「新ロードス島戦記2 新生の魔帝国」作:水野良 出版社:角川書店

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第T章 暗黒騎士団

★1

その夜、ニースはフィオニスと夢の中で出会いました。それは魂の邂逅、悠久の時を共に歩んできた伴侶だからこその体験でした。

大した会話も交わさずに交信は途切れましたが、これでお互いの存在は明らかになりました。正に「離れても離れてもきっと巡り会う」状態。

そういえば2人とも六英雄の身内として生まれてきたんだし、故郷である暗黒の島で敵味方に分かれている訳だし、これも運命なのかな。


ニース「あなたは誰?」

フィオニス「その答えは、君の中にあるよ。永劫の時を、僕は君と共にいたのだから……」

ニース「永劫の時を……。忘れたわ!あなたのことは!!

実際は覚えてます。覚えてるからこうなっている。ていうか客観的には酷い女です(苦笑)


フィオニスとナニールは共に転生者として、カーディスの祝福の元に何度も何度も転生を続けてきた仲です。

しかし今のレイエスとニースには決定的に違う点が1つある。それは魂の位置づけ、自然な生神に与えられた生の違いです。


通常の"リーンカーネーション"とは、神の力で「元からあった魂」と「転生してきた魂」の二つの魂が一つの肉体に収まる形になります。

そして元から宿っていた魂を押さえつけて、転生者の魂が肉体の主人となる。まぁ寄生虫みたいなものですね、実はレイリアさんもそう。

しかしニースの場合は魂は元から一つ。母であるレイリアの魂がナニールの魂に打ち勝ち、ナニールの魂はその娘として自然に生まれた

よってナニールの魂である事は否定できないが、ニースの魂である事も否定できない。両者は絶対不可分、ON/OFFなしのジキルとハイド。


通常"リーンカーネーション"はその達成値によって記憶の戻る年代が変わる。達成値が高い程に若く記憶を取り戻すが、低いと最悪目覚めない。

"エターナル・リーンカーネーション"も多分同じようなものでしょう。そして高位の司祭であった2人は、今までの記憶を取り戻している

フィオニスは全く問題はないのですが、以後ニースはナニールの記憶を自覚し、ナニールとしての覚醒を恐れるようになるのです……。


それにしても難儀な母娘です。母はナニールとカーラというロードス2大裏ボスに身体を脅かされ、娘は重た過ぎる業を背負った。

マーファの聖女にして亡者の女王、マーファとカーディスという対極の神格を持つ女神を降臨させ、なお生きながらえた奇跡の娘。

聖とは俗の反対にあり、この場合の聖とは神の領域を意味する。そしてその神が光か闇かは問わない。そういう意味で彼女は究極の聖女です。


★2

一方フィオニスの方はというと、久しぶりの伴侶との邂逅であの仕打ち。正直心が揺らいでいました。

ネータ「悪い夢でもご覧になられたのですか?」←子供扱い

フィオニス(わたしは子供ではない)

正直こういう風に扱われるのは歯痒いのですが、今は正体を現す訳にもいかないので敢えて黙っています。

あとここで彼が16歳になったとあるのですが、この「新」の物語は公国建国からおよそ1年、新王国歴527年ぐらいまで続きます。


ネータ「このまま陛下のお側におりましょう。悪夢など、追い払って差し上げます」

フィオニス「わたしの相手をせよ

最初はネータも若さ故の暴走だと思ってました。しかし彼はとても巧み、アッサリと陥落してしまったという(苦笑)

この身体はまだ子供でも、数限りない人生でナニールをはじめ多くの女性と付き合ってきたのです。そりゃあ只者ではないでしょう。


ちなみにネータ自身もベルドの侍女として恋心を抱いていたそうです。ベルドは侍女達にも手を出し、多くの子供が生まれたと。

当時のネータは幼かったけど、もう少し大人になったら手を出していたと思う。流石のベルドも幼女にまでは手を出さないでしょうから(苦笑)

ネータ自身もそれを望みながら、結局ベルドが死んだ事で果たせなくなった。フィオニスに屈したのはそんな思いもあったからでしょう。


★3〜4

ヴェイルは普段はウィンディスにある「時の雫亭」という酒場のマスターをしています。正に灯台下暗しという隠れ家ですね。

しかしその一方で公都から離れた農場も経営している。かつてはミネアが管理していましたが、今では帝国の宮殿(仮)となっています。

その両方の稼ぎが帝国の資金ともなっている。他にも後援者は複数いるとはいえ、やはり公国に比べれば財政状態は厳しそうですね。


彼にもマーモを統治する上でのビジョンがある。マーモをロードス本島から隔離し、養えるだけの人間を養うというものです。

確かにスパークの政策は間違ってない。お陰で市場にもいい食料が並ぶようになった。しかし言い換えれば交易が途絶えれば死活問題

無闇に人口を増やし、飢饉でも起これば餓死者が出る。実際彼もバグナードに拾って貰えなければそうして野垂れ死んでいたでしょう。

この農場の麦にしろ、カノンに比べれば質にも量にも劣る。故にマーモの民は幻覚作用のある葉を酒に浮かべ、多くのアル中を出したという。


またネータにもビジョンがあるようです。彼女は数年の内にフレイムがロードス統一戦争を起こすと読んでいます。

その時までに砂漠の民を追い出し、軍備を整え、あわよくば逆にロードスを統一してやろうというのが、彼女の未来図。

しかし既にカシューに野心は無い。実際この戦いが終わった後、ロードスには100年の平和が訪れるそうだし。考え過ぎですよ。


その日のヴェイルは宮殿(仮)で、新帝国の重鎮達と会議を行いました。正に帝国の最高意思決定機関です。

まず皇帝であるレイエスを筆頭に、暗黒騎士の長であるネータと騎士隊長が2人。内1人はロルシェという名前らしい。

更に宮廷魔術師であるヴェイルとクラート。ファラリスの高司祭のオルフェス。ダークエルフの族長ゼーネアと腹心カイレル


マーモ評議会を名乗っていたかつての4大実力者と同じ構成ですね。ただし実力は数段劣る、まぁ先代はレベルが高過ぎでもありましたが。

アシュラム様は9レベル戦士、バグナードは10レベル魔術師、ショーデルは10レベル闇司祭、ルゼーブは10レベル精霊使いでした。

しかもショーデル以外は超英雄でもあったりする。邪悪ではあったものの、かつての帝国は本当に優れた人物が揃っていたんですね。


しかし決して一枚岩ではない。特に暗黒騎士であるロルシェは、謀略を練るヴェイルを軽蔑してるらしく滅茶苦茶反発します。

今の戦力なら公国にも負けない、だから戦を挑もう!といった趣旨です。実際質でも量でも劣ってますが、彼は気づかない。

聡明なヴェイルは既に「どうやって勝つか?」ではなくて、「どうやって被害を最小限に止めてやるか?」に思考が変わってます。


彼の軽蔑は「命をかけない」謀略家への不満なのでしょうが、戦場に立つ事だけが戦いではない。ヴェイルは常に命がけなのです。

バグナードからの援助の為に妹のミネアを失い、更には「勝敗は問わないが楽しませろ」という要望に応えられなければ厳罰です。

またバグナードは「無能と怠惰」を嫌悪する為に下手な事はできないし、貸与されたアイテムも返却できなければ相応の賠償を求められる。

ヴェイルもヴェイルで、もっと信頼されるように振舞えないものかと思いますけど、それができないのが彼の人徳の無さなのかもしれない。


結局ロルシェの総力を挙げて対決するという、実に男前な作戦(という程のものでもない)が実行されます。

近々スパークは「諸王国歴訪の旅」に赴くというので、その隙を突いて攻撃。暗黒騎士団を主力に、妖魔兵団を伏兵とします。

その際公王を狙うか、騎士団を狙うか、公都を狙うかはフレキシブルに対応。言い換えれば「出たとこ勝負」……駄目だこの作戦(苦笑)


★5

会議を終えた重鎮達はそれぞれの部屋で各自の野望を企んでいました。要は各キャラの性格付けですね。


まずダークエルフの族長ゼーネアは、実はルゼーブの娘。兄弟達が全員死んだ中、唯1人の生き残りです。年齢は18歳?

