「ベルダイン熱狂!」著:山本弘/グループSNE 出版社:富士見書房

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★はじめに

この「SWアドベンチャー」は、「サーラの冒険」でお馴染みの山本弘先生が「ドラゴンマガジン」誌上にて連載していた作品です。

それだけなら他のSW小説と一緒ですが、この作品は読者参加型双方向小説(インタラクティブ・ノヴェル)という点が決定的に違います。

つまり読者の応募ハガキが反映した作品なのです。主人公、ゲストキャラ、事件、アイテム、トラップ、セリフ、歌、etc...全部です。


山本先生は先立って同誌上にて「フォーセリア・ガゼット」というコーナーを連載していまして、それを発展させた作品といえます。

このコーナーはフォーセリアで起こる様々な事件を新聞形式で紹介していました。勿論読者のハガキを採用したりして。

しかしそれだけで終わらずに、何と読者のアイディアを編集して小説にしてしまったんです。きっと途方もない手間がかかったでしょう。

月に何百通と送られてくるハガキに目を通し、一つのお話しにまとめるなんて……並大抵の労力ではありませんよ。


古今東西このような読者参加型の企画は数多くあれど、全5巻の長編小説として完成させた例はちょっと珍しいでしょうね。

多くの読者のアイディアが集っただけに、一人の脳みそでは考え付かないような、実にバラエティーに溢れた作品となっています。

勿論巻末には採用者のリストも載っていますし、キャラやアイテムのデータも他の本と比較すると非常に多く収録されています。

小説に登場したアイディアだけでなく、小説に使われなかっただけの優秀なものもできる限り収録されていて、1冊だけでお腹一杯です。


フォーセリア世界は共有世界(シェアード・ワールド)です。複数の作家が同一の世界観の下に作品を発表してきました。

しかしこの世界は何も公式からの一方通行ではない。ゲームのユーザーや小説のファン達もまた、それぞれの物語を紡いでいるのです。

その全てを把握する事なんて最早不可能と言っていい。確立した共有世界は、空想世界ではありますが、自律しているのです。

きっと世の中には、公式の作家達の考えたものにも負けず劣らずの、素晴らしいアイディアを持った人が数多く存在している。

普通彼らは公式の作家ほど大っぴらに活動する事はないけれど、この「SWアドベンチャー」ではそういった才能を持った人達が数多く参加している。


私自身は残念ながらリアルタイムでこの祭りに参加してはいません。非常に残念です、あと数年早く生まれてこの企画を知っていれば……。

悔やんでいても仕方ないので、私なりにこの作品を楽しもうかと思います。私なりにレビュー形式で、思いを綴っていきたいです。

素晴らしいストーリーも当然ながら、読者応募のキャラやアイテムもできる限り漏らさずにチェックし、色々コメントしていきます。

そういったコメントに比重を置いて、ストーリーそのものの語りは他の作品と比べると素っ気無くなるやもしれませんがね。


★登場人物紹介

では本編に入る前に、一癖も二癖もあるこのシリーズの主人公達を見ておきましょう。応募総数なんと2000通だというから凄い。

それだけの数の応募者の中から選ばれただけに、本当に癖のある人ばかり。採用者はどういう思いでこの作品を見ていたんでしょうね……。

脇キャラだって嬉しいだろうに、レギュラーなんかになったら堪らないでしょう。例えるならラーメン○ンやロ○ンマスクの応募者のようなもの(笑)


イーシャ・レン・ギルガメッシュ 17歳

シーフ4、ソーサラー/レンジャー2、セージ/バード(音痴)1。オランの中流階級の家に生まれた赤毛のハーフエルフの少女。

幼い頃から魔法の勉強をしてきたが、武闘家を目指して15で家出。そのボーイッシュな性格からボウイと呼ばれている。趣味は銀細工収集。

器用度と敏捷度が19もあり、その上両利きで明らかに盗賊向き。メインの武器は(メイジスタッフ)だが、セスタスで2回攻撃も可能。

ある理由があって音痴でもある。呪歌"ビブラート"でガラスが割れるジャイアン・ボイスの持ち主。現在はレイハと組んで冒険者をしている。


サティア・アディ 39歳

バード/プリースト(ヴェーナー)4、レンジャー2、シーフ1。あと一般技能のウェイトレス4コック3も持つ多才なハーフエルフ。

外見15歳ぐらいの少女だが、実は旦那もいる子持ち。17でヴェーナーに入信、20歳で結婚したが、現在夫は謎の蒸発中

ベルダインの酒場に生まれたので家事全般が得意。差し詰めパーティーのおっかさんである。また何故か魔法のアイテムが苦手

筋力は7と貧弱なものの、敏捷度と精神力は18もある。夫を捜す旅の途中でリュクティの理想に共鳴し、行動を共にするようになる。

ヴェーナー司祭なだけに音楽も達者で、取得呪歌は"ヒーリング"、"レストア・メンタルパワー"、"レジスタンス"、"サモンスモール・アニマル"。


シャディ・ビーン 19歳

シーフ5、レンジャー/バード/シャーマン1ダンサー1。クセのある金髪と白い肌が特徴。パーティーのお色気担当?

プロミジーの盗賊ギルドに属していたが、ギルドマスターの息子をぶん殴って逃走。現在はベルダインのカジノ「竜の目」で踊り子をしている。

露出の高い格好をしているせいか、露出を嫌悪するレイハとは犬猿の仲?。抜け目のない性格をしているようで妙に善人。

器用度は18あり、なんと敏捷度24(人間の限界)という駿足の持ち主でもある。実は盗賊として非常に高い素質を持っている。

愛用の武器は"チャーム・ブレード"。ミスリル製の紺碧のショートソード(3)で、踊りに使うと"チャーム"の効果がある。


ティリー 16歳?

シャーマン4、シーフ3。幼い頃に秘密結社「死神」に誘拐され、暗殺者として育てられるという悲惨な生い立ちを持つ少年。

「死神」はタラントの騎士団によって潰され、保護された彼はとあるハーフエルフの精霊使いに預けられて社会に適応できるよう更生。

自分の名前も両親の顔も覚えていなくて、世間の常識にも疎い所がある。そんな自分に怯えつつも、快活で明るい少年として振舞っている。

器用度・知力・精神力が18あり、知力も20と異様にスペックが高い。現在はベルダイン在住の魔術師ボー・クラモンの屋敷で下働き。


リュクティ・アルバスノット 25歳

ファイター/バード4、レンジャー1。本編の主人公?。借金王であり、女運も悪いが仁義に熱い素敵なバカという、いかにも主人公な男。

銀製や魔力を帯びた武具を好み、左利きの為にリュートは割高であり、服道楽の食堂楽でその上女の子へのプレゼントも欠かさないので借金多し

そのくせ女の子に贈る歌は1ゾロ連発で成就した試しなし。気さくな性格なのでメスモンスターや子供やグラスランナーにばかり好かれる。

そんな彼だが、なんとフォーセリア初のロックバンドの結成を志している。現在はサティアと行動を共にして充てもない未来を模索中。

愛用のリュートはミスリル弦を使ったストラスフォートレスU世。真鍮の腕輪"ブラスバンド"はダイヤルを回すと"マーチ"が流れる(けど使わない)。


レイハティア・アリアレート 23歳

ファイター4、レンジャー/セージ3、バード2。ミラルゴの有力部族の族長家の次女。族長となる姉を補佐する為に見聞を広める旅に出た。

長身で冷静沈着で思慮深いワイルドな美女であり、年下の女の子の人気は高い。素っ気無いようで実はとても優しく、母性的な女性。

何故かどんなに暑かろうとも顔以外の肌は出さないが、本人は平気らしい。やや文明の送れた土地で育ったので魔法は全てまじないである。

敏捷度・精神力18で、筋力は20もある。愛用の武器は"フレイムブレード"。コマンドワードで"ファイア・ウェポン"が発動する。

ただし基本消費精神力の10点をそのまま消費してしまうので、自力では1日1回が限度。攻撃力等への修正はないシャムシール(20)。


以上の6人がこの物語の主人公達です。6人中4人が女性で、何となくリウイを髣髴とさせるハーレムっぷり。ただし恋愛感情はなかなか湧かない。

何と彼らはフォーセリア世界初のロックバンドを組んでしまうんですよ。剣と魔法のファンタジー世界なのにロックというこのギャップ。

勿論現代的なシンセサイザーやらエレキギターやらベースやらはないので、リュートとかドラムが主要な楽器ですけどね。


この型破りな傾向がまた山本先生らしいというか……。まぁファンタジー世界でロックバンドを組んじゃいけない理由はありませんけどね。

ただし全く普及していないジャンルなので、世間様の反応は厳しい。余りにも新し過ぎるものは受け入れられないものです。

挫折もあれば苦労もある、そんな中リュクティは悩みながらも彼なりの音楽を作り上げていくのです。ある意味天才かもしれませんね。


勿論シリーズ全体を見渡せば、ただのバンドの苦労話ではありません。バンド活動の傍ら剣と魔法で大冒険もやらかします。

やがて彼らは世界を揺るがす大事件に巻き込まれたりするのです。それじゃあただの英雄譚になってしまうので、音楽も最後まで忘れません。

全ては読者諸氏のアイディアによって紡がれていった作品なので、山本先生自身何処に行き着くかは全く予想できなかったでしょう。

それでもこれほどの作品に仕上がったのだから驚きですよね。途方もない人数で回したバトンが何処に行き着くのか、ユルリと見ていきましょう。


第1話 天の光はすべて星

★1 ボーダーランド

この物語の前半は西部諸国のベルダインを舞台に繰り広げられます。西部諸国で最も経済的に発展した国であり、芸術の街でもある。

ベルダインは"親子都市"とも呼ばれています。港のあるゴミゴミした旧市街と、丘の上の美しい新市街に分かれているのがその由縁です。

「自由人の街道」の重要な中継点であり、東に行けばすぐレイドでその果てにオランがあるし、西にはザーンを経てリファールへ行き着く。

言わば西部諸国の表玄関であり、人も物も文化も盛んに行き交います。10カ国の中では最も先進的な国と言えるでしょう。


ボウイとレイハはそのベルダインに向かう幌馬車の護衛についていました。山賊団の襲撃に遭うも、軽く撃退するのがこのパート。

言わば2人の顔見せの為のパートであり、彼女達にケチョンケチョンにされる山賊どもは絵に書いたようなやられキャラでした。

全員が全員同じ同じようなレザーアーマーにショートソードで、構成も首領1:幹部4:手下16というルールブックにもある典型的なものです。

首領とは言っても所詮3レベルで、幹部は2レベル、手下は1レベルとなっています。この2人が相手じゃどうにもならん連中ですね。


一応敵は21人もいるので、タイマンでは負けないものの普通にやってたら何ラウンドかかるか分からない。数は脅威という事です。

ところが初っ端ボウイの"スリープ・クラウド"で範囲内の手下9人、幹部3人がお寝んね。あっという間に首領1人、幹部1人、手下7人です。

手下の精神抵抗は8(1)で、幹部は9(1)です。ボウイの魔力は4だから達成値1回振りで固定値を使うと、5以上出せば寝ますね。

恐らくは寝なかった連中は抵抗したのではなく、単純に半径5m範囲内に入らなかっただけでしょうね。哀しいまでにやられキャラです。

こんな連中には"フレイムブレード"やそれ以上の魔法は必要なく、山賊どもは通常戦闘で2人の女性に惨敗したのでした(笑)


