「集え!へっぽこ冒険者たち」編:安田均作:清松みゆき・秋田みやび 他出版社:富士見書房

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★はじめに

この短編集はスチャラカ、バブリーズに続くリプレイキャラ単独の短編集となります。主役は勿論第六部"ヘッポコーズ"です。

一時期低迷していたSWに新たな活力を注ぎ込み、マンガにCDドラマにと盛んにメディアミックスし、リプレイ本編は前人未到の全10巻!

恐らくはこれがきっかけでSWに嵌ったという人もいるぐらいでしょう。それぐらいの影響力と面白さを兼ね備えた、実にいいリプレイでした。

今回はその第一部、リプレイにすると第12話までが収録されている第4巻までの、何処かしらの時系列に挿入される物語になります。


「神官戦士の憂鬱」作:江川 晃

★1〜2

最初の話はマイリーの神官戦士ガルガドが主役です。人生経験豊富で頼りがいのある、パーティーのおやっさんといったところです。

ヘッポコなパーティーにあって、主にノリスの扱いで気苦労の絶えない彼ですが、それ自体が生き甲斐である事が明らかになる話です。


時系列は第9話終了直後です。密猟団《金目の猫》を退治し、証拠品である幻獣達と街中を練り歩く所から物語は始まります。

捕らえた密猟団を引っ立て、多くの珍しい幻獣達を引き連れての凱旋は、たちまちファンの人々の間で"悪魔殺し"として話題になりました。

倒したのは魔神であって悪魔ではないんですが、フォーセリアでは大差ない。現実でも語源は違っても使い分けはあまりされていないし。


発案者は勿論ヒースです。名誉を重んじる彼はこういう形で自分達の活躍をアピールし、人々の視線を集めて大満足の様子でした。

一方妹分のイリーナはちょっと恥ずかしそう。倒した魔神の首を引っさげているのにも関わらず、どうも兄貴分ほど堂々とはできない様子(笑)

ノリスは生来の能天気な気質のお陰かヒースと同じく誇らしげ。馬車の手綱を取るマウナもイリーナのように恥ずかしがってる様子はない。


ところが一行の最後尾を歩くガルガドにあるのは高揚感ではなく脱力感。彼は直属の上司であるヒューナー司祭にこう言った事があります。

『駆け出しの冒険者と共に仕事をすることで、神官としての修練にしたい。
 仲間と自分が一人前になるまで、冒険に出ることを許していただきたい』

その誓いが果たされたように感じているのです。それぞれヘッポコさはあるものの、既に駆け出しとは言い難い程度に実績もある。


鍛える、それが彼の生き甲斐かもしれません。その過程の気苦労も生き甲斐の内。むしろそれを乗り越える事に達成感を覚えるのではないか。

それはちょっとブラキ信者にも通じます。鍛冶の神ブラキの信者は、鉄を鍛えるように人を鍛える事をモットーにする場合があります。

それとは若干の違いがありますが、マイリーにもそれに通じる性質があります。つまり彼は一種のドMという訳ですね(おい―笑)。


言わせて貰えば、3レベル程度で思い上がるなよってところですが、ちょっと一区切りついてしまった感があるのも事実です。

聖職者だって人間だもの、ていうかドワーフだもの。悩む事があって当然です。そこでヒューナー司祭は一つの手を打つ事にしたのです。


近々神殿主催で剣術大会が開かれます。剣術とは言っても刃の落とした武器を使っての力試しであり、決して殺し合いではありません。

ヘッポコはその特別試合に招待されました。同時にガルガドにはその対戦相手となる3人の神官戦士を鍛えるよう指示を出したのです。

彼らはそれぞれ問題があって、本来試合に出せる状況じゃない。それを何とかするのがガルガドの課題であり、司祭の出した救済でした。

正直ガルガドにはそれがどういう意味があるのか分かりませんでした。それでも司祭の言葉は神の言葉も同然、これを受ける事にしたのです。


★3〜4

以後ガルガドは神殿の中庭リウイが決闘した場所?)でこの3人を鍛えるようになります。彼らの名前はジゼルハインツサリィです。

この時期中庭の芝生の上では、多くの神官達が試合の為に熱心に修練を積む。その際多少の時間破りも多めに見て貰える程です。

流石に国教だけあって結構な盛り上がりようです。しかも最高司祭が10レベルと超実力派、神殿の規模だって自然と大きくなるのかも。


ジゼル・オーランド 17歳

プリースト(マイリー)2、ファイター1。亡くなった父親も神官戦士で、3人の中ではリーダー格の赤毛の少女。


ハインツ・マカリスター 21歳

ファイター4。元傭兵で実戦経験も豊富な大柄な戦士。3人の中でも実力派で、単純な実力ではガルガドをも凌ぐ。


サリィ・ベネルディン 19歳

シーフ4、ファイター1。元盗賊で訳あって神官戦士へ転向した女性。とても筋が良く、武器の扱いには長けている。


こうして見ると結構な面子ですが、やはりそれぞれ弱点というか問題点があるのです。ガルガドとの稽古でそれはすぐ露呈します。


まずジゼルは圧倒的に膂力が足りない。何しろ筋力10の生命力11、戦士には向いていない。他の能力値は平均以上ありますが。

しかも使用しているのが亡父の装備なので重い。ガルガドは力がついてから使うようにアドバイスしますが、技能を上げても筋力はつかない。

筋力を上げようとするなら経験点3000点払って1点上げるか、何らかの魔法を使うしかないのが実情。SW2.0ならともかく。

しかし技術の習得には貪欲。決して弱音は吐きません。その辺イリーナにも似ていますが、残念ながら彼女ほど素質に恵まれてはいない。


ハインツは武器恐怖症でした。過去に戦闘で不覚を取って大怪我をした事があり、それ以来どんな武器も怖くて仕方がないのです。

この分では常に攻撃・回避に−4修正ぐらい入っていそうです。それどころか毎ラウンド精神抵抗をしてそうな程です。

しかし実戦経験もそれなりで、戦士としての実力も本来十分なものです。そのお陰で追い詰められると戦士の本能でかつての力を発揮する。


サリィはシーフ技能を封印している。本来4レベルもあるシーフ技能を使えばノリス級の実力を発揮できるのです。

でもジゼルとの出会いが彼女を変えた。自分の弱い心と戦う、その為に1レベルしかないファイター技能で戦う頑固な性格なのです。

元々訓練されているお陰かあっという間にジゼルを追い越し、ハインツやガルガドとも渡り合う程度に立ち回れるようになりました。

また普段感情を見せない彼女がジゼルの前では屈託なく笑う。彼女はジゼルと仲が良い。だからこそある事情を抱えていたりもします。


それぞれ問題はある。でも彼らは一生懸命でした。そんな彼らを鍛える事でガルガド自身も情熱を取り戻していきます

自分の持てる全てを注ぎ込み、教えられる事は精一杯教える。それはイリーナ達と初めて冒険に出た頃と同じだったのです。

正直人生経験は豊富でも、実力的にはどんぐりの背比べでしたがね。それは当時も今も同じ。それでもガルガドは楽しそうでした

それに応えるように3人も本当に熱心に稽古を積みました。その熱意はイリーナにも稽古をしなければという思いを掻き立てさせる程でした。


★5

ところが試合3日前になってトラブルが発生します。稽古中にジゼルがハインツの攻撃を受け損なって倒れました。

怪我はそれほどでもなかったけど、やはり彼女には膂力が足りない。今のまま試合に出れば取り返しのつかない事にもなりかねない。

そこで猛烈に棄権を促したのがサリィでした。そしてジゼルがあくまでも試合に参加すると主張すると、彼女が出場を辞退してしまったのです。


サリィ「あたしやハインツに昔のことを忘れさせようとしてやっているなら、もう充分!

彼らの出会いは半年前、とある盗賊団の討伐の場でした。その時サリィはまだ盗賊で、友人の仇討ちで盗賊の残党に戦いを挑んだのです。

それを見かねて助けに入ったのがハインツでしたが、彼自身も武器恐怖症の原因となった怪我を負い、絶体絶命の危機に瀕したのです。

そこで2人を救ったのがジゼルでした。武器を使えなかった彼女は大怪我を追いながらも神聖魔法で賊を倒したのです。


以来ハインツやサリィにとってジゼルは命の恩人でした。しかし2人はそれぞれ問題を抱えるようになってしまいます。

そこでジゼルは彼らに自信を付けさせる為にこの試合に参加する事にしたのです。慣れない武器を使って、全身に打ち身を作ってまで。

サリィはそんな彼女に耐えられなくなったんです。自分の為に友達に怪我をさせる訳にはいかない、そんな友情からの辞退です。


そしてもう1つ理由がある。

ジゼル「今度の剣術大会で負ければ……自分の力に見切りをつけることができるんじゃないかと思っていたんです」

つまり勝ち目のない戦いに出て、自分で自分に神官失格の烙印を押して神殿を去ろうとしていたんです。

サリィはそういう思惑を見抜いていた。でもそれをずっと言い出せず、腹の中に溜めていて、ついにそれを爆発させた。


でもそれは既に解決しているのです。

ジゼル「いまは試合に出るからには勝ちたいと思っています。勝って、侍祭に試合までの成果をお見せしたいと思っています」

ガルガド「わしは、お前さんの覚悟を甘く見ておった。剣の技量に優れていることのみが、戦神の神官の条件ではない。
     生きることは不断の戦いだ。そのことを胸に刻んで、己の弱さに屈しないことこそが戦神の神官に求められること」

ジゼルはとっくに覚悟を決めていた。でもその覚悟は負ける覚悟じゃない、何があっても諦めない覚悟です。

恐らくは強くあろうとしていたのは父親の影響。でも必ずしも強さは力ではない。むしろ強い心には力が宿るのかもしれない。


それから稽古場を去ったサリィにガルガドはジゼルの覚悟を伝えました。そして最後まで望みを捨てないよう訴えたのです。

ガルガド「過去のことは過去のこと。神官とは、心の持ちかたこそ問題なのじゃ。困難には、持てる力のすべて使ってあたればいい

最後まで力になりたい、それが今の彼の本音です。それを望めばまた気苦労は絶えないのに。やはり彼は生粋の苦労性なのかもしれない。


★6

いよいよ試合当日です。本戦である個人のトーナメントは朝一番から始まり、大勢の観客や神殿のお歴々がそれを観戦しました。

そして午後に入れば肝心の特別試合です。特別試合は3人1組のチーム戦で、先に2勝した方が勝ちというジャ○プ風のルールになります。

ヘッポコからはイリーナ、ガルガド、ノリスが出場。しかし"悪魔殺し"ヘッポコの試合の前に、挑戦者決定の為の試合が行われます。


ジゼル達はこれに参加して勝たないとガルガドとは戦えないのです。それどころかサリィが来てくれないと棄権になってしまう。

でもサリィは来ました、以前使っていた盗賊の装備を整えて。持てる力の全てで当たれ、その教えを受けてシーフ技能を解禁したのです!