ゼーネア「わたしは先の族長を超えてみせる。彼よりも強く、彼よりも邪悪になる」

彼女の夢は妖魔の国を作り上げる事。実際この短期間でゴブリンのような下等な妖魔を支配し、数だけなら帝国最多の軍団です。

とはいえ肝心のダークエルフの人口は500名ほどです。しかも半分は若木(子供)なので、部族存続を考えると危うい状態にある。


そして腹心カイレルは族長より1つ年下で、腐銀探しの時に遭遇したダークエルフ(兄)だったりする。彼は妖魔達の調教師でもあるのです。

ゴブは知能が低く愚かではあるが、何もできない訳ではない。それぞれ餌を与えて一芸を仕込み、簡単な戦術を実行できるようにしてる。

実は彼の母親は旧帝国でベルドの愛妾であり、後にダークエルフの夫を迎えた時も街で暮らした。だから彼は人間への偏見が少なかったりする。


オルフェスは先の大神殿での戦い生き延びた唯一の高司祭であり、徒手空拳技に優れた神官戦士でもあります。

ただしファラリス教団のモットーは「自由」なので、最高司祭は名乗らない。また他の神官達もまとまりがない。

現在の神官戦士団の数は20程度ですが、自由を侵害する外敵に対しては団結するようです。ただし団結するか否かも自由です(苦笑)

そんなに自由に生きたいなら、大陸のファンドリアに行くのも手だと思う。あそこはファラリスが国教だから堂々と布教ができるし。


最後にヴェイルとクラートですが、実はクラートはヴェイルより10歳以上も年上の兄弟子だったりします。

しかし当時の席次はヴェイルの方が上だし、現在の帝国でも主席はヴェイルで次席はクラートという事になっています。

クラートとて決して無能ではない。最低7レベルの魔術師であり、知識もある。しかしその性格に問題があるので席次は下なのです。

肥大化した自尊心の持ち主であり、とにかく実力以上のことを実行しようとします。およそ魔術師らしからぬ、冷静さが無いのです。


内心ヴェイルの態度に腸煮えくり返る思いもしていますが、席次が上の者への反逆は大罪だし、暗殺の恐れもあるので黙っています。

実はヴェイルは旧帝国の頃から暗殺者や密偵を多く抱えていた。そして既に反逆する者は容赦なく殺してきているのです……。


★6

一方公国の王城ウィンドレストは修羅場を迎えていました。「諸王国歴訪の旅」の準備が終わっていないのです。

国と国との付き合いである以上遅延は許されない。とにかく予定通りに出発し、後発部隊が逐次必要物資を届ける予定です。


そのドタバタの中でもリーフとグリーバスの妖精コンビは暇そうでした。

リーフ「出発を延期するわけにはゆかないの?」

グリーバス「わしらなら気にはしないがの。人間の世界、しかも王国どうしの外交ともなればそうもゆくまい」

ドワーフは確かに頑固な所があるけど、同時に寛容。国では毎日が同じ事の繰り返しだし、1日2日遅れても気にしない。


その忙しい合間を縫ってスパークやギャラックやアルドも休憩を取るものの、直ぐに呼び出しがかかる始末。

近衛騎士「ギャラック隊長、ウッディン卿がお呼びです」

見習い魔術師「アルド・ノーバ師、エレーナ様がお話があるとのことで」

スパーク「オレは呼び出しがかかるまでここを動かないからな」←リーフに指をビシッ!

リーフ「な、何も言ってないじゃない(最近、妙に鋭いのよね)」

"公王の友人"であるリーフの役目は、スパークの八つ当たりであると同時に、スパークをからかう事でもある。

またその陽気さで宮廷内の人に幸せを分けてあげようともしているのですが、迷惑がられる事が多いんだとか……(苦笑)


ちなみにこの旅にはニースも同行します。ターバのマーファ神殿や、フレイムの両親と会う為に。

ニース「邪魔はいたしません」

リーフ「邪魔したっていいのよ。公王陛下はそれが嬉しいんだから」

確かにニースに頼られるのは嫌な気はしない。それに彼女が同行すれば華がある、そしてラブコメも見れる(笑)


