「新ロードス島戦記5 終末の邪教(上)」作:水野良 出版社:角川書店

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★はじめに

「新ロードス島戦記」も第5巻に至り、いよいよ最終エピソードに突入です。その名も「終末の邪教」です。

4巻までは公国対帝国という体裁で、帝国の繰り出す様々な謀略を公国が乗り越え、マーモ統治を磐石にしていくストーリーでした。

しかしここからは違います。リウイ第三部「秘境伝説クリスタニア」のように、ロードスの住人達が終末と戦う壮大なものになる。

今や終末の力は暗黒の島マーモで禍々しく渦巻いています。"破壊の女神"カーディスの教団は想像を絶する力を蓄えていたのです……!


「クリスタニア」に伝わる伝承によれば、将来的にロードスは"呪われた島"から"解放された島"へ呼び名が変わるといいます。

それは「戦記」の灰色の呪縛からの解放を意味するのでしょうが、もう一つ破壊の女神の呪縛からの解放もまた必要となるのでしょう。


ロードスは創世神話に語られるように、カーディスとマーファという対極の神格を持つ女神が相打ちになる事によって誕生しました。

ターバがマーファの聖地なら、カーディスの骸が眠るマーモはカーディスの聖地。古来から多くの災厄をもたらした暗黒の島なのです。

「戦記」ではロードスの地で昔から暗躍してきたロードス二大裏ボスの"灰色の魔女"と"亡者の女王"の内、前者を倒した訳です。

このロードスが真に"解放された島"になる為には、"亡者の女王"カーディス教団に打ち勝つ必要がある。それがこれからの物語です。


しかし話は簡単にはいきません。"破壊の女神"カーディスの教団は終末信仰によって多くの信者を集め、更なる恐ろしい計画を立てている。

しかもカーディス教団の永遠の最高司祭である"亡者の女王"は転生し、相反するマーファの聖女として今を生きているのです。

彼女はマーファの聖女ニースにして"亡者の女王"ナニール。そして同時に"亡者の女王"ナニールにしてマーファの聖女ニースです。

両者は絶対不可分の関係にあり、非常に重たい業を背負っている。それでもニースは今生を最後の人生にすべく、やはり終末と戦うのです。


ちなみにこの本が出た時点で、ロードスはシリーズ累計1000万部を越えるという偉業を成し遂げている。

国産ファンタジーの金字塔として、そしてロードス島シリーズのクライマックスとしても、この上なく相応しい物語になるでしょう。


第T章 闇の森の妖魔

★1〜2

スパーク達は海峡を封鎖していた魔船を攻略し、新生マーモ帝国の要であったヴェイルは捕縛し、帝国との戦いは一段落しました。

しかしその一方でネータ率いる暗黒騎士達の叛乱を鎮圧し、闇の森の砦に篭るカーディス教団が新たな敵として立ち塞がります。

これまでは公国VS帝国という形式で、カーディス教団は影の第三勢力でした。ところがその影の存在がついに表舞台に現れたのです!


公国としては早く闇の森の砦を落とし、カーディス信者達を根絶やしにしたいところですが、事はそう簡単にはいきません。

砦を落すには公国の全勢力を注がないといけません。しかし最近公国の各地では統率を失ったゴブリンが暴れているのです。

彼らは神出鬼没で犠牲を省みない、ある意味非常に危険な存在です。そんな妖魔どもを押さえるには、地方領主達を現地に留める必要がある。


しかもゴブリン達はカイレルから簡単な戦術を教わった事で増長し、ついにはダークエルフですら抑えられない状況です。

冒頭のエピソードでは、ゴブリン達が主人であるダークエルフを殺す事件まで起きている。これは明らかに異常です。

普通ならゴブリンにとってはダークエルフを恐るべき支配者で、彼らの声は神の声も同然。それが反旗を翻すなんて正気の沙汰ではない。


体力不足のダークエルフですから、弱くても数だけは多いゴブリンなら、犠牲を厭わず数で押し切る事も可能でしょう。

そうしてダークエルフの統治から離れたゴブどもは、以前と違って奪いたいだけ奪い、殺したいだけ殺し、結局は討伐されるのです。

以前ならダークエルフの命令通りに引き上げたものですが、もうそうはいかない。例え後で皆殺しになろうと、目先の掠奪が大事

非常に厄介な状態ですね。ダークエルフの支配下にあればある程度動きは読めますが、欲望のままに動く今のゴブどもは本当に危険です。


ゴブ達は自覚なしにカーディス教団の追い風になってるんですね。これでは闇の森の砦に進軍する事は不可能です。


ゴブリンやコボルドといった妖魔は凄まじい繁殖力を持っています。その旺盛な繁殖力は莫大な数の雑兵となります。

そうして新旧マーモ帝国の戦力となってきたのです。実は海の向こうのベルディア帝国でも300年以上に渡って侵略の尖兵であり続けます。


しかしその繁殖力は諸刃の剣で、狭いマーモ帝国やベルディア半島では食糧不足を生む原因でもあり、貧しい土地柄非常に深刻です。

だからこそマーモやベルディアは侵略を続けてきたのです。妖魔を抱えている限り、戦力には困らないけど食い扶持には困るから。

最早卵が先か鶏が先かですね。戦争で勝つ為に妖魔を養っているのか、それとも妖魔を養う為に戦争をするのか。本末転倒な関係です。


「暗黒伝説クリスタニア」のベルディア帝国は、そのしがらみを断ち切ろうと妖魔達と手を切ったのです。

しかしゼーネア率いるマーモのダークエルフ達にそれはできない。数が少ない彼らには妖魔は貴重な戦力ですから。

それでも飼っていくなら戦で使い減らすしかない。そして統率を失った妖魔どもは以前のような愚鈍で従順な存在に戻る。


リーフ「妖魔たちを味方にできないかなぁ。現にマーモ帝国はそうしていたわけでしょ?」

それは現実問題無理ですが、発想は悪くない。妖魔はこのマーモの自然であり、「闇から目を背けず、呑まれず」がスローガンだから。

全滅させるのは不可能だから、何処かで折り合いをつけないといけない。まぁあまり親しくすると本島の諸勢力からクレームがつくでしょうが。


目を背けない事は簡単です。ではどうやって呑まれない様にするか?。それには具体案が必要となるのです。

公国が妖魔の存在を許そうとも、相手はそれを理解してくれないという問題があります。だって妖魔だもん

ならばゴブ達妖魔を飼いならせる相手を間に挟めばいい。つまり今まで敵対してきたダークエルフとの同盟です。

それだって色んな所(特にファリス神殿)から反対されるでしょうが、それを除けば現実的な解決策です。あとはどう接触するか?


あとスパークはニースとの結婚を決意したようです

スパーク「君(ニース)が俺の許嫁であることを、人々に知らせようと思う

ニース「もしも、わたしが亡者の女王として覚醒したら、あなたの手で滅ぼしてくださいますか?」

スパーク「ああ、世界のあらゆる神と、炎の部族の守護神イフリートに誓って……」

リーフが別の付き合い方に落ち着いたから、もうこじれようがない。あとフォーセリアの炎の魔神はイフリートではなくエフリートです。


この愛でたいニュースに仲間達も大喜びです。街も祝賀気分で活気が出るでしょう。

リーフ「婚約おめでとう

スパーク「ありがとう……」

そしてこっちの問題も解決した。取り合えず三角関係は解消したらしい。


★3

公国の捕虜となったヴェイルは、「暗黒の島の領主」でブルネイが閉じ込められていたあの部屋に幽閉されていました。

一見豪華な内装の部屋ですが、あくまでも牢獄。外からは容易に開けられますが、中からは脱出は不可能。そして魔法も使えない

恐らくは「沈黙の間」のように、この部屋には"アンチ・マジック"か"ルーン・アイソレーション"がかかってるんでしょうね。

敵から発見されるのを防ぐ為にはそういった設備もいるでしょう。普通の部屋なら"シ−スルー"を使われたらまるっとお見通しです(笑)


彼は捕虜になっても堂々としたもので、室内の酒(数百年前のもの)を職業柄吟味していました。いい根性だ。

ギャラック「ヴェイル」

ヴェイル「聞こえている……。オレの返事を待つことはない。オレは虜囚だ」

ライナ「いい覚悟だわ」←目を細める

ヴェイル「わたしが率いてきたのは暗殺者たちだ。おまえごときの殺気で動じるようで務まると思うか?」←殺気を飛ばした

公国に敗北して全てを失い、バグナードに誅殺される恐れがあるけど、まだまだ腑抜けてはいない。


スパークは彼から一通りの情報を聞き出します。既に彼はその優れた頭脳で推測し、カーディス教団の存在に思い至っていました。

あとヴェイルはバグナードがバンパイアのお爺ちゃんになった事も話します。流石のニースも驚いてましたが、復讐の心配はない。

最早ノーライフキングとなった彼は定命の者達を見物する超越者であり、魔術やら騒乱やらに関心事を持ちながら存在していくでしょう。

まぁ終末が来るとなったらどうなるか分かりませんけどね。カーディスによってノーライフとなった場合、次の世界に転生できるのかな?


今後のヴェイルは基本的に処刑される運命です。情報を聞き出す必要があるのですぐではないけど、この件が終われば……

スパーク「敵ながら見事だったとは思うが、おまえを許すわけにはゆかない。協力的であれば、罪の軽減も考慮する」

ヴェイル「オレは慈悲など請わぬよ。しかし、あきらめもせぬ。ネータ様とともに抱いた夢を、命ある限り追い続ける
      だが、破壊の女神の教団と戦うというなら、全面的に協力しよう。知っていることは全て教えるし、魔法の宝物も譲る」

最初は挑戦的だったヴェイルですが、彼は彼なりにスパークに尊敬の念を抱いているようです。


ヴェイル「マーモ公スパーク、あなたとの戦いはオレの完敗だった。あなたの偉大な勝利に、心より敬意を送ろう」←一礼

何て潔い男なんだろう。同時に夢を捨てないしぶとさもある。思えば彼も魅力的な敵役(悪役に非ず)でした。


彼の尋問は部下に任せ、スパークは更にもう一つニースとの仲を深めました。

スパーク「今夜は、オレの部屋に泊まってくれないか?