すると試合はジゼル組のストレート勝ちでした。恐怖心を克服したハインツと、能力をフルに発揮したサリィは普通に強かった。

3人目のジゼルが試合に出る事はなかったけど、その実力は本物。イリーナはともかく、あのノリスまでが気を引き締めてしまう程でした。


第一試合はノリスVSサリィです。4レベル盗賊同士の試合はそれまでの戦士の試合とは異なる趣で、観客も困惑気味でした。

それは変幻自在の刃と身軽な身体による、技と技の応酬。技量に差もなく、まるで騙し合いのような目まぐるしい試合展開でした。

この試合には櫓の上に審判役の神官が3人いて、旗を揚げての多数決で勝敗を決します。その結果3:0でノリスの勝利に終わりました。


最終的に勝敗を決したのは戦法に対する姿勢。一度サリィはノリスに勝つ機会がありながら、躊躇った事でしてやられたのです。

ノリスは砂を投げつけ(アリらしい)、彼女に馬乗りになって首筋に短剣を押し当てたのです。やはりブランクが大きかったようですね。

辛くも勝利を収めたノリスにはガルガドもちょっと優しかった。実際今回は本当によく頑張った。元々ノリスは戦闘には強い盗賊ですしね。


ここでサリィは盗賊の技で戦う事にマイリーに許しを乞うように見えましたが、シーフ/プリースト(マイリー)にルール的には制限はない

例えばディバイン系を使うとシーフ技能で打撃力・防御力30という物凄い戦闘力になる。でも実行するかはロールプレイの問題です。

そもそもシーフ技能やソーサラー技能を持つマイリー神官自体珍しいし、そういう戦い方に本人の中で問題を感じたりするかもしれませんね。


第二試合はイリーナVSハインツ。パワーファイター同士の試合になりますが、問題はイリーナは並のパワーファイターではないという事。

イリーナの使う武器は愛用のグレソー(24)ではなく、二回り(22?)ほど小さい。それでも相当な威圧感を滲み出していました。

その圧倒的な迫力にハインツも恐怖症をぶり返す。まぁ恐怖症のない戦士だってこんな規格外と相対したらビビルかもしれませんがね。


このままでは負ける。そこでガルガドは思わずアドバイスを出してしまったのです。

ガルガド「イリーナは防御を忘れて剣を振り回す癖がある。お前の腕があれば、隙を見つけられるはずだ!」

これでガルガドも審判に釘を刺されてしまいますが、仕切り直してからは接戦。特別試合に相応しいいい試合でした。

しかし基本単純なイリーナはハインツが意図的に作った隙に突貫し、アッサリかわされて肩口に一撃を入れられて勝負あり。

3:0でハインツの勝利でした。負けてしまったけど、イリーナにとってもいい勉強になった。ハインツも恐怖症を克服できたようだし。


こうして一勝一敗で上手い具合に試合は第三試合にもつれこみました。最後の組み合わせはガルガドVSジゼルです。

勝負は勿論手加減抜きです。すると当然ガルガドの方が優勢になります。ジゼルも体裁は整ってるけど、やはりまだ早かった。

そんな彼女にガルガドはアドバイスを贈りながら戦います。踏み込みが甘い、盾に頼るな、剣の角度に注意しろ。適切に隙を指摘します。

初めての試合は確実に彼女の体力を奪います。やはり持って生まれた体質は仕方がない。でも経験で補えばもしかしたら強くなれるかも……。


ジゼルは本当によく頑張りました。そして頑張った自分に満足そうに笑って両膝を突こうとしました。

ガルガド「まだだジゼル!戦神の神官なら、最後の瞬間まで敵に立ち向かえ!

それがガルガドのしてやれる最後の教えでした。確かに彼女は頑張った。でもそれで満足してはそれが限界になる


ジゼル「……マイリーよ、私に足を進める力を……剣を一振りする力を……どうか……」

その時彼女は自分の限界を一瞬超えました。それはガルガドについに攻撃を当て、今度こそ全てを出し尽くして剣を落としたのです。

そこで試合時間が終了し、結果は2:1でガルガドの勝利。彼女は負けてしまいました。でも彼女の勝利を認める人が1人いた。

観客の送った拍手もまた彼女の健闘を讃えるものだった筈です。試合には負けても、彼女は自分の限界との勝負に勝ったのです。


こうして終わってみるとガルガドはかつての憂鬱さなんて消し飛んでいました。まだまだ学ぶべき事があったのです。

ガルガドがジゼル達を導いたように、逆に彼らにも導かれた。未熟かに見えた彼らに多くの事を教えられたのですから。

今は無性に冒険がしたい。元の調子を取り戻したガルガドはイリーナ達を急き立て、更なる冒険に出るべく会場を後にしました。

後に彼は同じように無気力に陥っていた刀鍛冶ブルスのやる気を取り戻すのですが、それも彼の性質を理解した司祭の心遣いだった筈。


「幸せにいたる道」作:秋田みやび

この話はハーフエルフの精霊使いマウナが主役です。マウナといえばよく貧乏性ティソダー事件をネタに笑われてましたね。

前者はともかく、後者は彼女が"ティンダー"のコモンルーンに憧れる事で起きた事件です。では何故憧れるのか、その答えがこの話です。


時系列は第0話、あるいは長編「輝け!へっぽこ冒険譚」の前になります。マウナが故郷の村からファンまで出てくる際のお話。

マウナはエルフの父親と人間の母親の間に生まれました。しかし父親は顔すら知らず、村ではお爺さんだけが家族でした(母親は謎)。

村では私塾に通ったり(セージ技能の根拠)、祖父の跡を継いで狩人として働いたり(レンジャー技能の根拠)していたようです。


しかし彼女はハーフエルフ。村では異端視される事もあって、それが嫌で森の中で1人過ごす事も多かった孤独な娘でした。

大勢の中で孤独を感じるのと、1人で孤独を感じるの。どちらがより虚しいか分からないけど、少なくともマウナは後者の方が楽でした。


マウナを見てるとあまり実感はないけど、ハーフエルフというのは世界全体で見ると迫害を受ける事の多い種族です。

何しろ人でもエルフでもないのですから。どちらの社会にも受け入れられず、酷いと石を投げられたり村を追い出される事だってある。

ましてこういう田舎の村では偏見も強いでしょう。ハーフエルフは種族の垣根を越えて誕生する、言わばその存在そのものがドラマになる。

だから私は能力的に優秀というだけでハーフエルフを扱うのを好みません。同じ理由で1パーティーに何人もハーフがいるのにも抵抗がある。

冒険者なんて職業も食み出し者の集まりという一面もある。そういう世界だから比較的頻繁にハーフエルフと接するだけだと思いますよ。


そんな彼女にも優しく接してくれる人がいた。それがハンナ小母さん、マウナのお母さんの幼馴染という人でした。

ハンナ小母さんは日頃から色々とマウナの面倒を見てくれて、お爺さんが亡くなった時にも葬儀を行ってくれました。

マンガ版を見ると小母さん以外にも何人か優しくしてくれた人はいたようです。でもマウナは自分の方から壁を作っていたとか。


マウナ「見ててね、小母ちゃん。おじいちゃん、あたし、絶対に幸せになってみせるから!……それなりに」←微妙に弱気だ

こうして幸せになりたい一心でマウナは故郷を後にし、ファンの街を目指して旅に出たのです。


旅程は3日、森の中のロクに整備されてもいない街道を通ります。しかし若い娘の1人旅は危険です、ましてこんな街道では。

そこで出発前に小母さんはマウナにターバンを贈ってくれました。これで耳や髪を隠すようにという餞別でした。

ターバンは亡くなったお爺さんの服を直したものなので、マウナにとっては掛け替えのない形見のようなものでもありました。


こうしてマウナは旅を続けました。レンジャー技能があるお陰で特に道に迷う事もなければ、危険な事に遭う事もない。

狩人としての経験を生かして弓を使えるので、野生動物を狩れば食料にも困りません。この辺りにいるのは鹿や山ねずみだそうです。

ただし1人旅なので鹿を狩ると食べ切れずに腐らせてしまう。かといってネズミというのは、どちらかと言えばジプシーの食習慣ですね(苦笑)


そして夜営を行おうとしたある夜、マウナはゼクス・ウェストイックという冒険者と遭遇したのでした。


ゼクス・ウェストイック 41歳

シャーマン/セージ3、レンジャー1。その名前から察するようにノリスの父親です。硬そうな黒髪と額当てが息子とお揃い。

息子と違ってシーフ技能は持たず、武器も持たない。純粋な精霊使いのようです。データでは「ゼニス」と誤植されている。


彼は"インビジビリティ"を使って怪我をした状態で隠れていました。仕事中であり、仲間が届け物を終えるまで助けを待っていたのです。

マウナ「応急手当すれば、恩を買ってくれる?