★2 ミッシング

その頃ベルダインでちょっとした事件が起きていました。その事件とは若い男女が衣服だけを残して消失するという奇妙な事件でした。

調査の結果何らかの魔法の薬で体を小さくされて誘拐されたらしく、中年衛視のフォーク魔術師ボー・クラモンの屋敷に事情聴取に赴きます。

実は以前にもこの老魔術師の屋敷から同種の薬品が盗まれて犯罪に使われた事があったのですが、今回は無関係でした。


ボー・クラモン 60歳

セージ8、ソーサラー5。ベルダインの高級住宅街に住む老賢者で、ベイカーという執事を雇っている。またつまみ食いの癖がある。

家はベルダイン城の真北にあり、ラーダ神殿の目の前にある。「猫だけが知っている」や「帰ってきたドラゴン」などにも出演。

知力は19もある。ベルダインのような小国だと、8レベル賢者というのはなかなか凄い人材だと思う。


ベイカー 52歳

セージ2、バトラー(執事)5、コック3。クラモンの屋敷の執事をしている。さり気なく知力が18もある。


フォーク 45歳

セージ4、ファイター2。冴えない中年衛視と言われるが、知力20で精神力18もあったりする。


このパートではティリーが今働いている屋敷の主である、魔術師ボー・クラモンが登場します。実は彼は過去のシナリオ集にも登場しています。

クラモンだけでなく、衛視のフォークや、クラモンの屋敷の執事のベイカーもね。第1話だからまだ読者応募キャラは出てないんですよ。

ティリーの設定を考えた方は既存のキャラを使ってティリーの設定を固めたので、こういう形で彼らも小説に絡める事ができた訳です。


なおそのシナリオ集とは「猫だけが知っている」です。表題作の「とっとも小さな大仕事」というシナリオに出演しています。

この作品の中でクラモンはピクシ・メイカーという、人間を1/5の大きさにする薬を盗まれ、その事件でもフォークが捜査をしました。

ピクシー・メイカーは服用型の薬であり、今回のように往来でいきなり起こった事件だと、相手に飲ませる事は難しいでしょう。

それに彼にはそんな犯罪に手を染める動機がないし、高い魔法の薬を使って人身売買をしても恐らくは元が取れないでしょうね。


現在ティリーはクラモンの屋敷で働いています。その紹介人は同じく「猫だけが知っている」で登場したチャ・ザ司祭のリンジーでした。

ティリーは保護された後ハーフエルフの精霊使いに預けられた訳ですが、多分その精霊使いとリンジーにコネクションがあったんでしょう。

ティリーを社会に復帰させようと働き口を紹介したんでしょうね。……そのティリーもまた誘拐事件に巻き込まれてたりするんですが(苦笑)


★3 デイドリーム・ビリーヴァー

お次は主役?のリュクティとその理想に共鳴するサティアの登場です。現在の彼らは「牢獄亭」という宿屋に宿泊しています。

この宿屋は他の作品にもしばしば名前が出てきますね。主人が疑り深く、客が逃げられないように牢獄のように厳重な部屋になっています。

ところがリュクティときたら無一文どころか借金王。昨夜もシャディが働いているカジノ「竜の目」で借金を作りまくってました。

服装だけは派手だから金持ちに見えるけど、実は宿賃すら払えないと知ったら主人はどう思うでしょうね(苦笑)


服は一流、楽器も一流のリュートであるストラスフォートレスU世ですが、彼自身は現在音楽家として全く鳴かず飛ばずです。

彼の理想の音楽とは、先に述べたようなロック・ミュージックです。勿論そんな名前はまだついていないけど、彼の作った新しい音楽です。

電気がなければロックができないという訳ではなく、山本先生曰くロックはハートです。まぁ理解者は0に等しい状況ですけどね。


この世界の音楽と言えば、もっと大人し目の恋歌とか、勇壮な曲と共に語られる英雄譚とか、神秘的なフォークソングとか、そんな類でしょう(多分)。

そんな中でいきなりロックじゃあ、それは驚きますよね。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で過去世界でプレスリーをやったマーティの如く(笑)

多分カーニバルの狂騒的なリズムにハチャメチャな詩をつけただけの騒音に聞こえるんでしょうね。防音設備もないからご近所迷惑だし。

何時の時代も先駆者は理解されないものですが、リュクティが本当にその理想を実現できなければ、そもそも先駆者と言えません。


サティアはといえば、リュクティの最高の楽団を作るという言葉に共感してついてきた訳ですが、じつはそれはただの口説き文句でした。

リュクティが彼女は若く見えても実は子持ちの人妻だと知ったのはその後。しかも相手にその気はなく、気づいた時には後戻り不可。

まぁ最高の楽団を作るという理想は嘘ではないし、いいキッカケかもしれませんがね。しかし足は前に出さないと進めないのですが(苦笑)


音楽そのものの出来は不完全、メンバーもたったの2人だけ、しかも金がない。果たしてリュクティは本当に理想を実現できるのか?

取り合えずメンバーは女の子がいいと鼻の下を伸ばすリュクティは、昨夜カジノで見ほれたシャディを勧誘するつもりのようです。

そうして女の子を集めて、大成功を収めて、行く行くはハーレム・酒池肉林……。本当にこの男が新しい音楽なんて作れるのか?

仮に成功したとすると、ロック(仮)の創始者である彼は多分200%ぐらい美化されて、プロジェクトXの主役みたいになって語り継がれるでしょう。


★4 イン・ザ・ウォール/6 グレート・エスケープ/7 ライトスタッフ

では最後のレギュラーであるティリーとシャディはどうしてるかというと、現在例の誘拐事件に巻き込まれていました

現在の彼らは20名ほどの他の被害者達と共に謎の盆地に閉じ込められていました。周囲には10mばかりの壁がある。

この異様な世界から脱出できない事に絶望する周りを尻目に、初対面の彼らは勇気と体力でこの場所から脱出し、外に助けを求めるのです。

シャディは犯人の老賢者ディーンに捕まってしまいますが、ティリーは川に飛び込んでサティアやリュクティに保護されるのでした。


このパートではティリーもシャディも小さくなっているというのがポイントです。それだけで脱出にも一苦労なのですから。

実は彼らはハイパー・ピクシー・メイカーという、ピクシー・メイカーを強力にした薬を使って小さくされているのです・

この薬はオリジナルと違って接触しただけで効果があり、縮尺は1/10とオリジナルの更に半分にまで小さくなってしまうのです。

しかも睡眠薬も混じっているので6時間は寝ます。毒性値も知名度も18という、かなり高度な魔法の薬のようですね。


ディーン老人はこの薬を使って若く健康そうな彼らを攫い、箱庭に閉じ込めたのです。そう、彼らが目を覚ました場所は箱庭だったのです。

大きく平たい桶のようなもので、直径10mの高さ1mほどです。1/10になった彼らから見ると直径100m、高さ10mには見える。

その上に空を描いた蓋をして、魔法か何かで偽の太陽を設置すれば不思議な空間の出来上がり。一般人は為す統べなく涙に暮れるしかない。


しかしこの内側には石が積んであるので、シーフ技能を持つティリーやシャディならば《登攀》で登るのも可能ですね。

どうやらこの被害者達の中では、まともに戦えそうなのはこの2人だけのようです。一般人では体感10mの壁に登るのは自殺行為だと思うし。

続いて蓋の隙間から脱出した2人は体感10mの高さからジャンプしますが、驚いた事に無傷で着地できました。


体の大きさが変わっても重力加速度は変わらない。実際の高さは1m程度だから、落下時間は0.45秒程度。着地速度は4.4m/秒程度ですね。

一見物凄いハードな事をしているようですが、実際には大した事はないのです。本当に1mから飛び降りた程度。体重も軽いしね(多分)。

ていうかフォーセリアでもそんな物理法則が通用するのかは謎ですがね。水圧はあっても気圧はない世界だし、どうでしょうね?


それから彼らは小さな体で必死に走り、洞窟を脱出してベルダインを目指そうとします。その前にディーン老人に見つかってしまいます。

あとは前述の通りにシャディは捕まり、ティリーは命からがらベルダインまで逃げ切ります。"ウォーター・ブリージング"を使ったので呼吸もOK。

そうと知らないシャディはティリーを川に落としてしまったディーン老人を「人殺し」だと罵り、彼もかなり歎いていましたよ。

ここだけ見ると彼もそう悪い人ではないようですね。まぁ悪気はないだけでやってる事は明らかに犯罪ですけど(苦笑)


一方ティリーは川に流されたので驚くべき速さでベルダインに着きました。普通に歩いてたら何日かかるか分からないし、結果オーライかな。

ところが彼は子供達に珍しいピクシーだと思われて散々遊ばれますが、そこを通りかかったサティアが浦島太郎の如く救出。

助けられてもセージ技能のないサティアやリュクティから見ると、今の彼は羽の取れたピクシーにしか見えませんがね(苦笑)

でも意識を取り戻したティリーが事情を話すと、リュクティは急いで救出に向かいます。女の子達に感謝される為に!(駄目だこの人……)


★5 フライング・ソーサー/8 ウーマン・オブ・ザ・ムーン

このディーンという老人は何者で何が目的なのか。それを知るにはこの辺のパートを確認せねばなりません。


ディーン・ド・ライブ 60歳

セージ9、ソーサラー6。魔術師ギルドの占星術部門に属する老賢者であり、ボー・クラモンの同期でもある。疑う事を知らない純真な人。

若き日の彼は勉強に疲れて転寝をし、目を覚まして枕元に月の乙女からのラブレターを発見して以来、月に行く研究を続けてきました。


……というとっても夢見がちな爺なのです。しかも哀れな事に、そのラブレターはクラモンの悪戯だったりする。それを未だに信じているのです。

しかし疑う事を知らない彼は、月の乙女は実在するのだと頑なに信じ、遥か天空の彼方にあるという星界に思いを馳せてきたのです。

文面の「月の波動に満たされた美しい世界」というのは高度な精神がないと書けないと力説してますが、真実を知って尚それが言えるかな(苦笑)