ニース「はい……」

かつてはニースがナニールの生まれ変わりだという事を両親やアルドは知っていた。でもフィオニスが前の伴侶だという事は知らない。

ところがこの時スパークはその両親すら知らない秘密を共有しました。その上でこの急発展、最早2人は完全に夫婦という事ですか。


★4

こちらはカーディス教団の巣窟となった闇の森の砦。既に暗黒騎士や闇司祭の姿はなく、フィオニスの取り巻きはカーディス信者ばかり。

既に義勇軍という名のカーディス教徒が住み込んでいて、その数は2000にも及ぶ!。一国の正騎士団の数とそう変わりません。

恐らくはいざ戦となったら士気は高いんでしょうが、錬度は低いでしょう。それでも「数は脅威」ですけどね。そういう意味でゴブにも似てる。


フィオニスはニース(ていうかナニール)がスパークと結婚するのも大して気にしてません。

元々ナニールは奔放な女性だったそうですから。フィオニス1人だけに身体を許していた訳でもないでしょうし、その逆もそうです。

現にフィオニスはネータを抱いてるしね。本命が変わらなければ浮気は無問題、クソ真面目なスパークだったら考えられませんね(苦笑)


あとサーキスの性格付けが明らかになりました。彼は次の世界への転生は望んでいません。彼が望むのは完全なる虚無です。

フィオニスはカーディスに仕えながらも、次の世界への転生が目的です。しかしサーキス曰く、カーディスが求めるのは純粋な破壊


カーディスの神格はあくまでも「破壊」であり、破壊する対象も選ばない

サーキス(わたしこそが、破壊の女神の真の従僕だよ)

すなわち終末の巨人も始原の巨人も滅びればいいと思っています。実は一番カーディスの教義に忠実なのかもしれませんね。

不完全で醜悪な世界など要らない、この世界に完全なる死を。彼は彼なりの理想を持っているんですね、フィオニスとは違う方向に。

残念ながら?サーキスの願いは叶いません。流転こそはこの世界の在り様であり、どんなに足掻こうが終末も始原もやって来ます


★5

そのフィオニスの元にゼーネアが謁見に来ますが、フィオニスはあくまでもレイエスとして振舞います。

ダークエルフはファラリスの眷属であり、カーディスとは相容れない存在です。いずれは袂を分かちますが、可能な限り利用する腹積もり。

普段は悪役になるダークエルフやファラリス司祭ですが、カーディスが相手なら話は別。世界があってこそ欲望や自由を謳歌できるのです。


しかしゼーネアはおよそ500の同族を守る族長です。そのまま馬鹿正直に従う筈がありません。既に異変に気づいていますよ。

ゼーネアはゾンビの軍勢が何処かに潜んでいるかのようだ、と言っていました。それは単なる比喩なのか、それとも事実なのか。

確か暗黒騎士達は義勇軍のゾンビに敗れましたよね、そしてその遺体もゾンビになるのなら………事実を言い当ててる事になりそうです。


ゼーネアは腹心のカイレルと話し合います。これからどうしたらいいか?

帝国(実はカーディス教団)は自分達を使い捨てにしようとしてるし、妖魔は言う事を聞かないし、本島から来る人間・妖精は敵。

実は彼らも窮地に立たされているんですね。この暗黒の島にあって、彼らは闇の森に住んでいたいだけなのに、存在が許されない


カイレル「僕は弟を、闇の森を、部族を守りたい。そしてなにより君を……

ゼーネア「ありがとう……。だけど、部族を守るのは、族長たるわたしの使命だ」

何時の間にやらここにも愛が生まれていました。彼らにも生きる権利はある。善悪は人間の都合で、存在そのものは罪にはならないのにね。


そしてカイレルは一か八かの賭けに出ます。彼は公都に赴き、リーフを攫ったのです。これで公国は大騒ぎです。

勿論それはリーフの狂言、スパークとゼーネアの交渉の場を作ろうと敢えて同行したんですよ。何処までも健気な娘です。


第U章 同盟

★1

リーフはスパークとダークエルフを話し合いのテーブルにつけようと、故意にカイレルに同行して狂言誘拐を起こしました。

ところがリーフが攫われたと聞いたスパークの怒りようときたら、もう髪が金色になって逆立ちそうな程でした(笑)

このキレ方はエレーナが死んだ時(いや死んでないけど)以来かもしれない。何だかんだと言っても、やはりリーフが大切なんですね。


怒り狂う彼は馬をつぶれそうな程疾走させ、闇の森へまっしぐらです。今にも血管切れそうです。

スパーク「リーフにもしものことがあれば、マーモ公国の総力をあげて、ダークエルフを皆殺しにしてやる

サラリと過激発言。精霊使いが見れば、今のスパークはきっと怒りの精霊ヒューリーが荒れ狂っている事でしょう。


既にニースと婚約し、リーフとの関係も整理した筈なのに、やはり心を偽る事はできなかったか。

スパーク「公王の友人を手にかけたりしたら、どういうことになるか思い知るがいい」

ライナ(友人だからではないでしょう……)

敢えて言うなら最高に気が合う異性。それは伴侶として一つの理想かもしれませんね。


★2

それでもスパークはニースと結婚するんですよね。既にニースはウィンドレストで王妃のように玉座の傍らにいます

マーファの侍祭としてではなく、明らかにマーモ公妃を意識しています。でもスパークのリーフへの思いも自覚しています。

ニース「とうとう、自分の心に気づいてしまったのね……。スパークにとって、わたしは最愛の女性ではないのかもしれない」

そしてニースにとってもスパークは最愛の男性ではないかもしれない。昨晩身体を重ねたけど、心にはまだ僅かな距離がある


以前ニースはフィオニスと魂の邂逅を体験しました。その時間違いなくニースの心は震えた

男と女の関係はしょせん理屈ではない感情ですらないのかもしれない。本人でさえ自覚できず制御できない情念。魂が求め合い、一つになりたいと叫び声をあげるような。それができないから、肉体だけでも繋がろうとする。そして互いの魂を受け継ぐ存在、すなわち子を生そうとするのかもしれない。

例えそうであっても、何も伴侶が最愛の相手である必要もありません。最上級でなくても間違いなく愛はあるのだから。


アルド「ニース様が公妃になられることになり、わたくしはとても嬉しく思っております。きっとお幸せな王室を育まれることでしょう」

そういうアルドは本当に嬉しそうでした。彼もまたニースの幸せを心から祈っているんです。相変わらず優しい男です。


私は以前は小ニースは大ニースに似てると思ってましたが、話が進むに連れて全然違うと思うようになってきました。

大ニースは"マーファの愛娘"の名の通り、素の状態でも大地母神の聖女としての神秘性や暖かさといった、説明しきれないものを持っていた。

でも小ニースは結構無理してきたように思えます。今だってそうです。ナニールに怯え、スパークを求め、結構な所があります。

一つの扉として、"亡者の女王"として、ただの聖女とは言い切れない不純物を持っているようで。大ニースよりも大分人間臭い


公務で疲れたニースは、今や無人となった地下のマーファ神殿に降りる際、サーキスと遭遇しました。今回は顔見世ではない。

しかし帰りは魔法で一瞬だろうけど、ここに来るまではやはり徒歩でしょうね。どうなってるんだウィンドレストの警備体制(笑)

彼もまたニースに揺さぶりをかけて覚醒を誘発しようとしています。特にマーファ神殿で起きた惨劇をそのダシとして最大限に利用します。


アドリーは虐殺だけで彼女を覚醒させようとしたけど、失敗しましたね。ニースは悲しみこそすれ、ナニールには戻りませんでした。

しかし怒りを覚えないかといえば、そうではない。ニースはふつふつと怒りがこみ上げています。自制しようとはしてますけどね。

以前のフィオニスの考察通り、彼女は"亡者の女王"と正反対の存在であろうとし、それで覚醒を予防しようとしているのかもしれませんね。


サーキス「一度、御自分と向き合われてはいかがですかな?すべての答えは、あなたの中にあるのですから……」

ニース「そこまで言うのなら、試してみましょうか?わたしは今、あなたに怒りと憎しみを覚えている。
    その心のままに、あなたの命を奪えば、あるいは、私は亡者の女王として覚醒するかもしれない」←本気っぽい顔

今まで見せた事のない顔を見せています、本気で殺る気です。そしてニースは"フォース・イクスプロージョン"を準備します。

ニースの魔力は12、抵抗出来なかったら7振って19点ほど来ますね。サーキスもレベルが高いでしょうが、2発食らうと生死判定かも。


そのあまりの迫力にサーキスは心から恐怖してました。こういう所も大ニースとはちょっと違うんですよね。

サーキス「ご、御容赦を」←ガクガク

ニース「大口を叩いておきながら、意気地のない」

結局彼は"リターン・ホーム"でトンズラします。破壊の女神の真の従僕とはいえ、怖いものは怖いか(苦笑)


またこれほどの殺意を放っても彼女は覚醒しなかった。

ニース「わたしは、まだニースのままだわ……」

そして彼女の瞳にはが浮かんでいた。


覚醒したらそれまで、遅いか早いかの違いですからね。そうなったらスパークが殺してくれるし、ニースも腹をくくったんです。

でも彼女は泣いていた。自分と向き合うしかないと分かっていても、それではそうしましょうと割り切れるものではないでしょう。

自分が自分でなくなってしまうかもしれない。そもそも今の自分は本当の自分ではなく、何かの弾みで正反対になってしまうかもという恐怖。

今でこそスパークを必要としているけど、覚醒してナニールになったら今の仲間ですら虫けらのように思えるようになるのかも………。


私は最初の方では単純に別人格、それこそカードの表と裏のようなものだと思ってきましたが、彼女の様子を見てると多分それは違います。

今の彼女はナニールとしての記憶も持っています。でも同時にニースとしての記憶も持っています。隔離された人格ではないんですね。

だから尚更に、今のニースにはスパークが必要です。例え最愛の人でなくとも。ニースとナニールは、最早切り離して考えるべきではない


★3〜4

スパークの方ですが、リーフの献身もあって、どうにかスパークとゼーネアは話し合いの場に漕ぎ付けました。


しかしそれまでに彼の命令で公国の多くの騎士や兵士が動員され、日頃類を見ない包囲網を敷きました

リーフ「スパークはあたしのことをこんなに大切に思ってくれているんだ……」←感動

ああ、可愛いなリーフ。そしてそんな彼だからこそ、彼女は一つの覚悟を決めていた……。


一方彼女と同行するカイレルも、これが危険な賭けだと分かっている。それでもやるしかない。

カイレル「僕たちが闇の森で生き続けるには、人間たちと協力するしかないんだ」

彼は幼い頃から人間に混じって暮らしていたから、その辺を簡単に受け入れられる。保守的な若木ではきっと反発してた。

またスパークの怒り方を見るに彼女が公国のVIPである事は明らかです。それがリーフの身の安全を保障するのです。


あとスパークの性格を考えると、真相を知った時怒る。そこでライナは2人を応援する為に率先して彼女を叱りました。

ライナ「どうして、こんなことを?」←わざとキツく叱ってます

リーフ「ごめんなさい」

スパーク「あまり彼女を責めないでやってくれ

どうやら男は「好きな女が他人から強く言われると、条件反射のように庇うもの」らしい(笑)