ゼクス「値段次第だな、支払いは月賦でいいか?(ウィンク)」

息子と違ってウィットに富んだ冗談の言える人ですね。マウナは彼に食料を分けて怪我を治療し、その代わり宿直の交代で雇ったのです。


しかしまだ辺りには夜盗がいる。マウナでもレンジャー技能で足跡を発見できている。本当ならこの場を去った方がいいんですけどね。

ゼクスなら引き続くインビジで姿を消せる。マウナも怪我を治療した後まで傍に付き添う必要はない。でも……寂しかったのかな

精霊使いであるゼクスは精霊と会話できる。でもやはり1人で残されるのは不安なもの。マウナだってできれば誰かと一緒にいたかったと思う。


夜営を始めるとゼクスは"ティンダー"のコモンルーンで焚き火を起こし、2人でその火を囲みました。

ゼクス「赤々と踊り、照らせよ

マウナ「わー、すごいすごい、もう一回やって!」

ゼクス「勘弁してくれ、繰り返すと疲れるんだぞ」

マウナ「御代は払うから。えーと……きのこ一切れ余分に」←この頃からびんぼーしょー

ゼクス「安すぎるぞ、それ!」

1回あたり3点消費だから、精神力14の彼には決して軽い負担じゃない。既にインビジで4点使ってるから残り7点になってるし。


ゼクス「……俺が女なら、簡単に治せるんだがなあ」

マウナ「おじさん、精霊使い?……うわー、何だかイメージ違う」

どうやらマウナには精霊使い=エルフ=繊細という先入観があったようです。確かにエルフは精霊使いの素質があるけどね。

「死せる神の島」のカインズなんてマッチョマンなのに5レベル精霊使いだし。少なくとも精霊使いの素質は体格とは全く関係ない


ゼクス「うちの家は、ずいぶんと昔から呪い師をやっていてな。そのせいか、精霊使いの力を会得しやすいんだよ」

マウナ「へえ……やっぱりそういうのって、血が関係するの?」

ゼクス「一概にそうとは言えないが……やっぱり大きいのは環境かな」

確かに環境は影響しそうですね。ただしドワーフやグラランが精霊使いになれないように、先天的に欠落する場合もあるでしょう。

ウォートによれば魔術の素養も5人に1人しかないし……。要は自然と心を通わせる事が必要で、血筋も環境も無関係ではないと思いますよ。


そして話はマウナの生い立ちに向かいます。

ゼクス「……苦労してきたようだな」

マウナ「いいのよ。連中が軒並みお肌の曲がり角を過ぎた頃、あたしはぴっちぴちの青春盛りで姿をあらわし、せせら笑ってやるんだから

ついでにちょっとお金持ちになれたらいいな、とも思ってる。だから都会に出て洗練されたいという思いもあるんですね。


ただし街に出ても頼るあてはない。レンジャー技能も街中では活かし難いし。

マウナ「好きな仕事は、定収入のできる仕事でがっぽり稼いでから考えるわ

ゼクス「……しっかりしてやがるなあ、うちの息子に爪の垢でもせんじてやりたいほどだ」

マウナ「そういえば、子供いるの?」

ゼクス「一応な、何を考えているんだか、ふらふらして頼りないアホだけどな……まあ、帰ったら顔の一つも見にいくよ」

親の目から見てもやっぱりアホに見えるか。でもちゃんと会いに行こうと思ってるんだから、可愛くない訳じゃないんでしょうね。


この仕事が終わったらゼクスはしばらく実家に戻るつもりです。メリーヌさんに任せっ放しなのも心苦しいようですし。

そういえばノリスに「一旗上げて来い」って言ったのは親父なのかな。メリーヌさんの話し振りからするに母親も一枚噛んでそうですが。


そうして話す内にゼクスは疲れから眠ってしまい、マウナは見張りとして1人焚き火を眺めて過ごしました。

マウナは火を見るのが好きでした。誰かと一緒でいるようで、寂しさを紛らわせてくれるから。生活全般にも火は役に立つし。

"ティンダー"のコモンルーンがあれば、いつでもその火を起こせる……。この時の彼女は既に"ティンダー"に強い興味を抱いていました。


フォーセリアの火は破壊と再生の象徴。そういう壮大なテーマを抜きにしても、火は人の生活に欠かせないものです。

ギリシア神話ではプロメテウスが人に火を授けた事で文化が発展したように、火がなければあらゆる生活が滞ってしまうでしょう。

また昔の人は夜になると火を見て過ごしたと聞きます。テレビもパソコンもない時代にも、ビジュアルとして動くものが必要だったのだと。

マウナにとっての火とは幸せへ導いてくれる灯台のようなものだったのかもしれない。だから"ティンダー"のコモンルーンに惹かれた。


では彼女にとっての幸せとは何か。正直若さを見せ付けるのも、お金持ちになるのも、本当はそんなに興味はないのかもしれない。

お金持ちというのは一番分かりやすい幸せの形というだけ。そして分かりやすい幸せな自分を見せ付けて、見返したかっただけなのかも。

正直村を出たのも寂しかったから。ハンナ小母さんにも家族がいる。自分より優先される事で更なる孤独を味わいたくない、だから逃げた


そんな彼女もファンに行った後には仲間ができました。家族ができました。好きな人もできて、彼女は居場所を手に入れた

幸せは結局のところ自分の心の中にあるもの。少なくともその居場所にいる限り、マウナは幸せな自分を実感できると思います。

でもそんな彼女から居場所を奪ったのも火でした。そういう意味でやはり火は破壊と再生の象徴、奪いもするし与えもする……。


夜半になるとゼクスが居眠りしていたマウナを起こします。どうやら例の夜盗が近くに来ているようでした。

実はゼクスの仲間の届け物というのは娘達でした。夜盗に攫われた娘を救出するのが彼への依頼だったのです。

幸い彼女達はゼクスの仲間の手で家族のもとへ届けられているでしょう。でもここでマウナが捕まると売春宿に売り飛ばされかねない。


最早ここには留まれません。マウナはすぐに逃げる事にし、ゼクスが精霊魔法で足止めしてくれる事になりました。

マウナ「ありがとう……一ガメルの得にもならないのに」

ゼクス「お互い様さ。飯を食わせてもらったからな」

マウナ「息子さんによろしくね

ゼクス「放蕩息子だから、会えるかどうかわからんけどな」

実際この直後にそのアホな息子とパーティーを組む事になるのだから、人の縁とは本当に奇妙なものです。


ゼクスは"コンフュージョン"で追いすがる夜盗をボヤッとさせて、マウナを逃がそうと努力しました。

3人の夜盗の内2人はそれでアッパラパーになりましたが、1人抵抗。続いて推定"ホールド"をかけるも逃げられてしまいます


ゼクスが既に回復していたとしたら、"コンフュージョン"3倍がけで6点、"ホールド"で4点を消費した事になります。

精神力は14で残り4点。そしてインビジに4点消費するから、かけたとしても気絶して精神集中が解けてしまいますね。

あるいは"ホールド"ではなくて"スネア"だったのかもしれないし、魔晶石を持っていたのかもしれない。無事でいてくれればいいけど……。


問題はマウナです。追いかけてきた夜盗に捕まってしまったのです。このままでは折角の寿命を陰惨に過ごす事になってしまう。

声も身体も震え、これでお終いかと絶望しかけました。その時松明の炎が落ちたターバンに引火し、燃え出したのです。

マウナ「あ、あ……やだ、ダメ、燃えちゃう……」

それは小母さんの餞別で、お爺さんの形見。自分を支えてくれていた大切な人達との繋がりが燃えている

このマウナの動揺の仕方は小鳩亭を燃やされた時と通じるものがある。もしかしたらあの時もこれを思い出していたのかもしれない。


この衝撃でマウナは恐怖を上回る怒りを覚えました。

マウナ「よくもよくも……!こいつを、やっつけてよぉっ!

その時ターバンを燃やした炎から矢が飛び出し、夜盗の男を焼いたのです。それは間違いなく精霊魔法"ファイア・ボルト"でした。

炎は破壊と再生の象徴。ターバンを燃やした炎が一転してマウナを救った。つまりマウナの大切なものは彼女を救う力となって蘇ったのです。


恐らくは父親の血でしょう。マウナはずっとシャーマン0、暫定精霊使いだったのです。火に親しみを覚えたのも精霊を感じたから。

今やマウナは森の中の様々な精霊を感じていました。そして精霊使いの標準能力である赤外線視を駆使し、夜盗の位置も把握してた。

森の中にあって人の体温は判別しやすいもの。マウナはその熱源へ矢を撃ち込み、決して後ろを振り返らずにひたすら走りました。


こうしてマウナは浮浪者同然の状況でファンの街へと辿り着きました。所持金といえば銅貨が数枚のみです。

基本大陸ではガメル銀貨を使用し、銀貨1枚=1ガメルでそれ以下の単位は存在しない。でも特定の地域で使えるローカル通貨もあるらしい。


少ない所持金を握ってマウナが入ったのは「青い小鳩亭」でした。今思えばそれは正にマウナにとっての幸せの青い鳥でした。

シャナ「……おやまあ!なんて格好だろうねえ、女の子が。ともかく、おかえり。無事で何よりだよ」←逃げ帰った冒険者と勘違い

ガーディ「おいおい、初めての客に名に言ってやがんだい、シャナ」

マウナ「お金、ちょっとしかないけど、頑張って、稼ぎますから」

その時店にはファリスの神官戦士イリーナと、魔術師ヒースもいました。こうして彼らと会えた事が、この店で手に入れた最初の幸せ


「グレートソードは筋肉娘の夢を見るか」作:北沢慶

★プロローグ

今回の主役はファリスの神官戦士イリーナです。言わずと知れたパーティーのメインウェポン、筋力24を誇る"至高神の猛女"です。

彼女はその筋力故に初期はなかなか装備を整えられず、もどかしさを感じていました。そんな彼女が初めて自分に合う装備を手に入れた時の話。


時系列でいえば第6話のB面に当たります。その内容は歴代フォーセリア作品の中でも一際異質、武器の擬人化の物語なのです。

第6話の粗筋はリプレイの方を読んで貰うとして、この話でイリーナはグレートソード(24)ラージシールドを入手しました。

この短編では、実はこの2つの装備が意思を持ち、周りの人間を念波で操っていた……という設定なのです。もう変化球も変化球ですね。

しかもナックルボールとかそんな甘い変化球ではありません。最早魔球、「侍ジャイアンツ」の大回転魔球並みの魔球です(そこまで!)。


ファンタジー世界で更にファンタジーを重ねている訳ですが、どうしても受け入れられない人はイリーナの妄想だと思ってください。

グレソーを愛するあまりにそういう妄想を抱いていたという事で。それはそれでまた別の問題が発生しますがね、明らかに普通じゃないし。

例えるなら「奇面組」の唯ちゃん並みの妄想力ですね。あるいは「夢喰見聞」の戒吏さん並み。ていうか今回漫画ネタ多いよ(笑)


★1〜2

今回登場するグレソーは結構屈折した性格の持ち主です。何しろ人間の限界の筋力がなければ扱えない、ある意味規格外の存在ですから。

彼は戯れに作られ、マトモな持ち主に出会えず、ずっと暗い箱の中で過ごしてきました。その間彼は世間への憎しみを滾らせていたのです。

触れるものは全て破壊し、血の雨を降らせ、人間は皆殺しにしてやろうと。それが自分を不当に扱った事に対する復讐なのだと。


筋力24とは確率的には1/1296でしか誕生しない。しかもそれは平均値14のPCの中での話、本当に稀有な存在なのです。

PCである時点で平均値10の一般人とは一線を画す存在です。その中でも更に一握りなのだから、彼が持ち主に出会えなかったのも無理もない。

ロードスのベルドとか、デュダのボリスとか、ナイトブレイカーズのマリオン(こいつは筋力25!)といった限られた人間しかいない。

そんなむさ苦しい男達の中にあって、イリーナは貴重。可愛くて素直で武器マニア。自分に合うグレソーをずっと求めていたのです。


こうしてグレソーはイリーナという持ち手に出会えました。初めて自分を扱える人間に出会ったグレソーは、少しずつ変わっていくのです。

これも道具の本能でしょうか。どんなに捻くれても自分を使ってくれる人、大切にしてくれる人をずっと求めていたように思えてならない。

誰だって自分で望んで世に生を受ける訳じゃない。しかし生まれてきたからには、精一杯生きている実感を味わいたいものなのでしょう。


一行の状況は川に横転した馬車を漁り、目的の黒い箱が持ち去られていた事を確認した辺りです。

ノリス「黒い箱は、結局行方不明かぁ。でかくて邪魔な武器はいっぱいあるのにねぇ」

グレソー"俺のことを邪魔呼ばわりしたきさまは、最優先で血祭りにあげてくれる"

こんな感じでグレソーはあの時のヘッポコの言動に彼なりのツッコミを入れていく。この時はまだ相当血に飢えていました。


イリーナ「はぁ……でもやっぱり、グレートソードってしっくり手に馴染むなぁ」

グレソー"こんな小娘にしっくりこられるのも複雑な気分だが、ムサ苦しい大男よりは華やかでいいかもしれん"

あ、やっぱりそう思うんだ。確かにムサ苦しい男にハァハァ言われながら握られるよりはいいか。可愛いは正義

でもグレソーは血に飢えています。単純そうなイリーナを操って、ファリスの神官を殺人鬼に仕立ててやろうと虎視眈々。


その念波はイリーナの破壊衝動を刺激し、攻撃させるのです。例えば馬車を動かそうにも馬がない状況。

ノリス「馬がいないんじゃねぇ(イリーナをチラリ)」

グレソー"斬れ、イリーナ。あの小生意気な小僧を、真っ二つにしてしまえ"

イリーナ「ノリス、いま『あ、ここに馬のような女が』とか思ったでしょう!?(グレソーを突きつける)」

……本当に操れているのか。いや確かに見ようによっては念波で操ったようにも見えるけど、偶然アクションしただけにも見える。

グレソー的にはコンプレックスを突けば容易いとか思っているんでしょうが、以前からイリーナはそういうツッコミをしてきたし。

まぁそういうのも含めてこの短編の面白さなんですけどね。事実がどうであろうと、そう妄想する事で面白ければそれでいいんじゃないですか。


ちなみにヒースに対する見解はこんな感じ。

グレソー"兄妹なら、妹が殺人鬼になっても、かばう可能性が高いだろう"

いや、それはない。多分逃げる。一応"スリープ・クラウド"ぐらいはするだろうけど、また1ゾロ振って失敗する。

一応ヒースもイザという時は頼りになるし、イリーナを庇おうとはするでしょうよ。でも結局止める力がないので逃げる(笑)


イリーナ「今すぐにでも試し斬り……じゃなかった、突入して成敗したいところだけど……」

グレソー"ふふふ。いいぞ。俺を手にしている以上、俺の邪悪な意思の影響からは、逃れられはしないのだ"

そうかな、元からのような気もしますが。結局今は全員疲労困憊なので一晩置いてからゴブリン御殿へ突入する事になります。


その時馬車の中からラージシールドが声をかけてきました。

シールド"お願い、ぼくを連れていって!"

グレソー"黙れ!おまえのようなでかくて邪魔なものはいらん!"

イリーナ「大盾も借りていこうっと」

シールド"ありがとーっ!"

なにしろグレソーは2H、両手持ちの武器です。盾と一緒には使えないし、盾を使うならグレソーも使えない。

それでも結局は何かの役に立つだろうからと持って行く事になったのです。これもシールドの念波の影響なのかな?


グレソー"くそっ、この愚民どもが。いずれ全員、俺がバラバラの肉塊に変えてやるから、覚えておけよっ"

こうして2つの装備はイリーナに連れられていったのです。そしてグレソーがこんな事を言ってられるのも今の内ですよ。


★2

ゴブリン御殿への突入を控え、一行は夜営を行っていました。

シールド"ねえねえ"

グレソー"黙れ、青二才"

シールド"そんなこと言わないでよ……やっと出会えた仲間じゃないか"

この2人?の関係はこんな感じ。ヤンキーと学級委員ってところですか。切り裂く剣と、守る盾。用途に合わせて性格が出てる……のかな?


シールド"倉庫で眠っていた同士じゃない。一緒に新しい持ち主のために、がんばろうよ"

グレソー"ハッ、おめでたい奴だな。俺はこの小娘の精神を支配し、立派な殺人鬼に仕立てあげることにしか興味はねぇんだよ"

シールド"や、やめようよ、そんなこと!"