ところが最近になってベルダイン魔術師ギルドは占星術部門の予算を大幅に削減。星界ではなく物質界の問題が優先だという最もな理由でです。

それに憤ったディーン老人は自力でも月に行ってやろうと決意し、一連の事件を起こした訳です。……何かやり切れませんね。

この辺りのパートは「ウーマン・オブ・ザ・ムーン(月の乙女)」ですが、むしろ「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン(私を月まで連れてって)」ですね。


ではディーン老人が考案した月世界への旅行法とは何かというと、人間を小さくして巨大カタパルトで射出するというものです。

50mほどの竪穴の下に巨大カタパルトをこさえて、途方もなく複雑な仕掛けで優に11Gの加速度で射出するのです。

物体を射出する部分にはハンモックを採用し、その上に円錐形の鋼鉄のカプセルを置きます。これが宇宙船代わりになるのです。

カプセルは4層に分かれ、水も食料も小人が困らない程度に積んであります。後は月が穴の真上に来た時撃ち出すだけです。

年老いてしまったディーン老人は残念ながら射出の衝撃に耐えられそうにないので、若く健康な人を攫って箱庭に閉じ込め、選抜した訳です。


そしてその宇宙飛行士?候補が他ならぬシャディなんですね。……死にますね。いや断言するのも何ですよね、成功する可能性もある。

ディーン老人も色々考えてるんですよ。体が1/10になれば食料は1/1000で済むから飢えて死ぬ事はないとか。

わざわざ遠方から重力を打ち消す皿を取り寄せ、これにカプセルを載せて月まで飛ぶのに十分な推進力を確保しようとしたり。


酸素が持つのかという疑問もありますが、そもそもフォーセリアの星界や月が現実の宇宙とどう違うのかも分かってないんです。

長時間密閉されて普通に酸欠になるのか、星界は現実の宇宙のように真空なのか、月は現実のソレと同じように死の世界なのか?

ここはフォーセリアですからね。もしかしたら普通に星界でも活動できるかもしれないし、月にウサギがいる可能性だってある(あるのか?)。

そういえばクリスタニアでは密閉された空間で二酸化炭素が発生して、村人一同が酸欠で死亡するという事件がありましたね。

あとフォーセリアのパロディであるファイブリアでは、月は自己増殖するチーズでできていて、多くのウサギが住んでましたね。


それとこの重力を打ち消す皿ですが、これこそがレイハやボウイの運んできたものなんですよ。今現在彼女達はディーンの護衛などをしています。

実を言えば月に行こうとしたのはディーン老人だけではない。カストゥールの"重力の魔術師"ケイバーもまた、その研究をしていました。

彼はその重力を打ち消す皿"ゼロ・グラビティ・ディスク"に、黒い石でできたプローブ・ゴーレムを乗せて撃ち出したんですよ。

結果は失敗に終わりましたが、やがて地上に落下したこれらの品をディーン老人は人を派遣して回収したのです。


この"ゼロ・グラビティ・ディスク"は直径1.5m程度の金色の皿であり、重力遮断の皿の名の如く上に乗った物体の重力を消します。

これにカプセルを載せて空に向けて飛ばすと、更にも重力が働かないから慣性の法則(あるの?)がフルに働き、何処までも飛んでいく

重量を0にする"無限のバッグ"なんてものもありますが、それと似たような系統でしょうかね。当時は重力そのものも研究対象だったんですね。


なおフォーセリアでは重力というのは、一説には大地の底に重力の精霊がいる為に発生するのだと言われていますが、それは俗説。

実際には大地・水・風の相互作用で発生します。"フォーリング・コントロール"もそれを応用した四大魔術。ヘッポコを参照。


ではこの皿がないとどうなるのかというと、ニュートン力学が成立するならば、当然地面に落下しますね。

作中でも計算が載ってますが、50mの空間を11Gで射出すれば1秒後に秒速100mに達しますね。

空気抵抗を無視すれば、10秒後に最高点の上空500mに達し、20秒後には地上に落下。とても月までは行けそうにない。


そもそも物質界と星界の境とは何処なのか。現実世界では結構曖昧ですね。空気のない所が宇宙だとすると、地上1千kmまでが大気圏だし。

スペースシャトルの軌道である高度300kmでも地上の91%もの重力が働いている。それでも地表に落下しないのはそれだけの速度があるから。

低軌道を飛ぶシャトルでも秒速7.7km、ライフルの弾の8倍もの高速です。既にハンモックはどうのこうのというレベルじゃない(苦笑)

完全に重力圏(26万km)を脱出できればいいんですけどね……。ここはフォーセリアですから、飛べさえすれば行けるでもいいと思いますけどね。

ただし月までの距離は現実には38万km、仮に秒速100mだと43日はかかる。果たしてフォーセリアの月とはどの程度の位置にあるのか?

そもそも行きはよくても帰りはどうなるのか?。ディーン老人の夢を追う姿勢には敬服しますが……やっぱりちょっと無謀過ぎる。


それでも夢を見る事は素晴らしい事ですよ。できないと思って諦めずに、絶対に行けるのだと努力するのはかなり難しい。

クリスタニアのナーセルも言ってましたが、どんなに高い壁でも、越えられると思っている限りはいずれ越えられるもんです。

大切なのは越えられるという思いを捨てない事。月世界旅行……確かにロマン溢れる素晴らしい夢です。憧れる気持ちは分かる。

問題があるとすれば、犯罪紛いに人を誘拐し、リスクがあまりにも高過ぎる実験に強制した事でしょうか。


★9 ファイナル・カウントダウン

このパートでは一気に事件は解決します。小さいままのティリーを連れてリュクティとサティアが山奥の現場に駆けつけました。

そして護衛として雇われていたレイハとボウイに事情を話し、5人はシャディが撃ち出される前に間一髪で妨害に入ります。

ディーン老人の操るゴーレムとも戦い、その混乱の中ディーン老人は誤って発射直前のハンモックに体を預け、上空に射出されてショック死

そのまま空の彼方に飛び去ってしまいます。40年の間練りに練ってきたディーン老人の計画は、儚く失敗に終わったのでした。


最初の話しなだけに長くは引っ張らず、アッサリと終わりましたね。最後はちょっと可哀想な幕引きになってしまいました。


面白かった会話は、リュクティがディーン老人が実験をしている事実を知らされた時のやり取りです。

リュクティ「実験?そりゃ大変だ!きっと邪悪な実験に違いない!すぐに止めないと!」

レイハ「何で邪悪だと分かる?」

リュクティ「悪い魔術師がやってる実験なんだ。悪い実験に決まってるだろ!」←それもそうか(笑)

この作品はこんな風にちょっと現実の感性も交える事がしばしばある。噂をすれば「アニメだったらクシャミをする」とかね。

「サーラ」みたいなシリアスな語りもいいけれど、これはこれで親近感が湧いて好きですよ。


そして戦闘シーンです。敵は例のプローブ・ゴーレム。名前の通り探索用のゴーレムであり、7レベルのくせに若干弱め。

頭部には魔法の水晶体がついていて、映像を記録する事ができる。ただしリアルタイムで地上に映像を送るほどの性能ではないらしい。

戦闘における行動順もボウイ(19)、レイハ(18)、リュクティ(15)の順で書かれていて芸が細かい。

またゴーレムの表皮を貫くのも2回に1回と書かれているので、もしかしてちゃんと確率も考えているのではないかと計算しました。


まずゴーレムの回避点は14(7)であり、攻撃力はボウイが8、リュクティが7、レイハが6となっています。

固定値を使うとボウイは72%、リュクティが58%、レイハが41.7%で命中する。

またゴーレムの防御点は10で、ボウイの打撃力は打撃力18+6、リュクティは打撃力14+6、レイハは打撃力35+7です。

するとボウイは出目7以上(58.3%)で、リュクティは9以上(27.8%)で、レイハは4以上(91.7%)で抜ける。

ボウイは42%で、リュクティは16%で、レイハは38%で抜ける事になる。すると誰かしら抜ける確率は40%……微妙です。


戦いは1分半(つまり9ラウンド)続き、ディーン老人は渾身の"ルーン・ロープ"対象2倍がけをリュクティとレイハに飛ばします。

しかしかかったのはリュクティのみ、難を逃れたレイハの攻撃はついにゴーレムを倒し、ディーン老人を追い詰めました。

そこで彼は隙を見てカプセルを発射しようとしますが、サティアが逸早くそれをどかしてしまいます(ナイスおっかさん!)。


ディーン老人はそこに突っ込んで……前述の通りお星様になってしまいます。11Gの衝撃で死亡し、無重力なので死体も落ちてこず空の彼方へ。

捕らわれていた人々もクラモンの解毒剤で元に戻り、褒賞でリュクティの借金もちょっと減りました。ちょっとですが(苦笑)

なにはともあれ、こうしてリュクティ達6人の物語は幕を開けたのでした。まだバンドすら結成してませんけどね。


第2話 歌おう、感電するほどの喜びを!