★7〜8

ところがそこで帝国軍が動く。スパークは早速これを迎え撃ち、その勝利を歴訪の旅の手土産にしようとします。

これは帝国にとっては帝国再建の表明です。ならばこちらもマーモ統治の実力を公にし、各国の覚えをよくする絶好の機会でもある。


リーフ「調子に乗っていると、思わぬ不覚を取るわよ。自分が不幸だって、肝に銘じておかないと」

スパークは前から考えるだけで何もできない人間にはなりたくないと思ってる。また幸運を過信して無謀を行うのも自戒している。


いざ戦いが始まると、数の上では公国の方が多い上に、正直帝国はあんまり強くない。消耗戦に持ち込めば押し切る事も可能でしょう。

ぶっちゃけ暗黒騎士も「邪神戦争」の敗残兵です。優秀な暗黒騎士はクリスタニアに行くか、サルバド防衛戦で戦死してるんだし。

公国騎士団長ウッディンは犠牲を覚悟で敵に多大な損害を与え、あとは逃亡兵を残らず捕らえれば完全勝利という、見事な戦を行いました。

驚くべき事にスパークは最後まで動かなかった。これも公王としての自覚です。本当は戦いたくてウズウズしていたけど、よく耐えました。


これなら何の遺恨もなく晴れ晴れとした気持ちで旅立てる。そう思った矢先ヴェイルの放った竜牙兵軍団が現れたのです。

竜牙兵はそれこそ一流の戦士にはそれほど怖い相手じゃない。パーンや"至高神の猛女"イリーナは、まるでゴブリンのように退治していたし。

ところが逃亡兵を追う兵士達には非常に怖い相手です。何しろ5レベルですからね、騎士隊長級の実力派に兵士達ではいかにも分が悪い。

結局この竜牙兵軍団を掃討する隙に多くの敵兵を逃がし、公国は少なからず損害を出した。七分勝ちといった、少し悔しい出発となりました。


しかしこの竜牙兵軍団、やはりヴェイルが作ったんでしょうね。もしかしたらクラートと分担して大量生産したのかもしれない。

作るには竜の牙が必要で、1つ5000ガメルと高価です。それが30体とかいたから、それだけで15万ガメルもの出費になる。

これもバグナードに貸与されたアイテムですが、一度使えば回収できないし。やっぱり弁償になるのかな、地味に痛い出費です。


それでも帝国の被害は公国以上だったようです。5人の騎士隊長の内、3人が戦死・2人が重症。ロルシェも含まれる。

ヴェイルのお陰で全滅を免れたものの、戦力も半減。悔しい事に武力では到底公国に及ばず、力押しは通用しない事が明らかになった。

しかしここまで完膚なきまでに負ければ、暗黒騎士とてヴェイルに文句が言えない。ぶっちゃけヴェイルは騎士の力はあまり当てにしてないし。

あくまでも彼の目的は公国に統治を諦めさせる事。その為の更なる謀略は既に練ってあり、今この瞬間にも着実に公国を蝕んでいる……。


第U章 風と炎の砂漠

★1

スパークの「諸王国歴訪の旅」ですが、外伝が長々続きそうなので大幅にカットとなりました。

ちなみに訪問の順番はアラニア→カノン→ヴァリス→モス→フレイムと時計回りで、母国フレイムは最後となります。


まずアラニアではドワーフの大集落である鉄の王国の"石の王"ボイドから、白竜山脈の二つの精霊王を鎮めるというクエストを出された。

大ニースがブラムド解放に挑んだ時、白竜山脈には大地の魔獣ベヒモス氷雪の魔狼フェンリルという2柱の主人がいると説明されました。

その大地と氷の精霊王が何故だか激怒したのです。スパーク達は地震と吹雪を命がけで掻い潜り、これらを鎮める事に成功したのです。

その代償として、ボイドは3千人のドワーフの移住を約束してくれました。その長はなんと六英雄の一人である"鉄の王"フレーベです。

「至高神の聖女」で彼が再び民を得ると伏線を張っていたのはこれだったんですね。またこれで腐銀の陶器を作る職人も招けました。


次のカノンでは旧マーモ帝国の残党の討伐に協力しました。しかもピンチの時にパーンとディードが助けに現れたといいます。

捕らえた残党は夜盗ではなく騎士として扱い、マーモへ送還。騎士として登用するか、釈放するか、投獄するかは人物次第ですね。


次のヴァリスでは、ファリス教団のアリシア司祭と、薬草師のラーフェンを招く事になりました。

アリシア司祭はマーモのファラリス信仰を厳しく糾弾する強気な美人司祭で、マーモにおけるファリス布教の為に移住を決意します。

スパークは頭ごなしにファラリスを禁教にするのではなく、他の五大神を広めて自然解消するつもりなので、彼女に神殿を寄贈します。

そしてラーフェンですが、フィアンナ王妃の領内に暮らす老薬草師の弟子です。明らかにタトゥスの一門で、もしかするとナシェルの血脈

この老薬草師がナシェルだとすると、今年69歳になる。あのラストの後でラフィニアと静かな余生を送り、薬草師となったのでしょう。


そしてモスではウォートからの助言を得ました。ニースと一緒に『最も深き迷宮』へ潜り、魔法の幻覚で「魔神戦争」を追体験します。

しかしあの広大な迷宮そのものに当時の光景をリプレイするなんて、流石はダイケンジャー。相変わらず規格外の魔術の使い手です。

ここでスパークは「魔神戦争」の真実を知り、ベルドとファーンという両雄の真意を知った。そして理想が同じでも対立する事があるのだと。

バグナードの時も言いましたが、水野先生の作風は「理想の違う者同士」、あるいは「理想が同じでも立場の違う者同士」の対立が多いのです。

そうして理想を実現させようとすれば、別の理想とぶつかる事がある。そして理想無しに現状を変える事はできない。レードンが好例ですね。


こうしてスパークはロードスの諸国で、偉大なる先人から様々な助けを得たのです。彼が王として生きる上で貴重なものばかりです。


★2

そしてようやく本国フレイムへ到着です。「邪神戦争」から2年ほど経つと、国の状況も色々変わるものですね。


まず風の部族の族長であるシャダムは、総騎士団長にしてヒルト公にして王位継承権第一位という物凄い地位に就いていたりする。

肥大化したフレイムは公国並みに不安定です。人材不足、先の大戦の戦費、多民族国家ならではの民族同士の衝突等、問題は山積み。

水の精霊力が戻った影響で砂の川は増水し、王城アークロードと市街は床上浸水。現在急ピッチで新しい王宮新市街を建造しています。


更に火竜の狩猟場にシューティングスターという街が興りました。きっとカラルの人達の努力が実ったんですね。

街の名前の由来も明らかですね。あと百年もすれば、この街の興りは伝説的偉業として多くの人に語り継がれているでしょう。

「街の名前は、建国王や伝説の自由騎士たちが魔竜を退治したのがその由来なんだよ」

こんな感じで子供達に昔語りをし、それに憧れた子供達が新しい時代の勇者や英雄となるのかもしれない。


スパークは主な仲間達と宮殿(仮)を訪れ、久しぶりにカシューと謁見しました。

カシュー「……久しいな、スパーク」←上機嫌

今年がもう新王国歴527年とすると45歳にもなる。もうすっかりオッサンですね(苦笑)


でも相変わらず剣腕は卓越し、圧倒的カリスマを持っています。スパークの事も実の息子のように思っている気がしてなりません。

でも公国への援助は出せなくなってしまうようで、とてもすまなそうにしてました。しかし本国の事情を考えると仕方のない事でもあった。

実は水没した旧市街というのは風の部族の住宅街。そうなると国の中核である彼らへの手前、どうしても新市街へ予算を回す必要がある。


しかしこうなると炎の部族の族長であるスパークへ突っかかる人も出てくる。風の部族の有力者、ライデン伯アデュラがそうでした。

アデュラ「不服があるようだな。国王陛下の裁定に対し、不遜であろう!」

スパーク「マーモ島は貧しく、本国の援助をまだまだ必要としています。不服があって当然でしょう。
      しかし事情も承知しておりますゆえ、異論を唱えるつもりはありませんでした。
      陛下から叱責されるならともかく、ライデン伯から注意を受けるというのは不快です」

シャダム「マーモ公の言うとおり、公の非礼を咎められるはカシュー陛下のみだ」

流石にシャダムは中立、というか公平ですね。実はアデュラよりスパークの方が宮廷内の地位は上だし。


どうもアデュラは「公国=炎の部族の国」みたいな偏見を抱き、アファッドの件も不当解雇であると考えていたらしい。

実際には公国は本国と同じく多民族国家だし、アファッドも自分の意思で辞職した。これは風の部族が抱える問題なのでしょう。

今や風の部族はロードス一の大国の中核。それ故に傲慢になるし、また失脚を恐れる。結果として暴走した勝者となってしまっている……。

実は本国でも風の部族は若干孤立しかけている。むしろ移民や都市の民といった他の勢力と協調できているのは、炎の部族の方だったりする。


今までの国でも色々な事件に巻き込まれてきたけど、むしろ同情してくれる人が多かった。なのに母国でこの仕打ちはあんまりです。

しかし母国だからこそ事件が起きれば無関係ではいられない。現在フレイムでは交易路に"砂走り"が出没する事件が問題となっているのです。

砂走りといえば本来狡猾で、大人数に襲い掛かる事はしない。それが普段の生息地を離れ、襲う筈もない隊商に襲い掛かっているのです。


既に犠牲者も多大な数に上り、カシューは討伐隊の派遣を決定します。

カシュー「マーモ公も同行するか?」←ニヤリ

スパーク「是非にも」←即答

何やらカシューも嬉しそうです。そういえばスパークと戦に出るのはこれが初めてでしたね。


★3

後日に控えた"砂走り"討伐の前祝いも兼ねて、カシューはスパークたちを歓迎する酒宴を開いてくれました。

まぁこれで開かなかったら炎の部族から非難轟々でしょうしね。そうでなくてもカシューがスパークとの再会で喜んでるだろうし。

フレイムの宴は他国のように格式ばってない。在りのままに食べて・飲んで・笑って・歌えるのが特徴。宴とは本来そういったものです。


ここではスパークが炎の部族の伝統舞踊である剣舞を披露します。刃に獣脂を塗り、燃え上がる双剣による迫力ある舞です。

戦勝祝い出陣訓練見世物、とにかく色々な所で踊られるそうです。スパークも決して上手くないが、人並みには踊れるらしい。

これには宮廷の女官もウットリ……。ところが風の部族の若い騎士隊長アムルが、それを「女の踊り」だと馬鹿にしたのです。

確かにエレミアでは女性が扇情的に踊るし、旅芸人の女性が踊る場合もある。でも炎の部族では老若男女皆踊る伝統舞踊なのです。


この時はスパークも酔ってたんでしょう、拳1発でKO。すると両部族が俄かに殺気立ち、両部族の間に赤い雨が降るかという時でした。

カシューは豪快に笑って喧嘩に参加すると言い出し、「どちらの味方をしようか……」と思案したのです。これには酔いも醒めました。

これは今のフレイムの縮図です。カシューがどちらに味方しても禍根を残し、いずれ取り返しのつかない事態になる。結局宴は流れ解散です。




宴の後、多少明らかに酔っ払ってるニースはスパークを誘って新王城の建築現場へと赴き、多くの事を語りました。


ニース「あの騎士は、剣で斬り捨てられなかっただけ感謝すべきよ」

スパーク「もしかして、酔ってるのか?」

ニース「酔ってなんかいません。すこし、お酒をいただいただけ

いや、だから酔ってるんでしょ。両親不在だから酒を勧める人が多かったんだとか。しかし酔ってるからこそ言える事もある。


ニース「あなたは、わたしのことをどう思うの?わたしももう十五になったわ。子供だって、生むことができる……」

スパーク「特別な人だと、思っている……。好きとか、愛しているとか、そんな思いだけで君を見ることなんてできない」

ニース「安心しました。わたしもスパークのことを特別だと思っているから……」

信頼もあれば尊敬もある。好きとか愛しているという感情もあるし。役に立ちたいとも思う。多くの絆で結ばれている


そういう風にお互いを理解する愛の形もある。だけど人と人との間には様々な愛がある。

ニース「一緒にいるのが自然でいるような関係だってある。好きなことを言い合ったり、素直に感情をぶつけあえるみたいな」

スパーク「仲のいい友達というか、兄妹みたいな関係かな?」

リーフの事だよ。全く何て鈍感な……。最近のリーフとの関係が、既に恋愛の一歩手前にある事に気づいていないのか。


そしてもう1つ愛の形がある。それこそが世界をも滅ぼす程の愛。すなわち最悪だけどある意味究極の愛の形

それは正にかつてのナニールとフィオニスの事です。ここからニースはスパークにも自分が"亡者の女王"である事を告白するのです。

フィオニスとの愛を貫く為に、悠久の時を輪廻転生を繰り返して生き続け、カーディスに仕えて世界を滅ぼそうとした自分達の事を……。




それについてはまずフォーセリアとロードスの創世神話からおさらいしましょう。

その始め巨人独りありき。世界たるフォーセリア、始原の巨人の命終の時より始まれり。
肉は地に、血は海に、末期の息は風に、孤独を嘆き憤る心は炎と変じて熱と命をもたらしたり。
命は神々と生まれたらん。右足からはマイリー、左足からはチャ・ザ、頭よりはラーダ
胴よりはマーファ、邪なる右手からファラリス、善き左手からファリス、体毛は草木、鱗はに。