グレソー"バーカ。俺はもう決めたんだよ。人間どもに、復讐するってな"

シールド"ぼくたちは武具は人の役に立つために生み出されたんだから、復讐なんて考えちゃだめだよっ"

グレソー"うるせぇガキ!俺はそんな犬みたいな生き方はまっぴらごめんなんだよ!"

どうやらシールドの方も倉庫に眠ってたようですね。彼はグレソーと違って必要筋力13のノーマルな装備なんですが。

それでお蔵入りになるというのは何か曰くでもあったんじゃないか。持ってると不幸に見舞われるとか。……いやそれだと出荷はされないか。


しかしこのグレソーの鋼のような意思も、イリーナの愛撫(手入れ)の前には呆気なく崩れ去りそうになるのです。

イリーナ「さあ、お手入れしようねー。せっかくこんなにかっこいいんだから。きれいにしとかないとね」

グレソー"う、うおおっ、気持ちいいっ"

イリーナ「はぁーっ。きゅっきゅっ」

グレソー"あ、あふう。だ、だめだ。とてもこの快感に耐えられん。お、おのれ、小娘のくせになんというテクニシャンな……"

イリーナ「痒いところはありますか、お客さん?」

グレソー"あ、もう少し根元のあたりを"

イリーナ「はーい。ここですねー」

グレソー"そう、そこ、そこっ。おうっ"

生まれて初めての愛撫に彼はメロメロ(死語)でした。やはり大切にして貰える幸福感の前には、復讐心も融けてしまうんでしょうか。


そしてイリーナがガルガドと見張りを交代する時に至っては。

イリーナ「おやすみ、わたしのグレートソード。ちゅっ

グレソー"おふうっ"

シールド"十分イヌっぽいじゃない"

グレソー"うるさい黙れっ"

シールド"君も道具としての本能には逆らえないってことだよ"

グレソー"ええいっ、うるさいと言って……おおうっ"←抱き締められた

……もう駄目だ、ほとんど陥落した。あとイリーナの胸は意外と弾力があるそうですが、それは胸筋が発達してるだけでは(笑)


★3〜5

そして翌朝、いよいよゴブリン御殿へ突入です。

イリーナ「ふっふっふ。あー、腕と一緒にパキパキ肩が鳴っちゃうなー」

ヒース「……イリーナ、仮にどちらかに分類するかと問われれば辛うじて女の端くれに引っ掛からなくもないかもしれない身だろう」

イリーナ(グレソーを振り上げる)

グレソー"ま、待て待て!そいつにはまだ使い道があるんだ!いかに邪念の影響をうけているとはいえ、お前の兄だろう!少し冷静になれっ"

まさかグレソーに止められるとは。彼の感覚ではイリーナは念波で攻撃的になってるそうですが……やっぱり前からだよ。


その後の探索過程はリプレイの通り。油を頭からかぶってすっ転び、思わずグレソーにも呆れられてしまうのは序の口です。

かんぬきに不用意に触って接着剤がくっつき、壁にぶち当てようとして更にくっつき、強引に引っぺがして手に怪我をしたり。

ていうかグレソーの念波の影響なら、突貫して油を被ったのも、接着剤が壁にくっついたのも、全部彼の責任なのでは?

こうして雪達磨式の不幸に見舞われたイリーナは再度グレソーを握り、その時の血の味にグレソーは罪悪感を覚えたといいます。


そしていよいよ運命の分かれ道となるブロブ戦です。鉄を腐食させるブロブをモロに浴びてしまい、彼の寿命はあと24時間となりました。

そうとは知らないグレソーはイリーナに念波で指令を出して、近くの小川で刀身に付着したドロドロを洗い流させる事にしました。

イリーナ「すぐにきれいにしてあげるからね(にっこり)」

グレソー"あの刀身を磨く時の感触。あの指使いときたら、まさに剣殺し……。いやいやっ!俺が魅了されてどうするっ"

しかしこの時には既に彼はイリーナにすっかりやられていたんでしょうね。明日死ぬとも知らないで。


ここでカラー挿絵にある水浴びシーンに入ります。見る限りつるぺったんだけど、グレソーもシールドも思わず見惚れていました。

決して見た目はムキムキではない。だけどそれは良質な筋肉だという証拠。力を入れれば凄い事になるようです。

それでもリアリティ優先なら身長2m・体重130sはあるべきでしょうが、フォーセリアの人間と現実の人間では体質が違うという事で。


そしてイリーナはグレソーを洗いながら、仲間にも決して明かさない心の内を明かしたのです。

イリーナ「……わたしに剣を教えてくれた兄さん……無茶やりすぎて勘当になったんだけど、剣と大盾を使わせるとすっごく強くてね。
     それがすっごくかっこよくて、忘れられなくて、ずっと練習していたんだ。そうしたら……こんな体になっちゃってたんだけど……」

リプレイ本編には登場しないけど、イリーナにはクリストファーという実の兄がいます。過去に短編長編で何度か出演してたりします。


イリーナ「本当は剣と大盾、両方使いたいけれど……片手剣じゃ軽すぎて使いにくいんだ。もうちょっと鍛えたら、キミも片手で使えるかなぁ」

つまりイリーナにとって剣・盾・鎧が揃ってはじめて至高神の聖戦士としての理想の姿になる。兄クリスもその理想という事です。

ルール上2H武器はどんなに筋力があっても片手では使えないけど、GM判断で可能にしてもいいそうです。昔Q&Aで聞いたから確かです。

1Hで24というとクラブとかで可能ですが、それは風林火山で実現した時本人は複雑な様子でした。何しろ棍棒ですからね、やっぱり剣がいいか。


イリーナ「兄さんがいてくれたな……父さんが突然倒れて、母さんが看病疲れで病気がちで……わたしひとりじゃ、ちょっぴり辛いよ……」

普段やたら元気なイリーナにもそういう不安があったんですね。父キリング司祭はストーン・スキンという病気にかかってる事になってます。

大変な難病で、それを救う為にもイリーナは冒険者になったのです。"至高神の猛女"の女の子としての一面に、グレソーも胸が熱くなりました。


★6〜7

その後ヘッポコはアロースリットの部屋を越え、骨執事に面倒を見て貰い、いよいよボスであるゴブリン・シャーマンとの戦いです。

グレソー"汚れた布で俺まで拭きやがったときには、本気でぶち壊してやろうかと思ったが……イリーナが喜んでいるから許してやったのだ"

既にイリーナ至上主義。すっかりイリーナに参ってますよ。


そして戦いの中、あの強烈な一撃を繰り出した時には彼は歓喜に震えました。最高の筋力と最高のグレソーが生み出した奇跡の一撃

それはゴブを真っ二つにし、床板を粉砕する程でした。数値的には44点、正に彼が武器として生まれて最も輝いた瞬間でもあった。


戦いの後、イリーナは改めてグレソーを磨きました。

イリーナ「キミと一緒に戦ってると、すっごく心強かったんだ。なんだか、ひとりじゃないみたいな気がしてさ。
     すごく、好きだよ。これからも、ずうっと一緒に頑張ろうね。だから、わたしをひとりにしないでね……」

グレソー"う……ん、あ……ま、まあ、いいだろう"

シールド"素直じゃないね"

グレソー"蹴飛ばせ(念波を飛ばす)"

シールド"わぁん、ひどいよっ"

グレソー"ま、せいぜいイリーナのために盾になれ、それがお前の仕事だ"

シールド"もちろんだよ"

この時グレソーはもう最初の頃のグレソーじゃない。暗に盾の存在も認めている。全てはイリーナの為に


そして翌日、ファンへと帰還する一行は、その途上で装備品が腐食している事に気付いたのです。

ノリス「ねえねえ、イリーナ。グレートソードに、錆が浮いてるよ?

イリーナ「もう、ノリスったらそんな嘘言って」←ノリスの言う事は無視される傾向にある

ガルガド「いや、イリーナ……本当に錆が浮いておるぞ

イリーナ「え!?」←ガルガドの言う事は説得力がある

そしてヒースが遅ればせながらブロブの正体を思い出し、騒然となる。


イリーナ「で、でも、グレートソードはしっかり磨いたよ!」

基本的にブロブの体液を浴びると洗っても助からない。SW2.0ならアルコールで洗い落とせるそうですが、SWではそういう記述はない。

グレソーは骨執事が鎧についた体液を移してしまったせいだと言っていますがね。個人的には洗えば助かるでもいいと思いますけど。


イリーナ「嘘だよ……こんなの……やっと手に入れたのに……やっと出会えたのにっ」

大粒の涙を流すイリーナは何とかしてグレソーを助けようとします。しかしガルガドは木工専門だし、"ユニコーンの角"は無生物には効かない。

イリーナは錯乱気味に"ユニコーンの角"を使おうとして仲間達に止められ、それでも物凄い力で振り解いてファンの街へと走り出しました


イリーナ「いやだもんっ!絶対助けるもんっ!もうヒース兄さんなんて頼らない!街に持っていって、直してもらうんだから!」

そうしてイリーナは泣きながらグレソーを持って走りました。しかしその衝撃で彼の身体は崩れ落ちていき、もう助かりそうにない


当のグレソーも自分の最期を確信していました。

シールド"グレートソード……"

グレソー"バーカ。そんな声出すんじゃねぇよ。いま、俺は気持ちいいんだからな"

この時彼は幸せでした。短い間だったけど本当に必要とする人と巡り会えて、その人と戦い、その人の腕の中で死んでいけるのだから……。


イリーナ「キミなしじゃ、わたしは戦えないんだから……お願い、がんばって……っ」

グレソー"大盾、おまえは俺の分まで、イリーナを守ってやれよ。じゃあな、イリーナ。楽しかったぜ"

イリーナ「あっ!?だ、だめっ!ああっ(落とした)」

グレソー"あばよ"

イリーナ「う、うそ……こんなの、うそだよ……。うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

こうしてグレソーは粉々に砕け、イリーナはいつまでも彼を前に泣き続けたのです。その嘆きようはノリスの死よりも深かった気がする。


★エピローグ

こうしてグレートソードは砕け、ラージシールドはその本性を現しました

シールド"あの邪魔っけなバカでかいだけのウスノロがいたんじゃあ、いつまでたってもぼくの野望は果たせないもんね。
      あはは、やっぱりあのマヌケな魔術師の記憶を、ぼくの思念で一瞬でも混乱させられたのが大きいよな"

あの時ヒースはブロブの《怪物判定》1点足りずに失敗した。まさかそれがこいつの仕業だったとは。今まで猫を被ってたんですね。

ちなみに彼の野望とはイリーナにもう1つラージシールドを持たせ、ダブル・シールドアタックで武器界に一大センセーショナルを起こす事。

いや確かにイリーナの筋力を25にすれば不可能ではないけど、それはどうかな。多分話題にはなるだろうけど、流行にはならないかと(苦笑)


しかしその野望を防ぎ、イリーナを守る1人の漢(と書いて男)がいました。

?"あ〜すげぇすげぇ"

シールド"なんだよ、そのふざけた態度!どこの誰だよ!"

グレソー"ごあいさつだな、高貴なラージシールドくん"

シールド"な!?まさか、あんたは壊れたはずじゃ……!?"

グレソー"残っていた柄を新しい身体に移植し、値段も二割安くなってお買い求めやすく復活したんだよ!(ドン!と床に下ろされる)"

シールド"ひぃっ(衝撃で倒れる)"

そう、既に物語は第8話に突入していたのです。グレソーは新たな相棒プレートメイルと共に二代目グレソーとして蘇ったのです!


しかもその刀身にはイリーナの名前が刻まれているのです。アウザール商会の特典ですか。

グレソー"これこそ、俺とイリーナの愛の証よ!残念だったな、小僧!俺様のイリーナを奪おうなんぞ、五百年早ぇ!"

