「新米女神の勇者たちリターンズ 2」著:秋田みやび/グループSNE 出版社:富士見書房
★いつだって成長申告
今回の能力値の成長は以下の通り。
ジーク:筋力23→24
エア:生命力29→30
メッシュ:敏捷度19→20
ムーテス:器用度17→18
ニゲラ:筋力21→22
とうとうエアの生命力が30の大台に入りました。既に生命力だけで13も伸びているんですけど(笑)
メッシュ「キモ!何、あの生命力の漲ったテカテカエルフ!」
エア「おだまり。これで、生命力も精神力も、ボーナス+5よ」
メッシュ「ルーフェリアンエルフは、一定の年齢に達すると、生命力がどんどこ伸びていくのですね」
エア「そう、大地と一体化するの。あら、根っこが生えてきたわ」
それはエルフというか、ルナル世界のエルファっぽいですね。
技能の成長ではニゲラがレンジャー6→7として《不屈》を習得です。
ムーテス「うん、いいね!弟子と呼んであげよう」
エア「何言ってるの!ニゲラはルーフェリアの信徒よ!うちの弟子!ていうか《不屈》はわたしももってる」
気付いてみれば《不屈》持ちが5人パーティなのに3人ですよ。ジークもHPは多いし、なかなか打たれ強いパーティです。
それでも《生死判定》に失敗するとあっさり死ぬんで<奇跡の首飾り>が欲しいですね。ニゲラは今首に<渦巻き鉱のお守り>をつけていますが。
メッシュ「そうなると……HP総量から言っても、一番危ないのは私になりますな」
ジーク「すでに前科二犯だからな」
仮にソラとイスミーが帰ってきても前衛のメッシュの方が危ないでしょうしね。いざという時には《影走り》があるとはいえ。
それとエアはセージ5→6とまだまだ伸ばす。最終的には9レベルまで行って《マナセーブ》を取れたらいいですね。
ただニゲラやメッシュもそうですが副技能が多くて主技能がなかなか12レベルになりませんね。ジークはもうすぐ13レベルなのに。
一応Aテーブル技能のフェアリーテイマーを7レベルにはしているとはいえ、他の人よりは主技能に費やす経験点は多いですしね。
Bテーブル技能はAテーブル技能より安いけど、それでも9レベルとかにするとAテーブル技能の8レベル相当に重くなるわけで。
まぁアーチボルトとかは完全にファイター一本伸ばしだったし、いっそ行くところまで行ってから他に手を出すのも悪くないです。
他に技能の成長はないけどムーテスは欲しい装備が出てきたようです。
ムーテス「結構真剣に<イスカイアの魔動甲冑>を買うかどうか悩んでたんだ」
GM「いいですね。ムーテスのビキニアーマー姿」
ムーテス「ちがーう!期待の方向が明後日過ぎるでしょ!」
「堕女神ユリス」シリーズに初登場後「ウィザーズトゥーム」にデータが収録された鎧ですね。
これは<イスカイアの魔動鎧>の甲冑バージョンでして、カテゴリ<金属鎧>のSランク装備です。アーティファクトで4万5000ガメルする。
ランク効果は《マルチアクション》宣言時に魔力と防護点を1点上げるという、魔動鎧よりも防御に特化した機能となっています。
更に非ランク効果として鎧の襟に触れることで鎧を変形させることができます。変形できるのはa形態、b形態、c形態の三種類です。
順に露出のない完全鎧で防護点12、必要最小限を覆い防護点7、任意の衣服や下着に偽装できて防護点2です。
a形態になると今の<ミスリルプレート>の11点を抜きますね。b形態なら<オールタイムアーマー>扱いで野営にも便利です。
しかし<イスカイアの魔動甲冑>ってリルドラケンにも着られるサイズなんだろうか。アーティファクトだけにその辺は調整が利くんでしょうかね。
色々便利ですがそれにしても4万5000ガメルは高いですね。<ミスリルプレート>の倍近くする、流石はアーティファクト。
メッシュ「久しぶりにムーテスの物欲センサーが反応してるようですね」
ニゲラ「ニゲラも、ホントは物欲センサーびんびんですよぅ、<スネイクソード>貯金が全然貯まらないんですー」
<スネイクソード>は以前も話題になりましたが11万6000ガメルもするので更に倍以上。以前なんてその金額分のカードを持っていたのにね。
★事件解決したあとで
前回は暗殺計画を進めていたロランドの甥ロドリルは捕縛され、メッシュに新たなオプションのスレイプニールがくっつきました。
ジーク「くそ。俺は妖精使いなのに……なんで、メッシュにばっかり妖精がすり寄っていくんだよ」
メッシュ「できることなら私としても、ジーク様に献上させていただきたい」
とはいえ今のメッシュの状況を見るに、いたらいたで面倒臭い手合いなのでこれで良かったのかもしれません。
捕まえたロドリルはロランドが責任を持って預かることにしました。最早肉親の情をかけていい相手ではありませんから。
それからぞんざいズは休息を挟んで翌日になりました。もうパレードは目前なので宿泊先の領主の館は大忙しです。
パレードで撒くはずだった花吹雪が台無しにされたので、非番の兵士や街の有志までもが協力して作り直しています。
メッシュ「……多少は罪悪感に苛まれますので、お手伝いいたしますか。なんか最近肩が重いんですが」
エア「そりゃ、子馬が前足を肩にかけて伸し掛かってるものねぇ」
ムーテス「後ろ足だけでちょこちょこ歩いてて可愛いよねえ」
メッシュ「そんなの見えませんよ!心霊現象ですよ!」
エア「この世界、ポルターガイストもモンスターだからしょうがないわよ」
ちなみにスレイプニールの知能は人間並みな上に妖精語で会話ができるので、実はローラとそう変わらないはずなんですよね。
その割にはローラと違ってアピールの仕方が完全に馬なんですよね。ていうか15レベル妖精が当たり前のように屋敷にいていいのか(苦笑)
それとニゲラが保護したコレットですが、気付いたらいなくなっていました。「ここつまんないから、街にいくね」という置手紙を残して。
ニゲラ「うう……なんかすごくスペックの割にはアホというか、世間知らずっぽくて、心配ですぅ」
エア「ニゲラは、シフェナのことといい、意外と面倒見がいいのよね」
ジーク「ルーの面倒もよく見てくれてるもんな」←あとウサギとオヤジも
エア「…燃え上がれ、マイ・ジェラシー!!」
何だかダメな人を放っておけない状況に自分で嵌っちゃうんですよね。これも1つの才能なのかもしれない。
しかしコレットは自覚がなくても暗殺計画に加担してしまったわけで、本人に悪意がなくても放ったらかしにしていいんだろうか。
雇い主のダグディは出頭するからいいとして、それでゼルラントとかと縁が切れるならそれでもいいんでしょうけど。
そのゼルラントですが、ロランドから色々教えてもらって素性が明らかになります。先代皇帝の弟の1人でありセラフィナ達の叔父さんです。
セラフィナが先代皇帝の急死で皇帝位に就き、それに不満を覚えた叔父叔母と争ったのは以前ライルバートから聞いた通りです。
ゼルラントもその1人でセラフィナが"皇族還り"をする前は皇位継承権第三位でした。なまじ高い継承権を持っていたから尚更納得できなかったのかも。
上2人はセラフィナに従って顧問や大臣としての役職を得て現役で働いているのですが、彼にはそういう道を選ぶこともできなかったんですね。
GM「ちょっとアクティブに反乱を起こしたりしました」
メッシュ「それはアクティブ越えとるわ。アグレッシブですよ」
しかしセラフィナには<崩砦剣>があるので普通に戦っては勝てない。そこで彼は国の研究室から1本の魔剣を持ち出そうとしました。
いや本人を決闘で倒して王位簒奪とかで国民や家臣が納得するとも思えないんですけどね。まぁそんな思慮深かったら反抗しないか。
ちなみに「フェイダン博物誌」にも似たような人物が掲載されていまして、"妄執皇子(笑)"という屈辱的二つ名で知られているらしい(笑)
ところが彼は反乱以前に魔剣の迷宮に呑み込まれた。
一同「……は?」
ジーク「それって……バカ、いや、えっと……持ち手として認められなかったってことか?」
魔剣は持ち主を求めて迷宮を作り出すわけなので、普通に考えたらそうなりますね。
ただ魔剣の特長によっては持ち手だからこそ迷宮を作り出してしまうこともあるかもしれません。
GM「当時のセラフィナ様は<崩砦剣>を担いで、「ああ?やる気かコラ、やったろーじゃねえか!(意訳)」
とその迷宮に殴り込みをかけようとしたそうですが」
メッシュ「手ずから引きずり出すと。それもアグレッシブですな」
なんだか特攻服を着たヤンキーみたいですが似合っているのでよし。誰にでも若い時はある。
しかしいつまで経っても出てくる様子はなく、見張りの兵士を立てることもなくなり、今では入り口を埋めて封印。馬鹿かこいつ。
ちなみに一度だけ本当にセラフィナ自身が突撃したこともあったのですが「面倒くさかった」と断念したらしい。
ジーク「なんだそりゃ!あの女帝が諦めるあたり、そうとうめんどうくさそうだぞ、それは」
メッシュ「きっと、アレですよ。一層目突破条件、持っている武器で型ぬきをしろ。二層目。1万ピースジグソーパズルを完成させる」
ニゲラ「それは面倒ですぅ」
確かにイライラ棒100mとかトランプタワー10階層みたいな面倒臭さだったらリトライ可能でもやってられませんね。
彼が迷宮の中でどうなったのかは不明ですが、何か企んでいるなら今の内に何とかしたいというのがロランドの意思です。
ロランド「申し訳ないのだが、万が一にでもセラフィナ女帝の御身を害するような企みがあったとすれば、それを捨て置くわけにはいかない」
ニゲラ「そりゃそうですよぅー。当然じゃないですか」
ジーク「もともと、それを阻止するために来たんだぞ、俺ら」
前回防げたのはあくまでもロドリルの犯行のみ。黒幕まで潰して本当の意味で依頼達成です。
メッシュ「まあ、どこまでいっても我々とつながってる権力者の中では1、2を争う人ですからな」
ムーテス「そう、その権力を守りたい。売上いいんだよ、うちの店の最近の売れ筋、皇族レディースシリーズのストラップ。全部で16種類。レアは2種類」
16種類とか言っている時点で1人あたり複数のバリエーションがありますね。レアはソラにジャイアントスイングされるホーリィだといいな(笑)
というわけでぞんざいズはゼルラント確保のためにも、まずはセラフィナに会って色々と聞くことにしました。
現在死ぬほど忙しいだろうけどこっちにもコネがある。ロランドが登城するのについていけばちょっとだけ話ができそうです。
★お久しぶりの短気な女帝
ロランドのお陰でぞんざいズはセラフィナに会う時間を貰えました。直接会うのは久しぶりです。公務の合間を縫った面会なのでお疲れの様子。
セラフィナ「おお、そなたら久しいな。このたびは大儀であった」
ジーク「おつかれさーん。なんなら衣装の採寸の間とかでもよかったのに。それなら時間無駄にしないだろうし」
ニゲラ「ジークさん、めっ!」
メッシュ「そこはジークさま、男のロマン発動でしょう」
ジーク「……"インビジビリティ"は、光の契約で12ランクか……8レベルになってからだな」
女性陣「おおおい!」
知覚が「五感」「機械」の相手からは完全に透明になる魔法ですね。フォーセリアの時は白粉エルフがよく使ったものです。
ところがこの魔法は補助動作で使用できる代わりに持続時間が1ラウンドになっているんですよね。スニーキングミッションには不向きです。
それならまた闇を伸ばして"マスキング"の方がいいですね。問題は推定13レベルのセラフィナ相手に7レベルの達成値が通用するかということですが。
エア「ルー様に言いつけるわよ!」
ジーク「いや、ルーは何となく困った顔はするかもだけど、許してくれそうというか、
よくわかってないかもしれないと思う。しかし、ねーちゃんには黙っててくれ(大真面目)」
ムーテス「そっちなんだ」
エア「確かに、哀しそうな目で見られる気がするわ」
エロ本を隠しているのを彼女に見られる分にはいいけど家族に見られるのはキツイという感じですね。分かるような気がする(笑)
さて本題です。以前彼女が突撃したという魔剣の迷宮について色々聞いておかないと後が怖い。
ジーク「1人で特攻したのか?」
GM「さすがにそこまで無謀なことはしない」
「from USA」の時の構成はファイター13、レンジャー9、ソーサラー7ですしね。先制力も魔物知識も0ですよ。
「カルディアグレイス」が発売された現在リビルトすれば多分ウォーリーダー技能も加わるので、それなら多少マシになる。
メッシュ「では、血まみれ伯爵と魔神博士とかそのあたりを連れて入ったと」
エア「そして、敵を300体ほど倒して、「殺し飽きた」といって出てきたと」
GM「いやー、その面子だとダンジョンのほうが壊されそうです」
実際には近衛のものを数名連れて行ったらしい。きっとアルフォンゾとかローランドと違って腕利きなんでしょうね。
ところがその戦力でも表層で飽きて帰ったらしい。理由は細かい妖精がわらわら出てきて面倒だったんだそうです。
しかもそいつらは戦闘を仕掛けるでもなく、妖精語で色々頼みごとをしてきたらしい。これには妖精語が分からないセラフィナは辟易。
結局、当時のセラフィナはそんな面倒なものに構ってる暇はなく、撤退を選んだようです。
セラフィナ「ちょっとイラっとして、地上に戻ってきたのだ。今考えると、短気であった」
メッシュ「ほほう……困りました、また見えません」
セラフィナ「ああ。そうであったな。確かにルーンフォークには厄介だっただろう。
同行させたルーンフォークの銃使いが同じことを言っていたので、
こちらはペンキをぶちまけて、とりあえず見えるようにしたのだが」
見えないだけで実体はありますからね。透明な敵への対処法なんてRPGではずっと昔から検討されてきましたもんね。
塗料をぶちまける、なければ小麦粉なり返り血なりで居場所は分かる。それでどれだけペナルティを軽減できるかはGMの裁量次第。
こうして色々聞きましたが、要約すると迷宮にはリドルがある。武闘派のセラフィナには強力な魔物を用意するより効果的かもしれない。
ムーテス「メッシュの背負ってる蹄よりもレベルの高い妖精が出てきたら大変だよね」
メッシュ「それはすでに、イフリート17レベルの世界ですよ!《炎のダンス》×2で全滅必至ですな!」
これはイフリートの上半身にある特殊能力で、舞によって2D+22点の炎属性魔法ダメージを範囲に与えます。しかも補助動作で。
期待値にして30点近い強力な攻撃ですが、実はこれ自体2回も使えない。1ラウンドに1回だけで上半身しか使えませんしね。
もっとも主動作で《炎の魔力撃》を《2回攻撃&双撃》で上半身・下半身がそれぞれ使うと、期待値50点弱の物理ダメージ4連発が来る。
今のぞんざいズでも誰か殺されそうな相手ですね。まぁ大司教がフル強化すると40点ぐらい止めるんで余裕で耐えられるんですが。
そういうのが出てくることを考えるとリドルで良かったというべきか。ちなみに出てくる妖精はそんな凶悪なものではない。
ムーテス「そうそう。女帝様、もしその頼みごとというリドルに金がかかるものを要求された場合……(揉み手)」
セラフィナ「ん?ああ。領収書と報告書を提出すれば、経費はこちらが持とう」
アイヤールは基本的にケチだそうで。こういうところはしっかりしているんですね。領収書が貰える相手ならいいけど。
それでも女帝自身の言質を貰えたのは大きいですね。
ムーテス「ものすごく強い鎧をくれ……とか言われないかなあ。大好きな言葉だよ、使い放題!」
メッシュ「面倒くさいということは、じゃがいも千個、メインウェポンで剥けといわれるかもしれませんよ」
エア「ということは国宝<崩砦剣>でジャガイモを剥く女帝」
セラフィナ「お前ら用がないなら出てけ」
まだ用はあります、ゼルラントのプロフィールを教えてもらいます。これについては精密画まで貰えたので顔はバッチリ。
あと能力ですが当時は真語魔法を7レベルぐらいで使えたらしい。あと剣の嗜みもある。推定魔法戦士ですね、実はセラフィナもそうですが。
ただ当時のままである保障は何もありません。それこそ滅茶苦茶強くなっている可能性もあるし、別の技能を伸ばしている可能性もある。
メッシュ「……真語魔法か……失われしいにしえの魔法ですなあ……(遠い目)」
エア「うちのパーティ限定でね」
ニゲラ「今どこで何やってるんでしょうねえ、ソラさん」
エア「……いや、できれば知らないほうがいいと思うわ。蛮族と仲良く気楽にやってるらしいなんて、
うっかり知ったらわたしは妹の討伐に向かいそうだから」
北沢先生の「with BRAVE」シリーズでそういうことになっています。異国の地で一夜にしてのし上がる、バルバロスドリームですね。
実力主義だから実力さえあれば誰であろうとも地位を得るのは容易い。そういうところはマーモやベルディアに似ていますね。
それにしてもかつては"スリープ・クラウド"が遺失魔法扱いされていましたけど、ついに系統そのものが遺失扱いにされるとは(笑)
それとゼルラントはできれば生け捕りですが、止むを得ず戦闘になって殺害してしまっても容認されると約束してくれました。
セラフィナ「キンドル家には、いささか申し訳ないが……」
これについては前回キンドル家ルートなら知ることができたようですが、実はキンドル家はゼルラントの養家だったのです。
パーシバルの父親であるベネディクト伯爵はゼルラントの養父になる。丁度ライルバートとジャスティのような関係ですね。
そのことからベネディクト伯爵はゼルラントへの情があり、セラフィナが討伐に乗り出したときは土下座して命乞いをした程です。
ちなみにゼルラントのフルネームはゼルラント・キンドル・アイヤールといいます。今は既にキンドル家から籍を抹消されていますが。
そういう事情があるし、本人はとっくに"皇族還り"を果たしているので、現在のパーシバルが一人息子なのも彼が跡取りになるのも確かでしょうが。
それにしてもパーシバルからすれば一応義理の兄ですよ。彼自身が義兄の存在を知っているかは不明ですが、義兄の悪行を間接的に阻止するとは皮肉な。
セラフィナ「そなたたちには、いつも面倒をかけるな。この国の磐石の一角を担っているといっても過言ではあるまいよ。
いつか、その働きに報いることが出来ればと思う」
ジーク「ま、面倒ってわかってくれてればそれでいいよ」
ムーテス「できれば女帝ブロマイドを売る許可をくれれば元は取れるっす」
セラフィナ「それは、法務で権利関係と相談してもらおうか」
ニゲラ「意外とちゃっかりさんですぅ」
これって一介の冒険者相手としては相当な賛辞ですよね。ていうかすっかりアイヤールの冒険者になっちゃいましたね。
その上で褒美が貰えるとしたらやっぱり爵位でしょうかね。金ならリオスの商人が出せますが、名誉や身分は皇帝ならではの贈り物です。
あるいはいい感じの配偶者を紹介するなんてのも美味しいですね。御伽噺の王道的ハッピーエンドって感じで悪くない。
以上で面会を終えたぞんざいズはロドリルにも会いにいきます。以前ムーテスがぶち込まれていた牢屋に彼はいました。
ムーテス「あ。なんだか心が痛いっす!」
ロドリルは確かにゼルラントに唆されたと証言します。それも相手の方から会いに来て現状の不満を訴えたとか。
最初はゼルラントもセラフィナを直接狙うつもりでしたが、そこでロドリルがロランドを狙うべきだと説得したそうです。
そうして自分が《皇城領》の実権を握れば結果としてセラフィナの暗殺もやりやすくなるとね。なかなか上手いことを言うものです。
ニゲラ「でもぉ。女帝様を暗殺しても、その跡を継ぐのはゼルラントさんじゃないですよねえ。ミスティン様ですよぅ」
ロドリル「そのとおりだが、ゼルラントさまはそのことには頓着なさっていないようだった」
既に皇位よりもセラフィナを討ち取ることに執着しているんですね。まるで理性的ではなかったそうで、精神状態が気になります。
それと現在のゼルラントは迷宮に捕らわれている状態にあるらしく、あまり長い時間外にいることができないようでした。
ジーク「そのゼルラントに会ってるなら、前との違いが何かあったか気付かなかったか?」
ロドリル「そう言われるとちょっと身体のバランスがおかしかった気がする」
メッシュ「それは……身体の一部が変形しているのを隠そうとしているとかいうことでしょうか?