神々、天と地と海と未だ整わざるを憂い、世界を三つに創れり。
ひとつは精霊界、ひとつは物質界、その狭間に妖精界を。
神々、天に名づくるものなく、地に呼ぼうものなきを憂い、生あるものを整えたり。
精霊妖精を。

神々和してあまた創造なしたれども、いつしか志違う。
ひとたび不和を唱うれば、火の原を燎くが如し。
しかして神々、光と闇に袂を分かち合い争うに、天は振るうて星を落とし、地は裂けて水の底を晒したり。
牙あるものは牙、爪あるものは爪。雲を纏い風に騎り、雷を投げて合戦するも、久しく相持して決せず。

ついに光よりマーファ、闇よりカーディス進み出でて一騎打ちするも、且つ両雄倶には立たず。
アレクラスト大陸の南海に望み、相討ちして果てぬ。
カーディスは今際の際に大地を呪い、マーファは呪われし大地を大陸より切り離し、南海の孤島と作す。
神々の大乱、かくて終結す。神の肉の身たり得た時代の終わりと共に。


以上が大まかな神話です。山田章博先生の「ファリスの聖女」の旧版より抜粋。流麗な挿絵も見たい方はお勧めです。

いくつか補足をすると、ここで言う草木とは世界樹であり、竜とは古竜王です。また獣には人間も含まれます。


こうして誕生したフォーセリアですが、いつか終末の巨人が目覚める事で滅びてしまう事になっています。これは事実だと思っていい。

そして終末の巨人は新しい世界の始原の巨人として生まれ変わる。これが神々をも超越する世界のメガサイクルとでも言うべきものです。

勿論神々ですらこれに抗う事はできず、終末の巨人が目覚めればファリスやファラリスとて滅びる。これは絶対避けられない事です。


しかし例外がある。それは終末の巨人に属する"世界を破滅に導くもの"に仕え、次の世界へ転生するという裏技?なのです。

これこそが「賢者の国の魔法戦士」でマナ・ライの言ってた終末信仰であり、その一例がカーディス教団なのです。

この"世界を破滅に導くもの"こそが"破壊の女神"カーディス、大陸の"魔精霊"アトン、クリスタニアの魔神獣なのです。

これらは未来からやって来るものであり、カーディスは次の世界の大地母神になるという推測が現在最も有力な説になっています。


では何故未来からやって来るのか?それはもう少し後になってから明らかになります。


かくしてナニールとフィオニスはカーディスに仕え、永遠に一緒にいる為に世界を滅ぼそうとした訳です。これは「暗黒の島の領主」参照。

そしてナニールはアラニア建国王カドモスに封印されるも、ある事件で復活。そして色々あって赤ん坊のレイリアさんに更に転生した。

更に彼女はこれまたある事件で"灰色の魔女"カーラに身体を支配され、パーン達に救出され、それが縁でスレインと結婚する訳です。

あとは既に述べた通りにナニールはニースとして自然な生を受け、今こうしてマーファとカーディスの間で揺れ動いているのですね。


しかもこの裏技が通用するとしたら、もしかしたらフィオニスとナニールは今のフォーセリアの更に前から来たのかもしれない。

最早度重なる転生で全てを詳細に思い出す事はできないけれど、可能性はある。とにかくこれは途方もなく壮大なラブロマンスなのです。

更にもう1つある意味最も驚くべき事実は、ニースはウッド・チャックの事を『ジェイのおじさま』と呼ぶという事です!!(笑)

いや確かに本名ジェイ・ランカードですが、まるでカリオストロの城みたい。ウッドに「何方ですか?」と訪ねたら「泥棒です」と答える。




以上の壮大過ぎる話を聞いて、スパークも呆然。これでニースが口にした事でなければ狂人の戯言で済ましたいぐらいです。

でもそれは全て事実です。転生したフィオニスとの邂逅があったのも事実なら、彼女が凄まじい業を背負っているのも事実なんです。

スパーク「今でも、まだ愛している?

ニース「わからない……。でも、もしもあの人と再会したら、わたしは昔のナニールに戻ってしまうかもしれない……」

ちなみにニースは記憶の上で多くの男性経験がある。ニース=ナニール、これは鉄板です。


そしてニースの恐怖は、ナニールに戻る事。あのニースが身体を振るわせるぐらいに。

スパーク「オレはニースを渡すつもりはない。だが、それだけの理由で関係を急ぐようなこともしたくない。
      オレは理性だけで君を好きでいるわけじゃない。感情に任せただけの愛なんて望まない。
      オレが望んでいるのは、マーモ公妃として、公国に尽くし、民を慈しんでくれる女性だ」

ニース「わたしも、今はそれを望んでいる。公妃になんかならなくていい。ただ、あなたの役に立ちたいの。
    そして一人でも多くの人々を幸せにしたい。人々を苦しめるだけの愛なんて、わたしは絶対に嫌……」

そして若い二人は口づけをかわす……と。この愛の形を一言で表現するのは難しいけど、敢えて言うなら無償の優しさ


ニースは以後スパークを安定剤にし、徐々に徐々にマーモ公妃となっていく。しかしその陰でリーフは……。


★4〜6

翌日になるとカシューは約100名の兵を率いて、"砂走り"討伐の為にオアシスの街ヘヴンへと進軍しました。

現在このヘヴンを治めるのは炎の部族出身のアクバー伯爵。また住民にも炎の部族が多いので、スパークのホームとも言える。

かつてナルディアはこの街を巡る戦いで父を失い、族長となりました。後にエフリートの力で奪還し、今では歴としたフレイムの一部です。


この街でアクバーの兵も加え、スパークの護衛も入れておよそ120名になります。これを更に3部隊に分けて討伐を行います。

それぞれの部隊長はカシュー、スパーク、アクバーです。なお例の若い風の部族の騎士隊長アムルは副官としてスパーク隊に編入です。

彼は未だにスパークに対抗意識を持ってるらしく、何かと突っかかってきます。それも見越してカシューは彼をスパークに任せたのでしょう。


アムル「これを機に、砂漠に巣くう魔物どもを一掃するというのはどうでしょうか?」←あてつけ

いかにロードスに魔境がなくなったとはいえ、危険がなくなった訳じゃない。風と炎の砂漠の魔物は、マーモの魔物と同じく根が深い。

とにかく数が多い上に人里離れた場所にいるので、倒すのは相当な労力を要する。要は魔物を殲滅するのは現実的とは言えないんですね。

だからスパークはエレーナを招聘してまで魔獣との共存を図った。彼らも自然の一部であると認め、滅ぼすのではなく鎮める道を選んだ。


それからスパークは単独で馬を走らせて囮にし、相手が少なければ襲ってくるという"砂走り"の習性を利用して誘き寄せます。

スパークは幼い頃この辺に住んでいたし、幼少時代を過ごしたムンロ砦は"砂走り"の巣窟の近くです。流石にその生態は把握してます。

最初は上手く寄ってこないので風の部族のアムル派閥の連中から嘲笑が出ますが、1人の忠実な近衛騎士の働きでついに誘き寄せに成功です。


彼はスパークに恥をかかすまいと、予定より遠くまで馬を走らせたのです。

近衛騎士「賓客を案内してまいりましたぞ!」

スパーク「よくやってくれた!」←休むように指示

近衛騎士「せっかく招いたのですから、接待役も務めさせていただきます

なんて忠実な騎士なんだろう、名前がないのが勿体無いですね(苦笑)


こうしてスパーク隊は"砂走り"×5との戦闘に入り、これを全滅させます。何とスパークは2体を倒しもう2体との戦いでも敢闘しました。

スパークの仲間には魔法使いも多く、スパーク自身も相当の腕前になっているからこそです。ちなみにもう1体はギャラックと部下達が倒した。


しかし肝心のアムルはというと散々でした。何故か砂の中の魔物相手に馬上で戦おうとし、ランスで突撃したり(何処に?)。

アムル「我らは常に、実戦以上に厳しい訓練を積んでおります。心配は無用に願います」

スパーク(実戦以上に厳しい訓練などあるわけないだろ)

結局足元から襲い掛かる"砂走り"に翻弄され、たちまち乱戦です。「これが若さか……」とカシュー(の中の人)なら言うでしょう(笑)