正直リーフの決断がなければこうも短期間で交渉は持てなかったでしょう。これにはゼーネアも族長として彼女に頭を垂れます。

今や時間が本当に惜しい。少しでも早く同盟を結び、ゴブを統制しなければならない。そしてカーディス教団を討伐しないと。


こうして見えたスパークとゼーネアは慎重な交渉の末に、ついに同盟を締結する事に成功します。

スパーク「……マーモ公王の名にかけて、闇の森の自治を認めよう

ゼーネア「……ダークエルフの一族は、マーモ公国との不戦を誓う

リーフ「制約はなされた……」

もちろんダークエルフは公国の領土内においては公国の法に従う。闇の森に入植するエルフとの調停は、また後で解決する。


ただしこれは口約束です。お互いを信用できるほど、その溝は浅くはない。それには誓約を保証する証が必要になる。

リーフ「それなら簡単よ。あたしがその証になるから

スパーク「な、なんだって?」

リーフ「あたしが闇の森で暮らすのよ。公王の友人としてね」

スパーク「だめだ!おまえを人質になんてできるわけがないだろう?」

リーフ「あなたがそう言ってくれるからこそ、あたしには人質としての価値があるのよ」

同じようにゼーネアも公都で暮らす。行き来は自由だけど、失踪したり危害を加えたら誓約破棄。そういう形でまとめます。


全てはスパークの為に。人間からもエルフからも忌み嫌われるハーフエルフの彼女が、スパークの不器用な愛に応えようとした

リーフは本当に化けたと思います。「戦記」ではそうでもなかったけど、「新」になってからは回を追うごとに好きになっていきました。

孤独を抱えていて、それでも好きな相手の為に健気に、何かをしようと頑張っている。本当に健気としか言いようがない、いい娘です。


水野先生の執筆活動は見つけていく事だと何処かで聞きましたが、それは読者の方も同じなのかもしれませんね。

初めから出来上がっている物語を追っていくのではなく、読むにつれてリアルタイムに物語が作られていくのを感じ取れる(気がする)。


★5

スパークは公国と繋がりのある各教団・種族との話し合いの場を設け、カーディス教団との共闘を誓い合いました。

参加者はファリス、ファラリス、マイリー、ラーダ、チャ・ザの教団の司祭。及びエルフ、ドワーフ、ダークエルフの代表者です。


マーファは襲撃で全滅したので、それを除く六大神の教団勢揃いですね。いつのまにやらファラリス教団とも交渉を持ってますよ。

ファラリス教団の代表者はクローゼンという壮年の男性です。オルフェスとはまた別にファラリス信者達をまとめていた人物です。

ライナが探り出して交渉した結果、ファラリス教の解禁も決定。ダークエルフとの同盟に続き、旧帝国や大陸のファンドリアみたいです。


そうなると当然ながらファリス教団の方からクレームが来る訳です。

アリシア「気でも違われたのですか、スパーク公?」←激怒

しかしスパークの態度は断固としたものでした。マーモにはマーモの法がある、罪人は公国の法に背いた者のみ


確かにファリスの(ていうかヴァリスの)法に従えば、ダークエルフもファラリスも忌むべき存在です。滅ぼすべき邪悪です。

でもここはヴァリスではなくマーモです。妖魔やファラリス信仰が根強く、本島の常識は非常識であり、その逆もまた然りです。

ファリスの神格の一つは「秩序」。ファラリスやダークエルフと共存するという秩序のあり方もある。そんな事まで否定する神なのかな?


アリシア「マーモ公が苦労なさってきたのは、わたくしもよく知っています。
      だからこそ、それを自ら傷つけるような事はして欲しくないのです」

教義の事だけではなく、スパークの働きを賞賛する気持ちからも反対してるんですね。そういう意味で彼女も理解者なのです。

しかし今や公国は経済的に独立しつつある。最早本島相手に略奪や征服をする必要がなくなる。危険は管理するもの、排除するだけじゃない。


そしてスパークは彼らに決断を請いました。

スパーク「わたしは種族や信仰にかかわらず、マーモ公国の法に従う者すべてを民とします
      どうかご承知ください。そしてカーディス教団を滅ぼすための戦いにどうか力を貸していただきたい」←一礼

グバージ「わしらにはわしらの法があり、わしらの王国ではそれに従ってもらう。それと同じだろう?」←ドワーフの代表

エルフの代表「わたしたちとダークエルフとは太古からの仇敵。両者が和解することはないでしょう。
         ただし、暮らす森が互いに異なるゆえ、争いにはならないと判断しています……」

エルフ達も闇の森の植生は闇だと理解している。そこに本島の植生を強制するような不自然な事は、森の妖精としてできないでしょう。

勿論エルフ達もダークエルフが協定を破れば戦うんでしょう。しかし公国としてはどの団体であろうとも、その安全は保障する点で同位


妖精達と同様に、各教団の司祭達も概ねスパークに賛成です。

グリーバス「わしはマーモ公を勇者と認めておる

ラーダの司祭「王権に介入しないのが、我が教団の決まりです」

チャ・ザの司祭「我らはただ教義を説くのみでしょうな」

アリシア「わたくし以外は、皆、マーモ公の決定に従うということですね……」

結局彼女は教義を曲げる事はできず、本国へこれを報告します。幸いエトは理解してくれたのか、穏便に済ませてくれました。


でもカーディスとの共闘という点では彼女も異論はない。各教団・各種族が一致団結して戦う、まるで「魔神戦争」のようです。

いや魔神そのものはファラリスの眷属である闇の民でした。しかし今回はそのファラリス教徒とダークエルフという闇が味方です。

相手がカーディスだという事もあるでしょうが、闇をも味方に引き込む事はマーモの統治に不可欠。ある意味これが本当の建国かもしれない。


第V章 終末の門

このフォーセリアには、神を基準に大きく分けて3つの勢力があると思われます。すなわち光・闇・中立です。

ファラリス教徒とダークエルフは闇の神々に属する勢力であり、光の神々に属する勢力であるスパーク達とは争いになる事が常です。

しかしそれは単純に属性の違いであって、世界構築においてはいずれも不可欠の存在です。今回のように手を組む事もあるでしょう。

クリスタニアの中立の神々に属する勢力である神獣の民も同様です。理想や立場が違うだけなら、敵対する事も協力する事もある。


これらは言わばコインの(光/闇)と(闇/光)と側面(中立)のような関係であり、どちらが表か裏かは価値観の問題です。

光と闇は不可分の特性です。決して交じり合う事はなくても、両方が必要。だから光と闇、ファリスとファラリスは譲り合う必要があります。


またフォーセリアにおける「混沌」は決して悪しきものではありません。そもそもこの場では善悪なんて観念は捨ててください

混沌とは「原初の力」、全てのものはそこから発しています。フォーセリアにおける「創造」とは混沌から秩序を選び出していく作業なのです。

混沌から秩序を拾い出す事が「創造」ならば、秩序を混沌へ還す事は「破壊」です。混沌は変化の可能性、創造にも破壊にも必要です。

フォーセリアでは混沌を忌む風習があり、神獣の民やケイオスランドの氏族はかなり敏感です。しかしそれでも「混沌」は必要なのです。

「混沌」を拒絶するのは変化を拒絶する事です。変化は時に進化であり、退化でもある。退化の可能性を恐れ、進化を放棄するのは臆病です。


ここで気をつけておきたいのは、ファラリスと混沌は似て異なるものだということです。

ファラリスとは「自由」、混沌とは「可能性」です。そして混沌とは完全な自由度なのです。イコールではありません。


ファリス(光・秩序)もファラリス(闇・自由)もフェネス(中立・周期)も、これらに属する他の神々も世界創造には必要です。

これらは創世神話にあるように始原の巨人から生まれたので、役割が違うだけで同胞といえます。混沌とてこの世界に属する点では同じです。


しかし「秘境伝説クリスタニア」等でも明らかなように、カーディスは始原の巨人と対をなす終末の巨人に属するものです。

神々は皆自分の司る概念を広めようとしている。ミルリーフですらそれは同じで、それらは性質こそ違っても築く事であって壊す事ではない。

しかしカーディスの神格は正に「破壊」なのです。この世界に属する全ての存在とは相容れず、全生命共通の敵とも言えるものです。


もっともそれは今の世界を基準に考えた場合です。何しろカーディスは次の世界の大地母神になるという説があるのだから。

カーディスは今の世界を破壊する、同時に次の世界を創造するのです。破壊と創造は等価ですから、マクロな視点で言えば同じ事。


今の世界に生きる者として、今の世界の破壊を防ぐのは正当なのです。しかし次の世界の存在としては、今の世界を破壊する事こそが正当

物事は相対的に考えるべきですが、自らの立ち位置は絶対的に決めるべきでもあります。認める事と拒絶する事は両立できる

大切なのは、善悪で物事を考えない事。そして、正当ならばそれを行使する事。例え相手が正当だとしても、それが当然の権利なのです。

それは水野先生の構想でもある「理想が違う者同士の対決」や「理想が同じでも立場が違う者同士の対決」にも少し似ていますね。


こういった共通の敵を相手にする場合、普段は争う諸勢力をまとめるが必要。それが今回で言うマーモ公国ですね。

クリスタニアにおいてはあらゆる民の混成軍である獣の牙に期待が集まり、大陸では個人的に柔軟な思想を持つリウイです。

今回の戦いではファリス教団がファラリス教団やダークエルフを目の仇にしているようですが、それはカーディスと比べれば小さい問題です。

それは単純に価値観の相違ですから、何が正しいかは人それぞれ。今だけは異心を捨て、共通の敵を相手に団結する事が必要なのです。


★1

カーディス教団討伐の目的の下、スパークの前に集まった軍勢は五千を越えました。先の「邪神戦争」並のスケールです。

公国の騎士団はもちろんエルフ・ドワーフ・ダークエルフ・六大神の神官戦士たち。この暗黒の島だからこそ揃う軍勢です。

ただしマーファ教団はカーディス教団の鉄砲玉のせいで全滅したのでこの場には居ません。敢えて言うならニースが代表でしょうか。

さらにはダークエルフの指示により、ゴブリンまで投入できるというのだから驚きです。結局先の大戦の敵対者を受け入れてしまいました。


当然妙な緊張感も漂っています。昨日の敵は今日の友とは言っても、お互い殺しあってきたのだから簡単には信頼できません。

既に国の内外から非難が出ている。特にファリスとファラリスの神官戦士が一緒なんてクリスタニア以外でははじめて見ました。

もちろん快く思っているはずがないんですが、今は場合が場合なので大人しい。黒と白で見た目は綺麗なのですが、基本的に相容れないか。

クリスタニアのフォレースルでは両神殿が仲良くしているのですが、流石にそれは難しい。それでも今後はせめて共存する必要があるでしょう。


ちなみにファラリス教団は例の大神殿を修復して布教活動に余念がない。元よりファラリス信仰はこの島では根が深いし。

闇の中の自由と平等を説くファラリスの教えは広く受け入れられ、信者の数も少なくない。多分今後は五大神の教えも浸透するのでしょうが。

クローゼンは結構頭が良さそうなので、無茶はしない筈。少なくとも法には触れない。逆に言えば法に触れない限り何をするも自由(苦笑)


まぁ今はこの微妙な協力関係で通すしかありません。時間をかけて、少しずつ歩み寄って融和すればいいんです。


また今回の戦いではニースも同行します。彼女は逃げないと決めたんです。

ニース「過去を恐れるあまり、信仰に縋り、スパーク様に頼り、公妃の地位に縛られることで、自分を保とうと考えていました……。
     ですから、そういうことはやめにしました。これからは、わたしの心の中にある嫌悪すべき感情にも正直であろうと思います