★1 ナイトストーカー

今回の話から読者応募のキャラやアイテムが多く登場するようになります。というかクラモンとかを除けば皆そうですがね。

では記念すべきゲストキャラ第1号は誰かというと、彼怪傑ザラードです。初っ端からグラランというのは意表をついていていいですね。


怪傑ザラード ?歳

レンジャー5、シーフ5、セージ2。器用度24、敏捷度26と種族平均を大きくオーバーしたグラスランナーです。

彼の仕事は商人や高利貸しの依頼を受け、多額の借金を抱える負債者を脅して返済を迫るというヤクザな商売です。

ただし暴力に訴えたりはしません。夜にコッソリと寝室に忍び込み、枕元に借金の明細書を置いていくのが彼の手口です。

例え相手が何処に姿を眩まそうとも追跡するという、デュラハンの如く徹底さです。彼はこの仕事に生き甲斐を感じています(嫌な生き甲斐)。


最初に出てきたのがこれでは、今後どんなキャラが出てくるか分かりませんよね。勿論このパートでの彼のターゲットはリュクティです。

そして翌朝、リュクティは自分の部屋に散乱する大量の明細書を見て青ざめる訳ですね。まぁこんな事されたら普通そうなりますが。

しかも依頼人の明細書だけでなく、リュクティの抱える負債は酒場のツケからその辺のオッサンとの貸し借りまで、勝手に明細書を作ってます。

5ガメルとかいう明細書まであるんですよ、ストーカーか。その才能を暗殺者や密偵として役立てたら大成しただろうに(苦笑)


★2 ビッグ・ビジネス

これでちょっとリュクティに同情しましたが、直後そんな仏心も吹き飛んでしまう出来事がありました。またもゲストキャラが関与していますよ。

彼の名はガラン・ドゥ。楽器職人である彼はリュクティに特製のドラムを届けにきたのですが、それでサティアの雷が落ちます。


ガラン・ドゥ 58歳

プリースト(マイリー)/バード3、ファイター2、セージ1、クラフトマン(楽器)7。元冒険者でもあるドワーフの楽器職人です。

かつては冒険者でしたが、何があったのかコボルドに敗北したのを恥じて潔く髭を剃って冒険者を止めてしまいました。

それ以来彼は楽器職人としての腕を磨き、今ではこの芸術の街にあって十指に入る名人となりました。

彼は自分の気に入った仕事しかしません。リュクティの新しい音楽を作るという熱意に打たれ、楽器を作った職人気質な男です。


彼の持ってきたドラムセットは大小のドラムが5つにシンバル4つの高級品で、その値段は1万1000ガメルにもなるらしい。

その内1割は前回の事件の報酬をぶっ込んで払いましたが、残りは出世払いです。何て充てにならない支払方法でしょう(苦笑)

でもリュクティは払うといったら払う男です。確かに金遣いは荒いけど、相手が信じているなら決して信頼を裏切れない男でもあるのです。


それにしても1万1000といえば、普通に暮らす分には1年は食うに困らないぐらいですよね。サティアが怒るのも分かる気がする。

このままじゃあ駄目だと思った真人間(真ハーフエルフ?)のサティアは、冒険者としての仕事を既に受けています(流石おっかさん)。

音楽家志望のリュクティは凄い不満そうですが、その迫力で受けさせます。流石はおっかさん、人生経験豊富なだけにイザという時は凄いや。

山本先生曰く、アニメだったら背後に炎を背負って目が透過光で光るという、典型的表現になっているようなシーンです(笑)

真面目な話、バンド活動をするならお金が要ります。他にもリュートやフルートとか買ったりしないといけないし、雑費も色々あるでしょう。


★3 リトル・ロマンス

一方前回散々な目に遭ったティリーはというと、クラモンのお使いで薬品店を訪れていました。ここで彼のガールフレンドのシャリンが登場します。


シャリン・ウェルター 16歳

セージ2、バーバリスト(薬草師)2。薬品店の次女で、ティリーに仄かな恋心を抱く内気な少女です。器用度18のくせにある意味不器用(笑)


彼女はお使いに来たティリーに精一杯のデートのお誘いをするのです。2人っきりのデートではなく、家族のピクニックに誘っただけですが。

でも彼女にとっては大変な勇気の要る事だったに違いない。同じ山本キャラでもデルとは積極性が全く違いますね。いや彼女は凄過ぎだけど。

しかしティリーは恋愛感情が薄い。長い間暗殺者として育てられたせいでしょうか、人を好きになるという感覚に疎いのです。

無感情という訳では決してなく、今まで縁がなかった事だからでしょう。彼自身にはちゃんと思いやりの心がある、とても優しい少年ですよ。


ティリーはそのお誘いをよく分からないまでも受けます。しかしシャリンは、もう少し色気があった方がいいのだろうかと悩んだりするのです。

ほら、前回の事件でティリーはシャディと仲良くなったでしょう。勿論ティリーとしては女友達というだけで、やましい気持ちはない。

しかしシャリンからすると、シャディのように胸の大きいセクシーな女性の方が彼の好みなのではないかと悩んでしまうんですね。

それでシャリンがどうしたかというと、短めのスカートをはくという健気な対抗をするのです。若々しくて可愛いやら微笑ましいやら。


それとですね、ティリーのお使いの内容というのもちょっと面白い。クラモンの魔術の材料なだけに怪しげなものばっかりなんですよ。

ミョウバンのようにマトモなものもあれば、マンドレイクのように高価だけど馴染み深いものもある。しかしそれ以外は凄いですよ。

エスノアの消化液ひと瓶とか、ヒキガエルの脚20本とか、シー・ウォームの幼虫とか、乾燥したブロブの粉末とか……。

一体ソレを何に使うのか。カエルとか完全に魔女の大鍋の材料じゃないですか。まさか飲み薬ではあるまい……(飲めるか)。

代金は月末に執事のベイカーがまとめて精算します。クラモンは金持ちで信用もあるのでこういう事も可能です。リュクティだとこうはいかない。


★4 デンジャラス・ミッション

若い2人の恋の行方とは無関係に、リュクティ・サティア・レイハ・ボウイの4人は「ロット楽器店」で冒険者としての依頼を受けます。

依頼人は楽器店の店主ラン・スー・ロッド。依頼内容はカーディス信者に誘拐された彼の妻であるシーヤ・スー・ロッドの救出でした。


ラン・スー・ロット 27歳

シャーマン7、バード3、ファイター2、セージ1。半世紀も続く高級楽器店の店主であり、ベルダイン屈指の精霊使いでもあります。

クールな物腰と甘いマスクを持った典型的美形キャラです。女性客を手放さない為に、妻がいることは秘密にしているちゃっかりさん。

その名前から某"湖の騎士"を連想させるが、多分元ネタ。敏捷度20の知力23でやたら優秀な能力値の持ち主です。


敵がカーディス信者であり、妻を確実に助けたいから極秘に動きたい。そんな理由で先日の事件で活躍したリュクティ達を頼ってきたのです。

まぁリュクティにしてみれば、自分よりモテる男は皆敵なんですけどね(正直者)。リュクティももっとクールになればカッコよくなるのにね。

勿論救出には7レベル精霊使いである彼も同行します。彼がいてくれるなら、大抵の敵は簡単に倒せるでしょうね。


遅ればせながら、この依頼にはレイハとボウイも参加します。前回同じ事件を解決したんだから、当然彼女達にもお鉢が回ってきたのです。

レイハは何故街では金が要るのかと疑問に思っていました。草原の生活では金を使う機会なんてあまりありませんからね。

食料は狩ればいいし、寝るならテントを張ればいいし、欲しい物は適当に物々交換。草原だけでなく、田舎の農村でも金はあまり要らない。

何故金が要るのか、理由は色々ありますが、一言で言えば財の私有制。食料にしろ土地にしろ、誰かが私有しているから対価が要るのです。

ある程度人が集まって社会を営むようになれば、万能の交換手段や価値保蔵に役立つ金というのは必要になってくるのです。


それとカーディスに対するファラリスへの弁護もありました。サーラやスチャラカでもそうでしたが、山本先生はファラリス=悪と断定しません。

カーディスは「死ね死ね死ね死ね、死んじまえ」という教義であるのに対し、ファラリスは「自由に生きろ」と言っているだけですからね。

では何故ファラリスが邪神扱いされるのかと言うと、責任論の欠落です。自由を謳うだけで責任への言及がないんですよ。

自由は大切だけど、社会に生きれば責任や義務も生じる。自由であろうとするだけで、それを疎かにする事は邪悪なのです。

勿論中には分別のあるファラリス信者もいるけど、少数です。大抵の人間は規制がなく、欲望に忠実になると反社会的になるのです。


★5 フラッシュ・ダンス

救出に向かう前夜、リュクティはカジノ「竜の目」を訪れます。それはシャディをバンドに勧誘する為でした。

リュクティは彼女に音楽で世界の常識を引っくり返すと豪語し、彼の目指す理想であるロック・ミュージックを彼女に聞かせるのでした。

彼女は激しいカルチャーショックを受けてリュクティを追い出してしまいますが、彼女の胸にその音楽は確かに突き刺さっていました。


カジノ「竜の目」は旧市街にあるベルダイン最大のカジノです。シャディの仕事場でもある、リュクティが借金を作る場所でもある(笑)

店内の一角にあるステージでは、シャディのような踊り子達が派手でセクシーなパフォーマンスをして、客を刺激して金を使わせるのです。

ラスベガスのように一夜にして大金を得る者もいれば、スッカラカンになってしまう人もいる。確実に儲けるのは胴元のみなのも現実と一緒。


リュクティはここの従業員に金を掴ませてシャディに会ったのです。女の子に会う為ならいくら金を使うのも厭いません(少しは厭えよ)。

そして初めての彼の演奏シーンが挿入されるのです。このシリーズではこうして歌を歌うシーンが度々挿入されるんですよ。

ちゃんとオリジナルの歌詞が引用されていて、よく読んでみると結構いい感じのも多い。今回は山本先生作詞でしょうが、今後は読者のも出ます。

今回の歌は「狂えるシルフの叫び!」とか「俺の魂のライトニング」とか、フォーセリアならではの表現も目立ちますね(多分無題)。


それに対するシャディの反応はというと、耳慣れない音楽や歌詞や演奏法(チョーキング)に拒否反応は起きましたよ。

でも終わってみると胸がドキドキしちゃってます。どうやら彼女の心の琴線をリュクティのロックが揺らしたようですね。

本当にあらゆる意味で常識ハズレのリュクティだけど、全く受け入れられない訳ではない。一応1人はその魅力を感じている訳だし。


私は音楽には全く疎いのでチョーキングとか言われてもよく分からないのですが、ファンタジー世界ではお目にかかれない技法ではあるんでしょう。

アラン・D・フォスターの「スペルシンガー・サーガ」では、主人公がファンタジー世界で思いっきりエレキギターを掻き鳴らしてましたけどね。

「ハーメルンのバイオリン弾き」の如く(こっちはクラシック)、実在のロックナッバーを演奏するとそれに相当する現象が起こるのです。

しかし彼は召喚されたアメリカ人でしたから、100%ファンタジー世界出身のリュクティとは全く立場は違いますよね。


★6 イン・ザ・ダーク

翌朝、リュクティ達5人はカーディス信者の根城である洞窟へ侵入します。しかしその動きは敵ネログ・アシャンスに気づかれていたのです。


ネログ・アシャンス 26歳

ダークプリースト(カーディス)4、セージ3、シーフ2。ランに負けず劣らずの美青年だが、性格は非常に暗い。

誰もいないのに自分の計画をベラベラ喋るという典型的な悪の親玉の性格をしています。知力18で精神力20とやっぱりスペックは高い。


ネログがこの洞窟を根城にしているのはちゃんと訳があります。それはこの洞窟が精霊魔法が使えない洞窟だからです。

精霊はいるんですが、不思議な力で精霊語が歪められ、交信できないようです。いきなり最大戦力が役立たずですよ。理由は後ほど。

あと洞窟を進む際の隊列は、戦闘はボウイで次がリュクティ。殿はレイハで、間に白兵戦が弱いランとサティアを挟む。正に基本的隊列ですね。


こういうザ・天然洞窟の場合、罠は自然を利用したものが多く、《罠発見》とかするならレンジャー技能も活用できます。

ふと気づいてみると、このパーティーってレンジャー持ちばっかりなんですよね。レイハは3、ボウイとサティアは2、リュクティも1ある。

これなら不意打ちも受け難いかもしれない。まぁボウイの場合シーフ4があるから、《罠発見》にはそっちを使った方がいいですけどね。


★7 ピクニック

実はリュクティ達が潜っている洞窟の上では、タイトル通りにティリーとシャリンがのどかにピクニックを楽しんでいました。

シャリンが手作りの卵焼きをティリーに食べさせて「美味しい?」なんて聞いて、ティリーが「うん」と答えたりする。実にのどかですね。

ところがそのすぐ下では、リュクティ達は襲い掛かるゾンビ軍団との戦闘でグッチャグチャになっていたりしました(笑)