更にアムルは"砂走り"に咥えられて持ち上げられ、足を切断!されたりしましたが、ニースの神聖魔法で縫合して貰いました。

しかし毎回疑問に思うのですが、欠如した身体を再生させるのは"リジェネレーション"、身体を健康状態にするのが"リフレッシュ"です。

では、切断された肉体を接合させるのは?。切断された時に切断面の組織が欠如という程に破損したなら"リジェネレーション"かな。

これがくっつけるのではなく生やすのなら間違いなく"リジェネレーション"ですが。いずれにしろ、彼は未熟さを晒しただけでした。


今までアムルはスパークは無能だと思ってた。風の部族の若者の間では以下の悪口が酒の肴だそうです。

短気で無謀、独善的、ニース・リーフ・エレーナを侍らす女好き、風の部族を差別している、独立を画策している、臆病、ファラリス教団と通じてる、魔物と入れ替わってる、叙勲が遅い、宝を奪われた、剣を捨てて逃げた………

本当に酷い。でも殆どは事実に基づいている。しかしそれだけでもない。


アムル「オレはただ、マーモ公の武勲を見届けただけということか……」

ニース「スパーク様の戦いぶり、覚えておかれるといいですよ。
     風の部族が独善に陥るようなことがあれば、あの方はフレイムのために、そしてロードスのためにきっと立ち上がりますから……」

アムル「ああ、覚えておくとも。マーモ公の大きさは認めても、オレはまだ負けたわけではない……」←悔し泣き

ニース(他人を乗り越えようとするより、自分自身を見極めるほうが、大きくなれるものを……

彼が偏見を捨てられればいいけれど、もし捨てられずにフレイムの実権を握られたら大変な事になるでしょう。

その辺を諭そうとカシューもわざわざ彼をスパーク隊に入れたのでしょうが、果たして彼は変わる事ができるのだろうか。


その後一行はカシュー隊と合流します。すると部下に死者を出したアムルはその責任を負おうとします。

アムル「誠に申し訳ありません……。いかようにも、処分は受けます」

カシュー「戦いに犠牲はつきもの。何より、若い間は功を焦るぐらいでなければならぬ。だが、部下の無念は決して忘れるでないぞ

アムル「カシュー陛下……」←号泣

どうやら今回が初陣だったようだし、彼をスパークと競わせるのも想定通りです。


その後ヘヴンへと帰還したスパークは、炎の部族が多い街だけに熱狂的な賞賛を浴びたという。


★7

そして更に翌日には全員で"砂走り"の生息地へと赴きます。幼いスパークが危うく死に掛けた場所ですね。

かつては不毛の大地だったのに、今や分厚い雲がかかって岩には苔がむし、将来的にはムンロ砦を中心にした穀倉地帯になるかもしれません。

これもディードが水と大地の精霊力を解放した恩恵でしょうね。地元人であるスパークには驚くべき、同時に感慨深い状態です。


"砂走り"達は谷間の低地に集結していて、その数は300を遥かに超える。一行は切り立った崖の上からその様子を観察します。

何と観察中にまで降り出し、砂漠の民が一様に驚く中、"砂走り"達は雨を喜ぶように天を見上げるという世界不思議発見な状況です。


カシュー「どう見る?」

スレイン「わたしの予想が当たっているとしたら……」

カシュー「もったいぶらずに、結論だけ言えよ。講義を延々聴かされるぐらいなら、ここから飛び降りて斬り込んでゆくことを選ぶからな」

スレイン「もったいぶるのが賢者の本業なのですが、そこまで仰せなら仕方ありませんね」

"砂走り"とは、元々羽虫の幼虫。それが砂漠に適応して巨大化した訳ですが、それが数百年ぶりに羽化しようとしてるのです。


この谷間の低地は雨水が集まる伏水流にあたり、これがヘヴンのオアシスになる。彼らが一斉にここに集まるのは生き物として本能かな?

本来の生息地を離れて襲う筈のない人を襲ったのは、水を求めての暴走か、あるいは急な環境の変化で本能が狂ったかしたようです。

ちなみに大陸にも彼らの近縁種が棲んでいて、彼らは羽化した直後に交尾をして死ぬ。雨が定期的に降るなら、子供達が巨大化する事もない。


つまり一行は砂漠の変化の証とも言える生命の神秘を目の当たりにしている訳です。

カシュー「少しは黙れんのか?どうやら始まるぞようだぞ」←薀蓄を披露し続けるスレインに

他の人達も崖の上からこの光景を眺め、スパークに至ってはニースの肩に手を回す。すっかり恋人状態ですね。

でも咳払いを交えてしつこく薀蓄を垂れるスレインの動作を誤解し、慌てて手を引っ込める駄目婿っぷりにニースも忍び笑い(笑)


やがて彼らの背中はパックリと割れ、透明の翅と白い身体の羽虫となりました。"砂走り"とは思えない美しさです。

ただしその大きさは全長2mと滅茶苦茶デカイ。遠目だからいいものを、接近するとさぞ迫力があるでしょう。人間も持ち上げそうです。

しかも彼らはこのまま交尾をして死んでしまう訳ですから、数日して様子を見ると全長2mの虫の死体が300以上も転がってるのか(笑)


最早脅威ではないと判断したカシューは、彼らをそのままにしておきました。

スパーク「マーモの闇は深すぎると思うが、全てが自然に反しているとは思えないんだ。
      そして生命にも、人間にも、闇はある。オレはそれでも生命は尊いと思うし、人間を嫌悪する気にはなれない……」

結局光だ闇だ、善だ悪だと区別しようとするのは人間だから。当の自然にとってはいずれもが必要


醜悪な"砂走り"も、殻を脱ぎ捨て成虫になればこうも美しい。そしてニースにとっても、それは同じなのかもしれない。

確かに彼女がナニールである事は否定できない。でも同時にニースであり、邪悪だった前世はもう脱ぎ捨てた殻に過ぎない……。


第V章 襲いくる妖魔

★1

スパーク達が「諸王国歴訪の旅」からマーモに帰還した一方、クラートは「時の雫亭」でヴェイルと密談を行っていました。


どうもクラートはヴェイルのような絡め手ではなく、直接的な手段を好むようです。

クラート「奴を直接ぶつけたほうが、やはり確実だと、わたしには思えるのだ」

奴とは勿論黒翼の邪竜ナースです。確かに15レベルの老竜。倒せる者は稀だし、暴れだせば甚大な被害を生むでしょう。


しかし決して無敵でもない。現に「邪神戦争」の時はハイランドの竜騎士達に敗れているし、優れた人間と戦えばナースとてタダでは済まない。

魔竜シューティングスターとフレイム軍の戦いの印象が強いせいか、竜は無敵という幻想がある。しかしその魔竜を倒したのもまた人間なのです。

更に金鱗の竜王マイセンにも惨敗し、逃げた。まぁ当時はバグナードは的確な命令を与えなかったせいで、戦術が甘めではあったのでしょうが。


あと大陸では邪竜クリシュがモラーナとファンという2つの国を滅ぼしたと言われていますが、真実は少し違います。

ファン王国は元より貴族同士の不和があり、クリシュの襲撃で本格的に内乱になって滅びただけ。別に一国を殲滅した訳じゃない。

モラーナ王国はクリシュによって王族が皆殺しにされ、その隙に別の国が建国された結果滅びただけ。やはりクリシュ単独ではない。

仮に公国で暴れたとしたら、建物を盾にゲリラ的に射撃をすればイケる。火竜の狩猟場のような障害物のない草原は地の利が悪過ぎました。


一応ナースの魔法的能力を使えば、卑怯な手はいくらでもできますがね。何しろ彼は古代語/暗黒/竜語魔法10レベル!なのですから。

例えば"テレポート"→"メテオ・ストライク"→"テレポート"を毎日のように不規則で繰り返せば、公都とはいえ国民は逃げ出すと思います。

あと誰かの身体に"コール・ゴット"とか。竜語魔法で成竜を複数召喚し、街の各所で暴れさせるとか。卑怯な手はいくらでもできる。

しかし武力に頼って公国を滅ぼしても、本島の連合軍が攻めてくるだけ。だからヴェイルは統治を諦めさせる為に策を練っているのです。


クラート「わしが直接命令を与えられる。最大の幻獣にして魔獣たる古竜、黒翼の邪竜ナースにな……」

いや本物の古竜はシューティングスターとマイセンだけで、ナースは老竜です。まぁ実力的には1レベルしか違いませんがね。

それにシューティングスターと違って暗黒魔法10レベルの能力がある分、もしかしたら古竜にも勝つ事ができるかもしれません。

それと本編では話題に上がりませんが、ナースは暗黒神の加護を得ているので、ダークエルフと同じく精神抵抗+4で魔法にも強い。


それとヴェイルは人形のように無感情な娘を働かせていましたが、これはもしかしたら"スピリチュアル・デス"