そしてスパークも覚悟を決めました。最悪彼女が覚醒しても、決して逃げないと。それがどんなに辛い事であっても。


★2〜4

公国軍は闇の森の砦へ総攻撃を仕掛けます。しかし既に砦には数千のカーディス信者が集まり、徹底抗戦の構えでした。


カーディスなどの"世界を破滅に導くもの"に仕える事で、彼らは次の世界への転生を約束される。それこそが終末信仰です。

下っ端信者の求心源でもあるのですが、実際に転生できるのは転生者のみだとニースは推測している。つまり彼らは無駄死なんです。

それでも彼らは死を恐れない。それだけで素人でもそれなりに戦えるし、魔法生物のように降伏する事もない。結果時間稼ぎにはなる。


死の恐怖からの脱出、確かに魅力的ではありますけど、実現はしないなら無意味な事です。

スパーク「オレはこの人生だけで手一杯だし、満足できるだけのことはしてみせるさ」

これぐらいで丁度いいのかもしれませんね。彼のように常に一生懸命なら、転生なんて考えてる暇すらない(笑)


さて、肝心の戦いですが、実に凄まじく多くの犠牲者を出したものの、公国軍は砦を陥落させ勝利を収めた


カタパルトで策や壁を破壊し、飛び道具で応酬。神官戦士達は基本後衛で回復に専念し、ウッディン率いる公国騎士団が突撃

この際彼らは例の燃える水をぶちまけて放火。有効利用を研究中のようですが、黒煙にも毒があって上手くいっていないんだとか。

更にドワーフの戦士長グバージと仲間達は破城槌で門をぶち破り、エルフの代表ウィニク達は精霊魔法と正確な射撃でその援護です。

更にはゴブリンズが何日も前からトンネルを掘って、かく乱作戦を実行しました。質より量の妖魔ですが、味方だと不思議なものです。


特にドワーフ達の死を厭わず、それでいて力強い戦い方が印象に残りました。その歩みは遅くても、絶対止まらない自信に満ちていた。

金属鎧と盾でガチガチに固めても、敵の飛び道具で1人また1人と倒れていく。それでも彼らは動揺した様子もなく、着実に任務をこなします。

当然多くの犠牲者も出たし、グバージも戦死しました。彼らは盟友というだけで命をかけてくれたのです。相変わらず義理堅い種族です。

フレーベがいなかったのが残念ですが、いたら1人で突破出来た気がするからやっぱりいいかな。ちなみに彼は今後も出てきません。


この戦いでゴブ達も重要な役割を果たした訳ですが、多くの敵がいる事であっという間に逃げてしまいました。

カイレル「ゴブリンたちは、全滅してくれたほうがよかったのにね」

彼らはゴブに対する哀れみなんて感じていない。支配と被支配、それだけ。残酷だけどそれが両者の関係なのです。


ゼーネア「しょせん本性は変えられぬのだ。人間も、そして我らもそれは同じだろうが……」

でも人間やダークエルフには知恵がある。この同盟には意味があり、スパークとゼーネアはお互い裏切るメリットがないと知っている。

ちなみにリーフは自由奔放に振舞ってるそうです。既に母親も認めています。彼女もそれなりの実力者だし、気だてはいいから馴染める筈。

そして仕事が終われば彼らは身を隠します。ただでさえ少ない仲間を減らす事はできない。何より今は2人が一緒にいられる貴重な時間です。


またニースも今回は参戦しました、ていうか強いです。多分ナニールの記憶が戻った事で、彼女の戦士技能も備わったのでしょう。

かつてナニールはレイピアを愛用したらしいので、あえてそれを使って自分を試す事も兼ねて戦い、覚醒はしませんでした。

ナニールはレイピアで急所を外して突き、相手を苦しめる事で楽しんだという。だけどニースはそういう衝動には駆られなかった。


ちなみに鎧はミスリルのチェインメイル。何処から持ってきたのかと思ったら、大ニースのお下がり説を指摘してもらいました。

大ニースは魔神戦争の時に、石の王国で見つけたミスリルチェインをフレーベに直してもらって、魔神王戦で装備してたんですよ。

ちなみに大ニースの筋力は14で、小ニースは9。もしも大ニースの筋力にピッタリだったとしたら、かなり重たい装備になる。

そもそもチェインメイルは必要筋力が10からなので、高品質でない限りニースには合いません。多分高品質か、微調整をしたものでしょう。


★5〜6

砦が陥落する一方、フィオニス達さっさと移動してしまいました。戦術的撤退であり、本当の奥の手を出す為に。

フィオニス「ここに教徒を集め、マーモ公国の全戦力を釘付けにできた

サーキス「終末を否定する彼らには、黄昏の時がいかなるものか想像もしないでしょう」

フィオニス「生贄の用意は?」

サーキス「転生者バートルが動いています」

やっぱり信者達は捨て駒か。


しかし黄昏とは、やはり終末を意味するのでしょうか。黄昏だと日没前になるし、ワーグナーはラグナロク神々の黄昏と訳した。

ラグナロクは北欧神話における終末。神々と巨人族の最終決戦であり、一部の神を除いて神も魔物も巨人も多くが死に絶えた……。

ちなみに「twilight」には「黄昏」以外にも「薄明」という意味がある。薄明だと日の出前の薄明かりをも意味し、若干縁起はいいかな。

しかし安心してはいけません、「夜明け前が最も暗い」という格言もある。今からスパーク達は正に公国史上最大の苦難を迎えるのです……。


一方戦い終えたニースは気が緩んだのか、スパークに身を預けて涙を流しました。

スパーク「どうだった?君の魂と向き合ってみて……」

ニース「人を殺すことにためらいはなかった。だけど、戦いに喜びを感じることもなかった……」

スパーク「それでいいさ……。君は、もう覚醒しているんだよ

無理に聖女である必要はないし、"亡者の女王"になる必要もある。両者の記憶を持つニースという存在であれば、それでいい。


ニース「わたし、怖い女かもしれませんよ……」

スパーク「女はみんなそうだと、世の男は言う。今日一日で、君となら一緒に戦ってゆけると分かった。
      いや、オレがいなくなったとしても、君になら公国を任せることができる。オレには、そういう女性が必要なんだ」

ニース「わたしに女王になれと仰るの?」

スパーク「亡者どもの女王じゃない。暗黒の島の民の女王だ」

まぁ亡者の女王よりはマシかな(苦笑)


戦いが終われば味方には褒美と食料を振る舞い、逃げた転生者達には賞金をかけて冒険者達に呼びかけました。

この砦には近衛騎士ボルダーを守備隊長につけ、ゆくゆくは爵位を授けて領地を与え、エルフやダークエルフとの仲介役になるそうです。

彼はアラニアでも貴族の生まれで賢者の学院に在籍していた事もある。そうして学んだ事が領地を豊かにする仕事に役立てられると。


ヒュドラ戦でも言っていた事ですが、マーモの領主には武力だけでなく統治能力が求められる。

腐銀が陶器になり、毒草が薬草になるのです。闇の森には、もしかしたらとんでもない金の鉱脈が眠っているかもしれない。

薬草師のラーフェンがダークエルフの案内で調査をするというので、もしかしたら公国の財政を一気に好転させるものもあるかもしれない。


スパーク「終わったんだな……

まだ転生者の狩り出しや、ファラリス教団やダークエルフの問題もある。しかしそれは時間をかければ解決するものだと思っていた。

これで公国はマーモを統一し、ロードスの平和に貢献できる。そう思っていた。しかし本当の戦い、「終末戦争」はここからが本番でした。


★7

闇の森の砦の攻防戦は、マーモ公国の勝利に終わりました。しかしその戦いのさなかにアリシア司祭が行方不明になっていました。

これがきっかけで、アリシア司祭は皆の前から永遠に姿を消す事になります。彼女は一応スパークへの理解もあったので、惜しい限りです。

これじゃあスパークがアリシア司祭を戦場のドサクサに紛れて謀殺したように見える。そうでなくともヴァリスから責任を問われるだろうし。


何より後から来た別の司祭は、アリシア司祭のような理解者になってはくれないかもしれない。最悪国際紛争に発展する恐れもある。

ただでさえファラリスやダークエルフの件で、ヴァリスとの関係は先行きが不安なのです。彼女を欠いたのはいかにも惜しい……。

一応エトはファリスの布教活動だけを命じているので、表立っては攻めてこないでしょうけどね。つくづくヴァリス王がエトで良かった。


なんと彼女はカーディスの力によって転生したバンパイア・バートルに拉致され、ウィンドレストの地下の大空洞に運ばれていたのです。

ファラリスのケース同様に、カーディスの寵愛でバンパイアへ転生する場合もあるでしょう。カーディスは不死生物の神でもあるから。

そういえばバグナードもカーディスの力でノーライフに転生しましたよね。いずれも世界全体で見てもあまり見られないケースではあるけど。

また彼は転生者を名乗ってますが、それは奇跡で生まれ変わってきたのではなく、不死人への転生を果たしたという意味なのではないか?


バートルは運び込まれた戦死者の死体を装い、アリシア司祭を視線の魔力でチャームしたのです。

しかし不可解、バンパイアの視線には確かに魔力がありますが、それは恐怖による麻痺であって魅了ではない。

相手を木偶人形のように操れる視線なんて、ただの麻痺よりも強力ですよ。バグベアードの光線にもそういうのがありましたね。


王城ウィンドレストの地下といえば、石化したカーディスの骸がありましたよね。故にここはカーディスの聖地でもある。

バグナードはここで二つの鍵と一つの扉によってカーディスを降臨させ、ノーライフキングへの転生を果たしたのです。

"灰色の魔女"カーラが敗れた場所でもあり、ウッドを取り戻した場所でもある。先の大戦ではマーファが降臨し、勝利を掴んだ場所でもある。


しかしこの場にはもう一つとんでもないものがあったのです。それこそが終末へ通じるゲートです。

ここを通ってカーディスは未来からやって来たのです。渦状に空間がよじれ、紫色の瘴気なども垂れ流しています。

禍々しい事この上ない、封印の民だったら"パージ"しそう。ここを通れば時を越えて終末へ行けるけど、試すのは覚悟が要る(苦笑)

フィオニス達はこれを利用して、新たな終末の巨人に属するものを召喚し、戦力を補給する気(ていうかこっちが本命)なのです。


とはいえ直接このゲートを使うわけではありません。このゲートは敬虔なファリス信者を釣るための餌です。


アリシア司祭はこのゲートの側で目を覚ましました。目の前にはバンパイア・バートルがいたりします。

目に見えるほどの負の生命の精霊力を纏い、宙に浮いている。流石はバンパイアのお父さん、明らかに強そうです。

「名乗れ!今こそ大英雄」では"ヘッポコーズ"に倒されましたが、強力なアンデットである事に変わりはありません。

この化け物を相手に、アリシア司祭は1人で戦わねばならないのです。あまりにも分が悪い、ていうか普通だったらまず勝てない。


最初は紳士的だったバートルも、ふとしたきっかけで急にキレます

アリシア「わたくしは邪神復活の扉になどならない……」

バートル「自惚れるなよ、小娘が!てめぇなんかが、カーディス復活の扉になるわけねぇだろう!!」

何故かキレやすい最近の若者口調です、「てぇぇぇめぇぇぇは死ね!」とか言い出しそうです(笑)


こうして本性を現したバートルは、素手でアリシア司祭を我武者羅に攻撃します。既に紳士は紳士でも、変態という名の紳士です。

一応バンパイアの攻撃がヒットすると精神力を持っていかれるものですが、その様子はありませんでした。もうルールとかどうでもいいか(笑)


しかしアリシア司祭も負けてはいません。渾身の"バニッシュ"でバートルを消滅させます!!