シールド"ま、負けた……"

こうしてグレソーは新たな身体を手に入れて蘇り、再びイリーナと共に戦う事になったのです。


後にイリーナは高品質な三代目、銀製の四代目と持ち替えていく訳ですが、個人的には最後の最後までイリーナと一緒に戦っていて欲しいな。

きっと意思が宿る前にこのグレソーが乗り移ったんですよ。そしてシールドも"勇気ある者の盾"に乗り移ってたりすると面白い。

更には風林火山(高品質クラブ)やキャノン砲(高品質ロングボウ)、そして(高品質ロック)とかにも意思があったりすると更によし。

彼らは自分を使って貰おうと喧嘩が絶えませんが、強敵の前ではイリーナ親衛隊として団結するのです。ていうか私が一番妄想逞しい(笑)


「ノリスは踊る」作:西奥隆起

★1

今回の主役は盗賊のノリスです。その短慮といい加減な態度でガルガドやヒースに何度も怒られ、ヘッポコの中でも一際ヘッポコな盗賊です。

今回はそんな彼が逆に気を揉み、その裏で陰惨な計画に利用される話です。そんな状況でも基本的な彼のスタンスは変わりませんが。


時系列では「神官戦士の憂鬱」と同じぐらい。リプレイの第9話直後といったあたりです。彼が紛いなりにも"悪魔殺し"と呼ばれた頃です。

その日ノリスは盗賊ギルドに呼び出されます。しかも通されたのは普段使う情報部屋ではなく、尋問部屋と呼ばれる査問室でした。

ここはギルドの掟に従わない者、もしくは疑わしき者に査問をかける部屋であり、普通だったらこの部屋に通されただけで十分恐怖すべきです。


ところがそこはノリス、大物なのかアホなのか動揺した素振りは見せません。

ノリス「お茶はでないの?水でもいいんだけど

……うん、いつものアホだ!(親指ビシッ!)。彼を呼び出したのはギルドの"収金の長"クライブでした。


クライブ ?歳

シーフ5、マーチャント5。オーファン盗賊ギルドの財務管理を統べる"収金の長"。ヒゲ面のオッサンです。

オーファン盗賊ギルドには3人の副頭領がいるそうですが、彼は幹部ではあるけど副頭領ではないという立ち位置らしい。


彼はノリスに明細を差し出し、彼が上納金の未納を犯した事を告げたのです。明細には彼の稼ぎと納金額の差異が細々と記載されてます。

ノリス「でもさ、ボクがどれだけもらってきたかなんて、わからないでしょ?」

クライブ「いや、ドワーフのマイリー神官が全部教えてくれた。かわりに、冒険者向きの優秀な盗賊を紹介しろとしつこかった」

クライブ自身は直接会ってないそうだけど、ピンポイントで思い当たる人物がいます。ノリスには一発で分かったでしょう。

でもそれならノリスを抹殺して優秀な盗賊をゲットできて、一挙両得ですね。どうやらおやっさんはゴールドの件をまだ引きずってるらしい。


ちなみに盗賊ギルドの上納金というのは正確には年会費です。50ガメルor収入の1割なので、大抵の人は後者になるでしょう。

なにしろ前者というのは年収500ガメルという事ですからね。それはどんなニートだ、物乞いだってもっと稼ぐだろうに。

結局50というのは前払い分なんでしょう。流石に500ガメルで1年生活は無理でしょう。それは最早黄金伝説の域に達している(笑)

一応食費だけなら一日十数ガメルで済むので、持ち家があるなら不可能ではないでしょう。でも宿屋暮らしの冒険者はやっぱり無理。


こうしてノリスは未納分の支払いを求められますが、一度に払うには高額過ぎる。そこでクライブは未納分をチャラにする条件を出します。

それは「成り上がり通り」という中流階層街に住む豪商アズナーの屋敷に侵入し、彼が所有する宝刀を奪取するというものでした。

ていうかそういう豪商ならギルドに保護料を払ってるんじゃないかとか、色々疑問はあるでしょうがノリスはこの話に飛びつきます。


しかしそれには1つの条件がありました。ギルドの新米盗賊キティという少女を連れて行くというものでした。

彼女を連れて行けばアズナー邸の間取り図までくれるというのです。これにはノリスは二つ返事で了承しました。

ていうかそんなものがありながら、何故ノリスに。宝刀を確実に奪取したいならより優秀な盗賊に任せればいいだけの事です。

成功すれば未納分をチャラにできる働きだと仮定しても、強かなギルドがそんなリスクを冒すだろうか。でもそういう事は一切考えないのがノリス


ちなみにキティはこんな娘です。

キティ「ノリスさん、失礼です。ぷんぷん!

うわ……口で「ぷんぷん」言ってるよ。イタイ……イタイよこの娘(ガクガク)。しかも微妙にドジっ娘属性、何だか厄介だ。

そのくせ要所では意外と腕は立つ。でも何処か抜けているので、ノリスが思わず気を遣う。多分普段の仲間達もノリスに同じ印象を持ってる。

しかしそれは仮の姿。その正体はキティ(仔猫)なんてものではなかった……。ギルドの"暗殺の長"の"血塗りの猫爪"だったのです。


"血塗りの猫爪(ブラッディ・キャッツクロー)" ?歳

シーフ7、セージ2。ギルドの"暗殺の長"であり、器用度・敏捷度+3の人。その本性は冷徹・冷酷・冷淡の悪魔超人です。


彼女の目的は裏切り者マクレーンの制裁。アズナーとは偽名、その真の姿はファンドリア盗賊ギルドに情報を売ろうとする脱走者でした。

では何故わざわざノリスを。実は宝刀なんてものもないし。それじゃあ単純に足手まといを増やしただけじゃないですか。

これじゃあノリスが自力で宝刀とやらを入手する事は不可能。下手すれば口封じに殺される恐れもあるし、今ノリスは非常に危うい立場にある。


★2〜3

こうして屋敷に侵入する事になったノリスですが、キティが足を引っ張る引っ張る。思いっきり遊ばれてます。

キティ「朝までに盗んで来いって怒鳴られちゃったんですね〜(くすくす)」

ノリス「なにがおかしいんだよ!」

キティ「だってノリスさんが真面目に考えているんですもの」←ああ、確かにそれは面白い

ノリス「こっちは命がかかってんだから当たり前だよ!」

キティ「あははははは!(爆笑)

それでうっかり見つかりそうになったり。これで相手が暗視の利く種族赤外線視のできる精霊使いだったら即バレ(笑)


これにはノリスも彼女を置いていこうと決意します。

キティ「間取り図は要らないですか?迷子になっちゃいますよ」

ノリス「そんなもの、さっき見たときに憶えちゃったから必要ないや」

キティ「でも、キティも一緒に行ったほうが、お仕事もうまくいくと思うです」

ノリス「なに言ってんだ!さっきだって、キティが大声出すから人が来たんじゃないか!」←やっぱり大声

いや、それはどうかな……。《記憶術》も知力ボーナスだし、ノリスが不得意とする分野なんですが。

そして今度はノリスが大声出して思わずキティが口を押さえたり。駄目だこの凸凹コンビ、ミッションの難易度は既にMAX


結局キティも連れて行く事になり、2人は台所から侵入し、キティの持つ"トーチ・ナイフ"で辺りを照らして進みます。

これは"光を操る"サイランの作品で、刃に"ライト"がかかっているダガー(1)です。値段は3600ガメル。

握りを強くすると光を切っ先に集める事ができ、最小で直径5cmの円にできる。ただし集約されないので明るさは均一。


さぁいよいよ屋敷に侵入です。屋敷は2階建てで部屋数は8つほど。横幅も段の幅もやけに広い階段が特徴ですね。

ノリス「宝剣って、どんなのだっけ?訊いてくるの、忘れちゃった。えへへ」

キティ「宝刀ってほどだから、きっと見たらすぐにわかりますよ。」←確証はない、実物もないけど

ノリス「ホントに?」

キティ「それに、ここで引き返すなんて、ノリスさんらしくないですよ〜

ノリス「うん、それは自分でも思うんだけど……って、あれ?なんで、らしくないってわかるの?」

キティ「あ、えっと、それはですね……。組織ではけっこう有名なんですよ!」

ダメだ、ダメだこの盗賊!。しかもキティの方も何やら素で慌てたような感じが……。演技だよね、まさか失言じゃないよね?


こうして割と絶望っぽい探索は続行されます。後ろを警戒するようキティに注意されつつ(頼りない兄貴分だ)、階段で2階へ上がります。

途中の部屋にも人はいるけどスルー。でも《聞き耳》をして「人がいない」と報告したのはキティなので、多分わざとでしょう。


階段の最上段にはが張られ、見張りのいる部屋に設置された鳴子へ繋がってます。幸いこれはノリスが月明かりで発見。

ノリス「満月じゃなきゃ、見落としていたかも」

キティ「ほんとですね〜(手を伸ばす)」

ノリス「触っちゃダメだって!(手を叩く)」

キティ「あっ……(罠へ倒れる)」

ノリス「えっ?ボク、そんなに強く……」

幸い解けた糸はノリスが掴んで、階段の鳴子を鳴らさずに済みました。もっとも踊り場の第二の鳴子は鳴らしたけど(笑)

これで見張りが出てきたので2人は屋敷から逃げ出しました。窓をぶち破る……つもりが割れずに手が痺れたりしつつ(駄目じゃん)。

でも精霊使いの端くれらしく"コンフュージョン"でボヤっとさせ、ノリスは無事に逃げ延びました。キティは別ルートで同じく逃亡。


こうしてギルドに逃げ戻ったノリスはキティも戻っている事に安心し、家路に着くのでした。

クライブ「待て、帰すわけねえだろうが!」←ですよね〜

結局宝刀の情報を渡さなかった事にはクライブにも落ち度があったという事で、再挑戦する事になりました。


この際クライブに噛み付いたのはキティです。ノリスと別れた後の彼女は屋敷の警備体制や間取りを再確認していたのです。

キティ「今度は絶対に宝刀を盗み出しますよ」

クライブ「悪いな。そんなことを認めたら、組織として示しがつかねえ……」

キティ「宝刀がどんな形か教えなかったのはクライブさんの落ち度じゃないですか!第一、あの建物にあるって保証もないですよ!」

クライブ「ああ、うるせえ!あるって言ったらあるんだよ!」

キティ「信じられませんです!」

これも演技なんだろうか、何やら本気で言い合っているように見えるけど(笑)

仮にこれが演技だとしても、宝刀自体茶番で本当の目的は制裁なんだから、この小芝居にどんな意味が。精々ノリスをビビらせたぐらい。


★4

キティのお陰で少しだけ寿命の延びたノリスは、いつものように「青い小鳩亭」の仲間達に相談してみました。

ガルガド「で、そのキティとかいう娘は優秀なのか?」←実力は7レベル相当

ヒース「うむ、それは我々の今後のためにも、ぜひとも知っておきたいところだな」

ノリス「う〜ん……腕は立つと思うんだけど、ところどころ抜けちゃってる気がしなくもないかな」

ヒース「腕のいい盗賊ならば仲間に即スカウトするという十分条件を満たしているぞ!」

ガルガド「そうじゃな。仲間にスカウトするなら腕のいい盗賊という必要条件も満たしておるのう」

「腕のいい盗賊」→「仲間にスカウト」という命題ですね。ていうか早速ヘッドハンティングする気満々だし、薄情な仲間だ。

そこに狙ったようにキティが現れます。女性陣は「可愛い」、男性陣は「かなりの逸材」という印象を持ったので、仲間にしかねない


キティ情報では、ノリスが派手に逃げ回ったので巡視員の巡回が強化されたといいます。

ノリス「え〜、ボクだけ?キティだって走って逃げたんだろ?」

キティ「キティは優秀だから、目立つような逃げ方はしませんですよ」

これにはガルガドとヒースも深く頷く。少なくとも官憲には警戒されてしまいましたね、ノリスのせいで。

ところが当のアズナーは被害届けも出さず、屋敷に篭りっきりです。売国行為をしてちゃ官憲には頼れないし、刺客を警戒してるんでしょう。


そういう情報もちゃんとギルドの監視員が掴んでいるようです。これは本当でしょう。

イリーナ「はーい。あたし、泥棒するのはいけないと思うんですけど」←ファリス信者らしい疑問

ノリス「でもボク、まだなにも盗んでないよ。だから問題ないでしょ?」

イリーナ「そっか。じゃあ問題ないですね、ヒース兄さん」←イリーナらしい結論

……やっぱりダメだ。知力10同盟の会話には色々問題がある。


ガルガド「ところで、クソガキよ。そのアズナーってやつは、どういう人物なんじゃ?」

ノリス「……誰?