何か紙切れのようなものを、携えていませんでしたか?」
ロドリル「それはわからないが、ローブの中で何か紙がカサカサいうような音がしたような……」
エア「……召異魔法、デーモンルーラーか。地に堕ちたわね」
「カルディアグレイス」を導入しているので気になっていましたが、やはり新技能のデーモンルーラー技能も登場しましたね。
「双頭のサーペント」でマイザールが使っていた魔神の力を借りる魔法です。中には肉体を異形にする魔法、人道に反する魔法もある。
このため世間一般では邪悪な魔法と認知されていますし、そういった魔法を人前で使ったり使用が露見すると犯罪になります。
そうでなくても下手したら使役する魔神に命を奪われる可能性もある非常にリスキーな魔法です。その分強力な魔法でもありますけどね。
何しろ特定の魔法を行使すると《命中力判定》や《回避力判定》をデーモンルーラー技能を基準値として行えるようにもなります。
よって前衛系技能を取ることなく前衛として働くこともできる魔法使い系技能といえます。PCより悪役に向いているともいえる。
ちなみに他者を回復する魔法はない、自分を回復する魔法は使い難い、補助動作で使える魔法が多いと、非常に癖のある技能です。
ここでいう紙とは召異魔法の行使に必要な<魔神の契約書>ですね。1回の行使につき1枚の契約書を消耗品として使用する必要があります。
この辺は装飾品として装備する必要がある<魔法の発動体>や<聖印>と違いますね。契約書自体は自作しないといけないので手間はかかりますが。
そして肉体を異形にする魔法は通常なら持続時間が短時間ですが、その大半は儀式を行うことで持続時間を延長させることができます。
この時は持続時間が「7日」か「永続」になり、行使に使用した契約書を装飾品として任意の部位に装備しないといけません。
つまりゼルラントはこの方法により異形の身体に契約書を貼り付けていた可能性がある。
ニゲラ「デーモンを呼び出すんだぁ」
エア「……そういえば、私たちが《紫壁領》で最初に戦ったのって、誰かに呼び出されたっぽい魔神じゃなかった?」
あの魔神達は<妖精の卵>を狙っていた。そしてロドリルはゼルラントから<妖精の卵>を爆弾のようなものとして貰ったらしい。色々繋がってきましたね。
ちなみに召異魔法には確かに魔神を召喚する魔法があるし、それと契約して封入具というものに封入し、一時的に解放することで使役する術があります。
この時契約の内容にはテンプレがあって、それが一番安全な契約法として知られています。しかしそれにすら落とし穴があるのが召異魔法の恐ろしさです。
複数の魔神を同時に解放したり、封入具を破壊したりすると、魔神は暴走状態になって場合によっては術者の心臓を奪うのです。
これは契約内容に「条件により、魔神使いの心臓を差し出す」という条文があるためです。これは契約なので戦闘を行うことなく自動的に死亡します。
15レベルであろうともインプに心臓を抉り出される可能性があるんですね。よって1人の魔神使いが複数の魔神を差し向けるというのは考え難い。
ならあの時3人の魔神使いがそれぞれ1体ずつ魔神を使役していたのか。あるいはもっと別の方法で3体を使役したか。いっそ3体は自由意志で……。
それは今はわかりませんが、今はゼルラントの確保です。ぞんざいズは早速準備を整えてゼルラントが入ったという迷宮に向かいます。
ちなみにスレイプニールもミスティン姫に預かってもらいました。その時にはルーちゃんもローラもすっかりミスティン姫のお人形にされていました。
この分だとスレイプニールがたてがみを編み込まれるのも時間の問題ですね。まぁローラと会った瞬間お互いにメッシュの取り合いをしていましたが。
お陰で風と雪の相乗効果で室内でブリザードが吹き荒れる。
ジーク「姉ちゃんの部屋でそれやったら、敵だとみなすぞ!」
ますますファンシーになりつつありますね。ていうかそろそろ何か起こりそうで怖いんですけど。
★迷宮に挑戦だ!
ぞんざいズが案内されたのは城の地下でした。以前は色々な魔剣やマジックアイテムを収納するスペースだったようです。
ところがゼルラントが魔剣を持ち出したせいで床に穴が開き、螺旋階段が更に地下に向かって伸びていました。
今では他のアイテムは別の場所に移され、迷宮の入り口には板を被せて砂を積み上げ封印。立ち入り禁止にして見張りが立つのみ。
その封印も兵士さん達が人海戦術で砂を撤去してくれました。そして迷宮の入り口には看板が立っています。
「キミは、跡を継ぐものか!?さあ、此処に辿り着いたことで運を満たした!
あとは知力と、体力だ!それを証明するためにも、来たれ!我が城に!」
また訳のわからないことを。この謎のテンションはゼルラントのものか、魔剣のものか。いずれにしても再封印したい。
ジーク「すげえな、女帝。これ見て戦意挫かれなかったんだ!」
エア「どこかに、迷宮造った魔剣の由来をご存じのかたはいませんかー!!」
この悲痛な叫びでやって来た人の説明によると、その魔剣は魔動機文明時代のもので正確な名称は不明です。
ただその魔力から<後継者選別剣>と呼ばれているらしい。自分の持ち物に一番相応しい後継者を選別する魔力があるとか。
ノリが藤沢先生の「Sweets」みたいになってきましたね。まぁそういう魔力ならリドルで知力を試そうとしていることには合点がいきます。
気を取り直してぞんざいズは迷宮に突入しました。階段は剣の意匠が壁に突き立っていて、その腹を踏みしめていくという怖いものです。
またなんでそういう余計なデザインにするのか、匠の仕事ですか。でも転落しないように上昇気流があったりして無駄に親切な設計です。
階段を降りた先はとても広いフロアで南北に扉。特徴的なのはフロアの床には輝く石(タイル)が埋め込まれて、色んな色に光っているという点です。
そしてそれぞれの光が干渉しあって白く見えるという光の三原色を利用した造りです。とても眩しいけどペナルティが入るほどではありません。
そうして周りを観察していると「あ!人だ人だー!」という声がして5体の小人が現れます。ジークは判定不要で分かる、土の妖精ノームです。
ノームは7レベルの妖精です。身長1mほどの小人の姿をした土の妖精です。主に髭を生やした老人の姿ですが、女子供の姿の者もいる。
妖精でありながら家族で生活していて、家族を大切にする性格のノームは女子供は家の外には出さないようにする習性があります。
妖精魔法限定7レベルで土属性を魔力10で使用し、《魔法拡大/数》《MP軽減/フェアリーテイマー》の《魔法適性》を持ちます。
《土無効》《風に弱い》という特徴を持ちます。《地揺らし》によって半径30m内の者を転倒させる能力ももっています。
いやはや本当に妖精が沢山出てくるようになって賑やかでいいですね。まぁメッシュには見えないんですが。
ノーム「人族、ひさしぶりだなー」
ノーム「あ、こいつ、わしらが見えん種族じゃのー」
メッシュ「え?え?皆さま、何を視線で追ってらっしゃるのか、まったく分からないのですが!」
ノーム「こういうヤツの場合は、こうすればいいのじゃよー」
ノーム「前回、覚えたのじゃよー」
と言い出した彼らは塗料の入ったたらいを持ってきて、自ら塗料に飛び込んで姿を見せるのです。何この親切な妖精さん(笑)
どうやら前回セラフィナに帰られてしまったのが堪えたらしく、次に人族が来た時には友好的に接しようと準備していたらしい。
とはいえこれでもメッシュは姿が見えても声は理解できないんですよね。というのもルーンフォークも妖精の声自体は聞こえているらしい。
しかしそれを意味のある言葉として受け取れない。「水のせせらぎ」や「木々のざわめき」といった環境音に聞こえるんだとか。
だから会話はできないけど妖精の声を使った特殊能力の対象にはなり得る。今回のケースだとジークが通訳してくれれば問題ないんですけどね。
ノーム「お願いごと、聞いてくれんと困るしのー」
実はこの遺跡の南北の扉の向こうにも「めらめらしたの(サラマンダー)」や「ちゃぷちゃぷしたの(ウンディーネ)」といった妖精がいます。
彼らはそれぞれ困っていて、その悩みを解決してあげると先に進めるらしい。有体に言うとリドルが3妖精それぞれ用意されているということです。
サラマンダーは7レベルの妖精です。全長2mほどのトカゲの姿をした火の妖精です。決して好戦的ではないが何でも燃やしたがる癖がある。
妖精魔法限定7レベルで炎属性を魔力10で使用し、《魔法拡大/数》《魔法拡大/距離》の《魔法適性》を持ちます。
《炎無効》《水に弱い》という特徴を持ちます。対象1体に《炎の息吹》を発射して炎属性の魔法ダメージを与える能力もあります。
ウンディーネは7レベルの妖精です。人間やエルフの娘の姿をした水の妖精です。好奇心が強く享楽的で、旅人を遊びに誘うことがあります。
しかし彼女達は普通の生き物が水に溺れることを知らないため危険を伴うことがある。また醜い男や水質を汚す相手には積極的に敵対する。
妖精魔法限定7レベルで水・氷属性を魔力10で使用し、《魔法拡大/数》《MP軽減/フェアリーテイマー》の《魔法適性》を持ちます。
《水・氷無効》《炎に弱い》という特徴を持ちます。《水の身体》は打撃武器に対して防護点+3で《水中適性》も持っています。
対象1体に高圧水流を両の手の平から吹き付ける《水鉄砲》で水属性の魔法ダメージを与えながら転倒させることもできます。
何だかフォーセリアの四大精霊を思い出すラインナップですね。残る風属性もシルフですし、クラス3の妖精は馴染み深くていい。
ちなみに通常の妖精はクラス1〜8で六属性あるとすると全部で最低48種類はいるはずですが、「イグニスブレイズ」の時点でも全て揃ってはいない。
他にも複数属性を持つ古代種妖精なんていうのもいますし、全組み合わせを考えるととんでもない数になる。流石に全部揃う日は来ないかもしれない。
それはともかくノームのお願いですが、
床に敷き詰められたタイルを、一つずつ独立するように区切って、その配置を調べたい。
彼らは床のタイルの配色を調べようとしています。しかしこの通りタイルはピカピカして白くなっているので分からない。
そこで彼らは"ストーンウォール"の魔法でタイルを1つずつ区切ることで光が交わらないようにし、色を調べられるようにしたいのです。
"ストーンウォール"はランク8の妖精魔法(土)で、石の壁を立てるというものです。必ず地面に垂直に立ち、物体や生物を貫くことはできない。
つまり全部で16個ある点(タイル)を5本の線(石壁)で1つずつ区切るというリドル、というかパズルなんですね。
このリドルでは線を交差できないと解けないので、今回のノーム達が使うのは同じ"ストーンウォール"同士交わる特殊な魔法という設定です。
しかし7レベルのノームだと使用できるのはランク7の魔法までです。本来ランク8の妖精魔法は使えないんですが、それを込みで特殊なのか。
いつかの光と闇の迷宮と同様に文章だけで問題の詳細を伝えることはできないので、具体的なタイルの配置は文庫を参照してください。
ムーテス「はい。魔晶石あげる。これでもっと頑張るっすよ」
GM「やると思ったけど」
しかしこれは個人的には過去最難関のリドルですよ。セラフィナが「面倒くさ!」とか言って帰ったのも頷けます。
それからしばらく一同悩みました。
メッシュ「きっと、こういうのはエアがさらっと解いてくれますよ」←また諦めやがった(笑)
ニゲラ「メッシュさん、早々に諦めたぁ!」
エア「……ん。あのね、5本の直線で、16個部屋をつくることができるのよ」
糸口を掴んだのはやはりこの手のパズルが得意なエアでした。五芒星の各頂点を延長させるのがポイントですね。
そうして伸ばした線は頂点で交差しながら壁に接します。そうすると星の中、頂点の先の三角形、頂点の間の空間に5つずつスペースができる。
星の中央を含めると全部で16個のスペースができるわけです。問題はその配置ですね、5本の線でどう区切るか。試行錯誤で何とか分かりそうではある。
ノーム「他の部屋を見てきてからでもよいと思うのじゃよー」
ノーム「何となくそんな気がするのじゃー」
ジーク「なんだ?他の部屋にヒントがあるのか?」
ノーム「うむ。そんな気がするのじゃー」
ここでノームさん(という名のGM)のアドバイスなども入りましたが、解き方を突き止めたエアは諦めない。
解けそうなのに解けない、これもまたリドルの醍醐味ですね。解けた時のスッキリは尋常ではないでしょう。
★北のお部屋にはちゃぷちゃぷ
ノームのリドルに挑むエア達でしたが、何も全員で考えることはありません。エアやムーテスあたりならいずれ解けるでしょうし。
メッシュ「……ジーク様、私、とりあえず周囲を探索して参ります」
ニゲラ「厳かなギブアップ宣言ー?」
メッシュ「違います!時間を無駄にしたくないだけなのです」
ジーク「わかった。行ってこい、メッシュ」
行くのはいいけどまた妖精が出てきたら対処に困りますね。ノームと同じように姿を見せてくれても会話はできないし。
メッシュが向かったのはまず北の扉でした。こっちの扉を開けると部屋には7体のウンディーネがいました。
メッシュ「……何だ空っぽか」
するとウンディーネはがっかりした顔をしながらも自ら塗料を被ってくれました。セラフィナはここにも来ていたらしい。
その上壁に文字まで書いてくれて至れり尽くせりです。彼女達も迷宮から解放されたくて一生懸命なんですね。
あと部屋の中には3匹ほどヘルハウンドもいました。幸い襲ってくる様子はなく、氷壁で区切られて大人しくしています。
ヘルハウンドは4レベルの幻獣です。黒い毛皮を持つ大型犬のような姿をしていて、地獄の番犬とも呼ばれる。
乱戦エリア内の任意の3体に《炎の吐息》で炎属性魔法ダメージを与えます。もちろん《炎は無効》の耐性持ち。
フォーセリアの頃は魔界出身で魔神と同郷でしたがその設定はない。本当に地獄の番犬かどうかも不明です。
さて肝心の文字ですが、そもそも共通する言葉を持っていないので絵文字で表現します。
まず7人の女の子の顔を描きました。これはウンディーネ達自身だと指摘するとイエス!と親指立てて肯定。
次にそれぞれの顔の下に線を引きます。この時点でまたもウンディーネ達を使ったパズルだと見当はつきます。
そこでメッシュは手っ取り早く会話ができるジークを呼んできます。すると予想通りお願いをされます。
ヘルハウンドをそれぞれ平和に隔てるために、7本の壁で、均等な部屋を3つ、造ってください。
現在ヘルハウンド達の内2匹は特別な"アイスウォール"で区切られていて、残り1体も同じように氷の部屋に入れようとしています。
ところがヘルハウンド達に対等な待遇を要求されているから大変です。もし同じ広さの部屋を用意できなければ暴れるでしょう。
ちなみにこの魔法はランク9の妖精魔法(水・氷)です。作るのが氷の壁であることを除けば"ストーンウォール"とよく似ています。
大きく違うのは石壁と違って視線を遮らないということですね。これにより視線さえ通っていれば効果のある魔法や特殊能力は有効になる。
あと同じような魔法はランク9の妖精魔法(炎)にも"ファイアウォール"としてありますね。風・光・闇には壁系の魔法はないようです。
フォーセリアの頃は"スピリットウォール"として属性の数だけあったものですが、実用性のあるものだけ残した感じですね。
メッシュ「では1匹倒せばいいのですね?」
ところが倒しても魔剣の迷宮である以上、またどこからともなく補充されるでしょう。
エア「あら。新しいリドルが出た」
ムーテス「うん、それは後で(黙々とリドル解き中)」
エア「……あんたはぶれない男ね。色んな意味で」
ニゲラ「……というわけで、ニゲラはぶれますー!後は任せましたぁっ!(脱兎)」
メッシュ「おお、リドル脱落組が増えましたか」←やっぱり脱落か
ニゲラ「ニゲラはアクティブなほうが得意ですぅ」
これはいわゆるマッチ棒パズルですからノームのリドルより難易度は低いでしょう。
完成予想図としては7本の線で3つの三角形を作るんですね。
ジーク「つまり、こうだろ?」←早くも解答を出した
GM「あ。はい、正解」
というわけでアッサリと解いてしまいました。新しくできた部屋にヘルハウンドさんもご機嫌で入っていきました。
するとヘルハウンドのお腹が邪魔で見えなかった文字が顕になります。
メッシュ「『実は、土壁は6本引いていい』」
エア&ムーテス「なにぃいい!」
GM「ちがう!『中央に、歪な星が浮かび上がるとき、剣への扉が開かれる』」
ノームのリドルのヒントとして星型であることを暗示しているんでしょうが、そんなものはエアがとっくに解いています。
問題はその星の作り方なんですよね。まぁこれで考え方は間違っていないという確信が持てたのでいいでしょう。
★南のお部屋はめーらめら
ウンディーネのリドルを解いたジーク達はその勢いで南の部屋にやってきました。そこににはサラマンダーが10匹もいました。
サラマンダー「あのね。ボクたち、力自慢をしているの」
サラマンダー「でもね、負けるの嫌なの」
サラマンダー「みんな公平でいたいの」
彼らは力比べが好きだけど、勝ち負けを決めてヒエラルキーができてしまうのは良しとしていません。
かといって力比べに参加できないのも嫌なのです。なんというゆとりサラマンダー。もっと熱くなれよ。
では彼らのお願いはというと。
サラマンダーたちは火を噴いて、8つの対象物を、公平に同じ個数だけ燃やしたい、とわがままを言っています。
参加できない子がいないように、数が少ない子がいないように。余る対象物がないように。
サラマンダーたちの力比べの的を、配置してください。
今回のリドルでは9つの燃えやすい玉を用意しています。1匹あたり同時に3つの玉を燃やすのが条件です。
あと本文では8つの対象物となっていますが図では9つです。これは9つの方が正しいでしょうね。
配置としては3×3で均等に並んでいて、その内2つだけを動かすことができるという仕様になっています。
ニゲラ「……つまり、的をいくつか壊してしまえばいいんですよねぇ?」
メッシュ「ニゲラ、貴方は何ということを言うのですか!……超、いいアイデアでございますよ」
サラマンダーズ「やめてよーやめてよー」
メッシュ「ぎゃー!ジュッっていう!ジュッて!何この熱さ!」
今回のサラマンダー達は塗料を被っていないのでメッシュには見えていません。被っても蒸発して異臭を放つだけなので。
こうして主従とニゲラがリドルに挑もうとしたときでした。