このパートはボス戦の前の洞窟探検シーンです。モンスターとの戦闘と、凶悪なトラップを切り抜けていくと言うと聞こえはいい。

しかしその実体は実に泥臭い。ゾンビどもは弱いけど腐肉の固まりですから、倒すと返り血ならぬ返りグチョグチョを浴びるのです。

ただのゲーム上のPCならともかく、生身の人間には過酷ですよね。気の弱い人にとってはSANチェックものですよ(ゲームが違う)。


それにしても闇司祭や邪悪な魔術師どもは何処からこういう死体を調達してくるんでしょうね?。ずっと疑問でしたよ。

やっぱりその辺の墓地から盗んでくるのか。戦があったら戦場からかっぱらってくるのか。いずれにしろ真っ当な方法ではないでしょうね。

ところでゾンビを作る"クリエイト・ゾンビ"の暗黒魔法は5レベルなんですよね。4レベルのネログでは使えない。


またここでは世にも恐ろしい罠が彼らに襲い掛かりました。その罠とはゾンビ爆弾。勿論読者応募のアイディアですよ。

この罠は天井に大量のゾンビをぶら下げておいて、不注意な侵入者が入ってくるとゾンビが一斉に降ってくるのです(怖!)。

ダメージは11点と大した事はないけど、その衝撃的な光景のせいで目標値10の精神抵抗に失敗すると1ラウンド行動不可能になる。

またゾンビどもは落下の衝撃で生命点残り4になってる。ゾンビは生命点19で防御点3だから、6m落下(18点ダメージ)ですね。

むしろこっちの方がSANチェックものですよね。なお《罠発見》の目標値14だから、《罠感知》の場合18という高難度の罠ですね。


この罠にかかったのはやっぱりリュクティ。どうやら回避はできたらしいけど、袋叩きに遭います。あとデータには回避の目標値が載ってない。

降ってきたゾンビは全部で36体で、サティアが"ターン・アンデッド"を唱えると丁度確率通りの効果を発揮しているのに感心しました。

36体中1体は崩れ、9体は凍りつき、17体は動きが鈍り、9体はバーサークするのが正に「ターン・アンデッド表」の確率通りなのです。

崩れる確率は1/36(出目12)、凍りつくのは9/36(出目9〜11)、鈍るのは17/36(出目4〜6、8)、バーサークは9/36(出目2〜3、7)。

更にサティアの"ホーリー・ライト"の光でゾンビどもは全滅です。彼女の魔力6だけでも、残り4点のゾンビを倒すには十分ですから。


★8 レディ・ドール/9 フィーバー・ドリーム/10 ブレイクアップ

ネログの待つ洞窟の中央に到達したリュクティ達でしたが、そこにはネログの持つマジックアイテムによって操られたシーヤの姿がありました。

ネログは彼女の命を盾に、ランに彼が知る禁断の呪歌の演奏を強要し、その凄まじい効果に一行は全滅寸前にまで追い込まれます。

しかしボウイの決死の歌声がシーヤを呪縛から解き放って形勢は大逆転。逃走するネログはティリーの協力もあって退治されます。


このパートではボスのネログとの対決になります。対決と言っても普通の戦闘にはなりませんけどね。


シーヤ・スー・ロッド 24歳

レンジャー5、ファイター5、バード4、ダンサー4。実は元冒険者で、レイハをも凌ぐベテランの戦士だったりする。

その筋力は22!もあり、武器はグレートアックス(22)です。ダメージは7振って15点にもなる猛者だったのです!


そしてネログが彼女を操るのに使っているのが"シールストーン"です。これもまた読者応募のアイテムなんですよ。

封印の石の名の通りにこの石(ていうか水晶)は魂を封印し、魂の抜けた肉体は石の所有者の思うがままに操られてしまうのです。

抵抗の目標値は18と非常に高い。解放するにはコマンドワードを唱えるか、石を破壊するかすればいい。

ネログはこの石でシーヤを操り、リュクティ達にけしかけたり、呼吸を止める事を強要したりして、ランを脅迫するのです。


ではネログがここまでして演奏させたい禁断の呪歌とは何かというと、これもまた読者応募の呪歌で"レイブダンス"といいます。

この呪歌は対象を興奮させ、女性は性的魅力を出すよう肌も顕に艶かしく踊り、男は複雑なステップを踏んでクタクタになる程踊り狂う

かつて冒険者であったランとシーヤはこの呪歌の楽譜を発見し、実験台になってくれた友人達を酷い目に遭わせてしまったのです。

以来楽譜は焼き捨て、二度と演奏すまいと誓っていたのです。しかしこの洞窟こそはその呪歌が歌われていた?場所だったのです。


実はこの洞窟は古代の音楽堂だったのです。その名もロックホール。やっぱり読者応募のアイディアです。今回の要ですね。

200名も収容できる巨大なホールで、音楽を鳴らすと気味の悪い模様がホール内を走る事で有名でしたが、長い間その存在意義は謎でした。

それもその筈で、実はこのホールはロック専用であり、ロックっぽい音楽を演奏すると美しいイリュミーネションが走る設計だったのです。

またこのホールは呪歌の効果を増幅する機能があり、達成値+5という凄まじい効果がある。また呪歌が通常以上の能力を発揮する事もある。

この洞窟で精霊魔法が使えなかったのも、このホールのせいで音が歪められ、精霊と交信できなくなるせいだったのです。


ネログに妻の命を握られたランはどうしても呪歌を演奏するしかありませんでした。そしてその音楽はロックに似ている

リュクティよりも前にロックをやろうと思ってた人がいたのか、それとも人を踊り狂わせようとしたらそういう音楽になってしまったのか。

いずれにせよ、リュクティはこの音楽が自分の理想の音楽に表面上は似ているが、本質的には違うものであると断言していました。

リュクティは「歌の本質は魂」であり、呪歌として魔力によって人を操る時点で歌としては不純であると考えているのです。

それにリュクティの理想の音楽は決して人を傷つけるものじゃない。チャランポランに見えて、大切な所はしっかり押さえてるんですね。


男であるリュクティはただ踊るだけですが、女性陣はもっと深刻です。何しろみだらな気分になって、服を脱いでほとんどストリップショーです。

ランの呪歌の基準値は5で、+5されて10です。精神抵抗6〜7の彼女達では8割前後で操られてしまうから、全員失敗するのも無理はない。

ここで各自の男性経験の差が現れますね。人妻のサティアは妙に色っぽいし、未経験のボウイは色々な面でたどたどしくて可愛い。

しかしそれ以上に深刻なのはレイハです。彼女の部族では女性は夫以外に肌を見せてはいけないのですから。肩が露出しただけで全裸も同然。


気が狂わんばかりのレイハを助けたのはボウイです。短い付き合いながらにレイハの事情は知っているから、彼女を助けようと力を振り絞ります。

すると何とボウイは"ビブラート"で石を破壊してしまうんですよ。普通はガラスを割る程度だけど、ホールの力で増幅されたんでしょうね。

ていうか音痴の彼女が歌うともう完全にジャイアン・リサイタルですよ。でもお陰でシーヤが正気に戻りました。

そして疲れた体を引きずって、酷いショックを受けたレイハに上着をかけてやるんですよ。リュクティ曰く「美しい友情だ……」


そして逃走するネログでしたが、秘密の通路を抜けた所にティリーがいたのが運の尽き。彼の"スネア"ですっ転んで袋叩きです。

ティリーの敏捷度は20、14のネログより遥かに早く動く。こうして悪は滅び、今回の事件も円満に解決したのでした。


それとは別件なんですが、ティリーの過去についてです。彼は長い間暗殺者として育てられたので、普通の子供遊びを知らない

シャリンが色々とポピュラーな遊びを挙げても、どれもこれもやった事も聞いた事もないので彼女には呆れられていました。

しかしティリーは決して自分の過去を彼女には話しませんでした。同情で気を引きたくないから、ただ曖昧に微笑むだけです……。

本当は誰よりも寂しがり屋で、理解者が欲しいのにそれができずにいる。明るい見かけとは裏腹に孤独な少年です。


あとシャリンの挙げたそれぞれの遊びも興味深い。"クローバー切り"、"黒白"、"盗賊とグール"、"ファリス・ファラリス"、"国取り"です。

"クローバー切り"は現実世界でも有名ですよね。クローバー(ていうか野草全般)の茎を絡ませあって引っ張り、切れたほうが負け。

"盗賊とグール"は「サーラの冒険」にも出てきますね。鬼ごっこの一種で、足跡の迷路で宝を奪い合う遊び。

"ファリス・ファラリス"は名前だけは聞くけど内容は謎なんですよね。"黒白"というのは全く内容が分からない。

"国取り"も似たような遊びが現実にありますよね?。地方によって違うかもしれないけど、陣取りみたいな遊び。


★11 バーニング・ハート

このラスト・パートではついにレギュラー陣がバンドを組みます。2話目にして結成なら、ペラペラーズよりかは早い(笑)

追加メンバーは勿論レイハ、ボウイ、シャディです。彼女達はそれぞれリュクティの誘いを受け、ついにはOKをしてしまったのです。


リュクティは「音楽は魂」だと思っています。ただ上手い奴なんていくらでもいる。でもリュクティは魂の篭った音楽ができる人が欲しいのです。

レイハを勧誘した理由は、彼女が宴会のノリで叩いたドラムがあまりにも熱かったからです。出陣の太鼓のリズムがお気に召したらしい。

ボウイはレイハを助ける時の歌声が魂の叫びだったからです。友達を助けようという強い思いを歌に篭められたから、それに感動したらしい。

音痴な事が長い間コンプレックスだったボウイにとって、リュクティの賛辞は実に心が動かされる言葉だったようです。

そしてシャディは、あの時の音楽が耳について離れない。どうやら彼女は潜在的なロック好きだったようで、熱に浮かされ加入を希望して来ました。


ついに結成したリュクティのバンド(まだ名称不明)。次回からはいよいよ音楽活動に突入です!