"バニッシュ"といえば8レベルのファリスの特殊神聖魔法、アリシア司祭ってレベル高かったんですね。

ちなみにバンパイアの精神抵抗は20(13)ですから、拡大したとしてもこの抵抗を破っただけでも大したものです。


かつてファリス教団は形式主義に陥り、神学の成績だけで司祭になれるような、神聖魔法の使えない司祭が横行する腐敗っぷりでした。

しかし今はエトとジェナートの改革が進んでいるようです。ちゃんと修行を積み、本当の意味でのファリスの神官が増えているそうです。


これだけで驚いてちゃいけません。アリシア司祭はフィオニス達に囲まれ、もはや命運は尽きたという状況に追い込まれます。

そこでアリシア司祭は最後の力を振り絞りました。己の魂を犠牲にし、"コール・ゴッド"でファリスを降臨させゲートを封印!!

"コール・ゴッド"といえば10レベルの神聖魔法ですよ。彼女は相当の高レベル司祭か、あるいは超英雄だったという事ですね。


もしかしたら"バニッシュ"も超英雄ポイントかもしれない。場合によっては大ニースのように生き残れたのですが、彼女の魂は砕け散った

彼女は例え終末が訪れ、この世界と共に魂が消滅しようとも、いずれかの世界のいずこかの時に形を得るものだと考えています。

それは定かではありませんが、全てが終末の巨人に還るのなら、始原の巨人が死んで新たな世界が創られても新世界の一部ではあるでしょう。


あとファリスの声というのもフォーセリア作品では初めて記述されたんじゃないですかね。

ちなみに「汝、我に何を望むか?」でした。これだけとは、ファリスは出演料高いんですかね、何処かの芸能人みたい(笑)




しかしアリシア司祭が魂を砕いてまでゲートを封じた事は更なる事態の悪化を呼び、新たなゲートが出現したのです

アリシア司祭の覚悟は最悪の方向に繋がってしまいました。命がけの行為がまったく報われていません。むしろ逆効果です。


何故こんな事になるかというと、それはこのフォーセリア究極の世界律が関係している。「秘境伝説」で明らかになった事ですね。

それは「完全な世界は存在しない」という事です。水野先生が考えるフォーセリアは必滅の運命にある。遅かれ早かれ必ず滅びるのです。

そして終末の巨人は新たな世界の始原の巨人となり、次の神々が生まれ、世界が創造されるのです。破壊と創造は等価なのですから。

結局はそれが自然な営みであり、それを外れる事はあってはならない。故に「世界を定常化する程に終末が近づく」という反作用を生む。


すると未来から終末の巨人に属する"世界を破滅に導くもの"が召喚される。それは言わば巨大な定常の力の反存在です。

神話の時代に現れた"破壊の女神"カーディスも、カストゥール繁栄時の"魔精霊"アトンも、クリスタニアの魔神獣もそうです。

カーディスの場合は神々(特にマーファ)が完全なる世界を築かんとした為、その創造の力の反存在で"破壊の女神"となりました。

アトンの場合はカストゥールが精霊都市フリーオンを建造した為、複合した精霊王の力の反存在として複合精霊(魔精霊)となりました。

魔神獣の場合は神獣達が完全なる世界クリスタニアを創らんとした為、複合した神獣の力の反存在として複合神獣(魔神獣)となりました。


実はマーファ教団には決して明かされない秘密の神話がある。そこに登場するカーディスはマーファと瓜二つだったという。

それはお互いの聖印にも言える事です。マーファの聖印は「大地の恵みを刈り取る鎌」で、カーディスは「命を刈り取る鎌」なのです。

マーファの創造の力は、カーディスの破壊の力となった。「大きな定常の力はそれに見合う終末を呼ぶ」訳です。悩ましい限りです。


今回もそうですね。至高神ファリスによる強大な定常の力が、それ相応の終末を呼ぶ結果となったのです。

ファリスはファラリスやフェネスと並び称される、神々の中でも盟主と言ってもいい存在。およそ不可能な事はありません。

しかしそれは「今の世界」のみでの事。終末のゲートは「次の世界」に属するものであり、流石のファリスの力も及びません。


裏設定(とファラリス教団の神話)では、ファラリスはそれに気づいたから神々の大戦を起こした事になってます。

ファラリスに他意があったかどうかは分かりませんが、彼の起こした戦いがなければとっくに世界は滅びてました。

結果として中立神を除く神々は肉体と物質界に介入する術を失ってしまいますが、世界の大破壊は防げた。それだけは事実です。


水野先生は「クリスタニア完全ガイドブック」で、「世界は永遠ではない、永遠であってはいけない」と仰ってました。

破壊を止めようとするほど終末が早まるなんて大きな自己矛盾ですよね。そしてそんな世界だからこそ終末信仰が流行るのだとも。

人は過去に故郷なく、現在に安住の地なく、未来に約束の地もない。とても不安定な存在で、それは世界そのものにもいえる事です。

その姿は揺れ続けねば倒れる振り子、あるいは止まれば転ぶ一輪の車。それでも新しい振り子や車を用意するのは解決になりません。

あくまでも揺れ続け、回り続けようというのが、終末と戦う者の心得だと思う。大切なのは今にしがみ付くのではなく、流転を許容する事


フォーセリアというメガサイクルの中で、自分という小さなサイクルを見出す事が、定命の者に与えられたせめてもの自由です。

滅びの時はいずれ来る。しかし次の世界でもそれは同じ事。それじゃあ次の世界への転生は逃げでしかなく、ただの臆病です。

人は長生きする為に生きるのではなく、ちゃんと死ぬ為に生きている。だから永遠に続く灰色ではなく、一瞬の虹色を求める……。


第W章 公国滅亡

この話からカーディス教団は「終末のもの」と呼ばれる存在を使用し、公国へと本格的に牙を剥くようになります。

「終末のもの」とは非常に個体差の大きい存在で、強さも大きさも形状も、そしてデータもまちまちという特殊なモンスターです。

そこで今後の展開を理解する上でも、ここで彼らの情報をまとめておきましょう。データは「SWサポート2」に収録されています。


まず彼らはカーディスの存在する「次の世界(終末)」から召喚される存在で、今回は「終末の門」と生贄によって呼び出されました。

この門はアリシア司祭が開けたもので、生贄は公国の住人や教団の人間です。歴史上彼らが現れたのはこの「終末戦争」のみだとされてます。

ただしこれが彼らを召喚する唯一の方法とは限らない。彼らは決してこの場限りの存在ではなく、誰の前にでも現れうる終末なのです。


生贄の捧げ方ですが、本編によれば10レベル神聖/暗黒魔法"コール・ゴッド"によってカーディスを一時的に降臨させて召喚してます。

かなりの数の「終末のもの」が登場しましたが、もし降臨が必要なら一体何回カーディスが召喚されたのやら。「マンボNO.5」か(笑)

たかだか数日でこれほどの数を召喚するのはかなりの労力ですし、精神力の問題もある。ある程度は"パワーリンク"で融通できるでしょうが。


また召喚者はフィオニスとは限りません。最低でも1人の転生者は自らを生贄に強力な「終末のもの」を召喚したからです。

転生を続けてるだけに転生者は皆常人の数倍の経験を積み、レベルも高いでしょう。流石に全員が全員10レベルあるとは限りませんがね。

それでも超英雄ポイントで強引に降臨させる事も可能でしょう。アリシア司祭だってできた事です。転生者ならやりかねませんね。


なお普通の"リーンカーネーション"は10レベルですが、彼らの使用したのは6レベルの"エターナル・リーンカーネーション"です。

通常の"リーンカーネーション"は他人にもかけられるから、当人が高レベル闇司祭でなくても転生そのものは可能でしょう。

ただし永遠に転生を繰り返す"エターナル・リーンカーネーション"は、レベルが若干低い代わりに自分にしかかけられないんですよ。

永遠の輪廻の輪に飛び込むならば、自分自身がある程度レベルをあげないといけないんですね。そこまで甘くはできていないんです。


それにしても、"コール・ゴッド"といえば究極の神聖(暗黒)魔法の筈なのに、何か安売りされてるような気が……(笑)