エア「っしゃー!解けた!これで完成!(ガッツポーズ)」
なんと先にノームのリドルを解いてしまいました。ムーテスも惜しいところまで来ていたようです。
あとはノームに指示を出すだけですが、テンションの上がっているエアとムーテスはまだ謎を欲していました。
GM「えー、ノームさんを誘導して魔法を唱えますとですね……」
ムーテス「そんなのは後で、残りが終わってからでいいよね」
エア「で!?次のリドルは?」
ニゲラ「だめー!1問ぐらいニゲラも解きたいですー」
なんというか、イージーの次にハードを解いて、それからノーマルに挑む感じですね。この2人が合流するなら解答は時間の問題でしょう。
エアとムーテスならすぐ解けるだろうと思っていましたが、このリドルを解いたのはこの人でした。
ジーク「……んー……ラインが足りないんだよなあ。2回動かせばいいんだけど」
GM「(あれ?この形)えーとね、ジーク。なんか壁際に並んでたサラマンダーたちが、いそいそと近づいてくる」
ジーク「お、もしかして、これ正解か?自分ではラインが揃ってるか、わからなかったんだけどな」
メッシュ「ジークさま!さすがです!素晴らしい!」
エア&ムーテス「がーん!」
形としてはオリオン座のように真ん中がキュッと萎むように2つの玉を動かして10本の線を引いています。
2つの三角形を上下逆になるように重ねて、真ん中に十とXを更に重ねるような感じです。確かに一見完成しているか分かり難い。
一番難しい問題はエアが解き、他2問はジークが解いたことになりますね。そしてそれを傍観する執事と。
ジークの指示に従ってサラマンダー達が一斉に火を吹いて玉を燃やすと、焦げ後から文字が浮かび上がります。
『星の舞台で、3度回れ』でした。こちらもノームのリドルに関連していますが、ヒントというかその後の手順ですね。
するとウンディーネの部屋は解かなくてもいいけど、こっちの部屋は解かないと先に進めなかったりするんだろうか。
ともかくこれで全てのリドルを解きました。中央の部屋に戻ってノーム達に指示を出すと石壁が様々な色で照らされていきます。
そして石壁で作られた星型が浮かび上がり、ステージのようになります。その上でジークが3度回ると星型は逆に沈み始めます。
星型は舞台の奈落のようにゆっくりと床の下に沈んでいきます。ぞんざいズは全員で星型に降りて迷宮の最深部へと向かいます。
メッシュ「この床、細かく調べたら仕掛けに気付けたかもしれませんな」
GM「そうですね。まあ、光が溢れてて見えにくかったでしょうけど」
メッシュ「女帝も癇癪起こして建造物破壊剣の<崩砦剣>で思いっきり叩きつけていれば、先に進めたのでは」
GM「……確かに」
防護点0扱いならどんなに頑丈でも根気よく殴り続ければ壊せたかもしれませんね。あるいは魔剣の迷宮だからそれすら無効になるのか。
この時奈落へ向かうぞんざいズを見送る3妖精の姿がありました。彼らは妖精としての本能で分かるのかジークの剣を見ていました。
ノーム「ありがとうー!ありがとうー!これで解放されるよ。もし、必要だったらわしらは手を貸すでなー」
ジーク「剣?あ、<ジークハルトブレード>か……!やった!ようやく妖精の力を借りる下準備が整ったぞ!」
メッシュ「長かったですな、ジーク様。おめでとうございます!」
ジーク「何となく、お前に言われたくはないぞメッシュ」
そうなると色々夢が広がりますね。《○○無効》の能力なんて地味に便利ですよ。少なくとも同属性の妖精相手に圧倒的有利になる。
例えばイフリート相手でも魔法はもちろん《炎のダンス》や《炎の魔力撃》といった炎属性の攻撃は悉く無効になるんですね。
あとは《魔法適性》ですね。《MP軽減/フェアリーテイマー》なんてあって困るものじゃないし、《魔法拡大/距離》もあると便利。
もうすぐ《バトルマスター》を習得できるし、そうなれば《マルチアクション》《魔法拡大/○○》のバリエーションが増えるのはありがたい。
★剣の奥の……
星の舞台が降りた先は大理石の床と豪華な絨毯を備えた城のような場所でした。それはアイヤールの皇城によく似ていました。
具体的には玉座の間に続く廊下ですね。実物より多少薄っぺらな印象もありますが、恐らくはゼルラントの理想を魔剣が形にしたのでしょう。
ニゲラ「……ここで、1人で皇帝気分を味わっていたんでしょうかぁ……」
ムーテス「それを思うと、淋しい人だよね」
細かい部分が割りといい加減なことになっていて、廊下の突き当たりは玉座の間に通じる重厚な扉を再現していました。
メッシュが罠などを調べつつ注意深く扉を開けると、中はやはり玉座の間によく似ています。初めてセラフィナと顔を合わせたのもここでしたね。
しかしここの玉座は実物より大分過剰装飾で、派手に飾り立てようとする虚栄心を投影しているかのようでした。そこにゼルラントの姿がありました。
毛皮の外套に冠を頂き、仕立てのいい上着を着込んでいたりと、彼の理想の姿がこれだったのでしょう。本物を知る立場から見ると滑稽なものですが。
それと腰には金ピカの<崩砦剣>っぽい剣を下げていますね。冠や玉座以上に皇帝の象徴である魔剣です、皇帝気分に浸るには外せなかったのでしょう。
エア「貴方がゼルラント?」
ゼルラント「その通り。余はゼルラント。アイヤールの真の皇帝なり。そなたたちは何者か」
予想通りに皇帝気取りです。しかも目がどこかイっちゃっているようですし、ロドリルの言うように正気ではなさそうですね。
ぞんざいズとしては彼からできる限り情報を聞き出したいところですが。そうなるとあの手が使えますね。
ジーク「俺も成長したところを見せてやる。メッシュ流追従その1!我らが陛下、お迎えに上がりました(恭しく跪く)」
そう、以前ゼルブリスでオルガを手玉に取ったメッシュの交渉術です。上手く煽てて掌の上でコロコロ転がしてやるのです。
権力への執着が強い相手ですし、その上正常な判断ができないとあれば、臣下の振りをして接すれば悪い気はしませんからね。
こういう態度を取られると予想通りにゼルラントは腰を浮かして喜びます。
ゼルラント「お、おお!本当か!あの生意気な小娘が……セラフィナがついに死んだか!」
メッシュ「はい。このたびは陛下のご慧眼の通りに事は運びました。さすがでございます。
ゼルラントさまにしか成し得ぬご計画、まことに見事でございました」
ゼルラント「ほうほう!ロドリルは上手くやったようじゃの」
メッシュ「は。さすが陛下でございます。天晴れとしか言うほかはなく」
そして走り出せば場を支配するのはやはりメッシュでした。本当に見事なもので、"言葉の魔術師"の称号を引き継げますね。
あとはこの迷宮を作り出した魔剣ですが、パッとは見つからないもののその魔力の詳細は彼がペラペラ喋ってくれました。
それによるとこの魔剣の魔力自体は事前の情報の通りで、後継者に相応しい者の知恵と強さをふるいにかけるものです。
知恵は先程のようなリドルで計り、強さは魔剣の持ち主が後継者候補の最後の試練として立ち塞がることで計ります。
しかしいつも拘束しておくわけにもいかないため、迷宮の奥には出口としてテレポーターがあっていつでも外には出られます。
そうして外に出た持ち主は一定時間で迷宮に召喚されます。言わば魔剣の持ち主は同時に迷宮のラスボスとして縛られる存在でもある。
そういうわけなので魔剣として冒険や戦場に携帯するようなものではないんですね。本当に後継者を選別することに特化した魔剣です。
ゼルラント「とはいえ、私の持つものをまだまだ誰かに譲り渡すわけにはいかん……」
メッシュ「当然でございます。ゼルラント様は、これからすべてを手に入れる方。譲り渡すなど……
しかし、このような素晴らしい計画、どのように思いつかれたのでございますか。
我々一同、ゼルラント様の懐深さに感涙すら浮かぶ心持で御座います」
ジーク「くっ……俺はまだまだメッシュに比べたら甘いな」
ニゲラ「いえ、ジークさんはそれでいいと思いますよぅ」
ちゃんと敬語で挨拶できただけでも「ク○ラが立った!」程度に感動しましたけどね。
するとやはりぼっち生活の長かったゼルラントはいい気になって喋ります。
ゼルラント「私は、あの方に絵具と画布を差し出し、我らはともに輝かしい未来を描き出したのだ……」
ジーク「あの方?」
ゼルラント「そう。誰よりも、賢明にして……気品あるあのお方。私がアイヤール皇帝となれば、あの方は……」
エア「……こいつ。もしかして、背後にいる何者かに、すでに<魔神の苗床>にされてるんじゃ……」
これについてはマイザールがよくネタにしていましたね。結局本編では実現しなかったけどゼルラントはそれにされている可能性が高い。
ちなみに苗床には段階がありまして、<魔神の種>を植え付けられてからの日数経過で第1段階から第5段階まで進んでいく。
この時術者の魔力から求めた達成値が苗床の精神抵抗を破る必要がありますが、抵抗しても同じ日数が経過すると再判定し続けます。
1→2は1週間、2→3は1ヶ月、3→4は3ヶ月、4→5も3ヶ月です。段階が上がるにつれ肉体と精神が術者に隷属するようになっていきます。
《見識判定》の結果、ゼルラントの場合は第3段階の苗床になっていることが分かりました。すると昨日今日種を植え付けられたわけじゃないですね。
この段階になると人としての倫理観は薄くなり、他人よりも自分の都合や快楽が優先。そして種を植え付けた者は何より優先して考えるようになる。
その心情は心酔や恋慕の域に達しています。更には魔神に対して親近感を強めていて対抗するような判定には−3ものペナルティを課せられます。
人として色々終わっていますが治療は可能です。"リムーブ・カース"のような呪いを解除する方法で達成値を破ると1週間に1段階のペースで回復します。
問題はこんなことをする以上は9レベル以上の召異術師が裏にいることになりますね。種を作成した人物と植え付けた人物が同一ならばですが。
ゼルラント「……あの方は?<貴婦人>はどこにおいでなのだ?お前たちが……奪ったのか?いや、奪いに来たのだな?」
それではいよいよ召異術師との初対決だ……と思いきや、ある意味予想通りのストップがかかります。
メッシュ「陛下!では、我らとともに参りましょう!
陛下の傍らにいるべき<貴婦人>様は、本当の玉座の傍らにて、主のお帰りをお待ちなのでございます!」
やっぱりこの男です。今聞いたばかりの<貴婦人>なる謎の人物を利用し、口車に乗せて緩やかに拘束するつもりです。頭の回転が速すぎる(笑)
メッシュ「陛下のご威光は、あまねくアイヤール全土を照らしだしておりまする。
さあ、我らと共に新たな、輝かしい国の中心へとおいでくださいませ!
我らそのために、こうしてゼルラント様をお迎えに上がった次第であります!」
それに合わせて仲間達も頭を垂れて恭しくします。ソラはいないけどエアとジークもナチュラルに参加しているあたり成長を感じます。
ムーテス「女性陣は肩が震えてるっすよ。僕みたいに、地を這うような土下座をしないと」
女性陣「それは無理」
メッシュ「どうか、今こそ!セラフィナ亡き後の大輪の薔薇を支えるは、ゼルラント陛下のお役目でございますれば!
どうぞこの手をとり、アイヤール帝国にお戻り下さいませ!」
ジーク「ゼルラントさましか、いないのでございます(棒)」
いくら虚栄心があるからといって正常な判断をすればこんな甘言には引っかからないでしょう。どこかのゴブシャーを除いて。
しかし今のゼルラントは第3段階の苗床として自分の欲望に忠実。その上まともな状態ではないので十分引っかかるでしょう。
ゼルラント「そのとおり!私はついに屈辱の雌伏を乗り越えた。今日、再び雄飛するために《皇城》に戻るのだ!」
というわけでゼルラントを城までエスコートします。帰りはテレポーターがあるので楽でいいですね。
ちなみに奥の部屋には破られた<月光の魔符>がいくつかありました。どうやら最初の内は抵抗していたようですね。
しかし今となってはそんな意思はもうないでしょうね。自分が少しずつ種に支配されていくのは恐ろしかったでしょうに。
それと隙を見て<後継者選別剣>は取り上げます。やはり例の趣味の悪い金ピカ<崩砦剣>モドキがその魔剣だったようです。
これは迷宮内に限り持ち主にファイター技能5レベルを与えてくれる効果もあります。戦士でなくても戦う必要がありますからね。
これってファイター技能を5レベル固定で与えるだけなんでしょうかね。"ジハド"みたいに5レベル上げる効果だったら凄いんですが。
この魔剣の役割上どついて取り上げた所で選別終了となり、その瞬間ゼルラントは魔剣の持ち主ではなくなるので召喚もされなくなりました。
メッシュ「陛下ー。さあ、参りましょうかー。エスコートをいたしますよー」
ジーク「自分に相応しい場所に、戻ろうな」
というわけでゼルラントは戦闘をすることなくお縄となったのでした。突然の造反者の帰還にまたも城の人達を驚かせてしまいました。
その後ぞんざいズは式典やパレードの特等席を用意され、一連の催しは無事に終了しました。取りあえずはひと段落ですね。
しかしまだ黒幕と思われる<貴婦人>の存在や、未だに謎の多い<妖精の卵>もあります。まだまだ陰謀は終わったわけではありません。
★それでは最初に成長申告
今回の能力値の成長は以下の通り。
ジーク:知力14→15
エア:知力24→25
メッシュ:生命力22→23
ムーテス:知力14→15
ニゲラ:敏捷度22→23
なんだか今回は知力が上がった人が多いですね。ジークとムーテスなんて普段はほとんど上げない所なのにね。
特にジークなんて最後に知力を上げたのが第十四話の時ですよ。2009年5月発売の巻からだからリアルタイムでおよそ4年ぶりですね。
それとメッシュとニゲラがボーナスブレイクまであと1点のところまで来ています。このレベル帯になるとボーナス+4も珍しくなくなりますね。
技能の成長ではメッシュがスカウト9→10で先制力13にまでなりました。指輪や賦術も含めれば結構なものですね。
ただ次回でジークがファイター13に上がりそうな状態なので、戦士系技能のレベル差が2になることも決定的ですが。
エアはセージ6→7で《弱点看破》がつくまでになりました。こちらの魔物知識は11でソラに大分追いついてきましたね。
指輪を割るという方法も入れれば基準値13相当ですが、それでも知名度の高い魔神達が今後も出てくることを考えるとちょっと不安。
そういえばニゲラは"エンサイクロペディア"までは取っていないんですよね。先制と違ってカードによるブーストは期待できないんですね。
エア「そして珍しく物欲が芽生えたので、マスターに3万ガメルほどお金くれないかおねだりしてます」
今回エアが欲しがっているのは<サイトクラウン>というアイテムで、黄金の縁で装飾されたレンズのついた冠と金の鎖がついたモノクルのセットです。
冠は頭部の、モノクルは顔の装飾品として扱います。「ウィザーズトゥーム」収録の高性能魔動機で3万4000ガメルします。ただし非売品。
性能としては冠のレンズからの光景をモノクルで見られるというもので、警備用の魔動機械に冠を被せる形で実験的に運用されたことがあるそうです。
試み自体は上手くいったのですが、どうも一部の警備員が倫理的に問題のある事件を起こしたらしく、大量生産は見送られたが故の高性能魔動機です。
もしそいつが変な下心を出さずにいれば大量生産が実現し、現代でももっと手に入ったかもしれない。まぁ普及したらしたで結局はそういう人は出たでしょうがね。
結局のところ監視カメラみたいなものですもんね。その内もっと小型化して盗撮にも使いやすくなったりして社会問題になっていた気もするのでこれで良かったのかも。
とはいえ性能自体は本物なので偵察に使えるかもしれませんね。使い魔もいないことだし、ジークの使い魔に被せてもいい。音声は入らないけど。
GM「お金のことは聞かなかったことにします」
エア「ちっ」
ただしお金があっても非売品ですけどね。カイン・ガラなら一つぐらいあっても良さそうではありますが。
市場に出回っていないだけなら所有者から個人的に譲ってもらうようコネと金を使えばもしかしたら手に入るかも。
★陛下の後始末
前回は暗殺計画の主犯と思われるゼルラントを捕まえることに成功しましたが、彼は更なる黒幕に操られる<魔神の苗床>に過ぎませんでした。
その黒幕は<孔雀の貴婦人>と呼ばれる仮面の女性だったそうです。彼女はイースと名乗っていたそうですがどうも偽名っぽい。
ゼルラントに特徴を聞いても「チョー綺麗!サイコー!」としか言わないので詳しいことは分かりません。苗床からの回復を待つしかありませんね。
ニゲラ「それが<貴腐神>と呼ばれてた人ですねぇ?」
GM「……ニゲラ。腐女子の最上級のほうじゃないですからね?」
ニゲラ「わ、わかってますよぅ」
ただし迷宮に篭っていたゼルラントに近づき、種を植え付ける隙をつける程度に礼儀作法を心得た人物だということは確かです。メッシュのように。
ということはメッシュのように恐ろしく口が上手いか、あるいはノーブル技能をちゃんと習得している人物なのかもしれない。ニゲラと違って。
あとは<妖精の卵>ですが、これはやはり<孔雀の貴婦人>が用意したものらしい。例のスレイプニールの件も彼女の指示によるものです。
妖精の暴走ならばそれは自然災害として片付けられるので事件になっても追求されないと。バレなければ完全犯罪かもしれませんね。
しかも「風の強い場所に置けば風の妖精が出てくる」と<妖精の卵>の性質を良く知っていた。今まで卵に関わっていた人とは一味違う。
推定召異術師というだけでも特徴的な人物なのに、その上<妖精の卵>にも詳しいとあってはもしかしたら妖精使いでもあるのかもしれない。
ジーク「あ!そうだ!キンドル家に関してだけど、一応女帝に口添えしておくぞ」
それについてはセラフィナも分かっているので悪いようにはしません。どうやらパーシバルの判断は間違っていなかったようですね。
これで学園に帰っても彼には胸を張って結果を報告できますね。キンドル家自体はしばらくゴタゴタしそうだけど最悪の結果は免れて良かった。
メッシュ「しかし、キンドル家の人は、さっさとゼルラントを捕まえて、お上に差し出してしまえばよかったのでは」
実はベネディクト伯爵も一度はゼルラントを捕まえた。以前土下座までして助けようとした息子です、今回も断腸の思いだったでしょう。
ところが例の<後継者選別魔剣>のせいで迷宮に召喚されるゼルラントを拘束し続けることは不可能でした。それがゼルラントの怒りを買います。