対象の心を壊し、自我や感情を奪う恐るべき8レベルの遺失魔法。ただし世界広と言えどもウォートしか知らない事になっている。

一応バグナードはナースの守護していた太守の秘宝"知識の額冠"を入手しているので、それを修得して弟子に教えた可能性はありますね。

いずれにしろヴェイルはこの女性の心を魔法で縛っている。わざわざこんな非人道的な事をしているのも、帝国の機密保持の為です。


兄弟子であるクラートは彼の優秀さは認めている。しかし従属するつもりは全くありませんでした。

クラート「地位を得るも、それを保ち続けるも、実力だけでは足りないことを理解しておればいいのだがな……」←ヴェイルへの皮肉

つまり実力のある者が権力者になるとは限らないというのが彼の持論。確かにそれもまた一つの真理。


何しろ実力主義で知られる旧マーモ帝国にあってすら、無能なくせに大きな権力を持つ人は沢山いた。今の帝国にも同じ事が言える。

更に人が評価を下すのは目に見える力の持ち主です。今のクラートの"竜爪の錫杖"を持ち、それはヴェイルの才能よりも分かり易い実力です。

今は従順に従っていますが、最後に権力を握るのは自分だと言いたげですね。兄弟弟子ですらこの不仲、これも公国との違いの一つです。


★2

一方旅から帰ってもスパークは陳情漬けの毎日でした。

スパーク「カシュー王の偉大さが、またひとつ分かったよ。謁見を嫌な顔一つせずこなしておられた」

アルド「人と話をするのがお好きですから。そしてどんな話題にも関心をもたれます」

スパーク「オレもそうありたいが、今は真似できそうにない。要領を得ない話を聞いていると、いらいらしてくる」

リーフ「それは人間としてまだまだ未熟ということよ」

確かにカシューは会話の好きな人でした。好奇心旺盛というか、少年の眼をしたオッサンというか(笑)


ちなみに最近のリーフは赤と緑の道化服を着ています。どうやら本格的に宮廷道化師になりきろうとしているらしい。

ただ本来道化師とは笑いの中に含蓄も織り交ぜる機知も必要なのですが、リーフの場合辛辣なだけで一切笑いも含蓄もありません。


それに例の「諸王国歴訪の旅」で色々な人を招いたし。文化的にも経済的にも、徐々にではあるけど盛り上がってきているようですね。

ドワーフ達が腐銀の陶器を作り、ラーフェンと弟子達がマーモ印の薬草を作る。更にライデンの商人がサルバドを貿易拠点にしようとしてる。

また最近は宮廷にも多くの人が出入りするようになりました。芸人、庭師、料理人等々。それで何故本職の宮廷道化師がいないのか。


勿論そうして招いた一番最初の人であるエレーナも健在です。最近では自分の屋敷も持ち、完全にマーモに根付いてしまいました。

何処かで魔獣が現れたと聞けば、すぐに飛んで行ってこれを鎮める。例え無駄足になっても気にしない、それも幸せだから。

更には元の美しさに加え、最近では明るさも身に着けつつあるので、独身の騎士達の間でエレーナの争奪戦も繰り広げられているとか。


その日のスパークは多くの人を招いて晩餐を共にしました。エレーナは勿論、マーファのフェリーナ司祭や、ファリスのアリシア司祭も。

スパーク「アリシア司祭はギャラックに迎えに行ってもらおう。マイリー神殿のグリーバス司祭だが……」

リーフ「わたしが迎えに行くわ。どうせ、地下のマーファ神殿には、公王陛下が自らいくんでしょう?」

スパーク「よく分かったな」←言い切った!

もはや2人は婚約者も同然ですからね、隠す方が変ですよ。でもリーフはちょっと不満のようです。


★3〜4

そうして賑やかな晩餐が始まりました。いつものメンバーにゲストを数名、そして上級騎士も数名という大所帯です。


しかも出される酒は何とスカードの麦酒。薬草師のラーフェンが醸造してくれたもので、酒好きのグリーバスには大好評でした。

曰く、苦味があって格段に美味いんだとか。そういえば"鉄の王"フレーベをはじめ、石の王国のドワーフ達も大好物だったそうだし。

ラーフェンがタトゥスやナシェルの関係者なら、その醸造方法を知っていてもおかしくない。確か水に秘密があるとかタトゥスは言ってた。


現在この場にいる神殿関係者はファリス、マーファ、マイリーです。この時点では五大神の残り二柱の教団はマーモに来ていないのかな?

つまりチャ・ザとラーダですが、そういえばロードスにはこれらの主要キャラはいない。一応将来的にはこの2宗派も神殿を構えますが。


スパーク「エレーナ師には、この島はどのように映りましたか?」

エレーナ「神々の大戦は、この島では伝説でも神話でもなく、未だに現実だという気がいたしました。
      始原の混沌が強く残っているのでしょう。妖魔や魔獣にとって生息に適しているに違いありません」

こうして彼女はこの島の混沌さを可愛らしく熱弁。これには愛想笑いしていた上級騎士達もドン引き(笑)

彼女は割りと普通の感覚をしていると思っていたけど、長年魔獣と暮らしていてそんな筈がなかった。やはり魔術師なんですね。


それでも可愛いのでギャラックですら褒めます。

ギャラック「何というか、掴みどころのない性格だと思わないか。ライナとは、まるで正反対だ」

リーフ「彼女に言いつけるわよ。彼女の争奪戦は、部下たちに任せておきなって」

ギャラック「分かっている。オレは、ライナ一人でさえ持て余しているぐらいなんだから」

リーフ「はいはい、御馳走様

リーフ曰く、冷めた夫婦は悪口すら言わない。男女の関係は面倒ではあるけど、それが日常にもなるから不思議なものです


更にエレーナは夕食の不味くなるような話を続けます。何と彼女は巨大な漆黒の鱗を入手していたのです。

既に一連の魔獣出没事件は竜の咆哮によるものだと推測できている。加えてこの闇竜の特徴とも言える黒い鱗………。

しかもその竜はヒュドラを実力で追い出したと推測され、その元住処と思しきエレファスの山頂の湖に落ちていたのがこの鱗です。

魔獣をビビらせ、ヒュドラを負かす、黒い鱗の竜。それが普通の成竜だとは考え難く、どうしたって黒翼の邪竜ナースの存在に結びつく。


全く食事の不味くなる話でしたが、先延ばしにされていきなり遭遇してもアレなので、これで良かったんですよ。

ちなみにナースの鱗の大きさは大皿ほどです。シューティングスターの鱗が盾になった事を考えると、老竜と古竜で鱗の大きさはほぼ同じ?


晩餐が終わった後には、新キャラのアリシア司祭も溜息が出ます。到着早々老竜とか、普通の人だったら逃げますね。

アリシア「マーモの闇の深さを思い知らされた気分ですわ」

ちなみに彼女は二十代半ばに見える二十代後半。髪の毛は栗色、唇には紅を引いていて、エレーナとはまた違った大人の魅力(笑)


ナースの存在に正直ビビリ気味な一同。気まずい雰囲気の中、スパークは笑顔を浮かべて場を和ませようとします。

リーフ「何、顔を引き攣らせているのよ

スパーク「爽やかに笑ったんだ。心が歪んでいるから、そんな風に見える」

リーフ「そんなことを平気で人に言うほうが、心が歪んでるって証拠じゃない!」←待ってました

相変わらずの痴話喧嘩ですが、これが意図せず彼らのムードメイクにもなっている。


★5〜6

晩餐の後に緊急の用件で謁見が求められました。その用件とは、公国の直轄地ベリルの村妖魔の集団が出没したというのです。


ベリルの村の郊外の丘にはファラリス大神殿があり、「邪神戦争」の時にはヴァリスとファラリス教団の壮絶な合戦が行われた場所でもある。

その戦いは神話の時代もかくやという程で、"闇の大僧正"ショーデルがファラリスを降臨させ、多くのヴァリス兵を石化させました。

この際ヴァリスの神官王エトだけは無事だったといいます。多分超英雄ポイントの力で自動的に抵抗に成功したのでしょう。


その後ファリス神殿を建造すべく派遣された神官戦士団が謎の全滅を遂げ、多くの冒険者達も探索に出たっきり帰ってこなかったという。

実は「邪神戦争」の後に多くの冒険者がマーモを訪れました。彼らは例の妖魔・魔獣狩りの時も、本職だけに多大な貢献をしたという。

冒険者は実に多様な存在です。ならず者同然の人もいるけど、真に優れた人物もいますから。大神殿に入ったのは宝物庫でも狙ったのでしょう。

ちなみに神官戦士団は全員撲殺か殴殺です。凶器は刃物でなく、鈍器や徒手空拳技という事ですね。この時点で約1名怪しい人がいます(笑)


