミネア「兄とは、兄とは関係のないことです!罰を与えるのなら、わたしだけにしてください……

この期に及んでまだ兄を庇うか。いくら血縁でも、どれだけ人がいいのやら。


でもバグナードは楽しめたので、別に咎めはしない。むしろミネアを賞賛しています。

バグナード「他人に運命を委ねては、生贄どもと変わりがないぞ。
       踊り子は怠惰ゆえに、騎士の夫人は諦観ゆえに、盗賊の娘は恐怖心のゆえに、娼婦は無知なるがゆえに……。
       だが、おまえは違う。運命に抗する意思があり、それを実行するための知恵と行動力がある。わしと同種の人間なのだ……」

殺される者にも罪はある、ましてこの暗黒の島では尚更に。しかしミネアはかつてのバグナードと同じく、生きる強さがあった。


バグナードは引き続きヴェイルにアイテムを貸与しますが、生贄の追加も要求します。

ミネア「それならば、わたしが参ります!

バグナード「それで、おまえにどんな見返りがあるというのだ」

ミネア「新たな犠牲者をださずに済みます

殺さない程度に彼女だけから血を吸う事で、ミネアは犠牲者を出さずに済み、バグナードも公国へ自分の存在を明かさなくて済む。


そしてそれは他人の為ではなく、自分の為。彼女がそう望むから。

ミネア「罪があっても生きてゆけるのが、この島のもう一つの真実ではないでしょうか?
    もしも、わたしがあなたにとって取るにたらない人間だと思われたら、いつでも殺してくださってかまいません」

バグナード「しかし油断をすれば、わしのほうが殺されるということか?おもしろい、おもしろいぞ」←高笑い

こうしてバグナードはミネアを認め、彼女だけを生贄にします。ただしいずれ生贄を再び要求する時も来るかもしれない。

それは彼女が吸血鬼の仲間入りを果たして、バグナードの花嫁になったという事でもある。そして近い将来、実際そうなる。


妹を投げ出したヴェイル、自身を十字架に張り付けるミネア、そして命ある人間の生き様を娯楽とするバグナード。

フォーセリアの死後の世界は宗派によって様々だけど、少なくともこの島はある意味どんな地獄よりも地獄らしい……


はじまり〜戴冠式〜

最後のエピソードはこの本の中でも最新の時系列になります。なにしろ「生命なき者の王」の更に翌日なのですから。

この日スパークはマーモ公王として戴冠式に出席。これで彼は正式にマーモの公王であり、マーモ公国が誕生しました。


仲間達もそれぞれ装いを新たにして公国に留まり、スパークと力を合わせてこの島を統治していく事になります。

ギャラックの近衛騎士隊長として。ライナは近衛騎士隊長の夫人兼密偵の長として。アルドは宮廷魔術師として。

リーフは"公王の友人"という謎の称号を得て。グリーバスはマイリー神殿の司祭として。そしてニースはマーファ神殿の侍祭として。


彼らはそれぞれ立場は違うけど、理想は同じ。

スパーク「よし、行くぞ!」

ニース「いよいよですね」

スパーク「ああ、いよいよ始まるんだ。この暗黒の島を覆う闇との戦いがな

「戦記」での騎士見習いとしての彼の物語は終わった。だけど一つの終わりは新しい始まり。だからこの本は「序章」なのです。

普通の物語なら主人公が王になって終わる。しかしスパークのマーモを舞台にした物語は、王になったこの瞬間始まったのです。





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