第3話 たったひとつの冴えたやり方

★1 バード・ギルド

ついにリュクティは自分のバンドを結成し、これからデビューだと思いきや、曲自体はまだ完成には程遠く騒音としか言えない出来でした。

昼間から「牢獄亭」で掻き鳴らされる騒音に付近の住民の苦情は絶えず、更にはバード・ギルドという組織の介入まで受けます。


このパートではリュクティの音楽道が前途多難である事が嫌でも思い知らされますね。新し過ぎる物への世間様の反応は冷たいもんです。

曲自体がある程度の完成を見ていれば理解者も出てくるかもしれないけど、今の時点ではただのチンドン屋ですからね(苦笑)

いくら画期的で新しい物でも、世間から認知されない限りはただイレギュラーなだけの代物です。歌詞も曲も技術も滅茶苦茶だし。

リュクティの頭の中には確かにロックのイメージがあるようですが、師も前例もないものだから時間をかけて地道に築くしかないですね。


ちなみに5人の担当は、リュクティとサティアがリュート、レイハがドラム、ボウイがタンバリンで、シャディがヴォーカルです。

ドラムはいいとして、ベースやギターの代わりがリュートなんですね。シャディはまだ歌詞ができてないので「おおお〜いえええ!」です(笑)

ボウイのタンバリンというのはマジックアイテムです。"リズム・タンバリン"といって、ある場所を二度叩くとオートでリズムを取るのです。

前回の事件でランが迷惑をかけたお詫びにくれたものです。値段は5000ガメル。結構いい物ですが、これだとボウイは暇ですね。


大変なのは技術面だけでなく、チームワークもそうです。特にレイハとシャディは服装に関するモラルの違いから仲が良くない。

レイハはドラムで激しいビートを刻もうとも長袖で涼しい顔をしてるのに対し、シャディはやたら露出の高いコスチュームです。

シャディの生まれはプロミジーであって露出の多いガルガライスではないけれど、寒冷地育ちだからこそベルダインは暑いのかもしれない。

こういう時仲を取り持つのはおっかさんことサティアです。流石に子育て経験があるだけの事はある、子供を叱りつけるのは慣れたものです。


そしてバード・ギルドについてですが、文字通りバード達の組合です。バードといいつつ芸能活動全般を網羅しているようですが。

無形文化である歌の保存や、音楽家や踊り子達の社会的地位の安定化がその目的だといいます。そう言われると真っ当ですが、それは建前です。

ギルドマスター兼スポンサーのアーリア・ニュルンベルクの目的はあくまでも金であり、ギルドだって4ヶ月前に急に作った彼女の私物も同然。


アーリア・ニュルンベルク 29歳

セージ6、ファイター/バード2、マーチャント5。大富豪にして、ベルダイン芸能界の黒幕にして、バードギルド創設者でもある金髪美女。

芸能活動をする人々から徴収する会費、彼らを斡旋する事で得るマージン、及びイベントでの興行収入によって莫大な金を得ようとしています。

抵抗する人々はその圧倒的な権力と財力に物を言わせて従わせ、政治家にも賄賂をバラ撒いているという、非常に頭のいい(知力22)女です。


リュクティ達の前にはそのバード・ギルドから派遣されたステラ・ローズマリーという女戦士が現れ、彼らにギルドへの加入を要求します。


ステラ・ローズマリー 23歳

ファイター3、レンジャー1。元冒険者の女戦士だが、誤って仲間を死なせてしまって引退し、バードに転職しようとしました。

そこをアーリアに拾われて今の職に就けてもらったので、彼女に恩義を感じています。真面目な性格だが根っからの音痴でもある。

本人はあくまでも職務に忠実で、アーリアも買収や怠慢の心配がないから重宝しています。しかし主人のやり方に疑問を抱く事もある。


彼女曰く、アマチュア活動をする分にはギルドも介入しないのですが、プロとして活動するなら必ずギルドに加入しないといけないらしい。

ちなみに加入に必要なものは登録費と会費と、あと審査です。良識に適った音楽でないと活動も加入も認めないというのです。

勿論今のようなロックもどきでは審査には通らないので、もっと大人しいものを要求しますが、リュクティは断固として断りました

「俺は俺にしかできない音楽をやる!誰の指図も受けない!」とカッコイイ事言ってますが、それが益々近所の人々を怒らせる結果に。


要は練習場所がないのが問題なんですよ。市街地のど真ん中の宿屋ではうるさくて当然、もっと人気のない場所でやればいい。

しかしそんな場所が何処にあるのか。屋外では湿気や水気に弱い楽器達が大変だし、かといってテントを買ったり小屋を借りる金もない。

場所がない、金がない、理解もない。あるのは夢と熱意だけ。本当に前途多難な音楽道ですよね。


★2 レッツ・シング・ウィズ・バース

リュクティとシャディは歌詞を依頼していたベルダイン郊外で暮らす少年作詞家のファーレイ・アルカナートの家を訪れます。

ところが彼の元にもバード・ギルドの手が及んでいて生活苦に晒されていました。そこでリュクティ達はバード・ギルドとの対決を決意するのです。


ファーレイ・アルカナード 15歳

バード5、セージ1、ポエト(作詞家)5。リュクティが大絶賛する少年作詞家。郊外の小屋に沢山の鳥達と一緒に暮らしている。

内気な少年であり、上がり症でもあるので、他の音楽家へ歌詞を売って生計を立てています。しかし鳥達の餌代に多くを費やしてしまいます。

実はリュクティの音楽の歌詞は彼が手がけています。リュクティですら歌詞だけは彼の足許にも及ばないと評価する天才少年らしい。


このパートではリュクティがとにかく彼を褒めちぎるのが印象的でした。リュクティってこういう風に人の才能を認められるのが凄いですよね。

しかし歌詞を全てこの子が手がけているなら、あの「狂えるシルフの叫び!」とかもこの少年が書いていた事になりますね。

シャディに挨拶されて照れちゃうような可愛い子なのに、結構過激な事を書くんですね。仕事中は人格が豹変したりして(笑)


しかし彼はギルドへの会費やら鳥達の餌代やらで生活が非常に苦しい。リュクティが払う金も高が知れていますしね。

しかも今後はギルドに所属している人は、所属していない人から詩や曲を買ってはいけないという規制も取られるのです。

これじゃあファーレイだって所属しない訳にはいきません。既にベルダインのほとんどの音楽家は所属してるんですから。


その仕打ちに対してリュクティやシャディはギルドに憤ります。「音楽は自由な心から生まれる」とリュクティは信じてます。

それがこんな風にがんじがらめにされてしまっては、折角の才能も死んでしまうとね。でも現実問題生活がかかってますからね(苦笑)


★3 レジスタンス/4 シンギング・イン・ザ・レイン

リュクティ達はバード・ギルドの横暴に対して断固として戦う決意を固め、ギルドに入らなくても芸能活動はできる事を知らしめる活動を始めます。

旧市街の酒場などではかなり評判もいいのですが、多くの人にとっては生活がかかっているのでなかなか反旗を翻せないのが現実でした。

そこでランとシーヤが現れ、2人が正式に結婚式を催す事を告げ、しかも多くの名士達が集まる会場で演奏をさせてくれる事になります。


このパートでは苦しいレジスタンス活動に一縷の望みが見えてきます。あのランとシーヤが手助けをしてくれるんですよ。なかなか嬉しい展開です。

元々前回の事件は2人が婚姻関係を隠しているからあそこまで状況が悪化したので、もういっそ2人の仲を世間に公表する事になりました。

それで結婚式を挙げる事になったのです。このめでたい知らせにリュクティ達も惜しみなく祝辞を贈ります。本当にいい人達ですね。

サティアなんて司祭の資格があるから、式を取り仕切る気ですよ。やはりランやシーヤもヴェーナー信者なんでしょうか。


そして彼らの式の会場ですが、これは前回の舞台であるロックホールです。ここに地元の名士を150人呼んで式を行います。

流石は老舗楽器店の店主、各方面に顔が利くんですね。あの洞窟は200人は収容できるので、150人ぐらい楽勝ですね。

しかしこれだと結婚式というかライブですよね。武道館とまではいかないけど、こんな大舞台で演奏できる楽団はそうそうないですよ。


それにここは誰の所有物でもない。金持ちは怖い。金で他人を動かせるのが怖いのです。しかし金の力が及ばない場所ならば別です。

今までは芸能活動をする多くの人間や場所を支配してきたから、爪弾きにされる事を恐れて誰も反抗できなかったのです。

でもここなら式を行うも演奏をするも自由。裏から手を回して使用を規制する事もできない。多分ランはそこまで考えているんです。

あとはリュクティ達がそのチャンスを生かせるか、ですね。練習不足で赤っ恥をかいたらロット夫妻にまで迷惑をかけるし。


それとこのパートでは他にも2人ほど新キャラが出ます。2人ともリュクティ達が入り浸っている「人魚の涙亭」のキャラです。

1人は「想い姫」リラ、謎多き歌姫です。彼女の歌う歌詞「夜風は街並みを抜けて」も勿論読者の書いた詩です。

夜風が森を抜けて川を越え、想いを馳せる愛しい人に届くという切ない恋歌。サティアにとっては他人事ではない。

もう1人はサラサ・アディ。サティアの娘であり、母親である彼女と並んでも姉妹や友達に見える。所謂友達親子(そうか?)。


「想い姫」リラ ?歳

バード5、シャーマン3。本名不明、年齢不詳の歌姫です。歌唱力は抜群で、特に恋歌は絶品。一説には人間に恋した人魚だとか。

データを見ると、マーマン語とかエルフ語とかピクシー語といったソレっぽ言葉ばかり覚えていますね。


サラサ・アディ 17歳

バード3、ダンサー/ウェイトレス3。何を隠そうサティアの娘。今は自立して「人魚の涙亭」でウェイトレスをしています。

今はとある劇団に属しているらしい。多分踊り子としてでしょう。しかしその劇団もアーリアに逆らえない状態です。


★6 プライベート・レッスン

リュクティ達は音楽家貴族のミライアル・ハーモニーの協力を得て、無料レッスン練習場所を提供してもらいます。


ミライアル・ハーモニー 32歳

バード6、ファイター/セージ1。クラフトマン(楽器)5、マーチャント1。音楽家で貴族で富豪で、音楽教室を開いている。

童顔で若く見えるが実は30代。若い頃から音楽一筋に生きてきて、10年間の修行のたびに出た事もある音楽バカ一代です。

その旅以来音痴で苦しむ人々の救済を自らに課し、「ハーモニー音楽教室」を開くも敷居が高過ぎて一般人はなかなか集まらない。

寄ってくるのは彼を目当てにした上流階級のお嬢様ばかり。そこでリュクティ達に協力し、人々に音楽教室の素晴らしさを宣伝しようとします。


このパートでは何と言ってもボウイの個人レッスンですよね。数々の音痴を直してきたミライアルも彼女の酷さには疲弊していました。

余りにも酷くてミライアルは疲労困ぱい、何だってここまで酷いのか。この分だと多分ジャイアンの方がよっぽど手がかからないでしょう(苦笑)