ガルガド「アホかーっ!」

キティ「はいはーい!キティ、アズナーさんのことを聞いてますですよー!」

ガルガド「お、さすが優秀じゃの(ノリスを一瞥)」

曰く、彼はかなりの豪商で西部諸国で商売をしてきたらしい。多分このプロフィールは捏造でしょう。ギルドで聞いても同じ情報を掴まされる。


ガルガド「そもそも宝刀とは、どういう代物なんじゃ?」

ノリス「……あっ!」←聞きそびれた事に気づいた

ヒース「やっぱ、こいつダメだ!盗む物がどんなものか知らずに盗みに入ってやがる!!」

ガルガド「こら、クソガキ。せっかく盗賊ギルドに所属してるんだから、もっと有効に利用せんか。寄らば大樹の陰というじゃろうが」

ヒース「それは無理っしょ。ノリスは金払ってないんだから、寄るな大樹の陰じゃないの?」

盗みに入る相手を知らず、盗むものすら知らない。ノープランここに極まれり。こんなのでも後に6レベルになったりするから不思議。

一方ガルガドはこの仕事の不可解さに気付いていました。そしてノリスが厄介事に巻き込まれている可能性をも考慮していたのです(正解)。


★5

ギルドに戻ったノリスはクライブから宝刀の形を教えられます。しかも実物を見せてもらったのでこの上なくハッキリと。

それは柄に2つのルビーが埋め込まれ、鞘には何処ぞの家の紋章が刻まれた、古ぼけた短剣でした。魔剣という訳ではない。

クライブはアズナー邸にあるのはこれを同じものだと言いましたが、実際はキティがこれを持っていって盗んだ事にするだけです。


しかしここでクライブ自身のノープランっぷりも明らかになる。

ノリス「アズナーって、どんな人なの?」

クライブ「アズナーは……商人だ。それも、かなりあくどい、な(キティに視線を送りつつ)」

ノリス「あくどいってどういうこと?」

クライブ「あ、ああ、そいつはだなぁ。あ〜たしか(天井を見上げて考える)」

キティ「キティは、人さらいをしていると聞いたですよ!」←助け舟

クライブ「おお、そう!それだ!

それだ、じゃない。何も考えてなかったのか。人を騙すには下準備が必要、いかに相手がアホでも経歴ぐらい考えておかないと(苦笑)


それでやめとけば良かったのに、ファンドリアに売り飛ばしているとかいうから、またノリスのツッコミを受ける。

ノリス「ホントに?それってやばいんじゃ……」

クライブ「ああ、ただ事じゃねえぞ。そこで宝刀を盗んで懲らしめてやろうって寸法だ。うん、そうなんだ」←自己暗示か

ノリス「懲らしめる?そんなのでいいの?リジャール王が動くんじゃない?」

クライブ「い、いや、違うんだノリス……」←何が違うんだ(苦笑)

キティ「王様はまだ気づいてないんじゃないですか。きっと人さらい以外にも許可なく仕事をしてるんですよ」

クライブ「そ、そうなんだ、ノリス。そもそも、断りもなく仕事をするやつを見逃すわけにはいかないだろ!」

いかに"収金の長"で財務管理が本業だからって、これはマズイんじゃないか。相手がミレルだったらとっくにバレてる。


クライブ「見事に宝剣を盗み出した暁には、書き残せばいい。『ノリス様、参上』ってな感じでな」

キティ「そうすれば、ノリスさんの株も急上昇ですよ!

ノリス「そうなの?」

クライブ「ああ、そうだ。掟破りも許され、名をあげることもできる。まさに一石二鳥だな」

キティ「よかったですね、ノリスさん!」

ノリス「う、うん」←丸め込まれた

うん、アホで良かった(笑)


★6

アズナー邸に再挑戦するにあたり、ノリスは珍しく頭を使いました。自分の命がかかってるだけに、いい加減ボケた事はしてられない。

見取り図を眺めるノリスは階段の下に隠し部屋がある事を予想し、初めからそこを目指して宝刀を探すという事で決まりました。


問題は前回の侵入で警戒が厳重になってる恐れがあるという事ですが、既にキティは屋敷に入る為の符丁を知っているというのです。

キティ「本当ですよ!情報を制する者こそ、勝利するのです!」

ノリス「で、でも、そんなこと急に言われたって、すぐには信じられないよ」

キティ「信じてください、ノリスさん。うまくいかないと、ノリスさん、大変なことになっちゃうんですよ。だから、一生懸命、調べたんです!

そう涙ながらに力説されて、ノリスの心は動かされました。実際これほどノリスに親身になってくれた人はいないのですから。

何しろ仲間に抹殺される相談をされるぐらいだし、約2名率先して解雇を画策するし。先の話になりますが、実家に帰されそうになるし


キティの立てた作戦は「オトリと泥棒」。ノリスが大暴れして見張りを引きつけ、キティが階段下に侵入して宝刀を奪取という作戦です。

ノリスは白髭の老人に変装し、符丁を口にして見張りに扉を開けさせます。一つ失敗したのは白粉がなくて眉毛が黒いままだったという点(笑)

白粉はないのに付け髭はあったのか。ていうかそういう変装グッズもギルドで売ってたりするんだろうか。まさかノリーナの服とかも?


ノリスは探索系はショボくても、戦闘に入ると滅法強い。見張りは3人いたけど、1人目(レアル)は扉をぶつけて失神させます。

2人目には"ファイア・ボルト"をぶつけて悶絶させ、3人目は階段上に誘き寄せて"シェイド"&丸い石のコンボで階段から転落させます。

なかなかやるものです、「ホームア○ーン」ばりの活躍ですね。自分の役割はオトリ、だからひたすら暴れれば大丈夫だとノリスは考えてます。

それもキティの情報が正しければの話ですが、「終わりよければすべてよし」「なるようになる」が信条のノリスは気にしない(笑)


一方キティはというと、階段下に侵入し、その役割を果たしていました。

"血塗りの猫爪"「久しぶりだな、マクレーン。会いたかったぞ」

既に彼女はその爪でタロンという見張りの男を1人殺しています。その片手には血塗りの短剣が握られていました。

マクレーン「ま、まさか……。金ならいくらでも払うから見逃してくれ!頼む!"血塗られた……」←最期の言葉

"血塗りの猫爪"「掟は絶対だ、マクレーン。いや、ここではアズナーってことになってるんだったな」

これが彼女の本性です。頭の上ではノリスが大立ち回りする音が聞こえていますが、当のノリスは足元の惨状に気づいていませんでした。


その頃ノリスはしぶとく起き上がってきた、階段から転落した男を相手に応戦していました。どうもそこそこの実力者のようで手強い。

まぁ本当の実力者だったら、あんな「ホー○アローン」風の罠には引っかかりませんが。続いて炎の弾丸で焦げた男も起きてきます。

ノリス「マズイよ……逃げる?いや、待て待て。キティが……ああ、どうしよう!」

キティ「ノリスさーん!!あったですよー、宝刀!見つかったですよー!!

さっきまでのどシリアスな雰囲気が信じられない猫被りです。


そこでノリスは"シェイド"をぶつけ、その隙に見張りの横を全力で駆け抜けたのです。本当に戦闘になると強いね。しかし1つ誤算があった。

ノリス「あっ!(石を踏んだ)やっちゃったよぉぉぉぉー(すっ転んだ)

ああ、終わった。これで思ったよりも早くバスが仲間になるんだね。でもお金を稼げるからいいかな、と思った一瞬でした。


転倒したノリスに追っ手が攻撃を仕掛けてくる筈。相手は倒れてるから2人がかりで《強打》、タダでは済まない筈……。

ノリス「……あり?痛くないや」

ガルガド「間に合ってしまったようじゃの」

ヒース「うむ。あれは見事に決まった!三十数回に一回あるかないかの会心のデキだったぞ!

そこにはノリスが心配で見に来たヒースとガルガドがいました。何だかんだ言っても一応心配してくれたんですね……(感動)。

この時ヒースは"スリープ・クラウド"で見張り2人を眠らせたようですね。しかも6ゾロっぽい。リプレイ本編では滅多に見れないデキです。


こうしてノリスは色々な人に助けられて仕事をやり遂げ、『ノリス、参上!』と書いた紙を残したのです。もう少しで「惨状」でしたがね。


★7

どうやらヒースとガルガドはあの後独自にアズナーを調べたようです。しかし近所の人に聞いても「何も分からなかった」

アズナーという人物の噂は勿論、存在すら知られてなかった。その時点でどうも胡散臭いけど、盗賊ギルドの事情に首を突っ込む気はない。

ノリスを助けたのもあくまでも偶然。ギルドにはギルドの事情がある、深く詮索すれば命取りになる事は目に見えていますからね。


例え裏に何があろうとも、ギルドに言われた通りにしておけばそれでいい。若い内はいいように利用される事もあるんだし。

ノリス「そうだ、キティ宝刀は?」

キティ「あ、持ってますですよ」

ノリス「あれ?なんか湿ってる

キティ「そばにあった葡萄酒をかけちゃったんですぅ。ごめんなさーい!」

勿論その宝刀はクライブの見せてくれたのと同じものです。葡萄酒をかけたのも、付着した血を誤魔化す為

こうしてノリスの仕事は終わりました。それからも決してアズナー邸の騒動が噂に上ることはありませんでした。……決してなかった


一方ギルドのクライブの私室には"血塗りの猫爪"の姿がありました。

クライブ「あの野郎の口、封じておかなくていいのか?」

"血塗りの猫爪"「放っておいても害はないさ。それに、収金の長としては、ああいう輩は大事にしなくちゃいけないだろ?」

何だかんだでノリスは冒険者として稼いでいる。今回の事でも懲りただろうし、稼ぎ頭になるでしょうからね。


クライブ「にしても、あんなやつと、よく仕事ができたな」

"血塗りの猫爪"「いや、あれくらいがちょうどいいんだよ。あたしも、ちょっと刺激が欲しくてね。おかげで楽しかったよ

ああ、本当に足枷として指定したんですね。難易度を上げる為か。でも1回目の襲撃で居場所が分からなかったのは本当ですよ。

ノリスの指摘でマクレーンの居場所が階段の下であると判明し、宝刀を取るという名目で始末した。そういう意味では一役買ったんですね。


クライブ「まあいいさ。マクレーンのやつを始末できたんだ。組織としては問題もない」

"血塗りの猫爪"「しかし、ファンドリアの連中もバカだね。もっとも、合言葉を素直に吐いちゃうような連中、片手でだって殺れちゃうよ

符丁を手に入れた経緯もそういう事だったか。ノリスのせいかオーファン盗賊ギルドが間抜けに思えていたけど、ちゃんと暗部もある。

オーファンのギルドでは暗殺者は「蛇」と呼ばれている。ミレルも「蛇」の訓練を受けたそうなので、彼女の恐ろしさを知っていたかもしれない。


「ゆく人くる人」作:清松みゆき

★プロローグ

最後のお話は全員が主役です。約1名ピンでスポットが当たっていませんが、一応次の短編集で一番ページ数のある話の主役になれる。

この話こそがノリス・ガルガドがパーティーから脱退する話であり、ヘッポコのオリジナルメンバー5人で挑む最後の冒険になります。


時系列は第12話の直後です。首なし騎士デュラハンとの戦いで命を落としたノリスを蘇らせる為に、仲間達はマイリー神殿を訪れました。

目安としてはコネなしで会って貰えるのは「最大冒険者レベル+2」レベルまでなので、今のヘッポコでは7レベルが限界です。

ただしこれは既にあるコネクションとは別問題です。ガルガドから上司のヒューナー司祭を頼り、司祭が更に"剣の姫"ジェニへと口を利きます。

寄進の額も問題なく、滞りなく"リザレクション"の奇跡は行われ、ノリス復活!。1週間の静養をすれば元通り元気に動けるでしょう。


ガルガドのもたらした吉報に、神殿の入り口へと続く大階段で待機していた仲間達もようやく笑顔を取り戻します。

ただし1つの仕事を頼まれてしまいましたがね。それなりに厄介な仕事ですが断れる筈もなく、彼らの心境を映すように雨が降り始めます

ヒース「野伏として断言する。これは止まんな。神殿の軒を借りよう」←《天気予測》

途端に雨は止みました

ヒース「あー、ずいぶんと天候は不安定なようダ。若干予報を訂正。曇り時々雨、日没頃には、きれいな夕焼けがみられるだろウ」

しかし彼に集まるのは3つの白けた視線でした。そんなだからピンの短編を先送りにされるんだ(苦笑)