しかも山にはかつてゴブリン・シャーマンに率いられたゴブリンの部族もいたといい、もうあらゆる意味で不吉な場所です。

ただその部族は戦争で徴兵され、そのまま帰ってこなかったらしい。帝国にとってはゴブなんて捨て駒に過ぎないという事です。

ちなみに繁殖力旺盛なゴブは頻繁に部族分けを行う。その際人里に来たものは退治する、それがこの島での慣例だったといいます。

この暗黒の島において、ゴブは数こそ多いけど決して強い種族ではない。オーガーの餌になったり、人間に退治されたりと切ない種族です。


そういう曰くつきの場所なので、スパークがお馴染みのメンバーとアリシア司祭と共に直々に調査に赴きました。

いや本来そういうのは配下の騎士に任せるべきなのでしょうが、一応公国の直轄地だし、アリシア司祭への信義を見せる機会でもある。

実は神官戦士団が全滅した件にはフレイムに謀殺されたという噂もある。事実無根ですが、当時の太守シャダムも犯人は挙げられず終いです。


ところが村に着いてみると、出迎えの村人の多くは謎の熱病に侵されていたのです。多少体がダルイという程度の軽いものでしたがね。

スパーク「病気の村人を無理に並ばせたのか

ギャラック「それよりも、陛下に病気が伝染したら、どう責任を取るつもりなんだ」

近衛騎士「も、申し訳ありません」

彼とて良かれと思ってした事でしたが、スパークはそういう事は望まない王様なのです。


ちなみにこの村には少なからずファラリス信者もいるようでした。

スパーク「暗黒神の信者というだけで捕らえるつもりは、今はない。しかし、罪を犯した者は厳しく罰するつもりだ」

これもまた闇との共存方法ですね。魔獣はできるだけ鎮める。ファラリス信仰も根が深いから、法に反した場合のみ罰する。


村では実に怪しい噂も聞けます。曰く、巨大で透明な怪鳥が煙を吐いて飛んでいたという。実にぶっ飛んだ話ですね。

ところがこれもヴェイルの謀略の一つです。その詳細は次巻に委ねられますが、村人の病もその謀略のせいで、何と竜熱なのです。

本来ハイランドの竜騎士のみがかかる、一種の職業病です。微熱が続くだけの温い病気ですが、恐ろしい事にこの病は不治でもある。

魔神戦争の頃に金鱗の竜王を従えたハイランド王マイセンも、後にハイランドの王位を引き継いだジェスターも、この竜熱で衰弱死したという。


本来死亡するまでに最短4年かかる病気でもあり、覚悟を決めている竜騎士達にはむしろ名誉。しかし予備知識のない一般人には脅威です。

知名度は10と割とメジャーな病気なのですが、この時点では誰にも分からない。リーフの診断で若干炎の精霊力が強い事が分かる程度です。

フォーセリアの病とは精霊力の異常です。炎が強いと発熱し、風が強いと咳やくしゃみが止まらなくなり、水の異常は水疱や脱水症状。

そして大地の異常は腫れ物・関節痛・筋肉のしこりとなる。更に精神を司る精霊のいずれかがどうにかなると、心の病にかかるという。


またこの場でニースも"キュア・ディジーズ"を試みて失敗したようです。竜熱は「不治」だから、例え"リフレッシュ"を使おうとも治らない。

あるいはこの病気そのものがある種の呪いなので、"リムーブ・カース"が必要なのかもしれない。何故呪いなのかは次巻で明らかになる。


★7〜8

翌日になると一行は妖魔退治で山登りです。ニースとアリシア司祭は村人の診察と看病があるので村に残ります。

この際スパークはカシューから貰った魔法の剣と金属鎧を装備します。軽量化の魔力もあるので厳しい山道でも苦にならない。

ただしギャラックと近衛騎士は鎧を脱いでしまいます。山登りにフル装備では戦闘になる前に疲れるだろうし、仕方ない事ではある。


しかし既にこの山にはゼーネアやカイレルが潜伏していて、カイレルの鍛えた一芸ゴブリンズが様々な罠を張っていたのです。


最初の罠は斜面を削られた道に仕掛けられていました。足元は垂直の崖で、眼下には川が流れているという危険な場所です。

ここでゴブは岩を落とし、更に斜面を滑り降り槍で突撃。そして川原にまで降りたらそのまま撤退という、実に見事な戦術です。

これで仕留められたのはおよそ10匹の内3匹のみ。引き際が見事すぎて追撃もしかけられない。カイレルの調教は実に素晴らしいですね。


この際グリーバスに岩が命中し、そのまま崖を滑り落ちて川に転落。大地の妖精だけに水が嫌いな彼は精神的ダメージを受けました。

仕留めたゴブの内1匹はリーフの"スネア"で転倒し、グリーバスと一緒に先に崖下に転がり落ちていた近衛騎士が倒しました。

もう1匹はライナが鞭で宙吊りにして窒息死させます。しかも突撃ゴブリンの槍が足に刺さりながら。最早必殺仕事人かという手並みです。

最後の1匹はスパークと一緒に転がり落ち、岩に衝突して死亡。でもスパークはゴブの潰れる感触を味わい、軽くトラウマになったという。


次の罠は落とし穴とオーソドックスですが、穴の中に毒の短剣を持つゴブがいるという、ほぼ特攻とも言えるものでした。

リーフ「公王陛下ってば、やっぱり……」

スパーク「不幸じゃないぞ。落ちたのがオレじゃなければ、危ないとこだった」

現在スパークとグリーバス以外は軽装です。他の人でもゴブは倒せるでしょうが、毒の短剣で一突きにされて即死だったでしょうね。


スパーク「次はどんな手を打ってくるかな」←楽しそう

ギャラック「冗談じゃありませんぜ」←顔真っ青

ゴブに殺されたんじゃ死んでも死にきれないしね(苦笑)


最後の罠は山頂付近、ゴブの巣穴の前の開けた場所に仕掛けられていました。遮蔽物のない場所なので、単純に弓矢で攻撃です。

ここではリーフが"ミサイル・プロテクション"を前衛5人にかけて突撃です。ただ彼女の精神力15でそこまで賄えるかが疑問です。

これで倒れないところをみると、2点消費ですね。この魔法の基本消費精神力は20なので、10レベルないとそれは無理なんですよね。

加えてこの魔法は空間にかけるものなので、個人にかける事はできません。もし半径5mの空間を出れば矢スパークが誕生します(笑)

あるいは団子状にかけたのかもしれない。グリーバスから精神力を補充してもらい、3つぐらい重ねて30m弱の安全地帯を作ったのかも。


これらの罠を潜り抜け、一行はゼーネアとカイレルと対峙します。ただし彼らはゴブリンズと一緒に崖の上なので攻撃できない。

ゼーネア「わたしはゼーネア。先の族長ルゼーブの娘!」

カイレル「オレはカイレル。おまえたちの顔は、覚えているぞ」←腐銀の時ね

スパーク「おまえたちを掃討するつもりはない。人里には近づくな。妖魔の領域にいるかぎり、オレは決して手を出さない」

ゼーネア「また、会おう!」

これが彼ら妖魔の宣戦布告だったのかもしれない。


以後ゴブのいなくなった洞窟にはエレーナが魔獣を守護者に封じて守らせたそうです。これでもう二度とゴブは帰って来れない。

ただあまり凶暴なものを置くと村人が恐がるので、美観も考えてグリフォンやヒッポグリフあたりで手をうった方が良さそうですね。


今回の件でゴブは弱いとはいえ、犠牲を省みない上に数に頼った戦術を取られると十分恐いという事が明らかになりました。

しかも彼らは以後公国中で神出鬼没のゲリラとして活動する。それを防ごうとすれば相当数の騎士を配備しなければいけません。

現在公国には騎士がおよそ3000騎います。普通の騎士はおよそ2000騎で、その内500を公都の守りに置いているのが現状です。

彼らを領地に帰して守らせるのはいいとして、そうすると公都が手薄になる。しかし国民に犠牲が出れば威信も何もあったものではない。


軍事力や経済力を固めつつある公国も、こういった統治を困難にさせ威信を傷つける攻撃に何処まで耐えられるか……。


第W章 暗黒神殿の廃墟で

★1

ゴブリン軍団との戦いの翌朝、一行は続けてファラリス大神殿の調査へと赴きました。


その前に早起きしたスパークは水浴びをしていたのですが、そこに狙ったようにニースが。ていうか昔のマンガか

ニース「スパーク様?」←ゆでだこ

スパーク「ニース……待祭」←大慌て

この世界では(国柄もよるけど)裸を見られるのはそんなに抵抗はないらしい。しかし見る方は構うでしょ(苦笑)