大陸では"コール・ゴッド"なんて使われるのは極稀です。たまに話を聞きますけど、10レベル司祭自体稀有の存在です。

アリシア司祭だってやってたし、これでは神様のバーゲンセールです。大陸出身の司祭が聞いたら価値観を揺さぶられそうですね。


光の神に"コール・ゴッド"で願いを叶えて貰う時は術者の魂が代償になりますが、その代わり叶う願いは強力無比です。

これは10レベルもの司祭が自分の魂を犠牲にするからこそ、神がそれだけの力を振るえるんでしょう。アリシア司祭がいい例です。

しかしファラリス等の闇の神の場合は、術者以外を生贄にする事ができます。ただし誰でもいいというわけではないようですがね。

この際達成値が30に届けば神は永久に物質界に留まるが、そうでなければ精々1分程度です。幸い完全な復活を果たしたケースはない。

そして生贄によってこれにボーナスが入るらしい。つまり神とはいえ思うが侭に力を振るえず、神の奇跡は生贄に見合うものなのです。


となれば「終末のもの」も生贄によって強弱が決まるんでしょうね。これが噂の等価交換というやつです。

今回登場する「終末のもの」に個体差があるのもそういう理由でしょう。高位の司祭とかを捧げない限り大したものは呼べないのです。

だからこそ転生者が自らを犠牲に召喚するのは意味があるのです。そうして召喚されたのは、恐らくは最高レベルの「終末のもの」です。




それではデータ的なアプローチで彼らの能力を確認しましょう。形状や容貌もやはり個体差が大きいので、本編を参照。

「SWサポート2」に収録されているデータによると、「終末のもの」のレベルは1〜10で、他の数値も個体差が大きい。

その数値自体を算出する計算式がありまして、それにレベルを代入します。容貌も設定すればオリジナルの「終末のもの」ができあがりです。


また共通の特徴としましては、彼らはこの世界の存在ではない為、ただ物質界にいるだけで瘴気を振りまきながら消滅していきます。

この瘴気は周囲の物質を汚染し、魔力や精霊力と対消滅を起こす。その為魔法は十分に効かないし、接近する人には猛毒です。

一説には彼らが存在した時間だけ終末が近づくとも言われています。真偽は不明ですが、相手が相手なので否定できないのが辛いところ。


これらの小説の特徴は、以下の通りに再現されました。


大まかなデータを見ますと、敏捷度や移動速度が6しかないから先手は取れそうです。知能もないので行動は読まれないでしょう。

攻撃手段は触手となっていますが、体を武器に変形させる事も可能です。しかもレベルが上がるにつれ攻撃回数も上がる(最大5回)。

その触手にはレベルが上がるにつれ強力になる《毒》がある。また彼らに触れた通常装備は《物質を腐食》の能力で24時間でお釈迦です。

魔法などはやはり使えないらしい。でも《通常武器無効》《武器によるクリティカルなし》で戦士には色んな意味で戦い難い相手です。


存在するだけで消耗する点は《生命点損壊》という特徴で再現されていて、ただ存在しているだけで1時間に1点ダメージを受け続けます。

また彼らは常に《瘴気》に覆われ、触手の毒と同様のダメージを周囲の生命に与え続ける。攻撃しようがすまいが終末を振りまくのです。

こうして彼らは我が身を削り、存在するだけでこの世界にもダメージ(残留毒)を与え続け、そこにいた時間の10倍の間毒が残留する。

レベルと生命点が最大級の「終末のもの」に至っては、放置すると100時間存在し続け、約40日間毒が残留するはた迷惑な存在です。

ちなみにこの瘴気は精霊魔法"ミサイル・プロテクション"によって換気する事で完全に防ぐ事ができる。戦士が戦う時には必須の処置です。


更にこの世界に属さない「終末のもの」には魔法も通常の効果を発揮しない。これは《魔法に対し、特殊耐性》という能力で再現されてる。

全ての魔法は消費精神力分のダメージを与えるに過ぎないのです。同じ5点なら、魔法使いや呪文のレベルが1だろうが10だろうが一緒です。

持続時間を持つ魔法も持続せず、範囲魔法も発動の中心点に近い1体にのみ有効。とにかく消費精神力分しか効果がないのですね。

ただし魔法による攻撃は冒険者レベルが敵のレベルに足らないと、その差が減点されてしまう。そういう意味では高レベルであるに越した事はない。

また魔晶石を撃ち込めば点数分のダメージ。内包された純粋な魔力がその存在を対消滅させるのかな?。何であれ金のかかる武器です。


以上のデータを見ますと、武器も魔法もそれぞれ不利な点がある。いずれにせよ「終末のもの」との戦いは消耗戦は必至なんですね。

「終末のもの」を倒すには武器よりも魔法が有効とありますが、ある程度のレベルがないとそれすら大した効果は望めません。

魔法使いの精神力の合計が敵の生命点の合計に勝っていればいいんですが、レベルが低いと減点されてしまうからそれも考えないと。

武器では《通常武器無効》でクリティカルもしないから面倒ですが、格下ならそれでも何とかなる。瘴気も換気すれば効かないし。


実際には完全に魔法が優位という訳でもなく、武器が全く役に立たないという訳でもない。何であれ相応の消耗をすれば彼らを倒せるのです。

極端な話水や土だって彼らを消耗させる。それが《生命点損壊》なのでしょうが、意図的に水をかけたりすればよりハイペースで消耗するかも。

大量の土砂で埋めてしまうとか、水の中に落とすとか。1時間に1点どころか、10分で1点か、あるいはそれ以上の効果になるかもしれない。


★1〜2

終末の門から召喚された「終末のもの」は地下から王城ウィンドレストに襲い掛かり、近衛騎士達の奮戦むなしく落城

更に公都ウィンディスの住人達は、ある者は街から逃げ出し、ある者は生贄となり、公都はカーディス教団に占拠されてしまいました。

近衛騎士達は城とスパークへの忠誠を守る為に立派に戦いました。兵士達には退去を命じ、自分達は最後の1人になるまで徹底抗戦

魔法使いがおらず、魔剣持ちも少なくては手も足も出ないのに。その惨状はまるで「魔神戦争」時のリュッセンのような修羅場でした。


そんな騒乱の中囚人達は解放されました。スパークなら必ずそう命令するから、という判断です。当然ヴェイルも……。

看守の近衛騎士「さっさと逃げろ。部屋から出れば、魔法も使えよう」←立ち去る

ヴェイル「待て!どうせ命を捨てるにしても、一矢は報いたいはず……」

看守の近衛騎士「我が剣に魔力を授けてくれるというのか?」←歓喜の表情

実は彼も仲間の魔剣持ちが血路を開いたお陰でここに来れたのです。まぁエンチャントでも比較的弱い個体なら倒せるでしょう。


しかしヴェイルはの思惑は違ったのです。

ヴェイル「万物の根源、万能の力……。我が双脚は時空を越える!」←"テレポート"

看守の近衛騎士「貴公!いったい何を……」←一緒に瞬間移動

そして気づいてみれば王城を脱出し、ヴェイルが経営していた農園にいました。


あまりの事態に、一緒に脱出した近衛は茫然自失。死ぬつもりだったのに、急に助かった事で頭が真っ白です。

近衛「な、なんということをしてくれたのだ……」

ヴェイル「事情を知らされずに放り出されては、わたしとしても困るのだ……」

近衛「王城では、まだ仲間たちが戦っていたのだぞ……」

ヴェイル「おまえが残ったからといって、仲間が助かるわけではないだろう。死体の数が増えるだけだ

それにスパークへの報告だって必要だし。相変わらずシビアな男です。


これからヴェイルは近衛騎士と一緒にスパークのもとへ向かい、共にカーディス教団と戦うつもりです。

今や彼はバグナードに命を狙われ、愛する人を失い、死を待つだけの虜囚です。それでもカーディス教団はネータの仇なのです。

どうせ死人も同然なら、彼女の仇を討てるだけ討って死ぬつもりです。それにスパークがどう対処するかにも興味があるのです。

ずっと敵だった彼だけど、味方になると心強い。彼の魔術と知識は間違いなく助けになる。今は1人でも強い味方が必要なのですから。


基本的に彼は理の人だと思ってましたが、今の彼を動かすのは心の底からくる情です。

ヴェイル「さぁ、行くぞ。生き恥をさらしている我々だが、それでも命がある以上、果たさねばならないことはあるのだ

そう言ってすっかり凹んでる近衛騎士を歩かせました。これじゃあどっちが虜囚なのか分かりません(笑)


そしてスパークは公都からの難民やヴェイルと近衛騎士の報告で事態を知りました。

スパーク「仲間の無念を晴らすには、その化け物どもを滅ぼすしかない。おまえひとりでも、よく生き延びてくれた」

生き延びた近衛騎士はそうスパークから優しい言葉をかけられて号泣。しかし休んではいられない、続けて公都・王城奪還を行います。


★3〜4

スパーク達は少数の精鋭を集め、本隊から先行して「終末のもの」の検分を行いました。まず1体倒して方策を練るのです。

この時点で彼らは「終末のもの」を正体不明の異質な化け物としか認知しておらず、どうしても一度試してみる必要があったのです。

しかし前述通りに彼らは極めて厄介な存在。その大体の能力を把握したとしても、それは多大な犠牲が出る事を予想させるものでもあった。


同行するのはいつものメンバーに、ヴェイル、ゼーネア、クローゼン。エレーナとラーフェンはウッディンの軍師として別行動です。

リーフがいないのは寂しいけど、ゼーネアがいるので精霊魔法は大丈夫。同じくヴェイルとアルドが古代語魔法を使える。

神聖魔法はニースがいるし、クローゼンの暗黒魔法にも期待。そして同行する近衛騎士数名も手練であり、かなり強力なパーティーです。

実はダークエルフも数名同行しているので、"ミサイル・プロテクション"による換気も十分手が足りる。意図せずして的確な面子でした。


彼らが遭遇したのはミミズ系の個体でした。大きさは馬の倍程で、灰色の身体は幾つもの節に分かれ、腹の義足状の突起で移動するそうです。

ゼーネア「見たこともないオーラが見えるな。動物でも植物でも、不死生物とも異なる……」

ヴェイル「魔力は感じない。魔法を使ってこないとはかぎらないが」←大丈夫、使えない

クローゼン「ファラリスの眷属ではないのは間違いありませんな」

精霊力が通常とは異なり、闇司祭ですら肩をすくめる異物か……。実際目の当たりにすると非常に気味の悪い怪物です。


相手の能力を確かめるのが今回の目的なので、まず魔法で攻撃です。

ヴェイル「ひとりずつ、唱えてゆくべきだろうな。どの魔法が効果的か、確かめるつもりなら」

アルド「妙案です、それでゆきましょう」

この時のアルドは立場を気にせず、積極的に立ち向かっていこうという気概に溢れていました。彼も地味に成長しているのですね。


まずヴェイルが"ライトニング・バインド"を唱えますが、拘束系の魔法でも一瞬で効果は消滅。消費精神力分のダメージを受けるのみでした。

続いてゼーネアの"シェイド"、ニースの"フォース"を受けました。いずれも多少ブルブルするだけで、苦悶の様子はない。でも効いてる筈です。

ちなみに「終末のもの」には精神点はない。よって"シェイド"で気絶させる事はできませんが、多分それも消費分のダメージなのでしょう。


ニース「あの怪物にとって、この世界は棲むべき場所ではありませんから……。
    存在しているだけでも、消耗しているのかもしれません。だから周囲を変質させて、存在しやすい環境にしているのでしょう」

スパーク「だとしたら、すべてのものが武器になるということだ。たとえ、ただの水でも、土でもな」

ギャラック「こいつがこの世界に存在できなくなるまで、消耗させればいいわけですね?」

続けてゼーネアが瘴気を換気し、戦士達が討ち取ります。そして彼らの装備は腐食すると。これだけ分かれば十分でしょう。


ちなみに普通の魔剣には《品質保持》の魔力がかかっているので、普通に使っている分には何百年でも使えます。

しかし「終末のもの」がこの世界のあらゆるものを蝕むとするなら、長い事影響を受けたら《品質保持》の魔力そのものを蝕むかもしれない。


こうしてスパーク達は「終末のもの」を着実に消滅させつつ王城に向かい、地下のマーファ神殿へ降り、転生者達との決戦に挑みました。


★5

スパーク達が「終末のもの」の特徴を調べた上で、ウッディン率いる公国騎士団は王城奪還の戦いに挑みました。

ウッディン「マーモ公国のために!

軍勢「おおっー!!