かつての養家の裏切りに対してゼルラントが取った行動は、義理の弟であるパーシバルの安全を盾にとって脅迫することだったのです。
以上のように色々気になることは残ってはいますが、式典やパレードが終わればルーちゃんは学校に帰らなければなりません。
<孔雀の貴婦人>については何かが分かったら報告してくれるようお願いし、ぞんざいズは《紫壁領》に戻ることにしました。
★再び学園生活・提案がやってきた
こうしてぞんざいズは騎士学校に帰ってきました。長期休暇明けのような緩んだ感じの学園生活が独特ですね。
そして帰ってきたのも束の間、学校行事として修学旅行が行われることになっていまして、ぞんざいズも参加することになりました。
これは毎年最上級生を別の領まで遠征させて、そこで様々な訓練やレクリエーションを行うという学園ものお約束の行事なのです。
一同「修学旅行だ!」←テンション高い
メッシュ「キタ!学園もののお約束!」
ムーテス「もう修学しちゃうんだ?」
まだ皆入ってきて日が浅いけど優秀なので特待生扱いなので。ルーちゃんなんかは《白峰領》への宣伝効果も狙っています。
なお現地にも騎士学校があるのでそこの生徒との交流試合もあります。移動時は編隊組んで行軍し、夜は哨戒や野営の訓練をします。
ジーク「…………」
メッシュ「いかがなさいましたか、ジークさま。渋い顔をなさって」
ジーク「……ん、いや……野営とか旅とか、全然目新しいもんないよなぁ、と」
そりゃあプロの冒険者からしたら日常風景ですもんね。でも彼らは初めてだったりするので初々しくて可愛く見えたりするのかな。
もちろんこの話にはルーちゃんも大喜びでした。「みんなが、迷惑するなら我慢するよ?」とか気遣うところがまた可愛いけど。
ジーク「よーし!騎士学校の名声上げにいっちまうかー!ルーとも旅は久しぶりだもんな!」←露骨に態度が変わった
ニゲラ「ルー様は思うままに、様々なことを経験なさってくださいー。これからの糧になると思うのですよぅ」
ルー「ほんとう?いいの?ありがとう……嬉しい。みんなと旅に出るのも、久しぶりだもの」
旅自体はぞんざいズにとってはありふれたことだけど、ルーちゃんが一緒だというならそれだけで特別ですもんね。
肝心の行き先ですが《深淵領》グロンドというところです。位置的にはアイヤールの北西部、《陰影領》ゴラの北の方ですね。
この領は元々魔動機文明時代にドワーフ鉱山から発展した地下都市群で、大破局時には住民の避難後入り口を爆破して閉鎖されました。
しかし現在の領主であるドワーフのダルビアス・グロンドが発見し、当時の施設が多く残るこの土地に領を切り開いたのです。
現在でも当時のインフラが少しの修理と改造で再利用可能で、《皇城領》のように地下を意識させないほどです。
地熱を利用した温泉街やレジャーランドが有名ですが、何より当時の施設を活かした武器・防具の生産地として有名です。
ただし遠征先はトンネル内の賑やかな街ではなく、山の表層です。自由時間に足を伸ばすのは可能ですけどね。
メッシュ「まずいですね、この流れですときっと今回はイフリートが暴れだしますよ」←まだ早い
宿泊するのは別荘地の一つで、鄙びた場所の使われなくなった邸宅を学校の訓練用に使っているところです。
いくら修学旅行でも建前は遠征ですしね。流石に観光地のど真ん中に寝泊りするんじゃ野外訓練に不都合です。
そんな修学旅行を目前にしたぞんざいズでしたが、ムーテスが作ったミステリー研究部のメンバーが嬉しそうに話しかけてきます。
部員「モーテスさん、モーテスさん、研修旅行に特別参加されるんですって?」
ムーテス「そうだよ、先生に勧められてね……お土産は何がいい?温泉まんじゅうとか」
部員「何言ってるんですか。ミステリー研にとってのお土産といったらアレでしょ」
メッシュ「……ダイイングメッセージ!」
ジーク「メッシュ、それ旅行中に死者が出てるぞ」
ああ、探偵が参加する旅行にお約束の展開ですね。ていうかそこまでいくなら解決して土産話をしてあげたい。
部員「いや、それも捨てがたいんですけど、当然、研修旅行時の七不思議の解明でしょう!」
七不思議か、それもまた学園もののお約束ですね。しかも学園内ではなく修学旅行先というのはワクワクしますね、普段は検証できないし。
ということは学園内にも七不思議があったりするんだろうか。まぁこの世界は妖精やアンデッドが実在しているわけで、不思議なことには事欠かないけど。
ではその七不思議にはどんなものがあるのか、部員君が教えてくれます。
この時点で既に10個あるんですが、これは毎年ちょっとずつ増減しているので最新のものだけを揃えた結果です。
廃れたものを含めると19個になったりするらしい。七不思議とはあくまでも形式、口伝だけだとこんなものですね。
これで七不思議を誰かが制定するようになると、いくつかの話が統廃合されたりして強引に7つに落とし込むんでしょうね。
もしかしたらこの10個だって同じ事象が別の話になって伝わっていたり、完全なる創作が混ざっていたりするのかもしれない。
まぁ旅行中のチェックポイントとして気にかけておくといいでしょう。
ムーテス「よし、調べてみようじゃないか!真実はきっと1つか2つ!」
部員「はーい、全部じゃなくていいですよ。それ全部解いちゃったら、僕たちの研修旅行時に謎がなくなっちゃいますんで」
その時はその時でまた別の謎が出てきますよ。高レベルモンスターを圧倒する謎の生徒とか(笑)
旅に出る前にやっておくこととして、旅のしおりも確認します。スケジュールの事前確認は旅行でも冒険でも大切です。
まず現地までは3日間の道のりです。基本的には整備された街道を通りますが、訓練として山道を通ったりもする。
現地では3日間を過ごして1日目は現地の学生と交流、最終日は自由行動です。帰りはコラーロ河を使って船に乗ります。
旅行の注意書きとして、時間厳守、団体行動を乱さない、現地の学生といさかいを起こさない、といったお決まりの文句が並びます。
最後に目立つように「いかなる時も騎士の本分を忘れてはいけない」とデコった文字で書かれる学生クオリティ。
ニゲラ「書体で台無しぃ!」
ちなみにグループは全員一緒です。引率の先生がエア、生徒はラインハルト、モーテス、ニゲラ、ルー、ローレリアです。
メッシュ「さらっと言いましたけど、変な人in。大事な人outですよ!」
GM「あ。メッシュは学生じゃなくてお付き待遇だから。ラインハルトの持ち物という認識なんですよ」
メッシュ「……ひどし。あ、いえ、それはともかくなんか面子に入ってますよ。知らない人が!」
ローラ「えーっ!ダーリンひどー!」
この人選はもちろんジャスティが裏で手を回したからです。扱いの難しい連中をまとめたとも言う。
ジャスティ「15レベルの妖精なんて、暴れたら一般人には手が付けられないんだから、責任とれない。連れてけ」
メッシュ「……見えないのに、理不尽だと思うのですよ(しくしく)」
ジャスティ「子馬は預かってもいい。スレイプニールたんはぁはぁ」
そういえばミニを取り上げられたんですよね。実はスレイプニールにも騎獣のデータは存在しています。
「フェアリーガーデン」に収録されていますが、適正レベル15とえらい高いのでジャスティでもまだ無理です。
そもそもこれは取引不可な上に妖精郷でのみレンタルされるもので、それ以外の使用はGMの許可が要ります。
あとはローラを連れて行くことで騒ぎにならないかですが、知名度18ならそうそう正体はバレないでしょう。
たまに妖精使いの生徒がびくっとしたりもしますが、他の生徒に話しても信じてもらえないので今のところ問題はない。
最後にムーテスはエアに教師陣への聞き込みをお願いします。複数回参加している先生に七不思議の裏を取りたいんですね。
エア「……わかりました。ムーテスに滔々と説明をします。……この世界はファンタジーです」
ムーテス「ええええっ!?」
エア「それくらいの不思議はあって当たり前なの。わかった?
人が飛んだり、消えたりする世界なのよ。マッハで走る婆あだって、普通にいるわよきっと」
魔動バイクより速く走るグラランならいますが、流石にマッハは無理でしょう。いや不思議が当たり前というのは同意ですが(笑)
秒速340mとすると10秒で3400mです。全力移動だとしても移動速度1133とかになりますね。流石にそれは無理っぽいかな。
ていうか不思議の内容は屋根裏の高速婆であって道路のターボ婆ではない。このように噂というのは身内同士でも変化するのです。
ムーテス「僕が求めてるのはそういうものじゃないんだ!これは……学園ものだよ!」
エア「……もう、わかったわよ駄々っ子ねぇ。とりあえず先生方には話をしておくわ。眉に唾をつけながら」
ムーテス「ありがとう!」
エア「モーテスって子がこんな妄言を吐いてるけれど、別におかしくなったわけじゃないからねって」
まぁ不思議が当たり前ということは正体を暴ける可能性が現実より高いわけですよ。それはそれで好奇心を擽られます。
具体的にはセージ技能の高いエアが鍵になりますね。《見識判定》を使うならアルケミスト技能を持つニゲラも結構頼りになります。
★学生たちの優雅な旅路
そして旅行当日を迎えるのですが、この日までムーテスは傷心のまま自分で聞き込みを続けていました。
ムーテス「そういえば、女性リルドラケンとかいるのかな。生徒に」
メッシュ「同じ種族はつるんでそうなイメージですな」
現在の皇族が女性ばかりなので女生徒の数が少なくないのは以前話題になった通り。加えてアイヤールにはドラクロア将軍なんかもいます。
そうなると女性リルドラケンの生徒も少ないながらちゃんといるようですね。しかもムーテスと違って3回脱皮した大人のリルドラケンが。
つまりムーテスから見たらお姉さまなわけです。ミラと違ってしっかりしているんでしょうね。
GM「きっとムーテスくんは小っちゃくてかわいいねえって、いい子いい子されますよ」
ムーテス「は!そうか、僕は忘れがちだけどリルドラケン界ではショタっ子!うわぁ、今までにない扱いにドキドキする」
人間の目からするとショタどころか、性別すらパッと見では分からないんですけどね。ああ、肝心の聞き込みは忘れました。
それでは出発です。旅は各班に馬車1台と馬数頭が割り振られていて、護衛のシチュエーションを経験しながら進みます。
しばらくは難所もない街道の旅なので問題なく進めます。ところが慣れない馬の旅に疲れたのか遅れがちな班も出てきます。
ここでぞんざいズはあえて最後尾に陣取りました。何かあった時に助けられるようにという配慮です。これには引率の先生方も安心。
あとは七不思議の「そっとついてくる黒い影」との遭遇を約1名が期待しているというのもある。ここを逃したら多分遭遇できないでしょうしね。
ここでは前の生徒とはぐれずに手綱を取れたかを判定します。冒険者+器用度で目標値9程度の簡単なものです。
ムーテス「これ、失敗とかしたほうが面白そうだよねー……ってその数値だと失敗するほうが難しいっすよ!」
メッシュ「まあ、基本、一般生徒への課題ですからな。これで失敗していくと、生徒が消えるんじゃないですか?」
生徒は卒業間近なので高くて4レベル、低くても2レベル程度はあるはず。器用度ボーナス+2はあるなら基準値4ぐらい。
これなら出目5で成功するので大半の生徒がクリアできますね。失敗する1/6が例の遅れがちの班なんでしょう。
案の定冒険者レベルだけで目標値を越えるぞんざいズは誰も失敗しない。
ジーク「うん、1ゾロじゃない。ち」
ニゲラ「なぜここで悔しそうですかぁ」
ジーク「イマイチ面白くない。あ、いや、よく考えたらルーを膝にのせて馬の乗り方を教えてるから、ここで列を乱すのはダメだよな。うん」
メッシュ「いきなりさらっとハイレベルなスキンシップキター!」
エア「ハ?今さりげなくなんて言った?……あとで同じことしよう」
そこでジークの立場を羨ましく思うあたり、つくづく変態ですね。イスミーがいたら今頃代わりにモフられていたでしょう。
さて、そうこうしていると《危険感知判定》が発生します。するとメッシュが24、ムーテスとエアが20と異様に高い達成値が連発します。
それぞれ高レベルのスカウトやレンジャーですもんね。ニゲラも7レベルにはなっているのですが彼らには及ばないようでした。
すると一番達成値の高かったメッシュは両脇の木立に垣間見える黒い影に気付きます。どうやら最初の不思議に遭遇したようです。
メッシュ「では、ここは有能執事っぽく、渋く行きましょうか。……ふ。……そんなにも殺気を放っていては、隠れても無意味だぞ……」
エア「え?言っちゃうの?」
すると黒い影は離れていきました。そりゃあ隠れているのを指摘されたら失敗を悟るでしょうね。
ムーテス「ちょっと待ったー!黒い影!真相!」
メッシュ「すいません。つい調子に乗って威嚇してしまいました」
ローラ「きゃーっ、ダーリン超渋いっ!」
一応責任を取ってメッシュとローラが追跡しました。今回はローラもいるので戦闘になっても何とかなるでしょうしね。《影走り》で逃げてもいいし。
ところが現場には魔動バイクのわだちが残されるのみでした。これじゃあこっちも魔動バイクを出しても追いつくのは無理ですね。
早速七不思議の1つを潰してしまったのは残念ですが、それでも旅を続けて最終日に次のイベントが起こりました。
今回も《危険感知判定》で20越えの達成値を出して気付いたのですが、背後から白い覆面の追跡者が接近してきたのです。
馬を早めてこっちに追いつこうとしていています。何事かと風体を観察すると覆面には「山賊」と書かれていました。
主従「アホなのか!?」
いいえ、引率の先生です。一番警戒の薄れる目的地に到着するタイミングを見計らって抜き打ちの試験を仕掛けているんですね。
ここで大切なのは追跡者の接近に気付くこと。気付いて迎撃する態勢を取ることができれば戦闘の必要なく合格になるらしい。
むしろ覆面はそれに気付いた生徒に対して試験であることを伝えるユーモアなのかもしれない。本気で魔法とか射撃攻撃とかされたら大変ですしね。
先生はぞんざいズの様子を見ると「合格!」と親指を立てて告げ、更に前の班に対して同じことをします。
するとそっちの班は正に警戒を解いた状態だったのでパニックですよ。装備を馬車に積んでいる人もいる始末、素人らしい失敗ですね。
先生は馬車を止めさせて彼らを叱り、しっかりと成績表をつけています。これは一般生徒にとってはなかなかハードな旅かもしれません。
すると例の黒い影もそういう類だったのかもしれませんね。実際の目標値は10ぐらいで20とか要らなかったのかもしれない。
エア「ていうかきっと、あれよ。昔は木刀とかで本気で襲い掛かったりしたものの、
保護者からのクレームによって、より安全な方式を取られるようになり、訓練が温くなっていったのよ」
学校あるあるですね。騎馬戦とかジャングルジムとか、誰かが怪我をするとどんどん消えていったりするんですよね。
しかし普通の学校ならともかくここは騎士学校。いずれは実戦に出ることを考えれば温い試験ではある。
メッシュ「それは、むしろあの山賊役をとっ捕まえて「オラ、お前らホンマに山賊役の教師だろうなぁ」と
脅しをかけてしまいそうなんですが。まぁ、追い抜かさないようにして様子を見ましょう」
確かに毎年恒例の行事なら教師に扮して本物の強盗が紛れ込んでいたりするかもしれない。
例の黒い影とかあれから何の通知もないわけで、以前同じ方法で行われた試験を模したリアル山賊だったのかも。
その後黒い影と遭遇することはなく正体は謎のまま。他の生徒達は概ね襲撃に対処できたようで休憩時に集まって感想を語り合っていました。
生徒「あの場合、投降した振りをして油断させるというのはどうだろう」
生徒「いや、その際は力量の差とか……」
ムーテス「おー。いいなあ、それは。なんか青春だね」
投降した振りは結局は相手次第ですね。問答無用に殺そうとしてきているなら不可能だし、護衛対象がいるなら迎撃か逃走でしょうね。
その辺は相手の実力や数次第です。《魔物知識判定》でしっかり相手の力量を見抜いて対処法を考えることができれば大分優秀ですね。
★《深淵領》グロンドのお楽しみ
3日間の旅を終えた一行は《深淵領》グロンドの騎士学校で使われている宿泊所に着きました。
部屋は2班ずつの男女別に分かれていて、部屋には管理人のお婆さんが案内してくれました。なんと温泉なんかもついています。
ジーク「……なあ、修学旅行って、夜這いとかするんだっけ?」
エア&ニゲラ「しません!」
ムーテス「正確には、夜這い派と覗き派がいる感じかな」
どっちに転んでも後でお説教が待っていそうです。ていうか大部屋で夜這いは色々勇者ですね。
ジーク「先生ー、覗きにいいスポットとかあるのか?長年の経験で」
先生「そういうポイントを自分の力で見つけるのも、生徒の自主性を育むための訓練です。頑張ってください、キミの優秀さに期待している」
これは例の山賊役の先生です。この人とは気が合いそうですね。でも教師としてそこは注意しておきなさい(笑)
さて肝心の部屋ですが、さっきのイベントから考えて屋根裏を予め調べておきます。この分だと何か仕込まれていても不思議はない。
これは七不思議の「天井裏を這い回る高速婆あ」に関連しそうなのでムーテスがいきます。天井板をずらして屋根裏を覗くとそこは不自然に広い。
屋根裏であるにも関わらず掃除が行き届いていて、隅には衣装ボックスのような大きな箱が置かれています。これは高速婆に関係ありそうですね。
そこでムーテスが箱を開けると《罠感知判定》が発生します。
ムーテス「罠!?ちょっと待って、さすがにシチュエーション的には全然想像してなかったよ!」
ジーク「信じろムーテス。そして祈れ。学生用トラップなら命までは取られないはずだ」
《罠感知判定》そのものはレンジャー技能でも可能ですが屋外専用なのでここでは使えない。ここはメッシュに頼むべきでしたね。
案の定平目で7ではどうにもならずに罠発動。小麦粉の煙が吹き上がるという、バラエティ番組のような軽めの罠でした。
ただ小麦粉で真っ白になるし、目に入って色々な判定に−1のペナルティが入るという地味に嫌な効果がある。これは温泉が早速役立ちますね。
煙が晴れるとそこには「目の付けどころはいい。ただし、せっかち」という紙がありました。
ムーテス「うわ、イラッとした」
エア「あのね、ムーテス。あなたのこのパーティでの役割はタンク!