宣伝の為とはいえ、無料でよくこんな過酷なレッスンをしますよね。なおバード・ギルドの規約では無料レッスンは規制の対象外です。


仕方ないので楽器の練習に移ります。彼は自前の楽器"ささやきのキーボード"をボウイに演奏させてみます。

これは外装はミスリル製!で、グラスランナーのベッドぐらいの大きさなのにピアノと同じような演奏が可能な優れものです。

また内部には変調石という音の波形を操れるアイテムを仕込んでいるので、かなりの音域を表現する事が可能です。

この石は一応マジックアイテムで、精神力を1点消費すると接触している物体の音を操れます。ただしバード+精神力による判定も必要。

しかし使いこなせればどんな動物や物の音も真似られるし、リザードマン語だって自由自在です。蝶ネクタイ型のアレより自由度は高そう(笑)


ところがこれも駄目。ボウイが演奏するとさながらデッドエンドシンフォニー。耳を塞いでも脳を破壊しそうな気配です(海魔女?)。

器用度19のくせに何でここまで酷いのか。試しにいつものようにスタッフを振り回させると、人並みはずれたリズム感があるのも事実です。

いつものようにスタッフを振り回す彼女はやはり生き生きとしていますね。やっぱりボウイはこうでなくちゃ。

見えない敵が相手でも、彼女が動くとまるで本当に敵がいるように見えてきます。エア・ギターあらぬエア・武道ですね(笑)


ボウイは確かに器用でリズム感もあるんですよね。それで何故に音楽に関してはこうも酷いのか、経験豊富なミライアルにも謎です。

しかしミライアルは諦めません。彼女のこの才能を生かす画期的な楽器を考案してしまうのです。


★5 シークレット・エージェント/★7 スキャンダル

アーリアは鬱陶しくなってきたリュクティを陥れる為に、ギスカー・ロンドというエージョントを使ってスキャンダルを起こそうと画策します。

計画はティリーとシャディの邪魔が入って失敗に終わりますが、そのゴタゴタでリュクティのストラスフォートレスが破損してしまいます。


このパートではアーリアの使うギスカー・ロンドという男が登場しますが、実は彼は人間ではなかったりします。

では何かといえばシングです。シングとは3レベルの魔法生物で、不定形生物であるイミテーターの一種です。

知性を持ち、人間に近いサイズの生物への変身が可能です。またその擬態能力《カモフラージュ》を感知する為の目標値は16もある。

戦闘時には6本の触手を操って攻撃を仕掛けてきます。攻撃回数は1D6となる為、ダイス運次第では全身ミミズ腫れになりかねない(笑)


ただギスカーはちょっと特殊なシングです。レベルは変わらないのですが、数百年に渡って人間を研究してきたので感知の目標値は19です。

また人間に近い感情も持っているそうですが、彼にあるのは殺意と悪徳だけ。星を眺めてロマンチックな気分に浸ったりするような情緒はない。

でもアーリアとキスを交わしたりはするようですね。果たしてどのような認識でやってるのか分かりませんがね。

他にも鳥になる事で飛行能力も備わるらしい。どうやら普通のシングではそういう事はできないらしい。


なお彼の人間形態での能力は以下の通りです。このダンサー技能を習得した経緯は一体何なのか気になりますね。


ギスカー・ロンド ?歳

シーフ/セージ3、レンジャー/バード/ダークプリースト(ファラリス)1、ダンサー3。スペックは器用度18以外普通。


彼は人間の感情をよく理解しているので、リュクティを陥れる為に女を使った醜聞を引き起こそうと考えました。

変身するのは駆け出しのバイオリン引きの金髪美少女エリスちゃんです。これがまぁ確かに女の子にしか見えないんですよね。

その姿でファンを装って話し掛け、男女のカップルでしか入れない大人の宿屋さん「ハーピィの誘惑亭」に連れ込みます。

多分そこで自分からリュクティを誘惑して、乱暴されたとでも騒いでリュクティの評判を落とす気なんでしょう。まぁ妥当っちゃ妥当ですが。


しかしそこでシャディとティリーが助けに入るんですよ。実はステラがアーリアとギスカーの悪巧みを聞いて、計画を教えてくれたんです。

お陰でリュクティが少女暴行に問われる事はなくなりましたよ。でもシャディがギスカーに"チャームブレード"を奪われたのがマズかった。

シャディは咄嗟にリュクティが大事に大事にしているストラスフォートレスで防御してしまったのです。お陰で哀れにも弦が6本真っ二つ

この時のリュクティの悲鳴ときたら……もうこの世の終わりのような悲痛な叫びだったとか。なんかハーメルを思い出す展開です。


★8 ミスリル・ワーム

愛器ストラスフォートレスを修理する為に、リュクティはストラスフォートレスの生みの親であるフェンドールを頼ります。

しかしミスリル弦のストックがない為に、ミスリル弦を生み出すミスリル・ワームの採集が必要である事が分かります。

またティリーはシャディと大人の宿屋に入った事をガールフレンドのシャリンに知られ、あらぬ疑いをかけられるのです。


フェンドール 40歳

バード6、クラフトマン(楽器)7。リュクティの愛器ストラスフォートレスU世の生みの親であり、リュート造りの名匠でもある。

「誰もが気軽に音楽を楽しめる」事を理想とし、次々と新しい試みに挑戦し、特注品でも比較的安価で作ってくれます。

彼の手による名器にはプレシジョン、テレクラスターなどがあるらしい。名声こそあるが、金儲けには疎くて旧市街に小さな工房を構えています。


ストラスフォートレスU世は彼がリュクティの為に作った左利き用のリュートであり、画期的な新機構も採用しています。

それはトレモロ・ユニットといって、ブリッジ部に付属する機構であり、アームを操作すると全ての弦のピッチが上下するらしい。

また弦には鋼鉄以上の強度を持つミスリル弦を用いています。いずれも確かに画期的ですが、画期的過ぎて壊れた時の修理が大変です。


幸いリュート本体は無事であり、ミスリル弦を張り替えてプックアップを修理するだけで元通りになりそうです。

ところがミスリル弦の第六弦(一番太いやつ)のストックがないのです。まぁ貴重なものですから仕方ないのかもしれませんけどね。

フェンドール曰く、普通の弦は半月でオシャカになるが、ミスリル弦は1年も保つらしい。まぁミスリルですからそれぐらいもつでしょう。


そのミスリル弦を扱っている店があのシャリンの店だというので、ティリーはひとっ走りお使いに行ってきたんですよ。

すると前述通りにシャリンはティリーがシャディと関係していると誤解し、泣くわ喚くわでもう大変だったんですよ。

あくまでも誤解なんですが、ティリーには彼女を説得するのは無理でした。相手が好きな男の子だからこそ、怒る時は火がついたように怒るのです。


それはいいとして(よくない)、驚いた事にミスリル弦って蛾の幼虫から取れるんですね。その蛾とはミスリル蛾です。

この蛾はベルダインの北の森にのみ生息する固有主であり、幼虫の腸にはミスリルが付着しています。腸というか唾液腺の変化したものですが。

この幼虫ミスリル・ワームを酸で処理してミスリル弦を得るのです。多分蚕から絹を取るような感覚なんでしょうね(あっちは蛹を煮るけど)。

またミスリル・ワームは成虫になるまで5回脱皮し、それにつれて大きくなります。6弦を得たいなら5回脱皮して成虫になる直前のやつが必要。


ミスリルといえば魔法の金属であり、現在ではその加工法は遺失ですが……まぁいいんじゃないですか。これぐらいならばね。

これでミスリル製の剣を大量生産してるようなら問題ですけど、加工法も幼虫を溶かすだけだし、弦以外に使い道の無さそうな供給源ですしね。

Q&A曰によれば、ミスリル・ワームは自然界に微量に存在するミスリルを(食って排出せずに)凝集させる存在だと考えられるらしい。

勿論普通のミスリルは鉱脈を探し当てて採掘しないと取れませんよ。それにしても、フォーセリアには不思議な事が色々あるんですね(笑)


★10 ソードダンサー

リュクティ達は6弦のミスリル・ワームを探す為に、レイク"ザ・ストライダー"ショーの案内で街の外の山野を歩き回ります。

しかしそこには暗殺を行おうと罠を張るギスカーが潜んでいたのです。しかしシャディとボウイのタッグの前に彼は撤退を余儀なくされました。


レイク"ザ・ストライダー"ショー 28歳

レンジャー6、セージ4、ファイター3、ハーバリスト/マーチャント3。山野を歩き回って魔法の材料を採集するのが生業の男。

シャリンの店やクラモンとも取引をしているのでティリーと知り合い。筋力と生命力が18もあり、赤いグラサン?の逞しい長身の持ち主でもある。

しかしおカマ口調であり、ティリーにぞっこんという変わった趣味の人でもある。だが女性にも親切で結構優しい人らしい。


余談ですけど、"ストライダー"というと「指輪物語」のアラゴルンの別称を連想しますね。ちなみに"ストライダー"の翻訳名は馳夫になる。

彼自身SW風に言うならファイター/レンジャーという感じでしたね。野伏であり、剣の達人でもあった訳だし。


ではギスカーは今度はどんな手を使ってきたか。まぁやる事は変わりませんね。女の子に化けて油断させて襲うという、伝統的?な手法です。

溺れた女の子を装って誘き寄せ、相手が隙を見せたら殺っちまうのです。幾らなんでも、昨日の今日でそれは怪し過ぎるんじゃないかな(苦笑)

襲う相手はシャディ&ボウイ組です。実は彼らは3班に別れていて、他はリュクティ&レイク、ティリー&レイハ&サティアです。

トラブルが起こらないような組み合わせですね。シャディとレイハは水に油だし、レイクとティリーだと別の意味で危険だし(笑)