今や彼らはフレイムではなく、歴としたマーモ公国の人間なのです。そして国に仇なすものは排除する、それが騎士団の使命です。

ウッディンは以前の反発ぶりが信じられないほど、この国とスパークに思い入れている。公国騎士団の団長として、何て心強いことか……。


それは正に死闘でした。多くの騎士や兵士が倒れ、魔法使い達は消耗のあまり気絶する。それでも彼らは戦いました。

彼らの士気は非常に高い。また戦勝の余韻が残っていて、事態の把握もできていない。だから早期に決着をつける必要がありました。

「絶望は人の心を殺す」。だから絶望する前にこの絶望的状況を打破しないといけない。さもないと公国が築き上げた物が壊れてしまう……。


こうして彼らは多大な犠牲を払いながらも、ウィンドレスト城から「終末のもの」を駆逐していきました。

その凄まじさは「魔神戦争」における百の勇者達の戦いを髣髴とさせる。勇ましさも、人の儚さも、そして生命の美しさも。


そしてウッディンはついに玉座の間に辿り着いたのです。そこを占拠していたのはドラゴン型の「終末のもの」でした。

例の転生者が自分を犠牲にして呼び出したもので、恐らくは10レベル相当。多様な「終末のもの」にあって最強の個体の1つでしょう。

竜とは世界の根源に関わる存在。恐らくは次の世界にも竜はいるんですね。何しろ彼らは神々と共に始原の巨人から生まれた種族だし。


ここに来てエレーナとラーフェンは一時撤退を進言しました。王城を包囲し、静養と準備を整えて挑むべきであると。

ちなみにラーフェンはこの戦いにおいても優れた剣術と戦略眼で多大な貢献をしました。まるであの"栄光の勇者"を彷彿とさせますね……。

彼らの判断は正しいでしょう。さもないと壊滅的打撃を受ける。しかし例え賢明でなくても、決して譲れないものがウッディンにはあった。


ウッディン「戦いもせず、その大きさだけで怖じ気ついたとあれば、スパーク公に合わせる顔がありませんからな

エレーナ「身体の大きさは、あの怪物の存在力と等価だと推測できます。それを打ち消すには、強大な力が必要です」

ウッディン「なるほど、エレーナ師はそう推測されましたか。スパーク公にぜひ報告をお願いします

彼も、また彼の部下達も戦う気です。公国の象徴に怪物を放置できないと言いたげでした。例えそれが死に繋がろうとも……。


ウッディン「あの怪物を倒し、ここに陛下をお迎えせねばならん

彼だって分かってる筈です、スパークはそんな事より彼らの命を大切に思っていると。それでも、ですね。


今の彼はルゼナンと似たような境地にあるのかもしれませんね、命そのものを手段として挑もうとしている

それは決して強制されたからではなく、自分自身の心が決めた事なのです。だからこそ、それは勇ましく同時に悲しい

戦乱に彩られてきたロードス島には、過去にもそういった戦いをしてきた者は沢山いました。そして、ここに集った公国の騎士達も……。


ラーフェンはウッディンとかたく握手を交わし、エレーナは涙を滲ませながら後事を任されます。

エレーナ「わたしには殿方のお考えは分かりませんが、これでよいのですか?」

ラーフェン「剣は扱えても、わたしは騎士ではありません。もっとも大切なのは、自分の命です。ですが、彼らは違います。
       国の礎となることが名誉なのです。戦わずして退くことはできません。命をかけて民を守ったという事実こそが大切なのです」

騎士道とは生きる為に必要なのではなく、むしろ死ぬ時の為に必要なのだと、誰かが言っていましたね。


最早2人にできるのはウッディンの戦いを見届け、その結果をスパークに報告する事だけです。

エレーナ「それは分かります……分かりますが……。あまりにも辛い役目です。
      マナは万物の根源にして万能の力と言われますが、わたしは人の命はそれ以上のものだと思っています。
      あらゆる物を生み出し、あらゆることを可能にする。それがこうも軽々しく失われてゆくことが、わたしには我慢なりません」

ラーフェン「まったくですね。ですが、彼らにとってマーモ公国は命をかけるに値するのでしょう」

つまりそれだけのものをスパーク達は築き上げた。既にラーフェンもこの国に愛着が湧いている程です。


ウッディン「マーモ公国のために!

そしてマーモ公国の騎士団長は部下たちと共に、終末の竜に戦いを挑んだのです。彼らにとって最後の戦いに……。


★6

ウッディン達が王城で「終末のもの」と戦う一方、スパーク達は終末の門と転生者の待つ地下神殿へと踏み込みました。

途中に巣くっていた「終末のもの」はギャラックが1人で掃討しました。リプレイ版の彼もそうして先頭に立って戦っていましたね。

彼には「スパークを守る」という、「邪神戦争」の時から培ってきた使命感を感じる。それはある種の焦燥感や強迫観念にも思えますね。


残る転生者はフィオニス、サーキス、それとあと4名。内3名は次の巻で名前が出ますが、もう1人は名無しの転生者です。

転生者を相手にする場合、殺してしまっては面倒な事になります。また何処かに転生してしまうし、ザ・鉄腕イタチゴッコです。

そこでかつてのナニールのように、生け捕りにして封印するのがベストです。その点ではカーラと同じ、殺害は解決にならない

いっそ"ディスインテグレート"でもぶつけて、魂ごと消滅させてしまいたい気分です。流石の転生者とはいえこれなら助からない筈。


この時にはニースは全てを受け入れていました。ナニールとしての過去も、ニースとしての今生も。

フィオニス「ナニール?」

ニース「そう、わたしはナニールよ。亡者の女王としての日々も、あなたとのこともすべて思い出している。
     だけど、わたしは転生者ではなく、生まれ変わりなの。そして選んだのよ、創造の女神の信者であることを
     ナニールではなく、ニースという名を。そしてあなたではなくマーモ公王の妃となることを……。さようなら、フィオニス」

これはフィオニスの視点に立つと凄まじく虚しい話です。永遠の伴侶であった最愛の人にフられた訳だし……。


そして公国側はゼーネアの"サイレンス"で魔法を封じ、近衛騎士達はクロスボウでロックオン。生け捕り前提で動きます。

しかしそこでサーキスが動きました。この時公国側は彼を生け捕りにするつもりだったので、クロスボウで弁慶状態にしても急所は外した

それが公国側の首を絞める事になったのです。破壊の女神の忠実な従僕である彼は、最後の最後に恐るべき奇跡を行使したのです。


カーディスの神格とは「破壊」。その信望者である彼は己の存在をも虚無に還そうとしているのです。

サーキス「ガーディスが望んでいるのは純粋な破壊のみ。終末にして始原の巨人さえも破壊したい思っていよう。
      願わくば、女神がその戦いに勝利せんことを。そして完全にして永遠の虚無が訪れんことを」

スパーク「貴様だけが勝手に消滅すればいいだけだ。世界を道連れにしようなど傲慢の極みだ」

サーキス「カーディスよ〜!!」

ギャラック「あいつを止めろ!殺してもかまわない!!」

そして近衛騎士は今度こそ彼に致命傷を与えた。しかし彼らは後悔したでしょう、問答無用で殺しておけばよかったと。


そしてサーキスは終末の門へと倒れこみながら、最後の"コール・ゴッド"を行ったのです。

サーキス「破壊の女神カーディスよ、至高なる終末のものを招来させたまえ……」

そうして召喚されたのは巨人でした。一瞬終末の巨人ではないかと気が遠くなりましたが、どうやら違うらしい。


灰色の斑の身体、顔には目や鼻はなく、口だけが開いている。だらりと垂れた舌からは粘性のある灰色の唾液を滴らせている……。

恐らくは終末の竜と双璧をなす、10レベル相当の「終末のもの」でしょう。竜と同じく巨人も世界の根源に関わる存在なのですから。

始原と終末の巨人が巨人であり、神々もまた巨人族であった訳だし。もしかしたら次の世界の神々も巨人族なのかもしれませんね……。


★7

こうして召喚された終末の巨人モドキを相手に、公国勢は様々な工夫を凝らして戦いを挑みました。


スパークは剣を巨人に刺しっぱなしにするという、大胆ながらも効果がありそうな戦法に出ました。

ヴェイル「大胆な戦い方をするものだな、マーモ公王殿は……」←感嘆

ゼーネア「マーモ公は型に囚われない性格のようだ。おかげで我らもマーモ公と同盟できたわけだがな」

斬ったり突いたりするよりも、異物と長時間接触させる方が効果的だと学んだのでしょう。一応大陸伝来の魔剣なので腐食もしないし。


ヴェイル「不思議なものだ。わたしが築こうとした国とマーモ公国はそう違わないように思える……」

ゼーネア「許しを請うて、マーモ公に仕えてみるか?口添えくらいはしてやるぞ」

結果からするとスパークもこの島の闇を従えた訳だし。思えば彼とスパークの戦いも「理想は同じでも立場が違う」者同士の対決でした。

もし何かの機会に恵まれていたら、ヴェイルもダークエルフやファラリス教団のように、公国の一員となっていたかもしれませんね。


しかし今となってはもう遅い。それに彼の理想の国と公国には、1つ決定的な違いがある。

ゼーネア「ネータ卿が、いないということか?」

ヴェイル「おかしいかね?」

ゼーネア「いや、おかしくない。死すべき定めの人間が種として永続性を保つには、男と女が求めあう必要がある……」

ヴェイル「死すべき定めにない闇の森の妖精も、それは同じだろう?」

実際彼女もカイレルと愛し合ってますからね。


多分ゼーネアもハイエルフに相当するダークエルフの上位種なのでしょう。先の族長ルゼーブもそうだったようだし。

しかしハイエルフもルゼーブも永遠の命を持ちながら子供を残している。勿論頻度は人間ほどではないけど、ちゃんと子供ができる。

本当に永遠不滅なら子供は必要ない。しかし寿命は無限でも、生命は有限です。何かの弾みで死ぬ事もあるし、変化していく事もある。

ディードのように好きな人ができる場合もある。そういった色々なものを「伝える」為に、彼らも個ではなく種として生きるのかもしれない。


続いてゼーネアはヴェイルの提供で、魔晶石の矢尻を巨人に撃ち込みました。やはり点数分の消耗をした筈です。

その時巨人は苦しみの咆哮をあげたようですが、声にはならない。この世界の大気を振動させられないからだと推測されていました。

ちなみにこの魔晶石はヴェイルの手持ちの中では一番大きい。10点を越えれば銀貨1万枚を越える。流石はブルジョア属性、太っ腹(笑)


しかしそれでも巨人はしぶとい。グリーバスの"バトルソング"の援護を受け、大勢の近衛騎士が特攻していきます。

近衛A「先に逝くぞ!」

近衛B「喜びの野にて再会しよう!」

そうして彼らは次々に武器を埋め込みます。すると瘴気が溢れるのですが、彼らはだからこそ突っ込んでいくのです。

充満した瘴気と巨人の強力な一撃を喰らえば助からない。そんな役目をスパークにやらせられないから、彼らも国の礎となる……。


スパークは王様だから、死ぬ事は許されない。死んでいく臣下達を血を吐く思いで見ていました。

スパーク「オレは、マーモ公国を千年続くような国にするぞ。そうでなければ、彼らの死に報いることができない……」

ギャラック「お願いしますぜ。それで、あいつらも報われるというものです」←感涙

守られる事に慣れてないのがスパークの危うさであり、同時に魅力でもある。


それでもなお足掻く巨人を倒したのは、驚いた事にクローゼンが召喚したでした。1匹ではなく、夥しい虫の大群です。

蟲をけしかける暗黒魔法といえば魔神将が使っていた"サモン・インセクト"を思い浮かべますが、これはそれとはちょっと違います。

捕まえたカーディス信者を生贄に召喚したそうですから、相手のお株を奪う掟破りの"コール・ゴッド"か、その廉価版"イモレイト"でしょう。


仮に"イモレイト"だとしても、行使には達成値にして20が必要です。これでは儀式か拡大でもしないとそう出ませんよね。

生贄の適性によってはボーナスが入るらしいので、カーディス教徒なら1か2ぐらいは入りそうですけど、やはり簡単にはいかない筈。

あるいは超英雄ポイントで"コール・ゴッド"か。いずれにしろこの短時間の内によくぞ召喚したものです。見た目はおぞましい限りですが。


かくして世にも珍しい、世界の為に命を散らす蟲VS終末の巨人モドキの戦いが始まります。正に闇をもって終末を討つ!