★1

ノリス蘇生と引き換えに彼らが請けた仕事とは遺跡の調査です。その遺跡はかつて奴隷と魔獣の殺し合いを見世物にする闘技場でした。

しかし古文書によればこの遺跡には財宝はなくモンスターは沢山。そういった遺跡の現状を見て、記録との差異や危険性を検証するのです。

勿論報酬なんて雀の涙ですよ。蘇生の奇跡の寄進額の不足分を補うものなのですから。まぁ仲間の命と引き換えなら安いものかな。

ちなみに寄進額には例の魔神を召喚する壷の買い取り価格も含まれています。貯金もはたいているので、彼らはほとんど素寒貧でした。


でも魔獣の巣窟と聞いてやたら燃えているのが1人。

イリーナ「行きましょう!邪悪の巣窟へ!」

ガルガド「まあ、待て、イリーナ。わしらの目的は調査だ。断じて殲滅ではない

イリーナ「わかってます、ガルガドさん!邪悪でないものとは、戦いません!(敬礼)」

マウナ「少しは落ち着いてよ。うかつに殺して回って、中身と違ってしまったら、どうするの?報酬が減るかもしれないでしょ!

流石はマウナだ、説得方法も超現実的。


蘇生で彼らは本当に素寒貧なのです。第13話では全員の所持金がリセットされてたりするぐらいです。

イリーナ「うっ」←流石に堪えたらしい

マウナ「もともと少ないんだからね」←そして原因であるノリスへ視線が向く

ノリス「ボクに気があるのかな?ダメだよ、ボクにはイリーナというステディが……」

そしてイリーナのスーパーブロウがノリスを車田漫画よろしくぶっ飛ばす


ノリス「そ、そのうち、ボク、死ぬかも」

ヒース「いっぺん死ね、というか、もういっぺん死ね。そして、今度は生き返るな

全く馬鹿は死んでも治らないとは本当だったのか(苦笑)


いつものコントもひと段落したところで、いよいよ遺跡へ突入です。遺跡の扉を開けるコマンドワードは既に判明しています。

これを唱えると巨大ロボットの発射口よろしく地面が真っ二つに割れる。ところが何故かノリスは裂け目を跨ぐように仁王立ち

ガルガド「ノリィィィス!そこでいいのか?自分で、何か間違ってると思わんか?」

ノリス「間違ってないよ。ヒースのそばにいるより安全だよ」

ヒース「ノリスにはノリスなりの考えがあるんだヨ。"デルス・グライド・ワウプ"!」←コマンドワード

すると古文書の記述と違わず地面に亀裂が入り、大地と大気をビリビリ言わせながら割れていきます。


ノリス「うわっわっわっ。右?左?」←又裂き状態

ガルガド「どっちでもかまわん。さっさと跳べ、クソガキ!」

ノリス「あー、びっくりした」←避難できた

ガルガド「なあ、ノリスよ。改めて訊くが、なぜ、その『そのあたりに開く』と言われてたところにいたんだ?」

ノリス「え?どっちにでも逃げられるようにだよ

ガルガド「神よ……わしに、あの頭蓋骨を叩き割って、中身を直接こねくり回すことを許してはくださらんか」←大地に突っ伏す

今のガルガドの思考は手に取るように分かります。ズバリ、「このクソガキは蘇らせるべきではなかった」でしょう。


こうして師弟コンビがいつものコントをする一方、兄妹コンビもいつものコントを展開しています。

ヒース「壮観壮観。さすが俺様。魔法の力は偉大だ」

イリーナ「ヒース兄さん、今のは、遺跡の力だと思います」←その通り

ヒース「何を言うかイリーナ。何か巨大なものが地下から出てきそうな荘厳な雰囲気に、俺は感動した」

イリーナ「何か出てくる!邪悪ですか!?」

ヒース「違うな。出てくるとしたら、魔法技術を詰め込んだ、グレートでビッグなゴーレムであろう

……嘘から出た誠、か……。


★2

地下への階段を下りた一行は馬鹿話をしつつ歩みを進め、6レベル魔獣マンティコアと遭遇します。

獅子の身体に老人の顔、コウモリの翼にサソリの尻尾という異形の姿。"邪悪な知識の守護者"と言われ、暗黒魔法5レベルを使う強敵です。

魔獣の巣窟の名に偽りはありませんね。いきなりこんな知性の高い強力な魔獣が出てくるとは、全く油断ができませんよ……(ゴクリ)。


イリーナ「あ、これはどうもこんにちはです」←挨拶したよこの娘

ヒース「はっはっは、イリーナ、そんなやつに頭を下げる必要はないぞ」←《怪物判定》に失敗、知名度12で基準値7だから情けない

一応彼らにもマンティコアの異形の姿が見えています。そんな近所のオッサンに対するような扱いはどうよ。


ヒース「そんな変な着ぐるみを着た、いかれ爺いにまともに挨拶することがあるか」

イリーナ「人を見かけで判断するのはよくありません。ヒース兄さん!」

見えた上でそれかい。ていうかこんだけの異形が相手なら、多少は見かけで判断しようや(苦笑)


マンティコア(下位古代語)「無知なるは災いなり。我はそれを示すためにここにいる」

ヒース「お、生意気に下位古代語でしゃべるぞ、こいつ」

ノリス「魔獣だからね」←実は《怪物判定》に成功してる、基準値2(低!)だから出目10以上

マンティコア(下位古代語)「汝らの知を示すがよい。さもなくば、ここは通れぬ」

つまり彼はスフィンクスと同じように謎かけを行うというのです。正答すれば通してくれるんですね。


マンティコア(下位古代語)「限りありて、果てのなきものを答えよ」

こうしてマンティコアは謎かけをしてきました。しかし当のヒースは相変わらずキチガイに対する態度で、謎解きなんて何処吹く風。

マンティコア(下位古代語)「汝らを、無知なるものと認めたり!」

これは五色の魔竜と似ていますね。ちゃんと戦闘モードに移行した事を告げています。


こうして強敵マンティコアとの戦いは始まりますが、イリーナは相変わらずのパワーファイトで押しまくる。

マンティコア(下位古代語)「知なきも力、知あるも力、命を絶つことに差異あるまじ

その通り、弱い者はより強い力の前には無力。例え相手が教養の欠片もない筋肉バカであろうとも、突発的な暴力は怖いものです。


やがてマンティコアは暗黒魔法まで使って応戦を始めます。

イリーナ「ヒース兄さん、こいつ、ふつうじゃないよ!

ヒース「見たらわかる。そんな着ぐるみ、まともな神経で被ってられるか」←チャックはない、マジものです

ノリス「だから魔獣だって。そいつの尻尾、毒があるんだよ。刺されたら、死んじゃうよ

イリーナ「そういうことは先に言ってー!」

この毒は毒性値13の遅効性の致死毒です。抵抗に失敗すると1時間後に死亡します。ガルガドの魔力は6だから結構綱渡り。


マンティコアは頑張りましたよ。このヘッポコな連中相手に最期まで戦いました。

マンティコア(下位古代語)「知識と知恵を合わせ持たぬ輩なぞに!

かくして哀れな魔獣は悔しそうな悲鳴をあげ、"ファイア・ウェポン"で燃え上がるグレソーの餌食になったのでした(合掌)。

そしてノリスに分かって自分に分からない知識があった事に、ヒースは屈辱感で一杯でした。無知なるは災いなり、か……(苦笑)


★3

マンティコアを倒した一行は遺跡の更に奥へと進み、階段を下ります。この階段がまた10以上の踊り場のある、結構深いものでした。

優に千段を越える階段を下りた一行はようやく最下層に到達します。しかしそこは交差路と下り坂が延々と続く無限回廊だったのです。


通路には落とし穴がポツポツと点在し、部屋の数も百を越える。ノリスが調べる事をサボってもガルガドが文句を言わない程です。

延々下り坂を通ってきたのに疲れて休憩し、ふと周りを見てみると全方位下り坂。これには面食らいました、まさか魔法の影響かと。

部屋の大半には魔獣もいましたが、自力では出てこれないので問題はない。しかしこのまま永遠に彷徨う事になったらと思うとゾっとする。


ここでは魔術師ヒースの面目躍如とばかりに、彼の推理が冴え渡ります。結論から言うと彼らは巨大な球体の上にいる

マンティコアの謎かけもここの事だったんですよ。「限りはあるが果てはない」。球面なので限りはある、でも歩いてると果てはない。

更に中心部へ向けて重力も働いているのです。違和感を感じないほどに精巧に。正に彼らは小さな地球の上にいるようなもの。

恐らくは気づかずに重複してカウントした通路や部屋もあったでしょう。すると実際には百もの部屋はないのかもしれませんね。


ちゃんとこのフォーセリアにも重力という概念があります。"フォーリング・コントロール"もそれを応用したものです。

実はリプレイ版の「傭兵伝説クリスタニア」にも似たような建造物が出てきました。立方体でしたが、きっと原理は同じでしょう。

これは恐らく四大魔術の産物ですね。"フォーリング・コントロール"も四大魔術だし、恐らくは"グラビティ"はその上位魔法。

またナイトブレイカーズでは重力を計算に入れて星界へ飛び立とうとする実験もありましたが、古典力学が本当に通用するかは謎です。


そしてこの重力自体にもちゃんと公式見解があります。

Q.フォーセリアの重力は何の精霊がかかわっているのでしょうか?
A.風の精霊と水の精霊や大地の精霊の相互作用(綱引き)で決まります。
  ゆえに、一種類の精霊力ではないので、精霊魔法ではコントロールできません。
1998年11月のQ&Aより

この相互作用というのは複合精霊力という事かな。それなら重力を単独で司る精霊はいない。磁力も大地と闇の複合精霊力ですしね。

また精霊魔法は単独でしか精霊の力を使えません。これを複合させて使えるのが四大魔術であり、そこから派生した混沌魔術です。


それにしてもよく気づいたものですね。見直しました。知恵と知識は別物であり、魔術師たるもの前者もおろそかにはできませんからね。

イリーナ「すごいです、ヒース兄さん」

ヒース「はっはっはっ。褒め称えることを許すぞ、イリーナ」

マウナ「あれさえなけりゃねえ……」

確かに「これさえなければ」だけど、それは最早ヒースじゃない。ただの頭のいい兄ちゃんじゃないですか(苦笑)