しかしシャディとボウイという組み合わせは今までにありませんでしたね。ボウイの相棒であるレイハがシャディと仲が悪いというぐらいで。

シャディはどうしてもレイハが変だと思ってるのですが、それを言うならこの連中の中に普通の人はいない。変な人の集まりじゃないですか(笑)

ファンタジー世界でロックをやろうとしている非常識な借金王を筆頭に、一般人らしき性格の人がいない。精々おっかさんことサティアぐらい。

まぁ人それぞれ生まれも育ちも違うんだし、考え方だって違うでしょう。長く付き合っていれば粗も目立つけど、いい所だって見つかるかもよ。


さてこの2人とギスカーとの戦闘ですが、ギスカーの戦闘形態が圧巻ですね。確かに普通のシングとは色々違っています。

下半身と顔は女の子のままで6本腕の化物になってるんです。しかも6本の腕にはそれぞれ武器がある。これは打撃点も上がってそうですよ。

武器の1本は"チャームブレード"です。収納スペースの問題からか、背中から浮かび上がってきて装備します。

もう1本はカタールで、これは掌から出てきます。カタールとはダガー(短剣)の一種であり、柄頭がない突き刺す武器ですね。

残り4本の腕にはスティレットが握られています。これは錐状の短剣で、やはり突き刺す事を考えた設計になっています。


ギスカーはこの姿でさっさと相手を殺し、メンバー不足で演奏を中断させるつもりでしたが、やっぱりこんな手には引っかかりません。

正体を見られたギスカーは口封じの為にも2人に襲い掛かりますが、ボウイもシャディもみすみす殺されるほど弱くはない。

結局はシャディがギスカーの持つ"チャームブレード"を《ディザーム》(現《武器落とし》)で叩き落すと、ギスカーは停戦を申し出ます。

この戦いに命を懸ける価値はないと言い、遠くの国に去る事を約束しました。ボウイとシャディはこれを認めたのです。

相当ヤバイ戦いでしたが、何とかなりましたね。それにシャディは自分の"チャームブレード"を取り返すこともできたし。


こうして2人の娘が大変な目に遭ったりもしましたが、無事に6弦の幼虫は見つかり、リュートの修理の目処も立ちました

他にも沢山の幼虫を捕まえたので、レイクへの報酬や修理代に充てます。まぁレイクとしては別の報酬の方が嬉しかったでしょうが(笑)


★9 コンスピラシー/11 サイレント・バトル

リュクティ達が出払っている隙に、アーリアはファーレイを誘拐して軟禁してしまいました。そんな主人に嫌気が差したステラが反旗を翻します。

ステラは単身ファーレイ救出に向かい、アーリアの持つ恐るべきマジックアイテムに打ち勝ち、ファーレイの救出に成功するのです。


このパートではついにアーリアが動きます。動くとは言ってもやってる事は誘拐ですけどね。でも権力者である彼女には衛視も手は出せません。

夜遅くにファーレイの小屋を訪れ、右目に仕込んだ義眼型のマイックアイテム"スリープ・アイ"を使って眠らせて攫います。

彼女の右目は昔の事故で失われていて、そこにこの義眼を埋め込んでいるのです。この眼を見てしまうと眠ります。抵抗の目標値は16。

精神抵抗7のファーレイだと出目9以上出さないといけない。5万ガメルという結構な品なんですよね。決して千年眼ではない(笑)


しかしそんな主人の卑怯なやり口にステラがついに反抗します。リュクティ達に事の仔細を教え、自分が救出に向かうのです。

もしリュクティが怒りに任せてアーリアの屋敷に突撃でもしようものなら、アーリアはリュクティを衛視に逮捕させてしまうだけです。

その点ステラは完全に内部の人間です。アーリア本人も勿論、使用人や警備の者も彼女を信頼しきっているから忍び込むまでもない。


ここで明かされる彼女の過去ですが、以前彼女は自分のミスで仲間を死なせたと言いましたね。実は彼女を自分の手で仲間を斬り殺したのです。

暗闇の中、振り回した剣が仲間に当たってしまったんです。それ以来酷く落ち込み、そこをアーリアに拾われたんですね。

しかし今考えてみれば体よく利用されていただけで、アーリアのやり口は卑怯極まりない。元からステラには合わない仕事だったんですよ。

ちなみに今も尚剣を下げているのは、自分の半身のように愛着のある剣だから。今でも手入れだけは欠かさない。これは重要です。


アーリアの屋敷に向かった彼女は、見張りの人間を薬で眠らせ、ファーレイが閉じ込められている部屋の「歌の鍵」を開けます。

この鍵は扉の横に取り付けられた竪琴のようなもので、決まった順で弦を弾くと内部の音叉が共鳴し鍵が開くという代物です。

これだと多分シーフ技能の《鍵開け》では開けられませんね。バード+知力かな。勿論最初からメロディを知ってれば素人でも開けられるでしょう。


そうしてファーレイは連れ出せたのですが、アーリアに見つかり、ステラは彼女の義眼の魔力に晒されます。

ステラの精神抵抗は5、実はファーレイより低い。これだと自力で抵抗するには出目11以上。《抵抗専念》すると+4されて出目7以上。

しかしステラのピカピカに磨かれた刀身が鏡となってアーリアの姿を映し出し、アーリアが眠ってしまうのです。何か間抜けな大ボスですね。

剣は凶器、斬る為にある。しかし斬らない為に使う事もできるんですね。これで彼女のわだかまりも少しは晴れたかもしれない。


★12 ナイトブレイカーズ

練習を積んだリュクティ達は、ロッド夫妻の結婚式でフォーセリア初のロックバンド"ナイトブレイカーズ"としてデビューを果たします!


さぁ1巻最後のパートとなりました。このパートではついにリュクティ達がバンドとしてのデビューを飾ります!

デビューに際して、ボウイの新楽器を無視できません。ミライアルとガランの作った新楽器、その名は"スタッフ・フルート"です。

要はフルートとスタッフを合わせたようなもので、振り回すことで音が鳴ります。丁度お祭りの夜店で売ってるような鳥笛のように。

横回転や縦回転、水平移動や突きなど、ボウイの卓越したスタッフ捌きによって複雑な音を出す事も可能。見た目にも華がある演奏になりますね。


そして結婚式ですが、以前のネログとの死闘が嘘のような盛大で賑やかなものとなりました。何しろ150人ですからね、芸能人の結婚式か。

式を取り仕切るのはやっぱりサティア。夫婦はヴェーナー信者として芸術の振興に力を尽くす事を誓って婚姻の証とします(芸術神らしい)。

披露宴では"竜殺し"というプロミジー産のお酒が振舞われます。この酒でヒドラを酔い潰して倒したという、日本神話のような伝説に由来します。

そして恒例の友人のスピーチなどもある。スピーチをしたのはランとシーヤのかつての冒険仲間ミルル・クーティでした。


ミルル・クーティー 24歳

セージ5、ファイター3。さり気なく器用度と知力が18もあり、ロッド夫婦と同じくちゃっかりとスペックが高い女戦士兼賢者。

かつてはレイハとボウイのように、シーヤとコンビを組んでいたらしい。シーヤとの付き合いはランよりも長かったりする。


彼女曰く、2人の出会いはザーンの「月の坂道亭」だったそうです。「サーラの冒険」でサーラ達が拠点としている店ですね。

ランは当時3人パーティーを組んでいて、彼の方から彼女達に声をかけ、話し合いの末にシーヤとミルルを加えた5人パーティーを組んだらしい。

その後パーティーは解散しましたが、ランとシーヤだけは冒険を続けたんだとか。道理で微妙にレベルに差があると思いました。


そしていよいよリュクティ達のバンド"ナイトブレイカーズ"の演奏です。"夜の破壊者"といったところでしょうか。

この"夜"って何を示すんでしょうね。後に発表する歌では"闇"は社会的な束縛、すなわち秩序を表していましたが。

作中での命名者も不明、やっぱりリーダーのリュクティでしょうかね。まぁカッコイイ名前ではありますけどね。


なお彼らの演奏する曲は「風の歌」。作詞はやっぱりファーレイ君です。この歳でこの詩を書けるとしたら、本当に天才かもしれない。

嫌なこと くやしいこと かなしいこと 全部忘れよう

sing sing この世界にはそんな呪歌があるけれど

そんなものよりもっと美しく歌おう

これがサビ(多分)にあたる部分です。その前に「風といっしょに歌おうよ」という部分もあります。風の精霊力の司るものは自由でしたっけ。

既成概念に捉われず、なによりも自由である事を謳歌するかのような詩……。彼らのデビューを飾るのに相応しい歌かもしれない。


演奏の結果はというと実に様々。露骨に敵意を抱く人もいれば、明らかに興味を惹かれた人もいる。確かなのはこれが全く新しい音楽だという事。

僅かでも共感した人がいるなら大したもんですよ。こんな前例のないものでも、認めてくれる人がいるなら今後の原動力になる筈。


そしてリュクティはファーレイを壇上に上げ(恥ずかしそうだった)、彼がギルドから脱会した事を宣言するのです。

彼の素晴らしい詩が欲しいならギルドなんて辞めちまえと。音楽家には規則なんて不要、音楽の本質は自由とハートと友情だと主張したのです。

それにもまた賛同する人が確実にいました。バード・ギルドの権威は依然として大きいけど、その権威を多少なりとも揺るがす事ができたらしい。


その日の観客の中にロマール出身の音楽家フリードリヒ・メンデルスゾーンという男がいました。


フリードリヒ・メンデルスゾーン 47歳

バード7、セージ6、ファイター1、コンポーザー(作曲家)7。ロマール出身の音楽家で、現在はベルダインに在住。

歌の収集や後進の育成に力を注ぎ、後に自分の収拾した数百の音楽を編集した「アレクラストの楽曲」という本を著す。


この人物が重要なんです。彼もまた"ナイトブレイカーズ"の音楽に興味を惹かれ、なんと著書の中にその項目を作ったのです。

"ナイトブレイカーズ"の新しい音楽が初披露された場所が岩窟のホールである事から、彼はそれをこう名づけました(勝手に)。

ロック・ケイブ・ミュージック(岩窟音楽)、略してロックとね。上手い、この落とし方にはちょっと感動しましたよ。

ロック(rock)はRock 'n' Rollの略であり、Rockは揺らすで Rollは転がすという意味ですから、岩石の方のrockとは違う。

それでも現実のロックと同じネーミングにすべく、岩窟音楽という何やらカッコイイ呼称を作ってこじつけたのが凄い。


こうしてフォーセリア初のロックバンドとしてデビューを果たした"ナイトブレイカーズ"。彼らの音楽と冒険の物語はまだ始まったばかりです。




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