蟲とはいえこの世界に属する命です。彼らの特攻は巨人を急速に消耗させ、巨人は倒れる。瘴気を浴びて蟲は全滅しましたけどね。


しかしスパークはどうも納得がいかないようでした。

スパーク「近衛騎士たちの犠牲を、蟲と変わらぬとでも言いたいのか?」

クローゼン「滅相もない……。ただ死を美化することはないでしょうな。
       生も死も、創造も破壊も、戦も平和もすべては等価だとわたしは思っています。
       ただいずれを尊ぶかは人それぞれ。陛下は陛下が望まれる国をお作りになればいい……」

その通りなのかもしれませんね。だからこそ、人間の不完全な心は価値観の食い違いを生む事があるし、争いになる事もある。


この場合蟲と近衛騎士の果たした役割は変わりませんが、近衛には尊い心があった。生命は勿論、その心自体が尊いと私は思う。

自らを絶対だと信じて疑わない事は、ある意味危険な事です。価値なんてものは、人が作り出したものではないでしょうか。

ファリスもファラリスもフェネスも、そしてカーディスすらも、その価値は心を持つものの捉え方次第ではないでしょうか。

カーディスだって、破壊を行うと同時に創造もしてるわけだし。今のフォーセリア世界の神だって、カーデイスと同じ事をしたかもしれません。


スパーク「オレはオレの理想とする国を目指す。それを欲望と言いたければ言え。だが、オレはファラリスの教義とは無縁の人間だぞ」

クローゼン「それは残念です……」

まぁそれはそれで彼の自由ですしね。結局はクローゼンの言うように、「いずれを尊ぶかは人それぞれ」なんだし。

スパークは闇から目を背けないし、こうして味方にしているが、決して呑まれない。それが光をもたらし闇を受け入れるマーモの統治者です。


★8

召喚された終末の巨人モドキは倒した。しかし彼らは真の強敵をまだ残していたのです。


転生者「封印されては転生することもできません。ここは自ら命を絶ちましょう」

フィオニス「そうか……おまえは死にたいのだな?」

するとフィオニスはその転生者の心臓を貫き、彼をクロスボウの遮蔽物としてやはり奇跡を行使したのです。


フィオニス「残酷なる破壊の女神カーディスよ!我に昔日の姿を取り戻したまえ!

実はフィオニスはかつて最強の戦士でもありました。何と彼と渡り合えたのはアラニア建国王カドモスのみです。


データこそ存在しませんが、カドモスが超英雄だった可能性は極めて高い。今のアラニア王家はクズだけど、祖先は本当に偉大でした。

ニースによれば、彼に勝てるのはカシューかフレーベぐらいだとか。となるとベルドやファーンも生きていたら勝てるでしょうね。

超英雄ポイントを駆使したフル装備のパーンやアシュラム様でも勝てないと仮定すると、彼もまた10レベル戦士だったという事ですか。

するとフィオニスはファイター/ダークプリースト(カーディス)10にもなる。あの"至高神の聖女"フラウスをも上回る最強の神官戦士ですね。


するとニースは自らも当時の肉体を取り戻そうとしたのです。

ニース「そしてもうひとりいるとすれば、あのときの亡者の女王その人!」←"コール・ゴッド"用意

アルド「いけません!スパーク様が愛されているのは、ニース様の魂だけでなくその身体もなのです。
     スレイン様からレイリア様からいただいだその身体をどうか捨てようとなさらないでください!!」←涙の羽交い絞め

多分技能だけならニースも取り戻しているのでしょうが、肉体面で劣るのでしょう。何しろ彼女の筋力が父親とそう変わらないのだし


こうして誕生したリボーン・フィオニスは、アルド並みのガタイを持つ戦士でした。ちなみに下布一丁

蝶が蛹から脱皮するが如く、以前の姿を取り戻したんですね。何故か天秤座の聖闘士を思い出しました(脱皮―笑)


そのフィオニスの挑発を受け、スパークは決闘をする気満々でした。

スパーク「一騎討ちを挑まれて、逃げるわけにゆくものか。カシュー王もそうだっただろう?

ギャラック「カシュー陛下は最強の剣闘士なんです。最強の戦士かどうかはともかく、一騎討ちであの御方に勝てる人間は世界にいません

それはよく聞く話ですよね。ベルドの方が実力は上だったけど、結局は勝ったし。


そして次に彼の言った事は、きわめて衝撃的でした。

ギャラック「ベルド皇帝との一騎討ちのときも弓の名手を潜ませてたんです。流れ矢ということになってますがね」

…………サラっととんでもない事言いましたよ。あの矢ってやっぱり故意に撃ち込まれたものだったんですね(苦笑)

確かに卑劣な手段ですけど、今までに色々な業績を重ねてきたのもやはり事実ですしね。まぁそういうのもアリかと。

戦士としては誇れる事ではありませんが、一国の王としてはこれぐらいの狡猾さは要る。何しろ王が死ねば国はそれまでなのだし。


しかもあの矢って雑誌連載時にはナシェルが射た事になってるんですよね。文庫では消えてるので黒歴史ですが。

更に手元にあるザ・スニーカーの2001年10月号に載っている水野先生と山田先生の対談には別の構想がありました。

マンガ版「ファリスの聖女」では例の矢を射た人の物語にしようというアイデアもあったそうです。結局実現しなかったけど。

それがナシェルのソレに繋がっているのかは、水野先生のみぞ知る。そういえばマンガ版「灰色の魔女」ではカーラでしたっけ。


結局スパークはフィオニスと戦うんですが、やっぱりマズかった。

スパーク「オレの前から消えて去れ!!」←空振り

フィオニス「さらばだ、マーモ公。そう気にするな、世界はまもなく滅ぶ。終末を越えられるのは、転生者だけなのだからな」

スパーク「ぐああーっ!!」←串刺し!!

今までの戦いでスパークだって相当な腕前になってるのに。それがこうもアッサリやられる以上、本当に10レベルかな。


内臓を食み出させるスパークでしたが、ニースの癒しで一命は取り留めます。しかし精神力切れでニース気絶

しかも襲い来るフィオニスを阻む為に多くの近衛騎士が倒れ、他3名の転生者達も恐るべき実力で近衛達は全滅しました。

更に彼らは例の巨人の躯からゾンビのようなものを召喚。「終末のもの」でも不死生物になるのか、これもある種の「終末のもの」か?

そして駄目押しとばかりに「終末のもの」が入り口に群れている。つまり王城を攻めていた騎士団が敗北し、彼らが流出したのです。


そしてフィオニスの猛攻にギャラックとライナまで……。

ギャラック「すまないな……」←絶命

ライナ「まったくよ。もっといい目を見せて欲しかったわ。
     だけど、それなりに楽しかったわよ、ギャラック。それに今度は、置いてゆかせないから

こうしてギャラックとライナも死んだ。今度は2人重なり合うように……。


★9

今までギムとかオルソンとか、メインキャラが死ぬ事は何度もありましたが、こんなにも絶望的な展開はあっただろうか?

いやあったかもしれないけど、完全敗北という事実が伴っている分インパクトがある。ヴェイル達にも全滅の二文字が過ぎりました。

ヴェイルが瞬間移動しようにも全員は無理だし、クローゼンがファラリスを降臨させようにもそんな暇はない。……本当に全滅コースか。


しかしここにきてアルドはスパーク達を逃がそうと、優しさとなけなしの勇気を振り絞った策に出ました。

アルド「スパーク様は、絶対にここから脱出させてみせます

クローゼン「今のわたしにできることがあれば、手を貸しますよ」

アルド「今は必要ありません。ですが、スパーク様が公国を取り戻すためには、あなたの力が必要です」

クローゼン「約束はしませんよ。すれば、破りたくなりますからな」←捻くれ者め(苦笑)

元よりファラリス教団とダークエルフ族には選択肢はない。本島の諸王国連合は彼らをも滅ぼそうとするからです。

彼らが生き残る為にはスパークが絶対必要なのです。彼に国を再建させ、自分達を受け入れて貰うしかない。だから彼らは協力する。


彼の方策とはニースを人質にしてスパーク達を脱出させるというものでした。勿論彼も残る、死を覚悟して。

グリーバス「おまえの強さは優しさだと、ニース妃から聞いたことがあるが、まさしくだな」

アルド「スパーク様をよろしく頼みます」

グリーバス「ああ、この勇者の命あるかぎり、わしは従者として助けるまでよ」

そして2人はガッチリ握手をし、アルドは転生者達を脅迫したのです。要求を飲まないとニースを殺すと、かなり本気で。


アルド「わたしの要求に従ってください!さもなければ、この娘の首を折ります」

これがアルドの凄い所なんだな、と改めて実感しました。優しいだけじゃない。涙を流しながらも決断する意思は承認ものです。


あのオルフェスの首だって簡単に折ったんです。ニースの細い首なんて、それこそスナック感覚でモッキリいくでしょう。

今の彼女は「転生」ではなく「生まれ変わり」として生を受けたので、"エターナル・リーンカーネーション"の効力ももうない。

ここでもし万が一本当にニースが殺されたら、彼らはナニールを永遠に失う。フィオニスも彼の意思が本物だと感じ取ったようです。


フィオニス「よかろう……」

こうして脱出できたのは瀕死のスパークとグリーバス、そしてヴェイル、ゼーネア、クローゼンのみでした。

スパークが「邪神戦争」を共に乗り越えた仲間達の内2人が死んで2人が人質となり、多くの臣下達もまた死んだ。完全敗北でした。




そしてロードス全土にマーモ公国滅亡の悲報が駆け巡ります。こうしてロードスの民は「終末戦争」の勃発を知ったのです。

凶事が再びロードスの大地を蝕もうとしている。不吉な暦の冬の時代がまた始まろうとしている。再び戦乱が巻き起ころうとしてる

一時は掴んだと思っていたロードスの平和ですが、まだこの島は"呪われた島"だった……。マーモだけが例外ではなかったのです。


しかしスパークとその仲間達は、このままじゃ終わりません。大ニースの言葉を思い出します。

「いかなる困難、いかなる災厄が訪れようと、ロードスの民は必ず勝利します」

黄昏は薄明でもあり、「夜明け前が最も暗い」。今が最悪の時期だとすれば、あとは明るくなるだけです。





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