★4

遺跡の構造に気づいたヘッポコは例の落とし穴にロープを垂らし、球体の核とも言える魔法装置の本体へと降り立ちました。


降りる為に店で買えるロープを十余繋ぎ合わせたそうです。ロープ単品は10mなので、優に100m以上も降りてきた事になる。

盗賊であるノリスはロープさえ使えば1ゾロを振らない限り転落はしませんが、《登攀》判定は10m単位なのでロープの数だけ判定した筈。

いかに1ゾロ振らなければ大丈夫と言っても、それだけ繰り返せば失敗の可能性はありますけどね。他の皆は"フォーリング・コントロール"です。

4人分で8点消費、ヒースの精神力はこれだけで残り5点。さっきの"ファイア・ウェポン"も5点消費なので、ガルガドが何処かで補充したんでしょう。


魔法装置の本体は黒曜石でできた円盤です。その表面からは円錐形型の柱が天井、つまり球体の内壁へ向かって伸びています。

円盤自体も球体の内部に浮遊し、まっすぐ中心というよりも円盤そのものに引きつけられてます。裏側にも立つ事ができるらしい。

穴は天頂に1つ、45°下がった位置に等間隔に4つ、円盤と水平位置にも等間隔に4つ。恐らくは下半球にもあるので、計14個かな。


こんな不可思議なものが素人に分かる筈もない。魔術師ヒースの領分ですね。

ヒース「うーむうむうむ、うーむ」

イリーナ「わかるんですか?ヒース兄さん」

ヒース「ふふ。古代王国の深遠なる知識、そう簡単に理解できるものではない

まぁこればかりは仕方ないか。こんな巨大な魔法装置を解析するには一朝一夕とはいかないでしょう。でも何故に誇らしげ(苦笑)


一方この面白い玩具を楽しんでいるクソガキも1人。

ノリス「それよりみんな、こっちのほうがおもしろいよ」←円盤の端で片足立ち

ガルガド「あっ!?(落ちた)ノリスーっ!」

ノリス「呼んだ?(裏面から顔を出す)ガルガドも試してごらんよ。裏に回っても、下が下なんだよ」

要は裏側にも重力が働いてる。裏側に入った瞬間に裏面への重力に捉われ、手を「下げる」のではなく「上げる」感覚になるんですね。

ノリスが空中に身を躍らせても見えない力が働き、当たり前のように裏側に着地できる。見た目は怖いけど、ちょっと面白そうだ(笑)


しかしここで彼らは危機的状況に陥る。裏面にアイアン・ゴーレムがいたのです。後に戦いますが、この時点ではあまりにも強敵。


現時点でイリーナは打撃力29+9点あり、7振ると16点。2点だけ通りますが、《武器はクリティカルしない》ので表面を傷つけるのみ。

かといって魔法では「地震系」「爆発系」「純エネルギー系」のみ有効。ヒース最強の"ライトニング"も効かないのです。

するとエネボルやウィスプに頼るしかないけど、魔力6では抵抗を破るのは困難。すると6ゾロ負っても10点なので、1点だけチクリ。

クリティカルが起きないだけで「炎系」も効くので、イリーナのグレソーを燃やせば打撃力39+9点。すると17点だから少しだけマシかな。

問題は相手の打撃点19のハンマーパンチです。イリーナですら防御力29+5なので、7振って12点。7点も抜けるし、出目次第では致命傷。


この強敵相手にヘッポコは防戦一方でした。イリーナにプロテクやクイックネスをかけ、ガルガドとマウナも回復に専念しています。

どうやら相手を警戒して防御に従事しているようですが、イリーナに"ファイア・ウェポン"をかけて殴れば通らなくはない。

流石に"ファナティシズム"をかけろとは言わないけど、防御一辺倒では勝てる筈もない。回復役を信じて一度攻勢に出てみればいいのに。


まぁ仮に攻めても敵は生命点50。こっちの消耗の方が早くなりそうですが。やがて絶望的な戦いに全滅の二文字が過ぎりました。

そこで唯一手持ち無沙汰なノリスは1つの策に出ました。装置の中枢と思しき金色の球体を収めた水晶に目をつけたのです。

ノリス「これって、魔法装置の要だと思うんだけど?」

ヒース「見りゃわかる」

ノリス「だよね。だからさ、守るべきものがなくなれば、番人は止まるんじゃないかなと思うんだけど?」

ヒース「可能性はあるが」

ノリス「だよね

ヒース「ちょっと待て!やめろ、クソガキ!そん……」

この瞬間ノリスはガルガドのメイスを振り上げ、魔法装置の中枢をぶっ壊しました


中枢を失った事で円盤は崩壊し、一行は頭上へ墜落したのです。つまり彼らが戦っていた側が本来の上だったんですね。


★5

墜落の瞬間ヒースは咄嗟に"フォーリング・コントロール"をかけ、墜落死は免れました。戦闘中にトランスファーしたのは幸運でしたね。

例の竪穴に落ちたゴーレムも無傷ではないでしょう。具体的な落下距離は分かりませんが、20m落下でも60点とか来ますからね。

更に球状の遺跡全体も落下したので、落下ダメージで多くの魔獣も死にました。およそ建物2階分(6mぐらい?)なので、約20点ダメージ。


幸い遺跡全体は崩壊しなかったのでヘッポコは生き埋めを免れ、マウナのウィスプの明かりを頼りにフレディを呼び寄せます。

そしてフレディに救助要請の手紙を括りつけて助けを呼びに行かせました。問題は使い魔との交信は1kmが限界だという点ですが。

彼らが閉じ込められた深さは人間の身長100人分を越えるそうなので、それだけで軽く1kmは越える。それでもどうにか救助は来たらしい。

こうしてヘッポコは救助され、辛うじて見つけた魔晶石も神殿が接収。救助者や魔獣退治を受け持つ冒険者への報酬に充てられるそうです。


遺跡を調査するつもりが、遺跡自体崩壊させてしまい、別の冒険者に引率されている状況はかなり恥ずかしい。

イリーナ「人生、七転八倒です、ヒース兄さん」

ヒース「それを言うなら、七転び八起きだ。(肩をすくめる)やっぱり、七転八倒でいい。禍福はあざなえる縄のごとし

マウナ「明日は明日で嵐が吹く、ってのはどう?」

ガルガド「冬過ぎても春寒風冷たし、じゃな」

ヒース「暮れぬ日はない

ことわざを応酬させても虚しさが増すだけですがね。素寒貧な上に依頼失敗、報酬も激減。正に泣きっ面に蜂


ノリス「あのさ……」

ヒース「ん?何か思いついたか?面白ければ笑ってやるぞ

ノリス「ゴメンね、またみんなに迷惑かけちゃって

ヒース「わっはっはっ、こりゃおかしい。ノリスが『ゴメンね』だと。こりゃ、傑作だ」

ノリス「本気で謝ってるんだけど

ヒース「『本気で謝ってる』。すばらしい、これ以上のものはない」

ガルガド「ちょっと待て、ヒース。本当に本当なんだな?」

ノリス「うん」

いつも真っ先に怒るガルガドも、ノリスの本気の謝罪を察しました。


ノリス「いつもいつも、こんなじゃ、みんなに迷惑かけるしかできないよね、ボク(涙一筋)」

ガルガド「まあ、反省することを覚えただけでも、お前さんの成長だ。失敗は成功の母だ」

この時ばかりはクソガキなんて呼びません。ここまで反省しているのなら、優しい言葉をかける事こそが必要だから。


ここでノリスは精一杯考えました。

ノリス「みんな、優しいから、失敗しても、失敗しても、いざというときには助けてくれる

ヒースとガルガドも罵詈雑言を浴びせても見捨てはしないし、イリーナとマウナに至ってはそんな事すら言わない。

ヘッポコは身内での悪口も絶えないけど、決して憎み合ってる訳じゃない。むしろ親しいからこそ言えているようものです。

まぁ色々な判断ミスや出目の悪さで味方を攻撃する事もあるけれど、あれは過失です。偶然、意図せずに殺しかけているだけです(なお悪いわ)。


そしてノリスは「何故失敗するのだろう?」と考えたのです。

ガルガド「それで、わかったのか?」

ノリス「うん……ボクはずっと甘えていたんだと思う

ガルガド「はっ?いや、単純に短慮なんだがな」

ノリス「そうだけど、根っこは甘えていたからなんだ。甘えてたから、考えが一つずつ足りないんだ。
    その一つずつ足りないところを、いざとなったら、みんなが助けてくれると思ってたから」

それはノリスのPL次第なんですが、今思い返せばそういう風にも見える。


そうして話す内に、ノリスは少しずつ皆と距離を取っていました。別れ難いのを堪えて身を引くように。

ノリス「ボクだってね、みんなと冒険を続けて、みんなの役に立ちたいんだ。本当だよ。
    でも、このままみんなと一緒にいると、いつまでも、そうはなれない。
    だから、ちょっとだけ。ちょっとだけみんなから離れてみようと思う
    そして、一人でがんばってみて、みんなの役に立てるようになったと思ったら、戻ってくる。いいよね?」

本気でした。初めてノリスの本気を見た気がします。それで猫になって戻ってくるなんて思いもよらない程本気が伝わってくる。


彼の決意を悟った仲間達は別れを告げていきます。

マウナ「持っていきなさい。素寒貧で一人旅は無理でしょ?」←魔晶石を投げる

ノリス「一番小さいやつだね

マウナ「細かいこと言わないの!こっちはちょっとでもお金がいるんだから。それだけあれば十分でしょ」

ノリス「うん。ありがとう」

心ばかりの餞別ですね。それで微妙にショボいのがまたマウナらしいけど、彼女なりに断腸の思いで出したんだと思う。


イリーナ「ノリス、あの……」

ノリス「何?」

イリーナ「その……、えっと。元気でね

ノリス「ボクはいつだって元気さ

イリーナ「うん……」

ノリス「心配してくれてありがとうね」

知力10同盟として色々とアホな事をしてきたけど、余計な言葉は要らなかった。僅かな言葉だけで十分伝わっていた筈。


ノリス「サヨナラ

そう言ってノリスは踵を返して走りました、決して振り返らずに。仲間達も決して目を逸らさずにその姿を見続けました。


★エピローグ

盗賊を欠いたヘッポコは長らく日干し状態でしたが、やがてガルガドが期待の新戦力を連れてきます。

ヒース「そいつは優秀な盗賊なんだな!」

ガルガド「そういうことだ」

ヒース「よし!これで俺たちも完璧というわけだ

バス「自分は芸術家のつもりなのですが」

ガルガド「まあ、堅いことを言うな」

こうして新戦力バスが加入したのです。ヒースは完璧といいつつ、あと1人の姿を思わず探してしまったようです。


そして彼らにはもう1つの別れが待っていました。

ヒース「何だ、おやっさん。どっかに用事でもあるのか?」

ガルガド「子供を捜しにな

ヒース「え!?子供がいたのか!?初耳だぞ、おやっさん」

ガルガド「ああ、四人ほどな。一人は、頭は切れるがプライドが高すぎて間違いを素直に認められん息子、
      自慢の怪力で突貫することしか考えない娘、気だてはいいが貧乏性が玉に瑕の……」

イリーナ「そんなにいたんですか!でも、わたしたちみたいですね!」←イリーナ……

マウナ「あたしたちのことだよ」

四人を一人前にする、それがガルガドの立てた誓いでした。実際色々問題はあるけど皆立派になりました。


ガルガド「そしてな、子供が大人になって独り立ちできると思ったら、親は離れるべきなんじゃ」

ヒース「おやっさん!冗談はやめろよ」

ガルガド「すまんが、本気だ。ところが、たった一人、末の息子が、まだまだガキの分際で家出しおった
      こいつは、デキがとことん悪くての、終始叱り通しだったんじゃが、まだ叱り足らん」

つまりガルガドはノリスを追うのです。親として、一人前になるまで面倒を見たいから。やっぱり彼はとことん苦労性のようです。


これにはイリーナも、マウナも、ヒースも、分かってくれました。大人になったから、親を縛る事はできないから。

ヒース「俺は、おやっさんのこと、何気なくおやっさんと呼び始めたけど……今、思うよ。本当に、いい呼びかたしてたんだなって」

ガルガド「わしも楽しかったよ」

ヒース「おやっさん!離れても親と子だぞ。また、戻ってきたら……、顔をあわせたら……」

ガルガド「そうじゃの。大人になった息子と酒を酌み交わすのは、父親の最高の楽しみじゃな」

それは別れの挨拶であると同時に、再会の約束。こうしてノリスとガルガドはパーティーを離れて旅に出たのでした。


彼らはここで別れたけれど、一つの終わりは新しい始まり。ヘッポコは新たな仲間を加え、新たな冒険を続けます

旅に出た2人も様々な冒険をこなし、着実に実力をつけました。そしてパーティーに復帰し、更なる大きな冒険へ挑むのです。








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