2人の仲は少しずつ、しかり着実に狭まっている。朝の散歩をする2人は傍目には微笑ましいカップルです。

しかしその一方でスパークはリーフとも仲がいい。それは所謂恋人らしいものではないけど、仲がいいとしか言えないものです。

口喧嘩をしながらも、リーフはスパークの頼み事を当たり前のように聞く。そして彼の外出中に鎧を準備したりと、最早幼馴染キャラです。


それでもスパークにとって彼女は友人です。だからこそ"公王の友人"。それは唯一無二の存在だけど、逆に言えばそれ以上にもなれない

前巻の時と比べると微妙にリーフはその事に抵抗を覚えつつあるのが分かります。そしてこれは今後加速度的に強くなっていくのです……。


★2

スパーク達が大神殿へと向かう一方、現在神殿を管理する闇司祭オルフェスは村人の1人から情報をリークされてました。

既に登場したように新生マーモ帝国のファラリスの神官戦士団を統率する男で、名乗りはしないものの高司祭級の実力者です。

鍛えられた筋肉がはちきれんばかりに盛り上がる長身の男で、髪はひと房のみ残して剃り上げ、全身に香油を塗っている何かが凄い男です。

しかも挿絵では瞳が小動物のようにつぶら。最初見たときは思わず吹き出しましたが、彼はある特殊な力を持つ恐るべき強敵なのです。


オルフェス「一行のなかに、至高神の信者はいるか?」

農夫「はい、ファリスの聖印をつけた女性司祭が一人おります」

オルフェス「殺すのは、その女だけでよいか……

このように無闇やたらに殺人に走るタイプではないようですが、ファリスは絶対見逃さない冷徹さもある。


勿論彼こそが例のファリス神官虐殺事件の下手人であり、それを果たすだけの恐るべき徒手空拳技の使い手なのです。

十数人の神官を素手で殺すなんて、巨人族もかくやという実力です。もしかしたらファイター/U(アンアーム)とか持ってるのかも。

これは本来ケイオスランドにのみ存在する技能であり、要は格闘家の技能です。いや普通のファイター技能でも格闘は可能ですけどね。


そう呟いて立ち去ろうとするオルフェスに、農夫は情報料を控えめにおねだりします。

農夫「あ、あの……闇司祭オルフェス様」

オルフェス「褒美が欲しいのか?」

すると彼は金貨を1枚(銀貨10枚分)あげました。ファラリス的には禁欲は悪徳なので、農夫の要求は信仰上当然の事なのです。


オルフェス「神殿を訪れるも自由。しかし、それを阻止するのもまた自由なのだ」

為したいように為す、それこそがファラリスの教義なのです。


★3〜4

現在のファラリス大神殿は異様な雰囲気に包まれています。毒なのか呪いなのか苔さえも生えず、異様な臭気に満ちている。

ここでおよそ1000人以上もの犠牲者が出た事を考えれば、何処かに不死生物が潜伏し、夜になれば姿を現す事もありえる筈です。

この世界では死者が不死生物と化す事は自然にある事で、このような古戦場なら尚更。「いにしえの滅びの街」のような災害地も然り。


スパーク「不死生物は黄色いオーラを放つと聞いている」

確かに負の生命の精霊力は黄色く見えるとよく言われるが、実際には精霊使いの"センス・オーラ"は視覚的には見えない

よって黄色いオーラ云々は本来誤りなんです、だって見えないんだし。実際の"センス・オーラ"とはむしろ嗅覚に近いものだという。


この危険な場所を進むにあたり、2人の近衛騎士はアリシア司祭とニースをガード。

リーフ「なんで、あたしのところに来ないのよ!

スパーク「普段の行いだな

普段リーフは近衛騎士をからかっているから。加えて彼女の実力もよく知られている。


アリシア「わたしは神官戦士です。彼女を護衛してあげてください」

ギャラック「心配しなくていいですぜ。この娘だって、元傭兵ですから」

アリシア「こんな少女が、元傭兵?」←驚き

戦乱が続けば戦災孤児もでき、そういった子供が傭兵として生きる事がある。事実フレイム傭兵隊には数百名の少年少女がいた。

入隊は13歳からですが、一人前になるまで実戦には出せません。でもリーフは両親譲りの魔法と戦士の技術があったので、すぐ正式に採用。


アリシア「彼女のような不幸な少女をこれ以上増やさないためにも、この島に完全な秩序を取り戻さなければならないということですね」

スパーク「不幸な少女だって、さ」

逆に言われてしまうと何だかな。でもリーフ自身は自分を不幸だとは思わない。どんな時にも心持次第で幸福にも不幸にもなるのだから。

父親を殺され、母親と生き別れ、傭兵に身を投じる。そして今は暗黒の島です。それでも幸福だと思えるのは、ある意味凄い事かもしれない。


それから一行は荒廃しきった神殿の探索を進め、一番奥の礼拝所の祭壇の間でオルフェスと遭遇し、アリシア司祭と一触即発。

近衛騎士「闇司祭なのか!」

オルフェス「ファラリス神は闇を守護していたゆえ、我らにとってそれは尊称なのだ。闇を邪悪と定めたは、至高神を僭称する神の従僕よ」

アリシア「闇そのものは邪悪ではないかもしれない。しかし、その中に蠢く者どもの多くは邪悪というしかない」

オルフェス「天に正義を求めるゆえ、自分自身を呪縛することになる。人とは本来、自由なもの。
       自由な人の営みの結果として、社会が成り立ち、歴史が綴られるべきなのだ。
       寛大なるファラリス神は、世界を人間に委ねるために、世界の全てを下僕とせんとしたファリス神と戦ったのだからな」

アリシア「人間が世界で一人だけというなら、欲望のままに生きるのもよいでしょう。
      しかし世の中には大勢の人間がおります。もしも秩序がなければ、社会は崩壊し、
      人間は獣のごとき暮らしを強いられることになるでしょう。正義と秩序を守ればこそ、人間は栄えていられるのです」

いきなり宗論勃発。ファリス信者とファラリス信者は正に犬猿の仲、水と油。本気で宗論を始めると非常に面倒な事になる。


実際には両方とも一理ある。ファリスとは秩序、ファラリスとは自由。そして人とは秩序無しに生きられず、自由という混沌を欲するもの。

秩序のみだと世界は定常化するが、それ以上の変化は望めない。自由のみの世界は変化こそ起きるが、その変化は進化でも退化でもある

法と秩序を重んじて奇跡すら行使できない頭の固いファリス信者がいるし、完全なる自由であるが故に邪悪に走るファラリス信者も多い。

結局は極論は正論にはならず、その中間にこそ答えはある。大切なのは秩序と自由のバランスです。いずれかが欠けても人は不満を覚える。


最初はスパークも彼がファラリス信者というだけで罪人扱いせず、公都へ連行して尋問するだけにするつもりでした。

ところが近衛騎士が剣の平で強打しても痣一つできず、何気なく繰り出した拳の一撃で金属鎧を変形させて気絶させます。

続けてもう1人の近衛騎士が刃を立てて斬り付けるも、オルフェスは腕一本でガード。勿論素手ですが、血の一滴すら出ない!

明らかに普通ではないディフェンスです。加えて近衛騎士の腕を捻り上げて粉砕し、ギャラックの右肩を一撃で砕く驚異的腕力も秘めている。


オルフェス「わたしは無差別に人を殺す意志はない。
       しかし、わたし自身の自由な意志に従い、ファリスの神官だけは見逃しはしない

アリシア「おまえが、調査隊を!」

これで公国にとっても彼は罰するべき人になった。でも彼の不死身の能力の秘密を解き明かさないと、勝利は難しいでしょう。


幸いニースの"ピース"によって全員が生きて帰る事はできました。いつかのヒュドラ戦同様、彼女のお陰で命拾いしましたね。


しかし結局は逃げ帰る形になってしまいました。するとヴェイルの密偵による情報操作で、この不名誉がマーモ中に広まった

更にゼーネア率いる妖魔軍団が神出鬼没の略奪者となって暴れ回り、闇の森に程近い公国の砦が暗黒騎士団によって陥落

そしてマーモ中に広まる不治の病竜熱の脅威。一時は退けたかに見えたヴェイルの謀略が、更なる勢いで公国へと襲い掛かったのです。







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