タンクフィター!わかる?そういうことはここのポンコツに任せておけばいいの!」
修学旅行だからといって油断していましたね。まさかレベル2桁になってまで小麦粉トラップに引っかかるとは思いませんでしたよ。
その後、小麦粉を落とそうと温泉に向かったムーテスでしたが、ロビーに集まる先生方から「ドンマイ」と声を掛けられて赤っ恥をかいたのでした。
それから夕食の時間を迎えます。ここでは地元の騎士学校の生徒達や、この領に仕官している卒業生との交流会が開かれます。
ここでぞんざいズは実力者として自慢げに紹介され、ルーちゃんもアイヤール・ルーフェリア神殿の最高司祭として紹介されます。
そういった人達は当然ぞんざいズの実力を見抜こうとします。成功した人は「うわっ」とか声を上げそうになっていました。
失敗しても達成値次第ではそれなりの実力者だと判断できますけどね。達成値14で失敗したら「なんだ12レベル以上か」となるわけだし。
そうなると自然と一目置かれるようになるのですが、中には頭が悪くてさっぱり実力を見抜けない人もいます。
それはちょっと柄の悪い地元騎士学校の生徒達でした。品のいい他の生徒たちと違ってメンチ切ってきたりするので不良でしょうね。
仮にセージ技能すらなく平目で6とか振って分からなかったら4レベル以上なので、それでも学生にしては強いと判断できそうなのにね。
ちなみに彼らは3レベルぐらいです。学生にしては割と優秀な方ですが、ジークとは9もレベル差があると考えると滑稽なものです。
ジーク「あ?」
メッシュ「ラインハルト様、落ち着いてください」
ジーク「……おっと、その名前で正気に戻った。ボクは、この学校では、そんなことをしちゃいけないんだよね(棒)」
もう剥がれたメッキのような気もしますがそういうことです。こんなに実力差がある相手に本気になるのも大人気ないし。
ただ不良達はメッシュを連れたジークがボンボンに見えるのか、ますます視線は険しくなります。
エア「これは……挨拶は、テメどこ中だ?で決まりね」
ニゲラ「普通に騎士学校の生徒だってわかってるんじゃないですかぁ?」
不良「やあ、キミすごく強くて優秀らしいね。その腕前、できれば見せてほしいなあ。そうは見えないけれど」
不良「ああ、でも、なかなか剣を抜いたらダメなんだよねぇ。長旅の後で疲れていてよかったね」
不良「それに、僕たちも君たちを歓迎したいから、恥をかかせたくないしね」
バカなりに頭を使って皮肉を混ぜているつもりのようですが、全く隠せていません。絵に描いたような小物ですね。
ジーク「ああ、いいぞ。どっかで腕試しするか?」
エア「こらこらこら。ダメでしょ、レベルが違いすぎるじゃない」
素手でも命中力15なので回避力5〜6程度の彼らではまず避けられない。逆に命中力も5〜6程度なら回避力16にはまず当たらない。
追加ダメージだけで16あるから彼らが防護点6の<チェインメイル>を着込んでいても10点以上抜けてきますね。
HPは生命力+9点とすると精々25点ぐらいでしょうか。ほんの2〜3発殴られただけでノックアウトですね。《生死判定》に失敗すると命もアウト。
不良「名門の《紫壁領》の騎士学校と聞くのに、女性も多くて……それで緊急時に対処できるのかねえ(にやにや)」
ジーク「ああ。いいだろ、よくわからないけど、うちの学校は美人が多いらしいぞ」
一同(爆笑)
ジーク「え?なんで笑うんだ?」
ニゲラ「そこで、よくわからないけど……は、女子としてはイラッとしますぅ。言い切ってくれないとー」
ルーちゃんはともかく、鎖鎌をぶら下げた女やムチムチしたエルフは明らかに堅気には見えないんですけどね。本気で全員の実力が分からないのか。
不良「まあ、多少の腕は立つのは、騎士学校の生徒なら当たり前だからなあ。ま、それに度胸があるかは別問題だね。
精々何かに出くわして、情けなく逃げ惑わないようにしたまえよ」
メッシュ「……ぷ。そこで何で度胸なんですか。一瞬にして背後まで敵に回すジークさまを見ておきながら。
そこは頭が良いとは思えない、と挑発しておけばよかったのでしょうに」
ジーク「確かに、そっちで挑まれたら俺、一溜まりもないないわ」
それは不良達も同じ、あまり賢くないのはさっきから全力でアッピルしてますからね。同じ脳筋でも度胸と実力がある分ジークのが大分マシですが。
ジーク「ま、嫌味はスルーしとくわ。……可哀想だろ?」
ムーテス「憐れみの眼差し!(笑)」
不良「坊ちゃん校の生徒らしいなあ。ま、2日目の夜には漏らしながら泣いて逃げることにならなきゃいいけどなっ」
そう言うと彼らは去っていきます。この時同じ学校の生徒が申し訳なさそうに頭を下げたりしてくれたし、まともな生徒の方が多数なんでしょうが。
では2日目の夜になにがあるかというと、修学旅行名物の肝試しがあるのです。あれだけ挑発しておいて肝試しというのが何とも学生ですね(笑)
とはいえ既にバンシーとかポルターガイストとかゴーストシップなんかと戦い、ゴーストから鎧を貰ったりしているので今更って気もしますが。
エア「……今までの冒険で積み上げてきたものと、目の前の状況とのギャップに、まるで異次元に来たみたいだわ」
ムーテス「レベル差があると、何となく彼らも可愛く見えてくるよね。じゃれかかる小動物的な」
こうなると彼らがどんな仕込を肝試しでしてくるか楽しみですね。幽霊なんかよりずっと怖い相手だっていうのに。
夕食が終わると温泉に入って疲れを癒します。どうやら女湯の方には妖精のヴァンニクが住み着いているようでした。
ヴァンニクは3レベルの妖精です。髪の長い裸の女性の姿をしたランク1の水の妖精で、暖かい水を好むため温泉に住み着くことが多い。
綺麗好きで汚れた者を見ると温泉に入るように誘い、断られると怒って強引にでも温泉に入れようとします。
妖精魔法限定3レベルで水・氷属性を魔力5で使用し、《魔法拡大/数》の《魔法適性》を持ちます。
《水・氷無効》《炎に弱い》という特徴を持ちます。《水の身体》は打撃武器に対して防護点+3で《水中適性》も持っています。
水を入浴に適した温度にする《癒しの温泉》を作ることができ、この時水50リットルに対してMPを2点消費します。
MP34点なので最大で850リットルまで可能です。この温泉に1時間浸かった者はHPとMPが5点ずつ回復する効果があります。
このヴァンニクのお陰で女性陣はぴっかぴかにして貰って上機嫌でした。ところがそれを羨んだジークが彼女を男湯に召喚したから大変です。
ジーク「……いやー、珍しく反省。そうだよな、つい妖精に洗ってもらえるってのが
羨ましくて俺もと思ったけど、裸の妖精が現れたら男湯はまずい状態だよな」
メッシュ「もうちょっとだけ速く気付いて下さいませ、ジーク様」
エア「ちょっと、男ども!こっちから召喚されたヴァンニクがぷりぷりしながら、垣根乗り越えて帰ってきたわよ!後で謝んなさいよ!」
これは多分2レベルの基本妖精魔法"サモンフェアリー"ですね。3レベル(クラス1)の妖精を3ラウンドの間呼び出します。
ただこれだと普通にMPを消費するだけでなく5点の<魔晶石>も要るんですよね。温泉に入っている状態からわざわざ持ってきたのか。
あとこれって七不思議の「温泉ですすり泣くお姉さん」でしょうかね。温泉のお姉さんではあるけどすすり泣いてはいないんですが。
何らかの事情があってそういう時もあったのか。あるいは本当に全く関係なくて、別に本命がいるのか。それもやはり謎ですね。
★そして、夜の……とある選別
そうして初日の夜は更けていき就寝時間です。女部屋では女性陣による華やかなコイバナが行われていました。
一方男部屋は今までの経験から見張りを立てることにしました。一番隙の大きい就寝時間を狙ってこないとは思い難いし。
ムーテス「じゃあ、僕が一直目を担当するっすよ」
ローラ「じゃあ、わたしはその次がいい?」
メッシュ「聞こえませんなあ!」←本当に聞こえない
ジーク「お前は女部屋に行け!」
ローラ「ちぇーダーリンの照れ屋さん」
本当に油断も隙もないなこの妖精は。ていうか同じ部屋で寝ていると風邪をひきそうですね。
ニゲラ「ローラさん、夜這い失敗ですかぁ?」
ローラ「うん、ガードが堅くてぇー」
エア「そこのコイバナを聞きたいわけじゃないのよ、別に」
そして一直目に本当に何かが来ました。ここで行うのは《聞き耳判定》ですが、またもムーテスは平目になります。10と結構頑張ったんですがね。
一方寝ている人達も−2のペナルティで同じ判定ができます。するとメッシュが19という流石の達成値で屋根裏で軋む音に気付きました。
これに気付いたメッシュはジークに「静かに」のゼスチャーで注意を促して気配を殺します。ジークは<ナイトゴーグル>を起動して同じく備えます。
すると天井の一角が外れて穴が開き、そこから黒い長髪の婆が現れます。七不思議の「天井裏を這い回る高速婆あ」でしょうね。
その動きがまた怖いの何の。穴からそーっと手が伸ばして縁を掴み、上半身に勢いを付けて《軽業判定》で音もなく着地ですよ。
その動きはややぬるぬるしていて貞○っぽいけど、魔物的な動きではなくあくまでも敏捷。高レベルのスカウトっぽいですね。
この判定自体はスカウト技能でもレンジャー技能でもできますが、例によってレンジャー技能では屋内で使えない。
ジーク「うわ!なにそれ!めっちゃこえぇえ!」
メッシュ「うわ、ちょっと「魔物知識」判定していいですか!」
魔物ではありません。この施設の管理をしていたお婆さんでした。ただの管理人ではなく密偵的な経歴の持ち主なのかもしれませんね。
お婆さんは<ナイトゴーグル>をしているジークには「ごうかく」と言って一枚の紙をくれました。メッシュは従者なので何もくれません。
そしてムーテスや他の寝ていた生徒達には「ふごうかく」と呟いて額に墨で×印をつけていくという、屈辱的罰を施していきます。
ジーク「ムーテスが起きたら、「天井裏を這い回る高速婆あ」は解決したぞって、伝えてやろうな」
ムーテス「ひどいー、直接見たかったよ」
一直目に本当に見張りをしていたら見られたんですけどね。まさか爆睡しているとは。小麦粉に続いて災難でしたね。
ただムーテスの場合は一応起きている宣言はしていたんですよね。これは判定に失敗した結果寝ている状態になったということですかね。
用が済むとお婆さんは天井裏に戻って肘で高速移動しつつ、隣の女部屋に行って同じことをします。この姿を見た人が噂を広めたんですね。
女部屋ではニゲラもエアも災難を免れます。ニゲラには合格の紙をくれて、先生であるエアはやっぱり何もくれません。
ルーちゃんは起こすのに手がかかるのであえなく不合格。額に×印をつけられてしまいます。
これにはエアがぶち切れそうになりますが、殺意はないので見守ります。流石に"ゴッド・フィスト"でぶん殴ったりするほど過保護ではなかったか。
そして翌朝、額に×印がついているか否かで昨晩の成果が一目瞭然でした。ぞんざいズではムーテスとルーちゃんのみ。
ジーク「あ、ペアだ」
ムーテス「嬉しくないペアだよ、不名誉だし。おかしいなあ、僕、10レベル越えの冒険者としての自身が揺らいできたっすよ」
ちなみに合格者は10人に1人いるかいないかという高難易度の試験でした。少なくとも達成値10で気付きませんしね。
寝ていて−2のペナルティが入ることも考えると達成値にして13以上は必要。実際の目標値は不明ですがこれは本当に難しい。
現役の騎士や冒険者でも厳しいかも。まして学生ではまず気付かないでしょう。これはむしろ不合格して当たり前みたいなノリですね。
それもそのはず、正に合格者を圧倒的少数に絞る必要のある試験だったからです。
先生「昨夜のドキドキ抜き打ち緊張感チェックにおいて、合格不合格の紙を全員が持っていると思う」
エア「なにそのネーミング!」
先生「その際の合格不合格で、本日の行動がグループ分けされることになる!」
つまり今日行われる肝試しにおいて、合格者は脅かし役として参加するのです。それなら脅かし役は少数であるべきだから納得です。
脅かし役はここから目的地までのルートを確認し、肝試しを想定した様々な仕掛けを用意するのです。これは毎年恒例の行事らしい。
エア「そりゃ、やれと言われれば、来年度からの肝試しを禁止される勢いで、色々とやりますけど」
先生「生徒への命の危険禁止」
ニゲラ「それはそうです」
脅かし役は想定される様々なトラブルの排除、準備をすることになります。必要とあれば教師も協力します。
その教師であるエアや従者であるメッシュは脅かし役でも脅かされ役でも参加は自由ですが、ムーテスとルーちゃんは脅かされ役確定ですね。
先生「全員で協力し、一つの成功を遂げる喜びを味わってほしい。以上である!」
メッシュ「とても口当たりのいいことを言われていますが、つまりは生徒に丸投げと」
その間教師陣はこっそり息抜きとかしていそうですね。修学旅行裏あるある(笑)
これにはジークはもちろんエアも割りと乗り気でしたが、懸念もあります。
エア「やるのはいいのよ。忘れられたマイ黒歴史、ガキ大将×2が疼くから。心配なのは、ムーテスにルー様を一任しないといけないってことよ」
ジーク「ムーテスなら大丈夫だって」
エア「ムーテスの原動力の源泉。……金!今のわたしの全財産は……これだけあればやる気MAXになってくれるかしら」
ムーテス「ちょっと待った。言っておくけど、僕は結構ルー様は護ってるっすよ!」
確かにムーテスは金で動くけど、仲間を護るのに金を要求したことはないはず。ムーテスは欲深いけど決して決して守銭奴ではありません。
そう考えると《かばう》持ちのムーテスがそっちに行ったのはむしろ好都合か。いくら命に危険はなくてもそういう人が傍にいるのは大きい。
メッシュ「利益率が高いから?」
ムーテス「それもある」
エア「金じゃないの」
ムーテス「金より大きなものがあるんだよ、世の中には!」
ジーク「よく言ったぞムーテス!」
ムーテス「それは宣伝効果だ!僕は学生である前に商人であると主張するっすよ!」
ニゲラ「せめて冒険者を主張しましょうよぉ」
こんな事言ってるけどいざという時にはちゃんと護ってくれることは分かっています。そういう信頼関係があるからできるロールプレイとも言える。
あとは例の不良達ですね。地元の学生は基本的には脅かされ役ですが、地元の利点を活かして先に現場に忍び込む奴もいるそうです。
仕掛けを台無しにされたり、逆に脅かし役に何か仕掛けを用意したりと、まぁ典型的な悪ガキって感じですね。今年はあの不良達がそれでしょう。
それと途中に二股の道があって、片方は危険な森のエリアに続いているので立ち入り禁止です。こっちは本当に命の危険がある類ですね。
手前に標識があるので大丈夫ですが、例の不良達が標識の向きを変えたりすると洒落にならない事態になりかねないので要注意のポイントです。
ちなみに例年の肝試しでは出発地点をこの屋敷とし、そこから蛇行した道を進んでやや離れた位置にある廃屋をゴールとします。
この廃屋は既に持ち主もなく、騎士学校の倉庫として使われています。何しろ山奥なので買い物の必要がないよう蓄えは十分です。
基本的にこの廃屋は閉鎖されていますが、地元の悪ガキが侵入することはあります。ここもまた要注意のポイントですね。
ゴールした生徒は前庭に用意したテーブルに名前を刻んだ私物を置いていき、帰りは船を使って川を下ります。このため生徒がすれ違うことはない。
メッシュ「何はともあれ、標識にトラップを仕掛けましょう。方向を変えようとすると爆発するみたいな」
エア「危ない方向に、わかってて誘導する馬鹿がいそうだし。がっつりとトラウマを刻んでやるべきね」
GM「あー……お手柔らかに。何度も言いますが、まだ騎士にもなってないひよっこたちですからね?」
メッシュ「だからこそ!未来のエリートたちに越えられない壁はあるという、挫折というトラウマを!」
ニゲラ「それ、単なる嫌な人ですよぅ」
まぁそれは冗談として、マギテック技能の上がってきたメッシュなら色々面白いことができそうですね。
例えは2レベル魔動機術の"サウンドレコーダー"で不気味な音を録音して再生するとか。ホラーゲームさながらの演出も可能かもしれない。
これは術者に聞こえる音をそのまま<マギスフィア>に録音するというもので、再生や編集時もこの魔法の行使で可能です。
ちなみに録音時間は(小)で10分、(中)で1時間、(大)で1日にもなる。「ウィザーズトゥーム」でこういう魔法も多数追加されました。
ちなみに以前は優秀なコンジャラーの学生がいたので、墓地でゴーレムを作って追いかけさせたりもしたらしい。
ジーク「意外とスゲーな!俺たちも負けずに伝説になるような七不思議でもいっちょつくるか!」
メッシュ「実は私はすでに七不思議のようなものを抱えておりますがね。気が付いたら身体が軋むほど寒いとか……
ふっと記憶が飛んで、すごく強くなった時なんか、一体私の身に何が起こったのか」
ジーク「一応言っておくが、それは不思議でもなんでもない」
準備時間は8〜10時間ほどで、ぞんざいズ以外の合格者である8名の学生達も使うことができます。
合格者「がんばりましょう!キミたちは手慣れているようだから、手伝う形で参加させてください!伝説を作りましょう!クリア人数0人くらいの」
ジーク「ちょっと待て、俺たち主導でやっていいのか。ムキになってえぐいのが出来たらどうする」
こういう時にはソラがいないのが悔やまれる。きっとノリノリで魔法を使って色々やらかしてくれただろうに。
イスミーがいればミニをけしかけるという、シンプルでありながら忘れられない恐怖体験を生徒達の心に刻むことができたのに。
★ぞんざい勇者団流肝試し
それでは早速肝試しの下見に行きます。ムーテスには<通話のピアス>の片方を預けてルーちゃんと一緒にお留守番。
ジーク「しかし怖がらせるって、結構難しいんだよなあ」
エア「どうなのよね。実は」
ジーク「殺すこととかは、簡単なんだけどな」
GM「待て、その通りだけど、それはダメ」
泣かせたりするのと同じくコツがいる感じですね。狙って笑わせるのなんてもっと難しいことだと思いますが。
その割には彼らは割りとコンスタントに笑わせてくれますけど、そうして自然に人を笑顔にしてくれるのもゲームの良さだと思います。
さて、事前に貰った地図には色んなポイントが書かれていて「宿泊所」と「広場」に始まっています。
道は左手に「池」や「沼」、右手に「墓地」「管理小屋」を眺めながら大きく湾曲しています。
その先に例の二股があって右に進むと「鬱蒼とした深い森」に続き、正規の道は再度大きく湾曲して別の「森」に入ります。
途中に「彫像」が何体か並んでいて、その先にゴールの屋敷があります。なおこの道と併走するように「河」が流れています。
ゴールの屋敷に「舟つき場」があり、川を下るとスタートに戻ってきます。なおスタートの岸辺には「崖」が聳え立っています。
ジーク「実際沼を使わない手はないよなあ。エア、ぞぶーっと泥の中で沈んでおいたらどうだ?いっそ、犬神家みたいになっておくとか」
エア「1時間しか持たないからダメ!それならポンコツが首を外して置いとくのが怖くていいんじゃない?」
メッシュ「ええ、やってもいいですよ。記憶がまた1年飛びますけどね」
もしそういった能力や魔法を使うならよほど長時間か複数回使用できるものでないと途中で力尽きますね。
例の操霊術師の生徒は1日効果が続く"クリエイト・ゴーレム"だからできたわけです。そういえばエアもコンジャラー技能は持っている。
3レベルで作れるのは「ウィザーズトゥーム」の環境だとオークのみですね。それでも結構役に立つんじゃないでしょうか。
これが「イグニスブレイズ」まで導入していたらオークハウンドという四足獣型のゴーレムも使えたんですけどね。
ローラ「ダーリン、あたしあたし、冷気出せる!」
ジーク「おお!そうか、今回は役に立つかもな、お前」
エア「"アイスコフィン"で生徒1人凍らせて、ルートにおいておいたらホラーじゃない?」
ローラ「いいわよ、ハンサムな男を選んでね」
ニゲラ「めっ!エアさん、めっ!」
確かに妖精ならMPを使わなくてもある程度のことはできる。今こそ"ジークハルト・ブレード"の使い時ではないでしょうか。
《水鉄砲》《炎の息吹》《地揺らし》と上手く使えば結構驚かせることができるでしょう。ただしダメージは入らないようにね。
それでは下見に向かいます。ゆっくりと歩きながらまず向かったのは「墓地」です。肝試しの定番中の定番ですもんね。
ここの墓地は墓参りに来る人もほとんどいないのか荒れた様子です。かなり古い時代のものなので遺族もいないのかもしれませんね。
何かおかしな所はないか調べていると、森に近い場所に1つだけ離れた墓があることに気付きます。また露骨に怪しいポイントですね。
エア「……嫌な予感はするけど、そっちも確認しに行くわ。この世界、アンデッドは自然現象だものね」
そういえば割と最初の方にもこんな風に墓地を調べる事件がありましたね。あの時は結局アイテムによって死体を操っていただけでしたが。
エア「あ。何でわたし、自分で歩いてったのかしら」
ムーテス「わかるっすよ!うっかりしちゃうんだよね!」
そうやって近づくと案の定墓土が盛り上がって髑髏マークの布を被った何かが出てきます。スケルトンとかではなく子舞チックに。
動きはのろいのでエアはすぐに主従の後ろに退避します。するとそいつはUターンして再度墓を掘り起こして戻ろうとします。
試しに近づいてみても攻撃する意思はなく直進するばかり。ぶつかろうともテレビゲームの馬鹿なプログラムのように直進あるのみです。
明らかに七不思議の「忙しない墓場守」というのはこいつですね。一体何者なのかと布をめくってみるとロームパペットでした。
ロームパペットは3レベルの魔法生物です。粘土で作られたゴーレムの一種であり、形状は手足が付いていれば自由に設定可能。
《土無効》で《泥の身体》は打撃武器に対する防護点+5と、刃のついた武器のクリティカル無効と地味に嫌な耐性を持っています。
"クリエイト・ゴーレム"だと4レベルで作ることのできる下等なゴーレムですが、こいつは本体に文字が刻んであります。
「珍しい、永続化のかかってるゴーレムです。脅かすくらいしか用途がないので、来年も使ってください」
しかも「フォストリス騎士学校○期生実行委員」みたいな文字が20件ほど刻んであったりもします。どうやら伝統的なものらしい。
それにしても永続化の魔法がかかっているのは凄いですね。今では基本的には1日しか続かないから遺失魔法でしょうに。
ただゴーレムへの命令は基本的に自分の作ったものに限ります。製作時点以外では<呼応石>の使用で命令を上書き可能です。
他者の作ったゴーレムの場合はまず10レベルの操霊魔法"コマンド"で支配権を奪う必要があるはずです。
ただこの時には製作者との達成値の比べあいで勝つか、+4の修正が入ったゴーレムの精神抵抗を破るかしないといけません。
仮に魔法文明時代のゴーレムだとしたら物凄い達成値がかかっている可能性もあるし、もしそれを破ったのなら大した術者です。
いくら例の操霊術師の学生が優秀でもそこまでではないでしょうし、このロームパペットへこんな命令をしたのは別の人でしょう。
それこそ古代の製作者がこういう命令を出して放置したのか、高レベルな操霊術師が支配して命令を与えて学校に寄贈でもしたのか。
もしかしたらゴーレム永続化の遺失魔法を知っている何者かが20年ぐらい前に作ったのかもしれません。
まぁいずれにせよとても珍しく貴重なものであることに変わりはないし、このままこの墓場に置いといてやりたいものです。
こいつについては使用を考慮して他の合格者の女性陣にメイクを任せます。その間に「沼」も潜って調べておきます。
エア「メッシュと手を繋いで沼に入るってなんかすごく奇妙としか言いようのない感じだわー」
メッシュ「はっはっは、お互い様ですよー」
潜るのは[剣の加護/優しき水]とスカウト技能を揃えるためにこの2人です。手を繋いで入水とか一見心中っぽいですね。
ローラ「じゃあ、反対側の手は、あたしが握っててあーげるっ」
メッシュ「両手を塞ぐなー!……はっ、何も見えず、聞こえませんが、何か察したような気がしました」
ローラ「うちのダーリン、行き過ぎたツンデレはどうかと思うのよね」
ジーク「ポジティブだな」
だんだんこの娘もウザ可愛いキャラで固まってきました。ていうかこんな性格でもないと悲恋過ぎて見ていられませんしね。
さて肝心の沼ですが、ここはなんとリャグとリャグサグという蛮族の巣になっていたのです。
「カルディアグレイス」で追加されたカエルの姿をした蛮族ですね。主に召異魔法を使う種族として知られています。
しかも許されぬ愛に生きようとしていたカップルという、また微妙に戦い難い背景のあるやつらでした。
リャグは6レベルの蛮族です。直立するカエルの姿をしていて体長2m。その姿の通りに《水中適性》持ちです。
召異魔法3レベルを魔力5で使用し、《ジャンプ降下攻撃》で打撃点+2で命中力−1という宣言形能力を持ちます。
更に《ジャンプ滑空攻撃》で地に足のつかない者に命中力+2といった宣言形能力も持ち、カエルらしい跳躍力を活かします。
またラーリスを信仰し、魔神イグナヴの加護を受けて社会を築いていて、《イグナヴの復讐契約》というものも結んでいます。
これはリャグが死亡した時にイグナヴの腕が現れ、リャグを殺したキャラクターに物理ダメージを与えて復讐するというものです。
リャグサグは9レベルの蛮族です。普通のリャグより一回り大きい身体を持つリャグ族の司祭で、頭の上に2つ目の頭があります。
これにより本体(コア)、第二頭の二部位になりました。第二頭が司祭の役割を担い、本体は護衛の役割を担っているのです。
本体は召異魔法6レベルを魔力8で使用。《ジャンプ滑空攻撃》がなくなった代わりに《かばう》を持つようになりました。
倒された時には《イグナヴの復讐契約U》が発動して、物理ダメージを最大2回当ててくるようになりました。
第二頭は神聖魔法7レベルを魔力10で使用します。《魔法誘導》《魔法拡大/数・距離》の《魔法適性》を持っています。
以上のように非常に特徴的な種族ですね。ちなみに更に上位種に3つ目の頭を生やしたリャグイサグというやつもいます。
こいつになると12レベルとなかなか強くなってきて、第三頭は指揮官としての役割を担うようになります。
復讐契約は《イグナヴの破壊契約》に強化され、1ラウンドの間イグナヴ自身が出現して無差別に暴れまわります。
あとイグナヴというのも「カルディアグレイス」に収録されています。14レベルのカエルの姿をした魔神ですね。
高位になるほど強力になる復讐契約もそうですが、頭を生やすのもイグナヴとの繋がりの強さに関係していると思われます。
こいつの恐ろしさはやはり復讐契約ですね。特に後衛型の魔法使いは不用意にこいつらを殺せない理由があるのです。
1体ならまだしもこれが複数いたりする状態で範囲攻撃魔法を使おうものなら、倒した数だけ復讐されまくることになりますから。
下手すると20体のリャグを倒した代償に腕が何度も何度も現れて「オラオラオラオラ!」とばかりに殴られることになる。
実は腕の攻撃は回避が可能ですが命中力18(25)と極めて高く、そもそも回避力の低い後衛の魔法使いだと回避は覚束ない。
しかもダメージは2D+15点もある。期待値で22点、軽装の魔法使いならその殆どが抜けてくるでしょうね。
高レベルにとっていくらリャグ自体が雑魚でも5体倒しただけで5回オラオラされるわけで、平均16点抜けでも80点も持っていかれる。
ジーク「蛮族よ、ここで楽しくレジャーするためにお前たちが邪魔なんだ」
メッシュ「理不尽極まりないですな!」
リャグ「なに!ここなら人間が訪れるのは一年に一回で、さらには若い女学生を生け贄にし放題で、もっと楽にレベルが上がると思ったのに!」
ニゲラ「はいはい。駆除しまーす」
というわけで再度恵まれた召異術師との戦いでしたが、こいつら自体は格下なので特に苦戦するでもなく倒しました。
トドメを刺したジークとメッシュには復讐が行きましたが一撃では倒れません。数が少なければこんなものですね。
とはいえこの2人ですら回避できるか微妙なんですよね。これは余程回避力が高くないと前衛でもなかなか驚異的な能力です。
レベル的にリャグは4レベルぐらいの冒険者の敵に丁度良さそうですが、倒す時にはHP残量に注意しないと酷いことになる。
倒した後はこいつらの住処を調べてみます。すると汎用蛮族語で書かれたラブラブ交換日記と金色のカエルの皮がありました。
ムーテス「それって七不思議のカエル!」
日記によるとリャグはこのカエルの真似をして顔を金色に塗り、女学生を生け贄として誘い込もうとしていたらしい。
これは早めにこいつらを見つけておいて良かったですね。6レベルや9レベルは学生には十分脅威ですよ。
あとカエルは美味かったという記述もありました。
ムーテス「……しくしく……確かめる暇もなく、おいしく食べられてた」
これで「金色のカエルが呪いを導く」も解決。ていうかさっきのゴーレムといい、悉くムーテスは確認する機会を逸していますす。
ただ呪いを導くとか言われているわけで、姿を見せても逃げられそうな気はする。好奇心旺盛な人は引っかかりそうではあるけど。
なお、この時不合格組は「河」で遊んでいました。ところがムーテスとルーちゃんはというと。
ムーテス「ほら、ストレート!」
ルー「……えーと、同じカードが3枚と2枚で……」
ムーテス「うわぁ、フルハウスだった!」
メッシュ「まさしく神の一手」
エア「神にポーカーを教えるな!」
こっちはこっちで楽しくやっていました。実は「河」にも七不思議の一つがあったらしいのでまた見逃しているんですよね。
しかし蛮族が出たことでぞんざいズの緊張は高まりました。ムーテスとルーちゃんとも合流して下見を続けることにします。
学生達にはこの辺への出入りを当分禁止にしました。できればルーちゃんも安全な所にいて欲しいんですが、自分達で守ります。
手の届かない場所で危険に遭わせるのはもう嫌ですしね。ちなみにルーちゃん自身は皆を全面的に信頼しているので待機でも同行でも従います。
ルー「その上で、ちょっとでも、皆のお手伝いが出来たら嬉しい」←いい娘や……
エア「ああああああ……ルー様なんと立派な心根……(よろりら)」
ただこの通信で<通話のピアス>は使い切りました。先生方にもそういうアイテムはないので緊急連絡とかができません。
ムーテスも<通話のピアス>の片方を持っているのですが、もう片方はダンテが持っているので今回は使えません。
リプレイでは端折られたけどゴーストシップが彼らの土地に来たら救援に行くという約束をしてピアスを分け合ったらしい。
実は今でも連絡を取り合っているらしい。
ムーテス「やあ、ダンテ元気ー?そっちに何かいい商売のタネない?」
ダンテ「うむ。我々は絶賛引き篭り中だな。そして、狩りなう」←モンスターがハンター
ムーテス「彼ら用の通販カタログとか作ってもいいかなと思うんだよねえ。同じ場所に運び屋さんがいるし」
ダンテ「肉50キロと、ミネラルウォーター24本を頼む。報酬は、手もとに残った翡翠」
ムーテス「毎度アリー!」
エア「蛮族と、友好を深めるなぁああ!」
リプレイに書かれていない所でそんなことがあったとは。どれだけ手広いのムーテス商会。
それと例の立ち入り禁止の森にどんな危険があるのか、事前に顔見知りになった山賊先生に聞いてみます。
すると森には植物モンスターが繁茂していることが分かります。具体的にはニードルアーチャーとウォーキングツリーです。
ニードルアーチャーは2レベルの植物です。矢のような棘の生えた蔓を地面すれすれに張り巡らせた姿をしています。
自らを中心に半径10mを《つるの領域》とし、気付かずに踏み込んだ者に不意打ちを仕掛けてきます。
領域内の全てのキャラクターに《無数の針》で攻撃し、棘は《軽い針》として射撃攻撃にも使用可能。
領域内では《死角なし》なので遮蔽越しに射撃可能で、乱戦エリア内に撃っても誤射は起こりません。
ウォーキングツリーは3レベルの植物です。その名の通り2本の幹で歩き回る木の姿をしています。
明確な意思を持っているわけでもなく気ままに歩き回る程度の知能ですが、妖精魔法2レベルを使えたりもする。
いずれも今のぞんざいズからしたらリャグ以上の雑魚ですが、学生の実戦訓練に使ったりもするらしい。
両方ともあまり動かないのでヤバそうだったら逃げることもできる。なかなか都合のいい連中なので完全伐採を免れています。
ただリャグが住み着いているぐらいだし、目の届かない森にも何かしら住み着いていても不思議はないので調べに行きます。
★森の乙女の秘密
ムーテスとルーを加えたぞんざいズは順路を逸れて「鬱蒼とした深い森」へと入っていきました。
今のところ標識に悪戯をされた様子はなく、入り口付近に植物モンスターの姿はありませんでした。
ただ《探索判定》で6ゾロを振ったニゲラによってウォーキングツリーが根を引きずった痕跡は見つかりました。
今ここにいないということは気まぐれに森へ引き返したのか、それとも森から出る前に誰かが伐採したのか。
そうして周囲を調べていると妖精語の細い声が聞こえてきます。ジークには見ただけで分かりました、ドライアードです。
ドライアードは9レベルの妖精です。美しい全裸の女性の姿をした樹木の妖精で、緑色の髪を肢体に巻きつけています。
男性を魅了することで死ぬまで自分のそばに置く習性があり、自らが宿る木を守らせたり、その肥料にしたりします。
妖精魔法限定9レベルで土属性を魔力12で使用します。《魔法拡大/数・時間》《MP軽減/フェアリーテイマー》の《魔法適性》持ちです。
《魅了》の能力で30m以内にいる男性を魅了します。対象はドライアードを恋人のように思い込み、守ろうとするようになります。
また《樹木同化》によって攻撃の対象にすることはできなくなります。逆にドライアードも近接攻撃や《魅了》はできなくなります。
ただし樹木が燃え尽きるとドライアードも消滅するため火をつければ出てきます。《土無効》で《炎に弱い》という耐性もあります。
ドライアード「あらあら、こんなところまで人族がくるなんて久しぶり……」
ムーテス「でた!「全裸で誘う乙女」!これでしょ!」
良かったですね、ようやく自分の目で七不思議の1つを確認できました。しかしこいつに捕まったとしたら厄介なことになりますね。
一見羨ましく見えるけど結局死ぬまで魅了されるわけで、樹木の根元には犠牲者の死体が転がっているという恐ろしい一面もあるのです。
もっとも《魅了》の効果は精神効果属性なので解除は可能だし、そうでなくても30m離してやれば正気に戻るので仲間がいればなんとかなる。
ジーク「おい、ドライアード。お前、ここに来るまでの標識をこっそりと逆にして、この立ち入り禁止の森に男を迷いこませようとかしただろう!」
ドライアード「……え?」
ニゲラ「ジークさん、いきなり言いがかりからぁ!」
ドライアード「していないわ、あなた、失礼ね。……強そうだと思っていたけれど、もういいわ」
機嫌を損ねてしまいましたね。でもこのドライアードは割と分別のある個体らしいので怒るのも無理はない。
なにしろウォーキングツリーとかが人間の迷惑にならないよう、森の奥に誘導したり間引いたりしていたのですから。
そういうのが増えて人間を完全に敵に回すと森自体が焼き払われるかもしれません。そういうことを未然に防ごうとしていたのです。
エア「めちゃくちゃいい妖精じゃないの」
ドライアード「ある程度は残しておくと、若い男の子がたくさん森に退治に来てくれたりするし」
そういう時にドライアードは女生徒の格好をしてこっそりと修学旅行生に紛れ込み、遊んだりしているらしい。
これが「必ず1人いなくなる女学生」のようですね。いなくなるというか、増えていたのが元に戻るだけですが。
エア「遊びに行って、それだけ?」
ドライアード「それだけ。みんなと遊ぶの、賑やかなのが好きなの……」
ムーテス「もしかして、全裸女性と、必ず一人いなくなる女学生は兼用の怪談だったっすか!」
ニゲラ「男の子、連れて帰るとかはしないのねー?」
ドライアード「しないわよ。あたし、元気で生きてる男の子のほうが好き……。
だから、管理人のおばあちゃまも、大目に見てくれているのよ。森も危険じゃなくなるしね」
何だかこのドライアードもローラみたいなことを言っていますね。そしてやたらと人間臭い。
間引きだけなら個体差の内かとも思いましたが、男を無理矢理にでも自分のものにしたがるドライアードの習性を考えるとね。
ここでジークはフェアリーテイマー+知力の判定を行い達成値18を叩き出します。
これによりこのドライアードは普通のドライアードとは違うということを確信しました。
それこそローラのように妖精としての本能が見えず、普通の人間の女の子のように見えるのです。
そういえば温泉にいたヴァンニクにもそういう所があった。本来なら男湯だろうが汚れた人を洗うことを喜ぶはずですしね。
ジーク「おい、ドライアード。お前、いつからここにるんだ?」
残念ながら妖精は時間の感覚に疎い。具体的な日時や時間の経過などを聞いても分からない種族なのです。
ただもしかしたらヴァンニクやドライアードも<妖精の卵>から出てきた妖精なのかもしれません。
ムーテス「ねえねえ、ドライアードさん。なんとなく、あのルーンフォークについていきたくならないかい?」
ドライアード「いや、全然。自分が見えないやつについていくなんて……そんなにMじゃないもの」
ローラ「は?尽くす気持ちのない奴って、かわいそうよねー?
喜んでもらえるのって、すっごく嬉しいんだから。……まだ、喜んでもらえたことないけど」
ジーク「え?お前尽くしてたか?」
ローラ「……お野菜冷やしてた」
あとはアイテムを部屋に運んだりしてたし、姿は見えず声は聞こえなくてもできる限りのことはしています。
その切ない関係だけを見るととってもロマンチックではあるんですよね。冷蔵庫やパシリであることに目を瞑れば。
まぁ妖精として不自然であることの是非はともかく、この森は思ったより危険ではなさそうなので次に行きましょう。
ジーク「じゃあな、ドライアード。もしかしたらまた来るかも。あんまり学校の生徒にちょっかいかけるなよ」
ドライアード「あっちに登るなら、ちゃんと帰ってきなさいよー。あっちに登った若いので、下りてきてない人間がいるからね……?」
またさらっと大変なことを言いますね。妖精なので具体的にいつのことかは分かりませんが、その人間を追いかけることにします。
★路傍の彫像
ドライアードのいる森から引き返してきたぞんざいズは正規のルートを進み、「彫像」が並んでいる所にまで来ました。
彫像は全部で5体あっていずれも人の上半身を象った胸像です。この先にある屋敷の住人だった地元の名士がモデルのようです。
胸像を見る限りは中年男性、中年女性、若い女性2人となっているので、家族構成は両親と娘2人といったところですね。
ところが最後の1体の彫像だけは崩れているような、壊されているような感じで正体不明です。台座に彫られていた名前まで削られています。
それも気になりますがそれ以上に気になることがありました。娘の1人の顔に見覚えがあるのです。
GM「似ています。皆さんが連れてる、冷蔵庫さんに」
ムーテス「え?また?ちょ、ちょっと……これは、調べるものの方向性が僕的に変わりそうになってるんだけど」
メッシュ「……ほう、これがスカディやドライアードと似ているのですね」
一同「初めて実物見られたー!」
本人でないとはいえ、自分のに姿を認識してもらえるのは嬉しいはず。これはいよいよ<妖精の眼鏡>が欲しくなってきましたね。
これってもう2レベルほどマギテック技能を上げて"マナカメラ"で撮影したりしても姿が見えるんでしょうかね。
魔法の説明では「視界内の光景を静止画として記録します」とあるのですが、これが現実世界のカメラと同程度の意味なら可能ですね。
ただ術者の視覚が影響するならルーンフォークには写せなくなりますが、撮影するのはあくまでも<マギスフィア>が変形した写真機だし大丈夫かな。
それと冒険者+知力の判定をしたところ、ニゲラはもう1人の娘がコレットに似ていることに気付きました。
ニゲラ「みなさん、見てみて、この子、コレットに似てますよぅ!」
確かに似ていますが言われたら分かる程度で、瓜二つという程ではありません。目標値も高かったようだし。
それでもニゲラが気付いたのは彼女と短期間とはいえ一緒に過ごしていたためか、ボーナス修正が入ったお陰です。
この彫像の古さとモデルになった人の年代を考えれば本人のわけがありません。それでもこれは非常に気になることです。
しかし今は屋敷に向かったという生徒が気がかりなので調べるのは後回しです。屋敷に行けば手がかりがあるかもしれないし。
屋敷は廃屋であるにも関わらずしっかりしていました。倉庫に使っているから修繕されているのかもしれない。
ところが玄関の扉を括り付けて鍵をかけていたであろう鎖が断ち切られ、何者かが侵入した様子でした。
メッシュが"マナサーチ"で調べたところ屋敷の中には幾つか反応あり。《足跡追跡判定》の結果痕跡は3つ発見しました。
3という数に例の不良学生達を思い出します。どうやら本当に先回りして逆ドッキリを仕掛けるつもりのようです。
しかしいくら糞ガキとはいえ放置するわけにはいきません。早速玄関に入って彼らを探します。
玄関ホールでは積み上げた荷物があらされ、たらいに石灰の粉を溶いたものを準備していて割りと凝っていますね。
ではどこにいるのかとメッシュが《聞き耳判定》で達成値22を叩き出し、正面階段を上がった先の2階から声を拾います。
メッシュ「所詮は男子学生。女学生ほどではなくともバカなことやって騒いでるはずですよ」←男子真面目にやりなよ!的な
不良「なんだよ。予定よりずっと早いじゃないかよ、これじゃ用意なんて……」
そんな風にぼやいて玄関ホールを覗いていた不良でしたが、ムーテスが〔剣の加護/風の翼〕を1ラウンドだけ使って確保します。
誰に言われるでもなく、貴重な時間を使ってこんな手の込んだことをするその熱意。もっとマトモなことに使えればいいのにね。
この調子で他の連中もさっさと確保するつもりでした。ところがある意味お約束とも言えるハプニングが発生します。
不良「おーい!助けてくれー!連中こんな時間に来ちまったよ!早すぎるだろ!!」
メッシュ「その声で、お仲間を呼んでくださると助かります」
不良「うわぁあああ!化けものだー!こっちこそ、助けろー!!」
この声はジークに突っかかっていた不良です。藪を突いて何かが飛び出したか。廃屋探検によくあるパターンといえます。
どうやら彼は裏庭の納屋を調べにいっていたらしく、ぞんざいズは2階の廊下の窓から外を見下ろします。
すると例の学生が転がるように逃げ惑っていて、納屋からは建物くらいはありそうなきなこもちっぽい何かが出てきていました。
学生は手に斧を持っています。これだけ見ると七不思議の「斧もって館を歩き回る小柄な男」を思い浮かべますね。
どうやら彼はこれで鎖を切って玄関や納屋を開けたようですし、過去にも彼のように悪さをする人がいて生まれた怪談なのでしょう。
さて肝心のきなこもちですが、現在のメインセージであるエアは達成値21を出して正体を見破ろうとしますが。
GM「(確認)わかんない」
エア「ちょ、ちょっと待った!じゃあ、23なら?いざとなったら指輪くらい割るわよ!」
GM「(再び確認)……23でもわからない」
エア「うそ!これで!?」
ムーテス「ちょっとちょっと、あれ、本当に僕らが相手にしていいモノなんだろうね!」
彼らが驚くのも無理はない。弱点はともかく23で知名度すら抜けないなんて並じゃない。魔神将ゲルダムですら22とかなのに。
ではこいつの知名度/弱点値はいくつかというと25/28とやたら高い。24レベルのグランドトレイドンとかと同じ水準です。
そもそも魔物知識11のエアでは出目11でも22、指輪を割っても24だから6ゾロ振らない限り正体は分からなかったんですよね。
実はこいつは「カルディアグレイス」で追加されたスライムモールドといいまして、他の追加モンスターと比較してもやたら高いのが特徴。
スライムモールドは16レベルの植物です。小屋ほどの大きさに育った粘菌の塊で、一見すると黄色い餅のようにも見えます。
あらゆる生物を呑みこんで養分とし、巨体でありながら移動速度25で動きます。ただし巨体だからこそ一見鈍重に見えます。
その《柔らかい身体》は打撃武器やそれに準じるダメージに対して防護点+5され、《投げ攻撃》等は通用しません。
体当たりが命中した相手には《取り込みU》が発生し、最大5体までを取り込んで物理ダメージを与え続けます。
主動作で乱戦エリア内の全てに《毒の胞子》をばら撒き毒属性魔法ダメージを与え、HPにダメージを受けると《病気の胞子》をばら撒きます。
この胞子は乱戦エリア内の全てに生命抵抗を行わせ、失敗した者のHPとMPの最大値と現在値を20点ずつ減少させてしまいます。
何より怖いのは《病気の胞子》ですね。ダメージを受ける度に乱戦エリア内の全員が非常に恐ろしい効果に晒されるわけです。
これはぞんざいズのように前衛が多いパーティや、メッシュのように攻撃回数の多いキャラクターにとっては厄介です。
ジークがちょっと《マルチアクション》で近接攻撃と攻撃魔法を使おうものならそれだけで2回も判定することになりますしね。
ちなみに生命抵抗の目標値は16(23)、こちらの前衛の生命抵抗力が14〜15であることを考えると不利なのです。
せめて"バイタリティ"があればともかくソラがいないのでそれもない。メッシュなんて3回抵抗失敗したらお終いなのに。
こういう時に練技の"アンチボディ"とかあったらいいんですが誰も使えない。以前は使えるうさぎがいたような気もするんですが。
あとは<陽光の魔符>があったら積極的に使っていきたいところです。精神抵抗の<月光の魔符>に比べると所持数は少なそうですが。
更にこの症状は自然治癒しないので"キュア・ディジーズ"等で治療する場合は達成値の比べ合いが必要です。
幸いなことに今回はエアだけじゃなくルーちゃんがいるので治療は可能でしょう。何しろMP無限ですしね。
基準値にしろ14レベルで魔力は確か18ほど。基準値16の病気なら66%程の確率で治療できますね。
ただしこの魔法は接触する必要がある。ルーちゃんを乱戦に巻き込むわけにはいかないし、前衛が乱戦から抜けないと。
以上のように非常に厄介な奴なのですが、そもそもデータが分からないので正体不明の恐怖が勝っています。
それでもぞんざいズはこいつに戦いを挑みます。現在位置は2階なので裏庭まで7mの高さがあるとします。
スライムモールドとの距離は15mです。前衛は飛び降りて殴り、後衛はこの場に残って魔法で援護する作戦です。
ルー「エア、どう動けばいいか、指示してね?」
エア「お任せください。ルー様が一緒ということは、回復魔法はほぼ全任せにしてもいいってことよね」
確かに毎ラウンド全員に"キュア・モータリー"とかも余裕ですしね。物理ダメージはさほど心配ではない。
しかし問題なのはやはり《病気の胞子》です。この位置取りだと接触するのもちょっと面倒ですね。
★死闘、きなこもち!―舞いあがるきなこの恐怖
《先制判定》は前衛達が裏庭に飛び降りてからです。7m(21点)程度なら《受身判定》で何とかなる。
ジーク以外はスカウトかレンジャーを持っていますし、そのジークにしろ<リトルウィング>がありますしね。
《先制判定》ではニゲラが"イニシアティブブースト"Aまで入れて、メッシュが21を出して取りました。
正体不明だから後手に回るのは避けたかったわけですが、実はこいつ自体先制値は10しかなかったりする。
正体を見破れないとこういう所でも余計な出費をしてしまうわけで、本当に《魔物知識判定》は大切ですよね。
1ラウンド目
さて久々の正体不明さんとの戦いですが、この場合は見た目で能力を推測することになります。
今回はブロブに似ているので打撃攻撃には強そうだと推測できますね。すると<メイス>や<格闘>には不利。
そこでムーテスは<オーガモール>ではなく<デスサイズ>を、メッシュはクリポン武器を用意することにしました。
まず殴るのはジークです。<ブランベルジュ>を使って達成値25とかなり鋭い攻撃を繰り出しましたが。
GM「残念。24なので避けられませんでした」
ジーク「24で避けようとした!?まて、俺、今9を振ったんだぞ!」
ニゲラ「大丈夫ですー。次はニゲラは"パラミス"を入れますぅ!」
鈍重そうに見えて回避力16(23)もありますからね。実はジークの素の命中力と同値だったりします。
パラミスをAとかで入れればぞんざいズの前衛達なら有利になりますが、やはり16レベルは強敵ですね。
ジークの攻撃はクリティカルして33点の合算ダメージになりました。クリティカル耐性がないことに一安心。
スライムモールドは防護点15のHP184点とかあるので、これでも18点しか抜けずにピンピンしていますが。
もし<剣のかけら>が16個入っていようものならHPは264点にもなる。これはなかなかしぶとそうです。
そしてこのダメージにより《病気の胞子》が噴出。今回はGMの出目が悪く目標値20だったので前衛全員抵抗はできました。
ジーク「とりあえず、地元学生には「こいつは任せろ、食い止めるから、今のうちに逃げろ!」」
メッシュ「こえぇ、殴るのこえぇ!」
思わず紳士の言葉遣いも忘れるほど驚いたメッシュでした。その後前衛達は恐る恐る攻撃を重ねていきました。
そして最初に抵抗に失敗したのは案の定メッシュでした。《追加攻撃》《両手利き》で3回も殴るから判定の回数も多い。
しかもその高い命中力が災いして2回も判定に失敗する始末。生命抵抗力14と他の人達より低いから尚更危険です。
これだけでHPとMPが−40点ですよ。HP18点でMP0点、既に死に体です。
メッシュ「ひぁいいい!どちらも−40点!あと1回同じ効果受けたら死にます!」
これからスライムモールドの手番もある。《病気の胞子》でなくても体当たりなり《毒の胞子》なり受けたら非常にまずい。
できれば"キュア・ディジーズ"したいけど接触の魔法だから近寄り難いし。
ニゲラ「ねえねえ、エアさん。"ディスペル・ニードル"は病気消せる?魔法以外の魔物の特殊能力の効果が消えるんですよねぇ?」
エア「あ!えらいわニゲラ、それならイケる!」
ニゲラ「それでね、ニゲラ……1枚だけ、お守りにSSカード持ってるんですよぅ」
かつてドッペルゲンガーの《変身》を解除した手ですね。実は毒・呪い属性も解除できないけど病気なら多分大丈夫。
もちろんそれは非常にお高い手段ではあります。
エア「……それは、2万ガメル」
メッシュ「待ってください。そんなものを使うぐらいなら……私、死んだほうが……安いのですよ……」
またそんな悲しいことを言う。記憶はプライスレスだという考え方もある。ていうか生き延びる手を考えないと。
そこでメッシュは次のラウンドに《影走り》で離脱することにして、このラウンドは何とかもたせることにします。
まずルーちゃんが全員に"ブレスU"です。消費MP12点を5人にかけたら60点ですが、どうぜ無限なので問題なし。
エア「ルーフェリア流ブレスU!全員能力値が+6よ!もちろん生命力もだからね」
これは生命抵抗力も当然上がるし、HPの最大値も増えると解釈するならメッシュのHPは24点になりましたね。
メッシュ「それはありがたい。これで、もう1回あの煙に耐えられるようになりましたよ!なので、1回殴ってもいいですよ」
エア「ちがう!そして……わたしが前衛4人に"ホーリー・ブレッシング"。これで、仮想HPが30点ずつ増えたわよ」
あくまでも仮想HPですが、HPの最大値を減らす効果をこれに振ることができたらちょっと楽になりますね。
とはいえ本来はダメージを肩代わりする壁のようなもの。最大値を減らす効果にも有効かどうかは微妙なところです。
それからニゲラは主動作で"ヴォーパルウェポン"Sを前衛全員に配ります。どうせ胞子を受けるなら早く決着をつける方が有利ですし。
ニゲラ「今回は赤字ですぅ」
ジーク「今回のカードは地元校と、うちの学校と、《深淵領》に出資してもらおう」
こんなエゲつないモンスターを退治できる人は限られているし、必要経費として交渉することはできそうですね。
更にダーリンの危機ということでローラも参戦。ランク6の妖精魔法(水・氷)"ミストハイド"を前衛にかけて近接攻撃の回避力+2。
そしてスライムモールドの手番でジークに体当たりします。命中力19(26)で出目9で28という攻撃を繰り出します。
しかしジークは"ブレスU"と"ミストハイド"で回避力+3されています。盾があるなら回避力21にもなる。
しかも出目が良くて31で見事に回避しました。この1発でスライムモールドの手番は終わりです、能動的な攻撃能力はさほどでもない。
2ラウンド目
敵の能力が分かって巡ってきた2ラウンド目。メッシュは離脱しましたが、ここでの判断が今後の戦局を大きく左右します。
エア「すでに、ポンコツがしゃれにならないポンコツになりつつあるのよね。
前衛の中で、実は遠距離攻撃できないのはムーテスだけだから、ムーテスを残して全員離脱するというのはありだと思うのよ」
ジーク「でも、その場合離脱宣言が必要で、1ラウンド無駄にするよな?それを考えると、俺は殴るわ」
もし正体が分かっていたら最初からそういう作戦でいけたんですよね。ムーテスに<陽光の魔符>を沢山持たせて壁になってもらってね。
ジーク「……魔法でも煙吐いてくるのかなあ」
エア「ごめん、わかんない」
ジーク「だよな。ま、やって確かめるのが一番だよな!」
今のところ近接攻撃による物理ダメージと、メッシュのクリポン武器による魔法ダメージによる噴出は確認できています。
胞子を噴出す条件が「近接攻撃によるダメージ」のみなら魔法による魔法ダメージはセーフということになります。
実際は攻撃手段やダメージの種類に限らず「HPにダメージを受ける」ことが条件ですが、それはやってみないと分かりませんから。
ジークは《マルチアクション》でまず"カオスショット"です。抵抗されて7点ダメージでした。
GM「はいはい。じゃあ、ばふっと胞子が傷口から飛びます」
ジーク「うわぁああ、魔法ダメージでも関係なしかよ!意地が悪いぞ!」
こうなると中途半端なダメージを与えて判定の回数を多くするよりも、1発の大ダメージを期待できる手段に限定した方がいいですね。
今までは抵抗上等で《マルチアクション》しておくのも一つの手でしたが。とはいえ《魔力撃》をすると生命抵抗力が下がるんですよね。
それから覚悟を決めた前衛達が殴り続けます。パラミスのお陰で攻撃自体は当たるので確実にHPは削れます。
《病気の胞子》は<陽光の魔符>や〔剣の加護/運命変転〕を使いつつ耐えますが、これはこちらも確実にリソースが削れていきます。
ローラはルーちゃんを抱えて裏庭に移動。メッシュと接触可能になりました。エアは自力で飛び降りて今後の戦いに備えます。
スライムモールドはニゲラに体当たりしてハズレ。やはり怖いのは胞子によるカウンターですね。
3ラウンド目
ムーテスは鼓咆"怒涛の攻陣V:業炎"を使用。物理ダメージ+3でとにかく早期決着を狙います。
メッシュ「じゃあ先に援護しましょう。何しろこれでも"マギテック"ですからな、そちら方面からの支援くら……あ」
ジーク「ん?」
メッシュ「申し訳ない!現在MP上限0!1点もなかったですよ!」
エア「〔HP変換〕があるじゃない。ルーンフォークの奥の手♪」
メッシュ「知っていて言ってるんでしょう!上限が0なんですよ!」
ここでメッシュはルーちゃんの"キュア・ディジーズ"で病気を治しました。補助動作で〔HP変換〕すればMPを回復できますね。
そして6レベルの魔動機術"ウィークネス"を使います。これは対象に弱点を付与する魔法で、今回は「炎属性ダメージ+3」を付与します。
抵抗されても短縮で1ラウンドは効くので抵抗を破る必要はない。ただし付与できる弱点の種類はランダムで決定されます。
他にも「水・氷属性ダメージ+3」「雷属性ダメージ+3」「物理ダメージ+2」「魔法ダメージ+2」「対象への命中力+1」がある。
こうして色々強化したぞんざいズは毎度お馴染みの袋叩きでスライムモールドのHPをゴリゴリ削っていきました。
スライムモールドは体当たりによる《取り込みU》を諦めて《毒の胞子》を噴出。
ジーク「……普通のダメージは何となくほっとするよな」
ムーテス「うん。治してもらえるし"ホーリー・ブレッシング"で緩和できるもんね」
抵抗に失敗したら2D+18点の毒属性魔法ダメージですが、抵抗できたら効果消滅ですしね。
《病気の胞子》のあまりのエゲつなさにすっかり感覚が狂っていますね。神官が2人いたらこの程度のダメージは治せるとはいえ。
3ラウンド目
メッシュはクリポンでカテゴリ<アックス>のBランク武器<ミノタウロスアックス>を作りました。次のラウンドにムーテスに渡します。
これは必要筋力30で威力45という重量武器でして、ミノタウロスの戦利品として拾えるので彼らの主武器と思われます。
そして行われる袋叩き。ジークが35点ダメージと相変わらず快調で、ムーテスもそれに続きました。
ムーテス「次からは"クリポン"の魔法ダメージだから楽しみだ。ドーピング効果もあって、29で攻撃!そして、ダメージが……38点!」
GM「(計算中)……落ちた。きなこもちが、でろーっとなって、地面に広がっていきます」
一同「やったー!(万歳)」
メッシュ「……"クリエイトウェポン"解除(ぼそ)」
ムーテス「ごめん!次はきっと使うっすよ」
クリポンで作れる武器の中ではトップクラスの威力を持つ武器だっただけに残念。必要筋力30はムーテスでないと持てないけど。
戦闘が終わるとすっかり萎縮している不良達に事情を聞きました。スライムモールド自体は自然発生っぽいとはいえ、一歩間違えたら全滅ですよ。
メッシュ「それよりも、無断で許可なく鍵と鎖を壊してまで、他校の施設に押し入るのは如何なものかと思いますね」
不良「すまない……。でも、うちのガッコの伝統で……この斧で鍵を壊して、フォストリスの騎士学校の施設に入り込むっていうのは、度胸試しなんだ」
例の斧には「見せろ!グロンド魂!」と漢字ばかりのヤンキー風の文字で書かれていました。やはりこれも七不思議の一つだったんですね。
終わってみたら大半の七不思議を暴けましたが、まだ不明なものもいくつかありますね。
「笑う首」はそれらしいものはなかったし、「キラキラとした首の彫像」は彫像自体はあったけど該当するものはなかった。
同じ「首」というキーワードから関連がありそうな気はしたんですが。それと「温泉ですすり泣くお姉さん」もハッキリとはしません。
あのヴァンニクは特にすすり泣いてはいなかったし。河に仕込まれていたという不思議がこれらのどれかなんでしょうけどね。
しかし不思議なものを全て摘み取ってしまうのも困りものです。怪談を恐れる人間がいるからこそ、また新しい怪談も生まれる。
今回の事件にしろ何らかの形で未来に受け継がれて新しい七不思議になっているかもしれません。
それと肝試しは流石に中止になるでしょうね。
ジーク「そのうちルーのために企画するかな」
ルー「ほんと?」
メッシュ「その場合は、星空のきれいな丘とかへの散歩をお勧めいたしますよ」
エア「ほほ。色んな意味でジークの肝を試されることになるわね、それは」
あとはローラやコレットに似ている彫像の謎、人間臭い妖精達の謎、色々な謎がまだまだ残っていますね。
今まで追ってきた<妖精の卵>や<孔雀の貴婦人>とも関係していそうですし、まだまだこの領でやることがありそうです。
★興奮気味の成長申告
今回の能力値の成長は以下の通り。
ジーク:敏捷度23→24
エア:敏捷度16→17
メッシュ:生命力23→24
ムーテス:精神力15→16
ニゲラ:筋力22→23
今回はジークとメッシュがそれぞれボーナスブレイク。メッシュの生命抵抗力が他の人達に追いつきました。
技能の成長ではついにジークがファイター12→13となって《バトルマスター》習得。いよいよここまで来ましたね。
あと13レベルで習得する戦闘特技として《頑強U》を選択。これによりHPは更に+15され、なんとHP109点と三桁に!
《頑強》《頑強U》《タフネス》とファイター技能ならではのHP増強法でHPが+45もされている状態なんですね。
大司教がHP114点ですがそれは特技ではなく生命力の成長あればこそ。ジークなら今後の成長次第でそれを越えることも可能でしょうね。
今回でメッシュもHPは増えましたが以前より差は広がってしまいましたね。
メッシュ「これで、ジーク様のHPの半分を超えました」
ニゲラ「あはは……50ちょっとってことですかぁ?」
メッシュ「ふ、何と59!」
ジーク「……かわいいなあ、メッシュ」
メッシュ「がーん!」
実は前話だと91点に対する58点だからとっくに半分は超えていたんですよね。差が広がっているというのは誇張ではないのです。
エア「ジークはHPに換算すると大体1.9メッシュ。防護点で換算すると、4メッシュか5メッシュってところでしょ?」
メッシュ「……密かに傷ついております。……しかし、チョー○の新製品みたいですな」
ジークが防護点10でメッシュが防護点4だからそこまでではない。<真・ブラックベルト>がなければそれぐらいですが。
しかし単位としては分かりやすいような分かり難いような。クレスポみたいなもっと切りのいい単位はないものか。
他に技能の成長はなし。ニゲラはアルケミスト技能を上げるために貯めているようですが。
前回の教訓で"エンサイクロペディア"を取ろうとしているんですね。最近プリーストやらレンジャーやらで伸ばしてなかったけど。
それでも8レベルもあるのでこれを9レベルにしようとするなら4000点が必要。2〜3話くらいで貯まりそうな感じですね。
それと前回の活躍でグロンドの方から1人あたり1万5000ガメルの報酬が出ました。
そういえば最近まとまった報酬を貰っていなかったような。これでカードや魔符を補充できますね。
★後始末&下調べ
前回廃屋でスライムモールドを倒し、地元の不良学生達を保護したぞんざいズは幾つかの謎を抱えていました。
その1つがこの廃屋に住んでいたという地元の名士一家です。ローラに似た娘がいたという不思議な繋がりがあります。
ジーク「なあローラ、この屋敷に見覚えがあったりしないか?」
ローラ「えー?よくわかんない」
しかし当の本人にはまるで心当たりがない。もう1人のそっくりさんであるコレットに話が聞きたいところですね。
そうなると今できるのは屋敷の調査です。騎士学校の倉庫に使われているそうですが、秘密の部屋とかがあるかもしれない。
ジーク「おお、そうだ。ジモティ学生」
不良「な、なんスか……」
前回ぞんざいズのとんでもない実力を目の当たりにした不良達です。既に対抗意識なんて吹き飛んでいたので素直でいい。
彼らにはこの屋敷の変わった部屋について尋ねたところ、あまり勝手が分からないなりに地下室の存在を挙げてくれました。
不良「地下室があったっスけど、別に目立つようなもんはなあ」
不良「殆ど、あったものは持ち出されてるみたいだし」
スライムモールドなんて怪物がいましたが基本は倉庫ですから。普通に出入りできる所には目ぼしいものはないでしょう。
しかし屋敷への侵入が伝統とはいえ彼ら自身は初めてなので特別詳しいわけではない。本当ならメッシュが本腰入れて調べるべき。
それでも一応不良達はぞんざいズを地下へ案内してくれました。罠とかには全く警戒した様子もない軽い足取りで。
エア「無警戒ねー。まあ、それだけ度胸試しの場所として浸透してたってことかしら」
不良「試すのは度胸であって、パチりの腕じゃないんだよ。そんなことをする奴は騎士に相応しくない」
そんなことを気にするくせにこうもチンピラっぽいのはいいのかと突っ込む所でしょうか。
こんな彼らですが前線とかなら品性はあまり問題ではないでしょう。《血風領》なんてモヒカン常備のヒャッハーが標準らしいし(笑)
でも何やら色々準備してましたよね。
不良「肝試しの物資は、借りたんだ」
ニゲラ「屁理屈にもほどがありますぅ」
いわゆる「死ぬまで借りてくぜ」状態ですね。屁理屈というのは分かっているので強く主張したりはしませんが。
地下室に着くとそこは書斎や書庫のようになっていました。石造りの壁際に本棚が並び、大きな机がありました。
しかしその本棚も今はほとんどが空です。残っているのは妖精魔法や召異魔法のありふれた本ぐらいでした。
ここでメッシュは目標値20の《探索判定》で達成値22を叩き出します。こんな目標値じゃ素人に見つけられないのは当然。
これで見つけたのは大きな額縁を見つけました。元々絵が入っていたものらしく、裏には「パルグレート家」と書かれていました。
名士の家名が分かったところでぞんざいズは宿泊所に帰りました。残りの調査は周辺住民への聞き込みをしてからです。
保護した不良達も連れて帰ると大騒ぎになっていましたが、全員無事に帰ってきたので安心させることはできました。
やっぱり肝試しは中止になりましたが、こういう時のために用意していた河原のバーベキュー&花火大会が開かれました。
正直なところ肝試しよりこっちの方が生徒は喜びそうですね。こうして波乱の2日目は無事に終わりを迎えたのです。
ていうかこの世界にも火薬とかあるんですね。魔動機術があるからあまり発達しなかっただけなのかもしれません。
そして最終日である3日目です。スライムモールドの正体を調べて後始末を終え、報酬が払われました。
都合のいいことにグループ毎の自由行動の日なのでパルグレート家について周辺住民に聞き込みをします。
ちなみに合宿所の管理人のお婆さんは詳しくは知りませんでした。何しろ管理を任されてから数年しか経っていないので。
そこでぞんざいズは周辺の村に聞き込みに繰り出します。郷土史を調べているという学生らしい名目なら協力者も多いでしょう。
ジーク「そういえば、自由時間を一緒に過ごしましょうとか言ってくる女の子グループとかいないかな」
エア「は?」
ジーク「なんだよ、すごい意外そうな顔」
そりゃあ今までそういうフラグを悉く折ってきましたからね。そんな気があるならソラとか放っておかないでしょうし。
とはいえこれまでの活躍を考えるとファンが出てきても不思議はないんですよね。よく学園物にいる超人的な生徒みたいに。
ニゲラ「ちょっと正座しなさい、ジークさん。そういう言動はルー様の教育上よくないですよぅ(にこやか)」
ジーク「あ、いや、何か断りたかっただけなんだよ。「ごめん、ちょっと忙しいから」とか」
ムーテス「断りたかったって、なんかいいなあ。きっと人間にしかない感情だなあ」
エア「ムーテスの言葉が結構深いわ」
確かにそういう無駄なことを楽しむ習慣は人間ならではという気はします。この場合他の人族にも理解者はいそうですが。
あとそういう女の子は適当にダイスを振ったところ5人ほどいたそうです。それだけいれば十分学園ハーレム的な展開になりそうです。
しかしそういうのは特に気にすることもなくこの辺の歴史に詳しい人を紹介してもらいました。ドワーフのお婆さんです。名前はノエミさん。
ジーク「おう、ドワーフなら長寿命だし、色々と知ってるかもな」
GM「じゃあ、縁側っぽいところでお茶を飲みながら。素朴そうなおばあちゃん幼女が皆さんを迎えてくれます」
今までこのシリーズでは触れる機会がありませんでしたが、ラクシア世界のドワーフ女性は幼女の姿をしているんですよね。
フォーセリアのドワーフや、女性でも髭が生える他世界のドワーフとのギャップが強いですね。正に「ババア結婚してくれ!」状態。
ノエミ「まあ、皆さん何がお知りになりたいんで?パルグレートとは懐かしいお名前ですねえ」
ノエミさんによると例の彫像はパルグレート家の最後の家族のもので、およそ60年ほど前のものだそうです。
推測通りに夫婦と2人の娘を象ったもので、壊れていたのは跡継ぎに養子として迎えた男の子のものだったらしい。
では何故像が壊れていたかと聞くとノエミさんは考えた様子でしたが、昔の話ということで教えてくれました。
ノエミ「その坊ちゃま、放逐されてしまったのですよ」
ジーク「え?なんで?」
ノエミ「……これ内緒ですよ?次から学生さんが観光に来てくれなくなったら、うちの村は大打撃だから」
ムーテス「するする。内緒にするっすよ!」
ノエミ「じつはねえ。パルグレート家に引き取られた坊ちゃまが、お母様を殺害なさった……という話なのよ」
ジーク「…………まじ?想像していたより重い話で、ちょっとびっくりだ」
これには仲の良い夫婦だっただけに夫が激怒して養子を放逐。彫像も破壊するよう命じたそうです。
その後も一家はあの屋敷に住んでいましたが、夫は気落ちしたのか1〜2年ほどで病死したそうです。
姉は行方不明になり、妹は人目をはばかるようにこっそりと都心部に引き取られていき、屋敷は放置されたのです。
騎士学校が手入れをするまでは縁起が悪い屋敷には誰も近寄らなかったとか。
ジーク「なあなあ、ばーちゃん。パルグレート家の旦那さんって、妖精魔法とかに興味あったり勉強とかしてたのか?」
ノエミ「いいえ。むしろ、妖精魔法がお得意でいらしたのは、パルグレート家の女主人である、奥さまのほうですよ」
奥さんの方が主人というのはちょっと珍しいですね。しかも話を聞く限りムスペルを召喚することもできたという。
ムスペルは13レベルの妖精です。全身が炎に包まれた巨人の姿をしていて、秩序や冷静さ、平等を好む性格をしています。
炎武帝グレンダールの軍勢として召喚されることもあって、人族や蛮族の中には小神のように信仰する者もいるらしい。
妖精魔法限定13レベルで炎属性を魔力16で使用します。《魔法適性》は《マルチアクション》《魔法拡大/確実化・距離・時間》等。
《炎の突進》によって炎属性魔法ダメージを与えながら突破し、対象には更に3分の間継続してダメージを与えます。《炎無効》で《水・氷に弱い》。
13レベルということはクラス6。これを召喚するとなると12レベルの基本妖精魔法"サモンフェアリーY"が必要になります。
エア「それは……《深淵領》では並ぶもののないフェアリーテイマーだったんじゃない?」
ジーク「ああ、大先輩だな。ていうか、それを殺した息子、何者だよ!」
ムーテス「最低HP50は超えてるよね」
種族人間で生命力14はあるとして、単純に12レベルで36点HPを増やすとしたらそうですね。実際は能力値成長なんかでもっとある。
不意打ちをしたとしてそれを即死させるのは至難の技だし、だからこそ本当に養子が殺害したのか?という疑問も生まれます。
それと一家の名前ですが、女主人はマージェリー、夫はリュミドール、長女はイーディス、次女はビルギッタ、養子はハルトムートというらしい。
こうしてパルグレート家への関心を強めたぞんざいズは再度屋敷を調査することにしました。
★従者来襲、お土産持参
再びパルグレートのお屋敷に行こうとしたぞんざいズでしたが、宿舎の前を通るところで管理人のお婆さんに呼び止められました。
管理人「皆さんに面会の方が訪ねておいでですよ。……えーと、ニゲラ・オリエンタリスさんというのは、そちらのお嬢さんよねえ」
エア「ニゲラ、知り合いこっちにいたの?」
ニゲラ「いいえー。お父さんはルーフェリアに追い払っ……いえ、奉公させに行きましたしい」
ちらっと見えた本音は聞かなかったことにしましょう。そういえばムーティスさん今頃どうしているんだろう。
しばらくすると満面の笑みを浮かべてウサ耳ルンフォのシフェナが突撃してきました。以前とは比べ物にならないぐらい眩しい笑顔です。
シフェナ「お嬢さまぁああああっ」
ニゲラ「ああ、やっぱりー。シフェナーっていいながら、その場で腕を広げて待ちます」
シフェナ「お嬢さま。お会いしたかったですぅー」
久しぶりに主人に会った犬のような興奮の仕方です。本当に幸せそうで安心しました。
ジーク達のことは覚えていないので「お嬢さまのお友達」という認識で、丁寧にそしてクールに挨拶してきます。
しかしその表情とは裏腹に体はニゲラに甘えまくりで、ニゲラもシフェナを可愛がっています。これほど仲睦まじい主従はそういないでしょう。
彼女は今まで仕事で《紫壁領》に行っていました。そのついでに学校に行ったところ、この旅行のことを知って会いに来たらしい。
ニゲラ「お店まかせてごめんなさいねー。大変でしょう?困ったことはないですぅ?」
シフェナ「困ったことはないですけど、イスミーが、配達に出たきりなかなかお店に帰ってこないんです。叱ってやってくださいな」
お店と言ってもどうやらエアの家らしい。独立したかと思ったら乗っ取っていたんですね。多分ミニの厩舎兼荷物倉庫だったりするんでしょう。
しかしイスミーがなかなか帰ってこないというのも気になる。サボリに見せかけて何かしらの事件に巻き込まれていたりして。
エア「……軒を貸したら母屋を強奪……ことわざ通りの事件が、こんなにも鮮やかに行われるとは思わなかったわ。先人って偉大ね」
ジーク「《紫壁領》まで荷物を届けて、そこにニゲラがいなかったから追いかけてきたのか」
シフェナ「ええ、ついでですわ」
《紫壁領》から見ると店のある《白峰領》は北東にあって、この《深淵領》は北西。しかも間には幾つもの領を挟んでいる。
ついでとか言って物凄い遠回りして会いにきたんですね。いくらスカイバイクがあるからって結構な距離でしょうに。
徒歩だと1つの領を通過するのに1日。馬車などで半日。空を飛ぶならもっと早いでしょうけどそれでも1日はかかるはず。
ニゲラ「シフェナは働き者ですねー。ちゃんと伝票とか切りましたかぁ?荷物の確認が出来なかったら大変ですからねー?」
シフェナ「もちろんです!ほら、《紫壁領》の荷物預かり所の責任者さんに、サインをいただきましたもの」
ところが台帳を見ると荷物品名は<こわれもの/ガラス製品>で差出人はシモン・パルグレートとなっていました。
まさかこんな形でパルグレート姓の人物の情報が入ってくるとは。絶妙のタイミングですね。
ニゲラ「シフェナー。ぎゅー(手を掴まえたらしい)。あのね?この、シモンさんて、だれ?」
シフェナ「え?え?え?荷物運びをお願いする人の顔なんて、よく覚えてないです」
曖昧な記憶を手繰ると特におかしい印象はない平凡な人だったらしい。
シフェナ「年齢は……うーん、人間の年齢はわかりにくいですけど、50がらみでしょうか?」
エア「人間の年齢なんてルーンフォークに比べれば全然わかりやすいと思うけど」
シフェナ「生まれてからどんどん見かけが変わるなんて、気持ち悪いじゃない。そのくせ、上に間違えたら大抵不機嫌になるし」
メッシュ「ルーンフォークは年齢よりも型番で判別するのですよ」
ジーク「てことは、メッシュはパジャリガー02くらいか?」
メッシュの前にも何人かいたらしいからもっと数字は大きくなりそう。少なくともセカンドとその父親は確認されています。
シモンの年齢が本当に50歳ぐらいなら60年前に離散したパルグレート家の誰かの子供の可能性がありますね。
長女か次女か、はたまた養子か。いずれにせよその家名を名乗ることに何も後ろ暗いところがなさそうです。
しかも受取人は指定されておらず、割符の持ち主に引き渡すよう依頼されていたらしい。これは前の事件の時と同じです。
事情を知らないシフェナはきょとんとしていましたが、自分が役に立てたことは喜んでいました。
シフェナ「私、お嬢さまたちのお役にたてました?」
ジーク「いや、むしろ困った。行動の選択肢が増えた」
シフェナ「お嬢さま、私あの人嫌いですっ」
ニゲラ「もう、ジークさん、うちの子を困らせないでくださいよぅっ、めっ」
ジーク「悪い悪い、つい、あいつがイスミーをいじめてたのを思い出して」
あれは別にいじめていたわけじゃないんですよね。助けを求める彼女の声をイスミーが受け取れなかっただけで。
お屋敷を再捜索して子供部屋から<バーサタイル>を、納戸から《皇城領》の土地家屋の登記の記録を発見しました。
<バーサタイル>は風景を映像として記録・再生する円盤です。1枚につき1つの映像のみ記録可能で、記録時間は10分間です。
記録と再生にはそれぞれ合言葉を必要とします。なお一度記録した映像は消去できない。使い勝手が悪いせいか5000ガメルです。
合言葉が必要となるとこうして発見した時の確認に困りますね。書物と違って閲覧自体にハードルがある。
メッシュ「……ちっ、吊るして害獣避けにするか」
畑で吊るされているCDというものにはハイテクなんだかローテクなんだか分からない情緒があります。
ところが合言葉は知名度を抜ければ判明するので微妙にセキュリティになっていないような気もします。
どっちかというと他人に見られないようにするための鍵ではなく、純粋に起動のためのものなのかもしれません。
この知名度自体は12と大したことないのでエアが軽く抜いて判明します。「イーディス・パルグレート」でした。
ムーテス「あれ、それ、お姉さんの名前じゃない?」
エア「ふふ……心温まるわー。弟妹というのは、お姉ちゃんが大好きなのよ」
ジーク「戯言はいいから、再生してみようぜー」
再生してみるとそれはホームビデオのようなもので、当時のパルグレート家の人達の姿が記録されていました。
緊張した様子の金髪の男の子と少し年上の2人の女の子。そんな子供達を見守る髭の紳士とご婦人が映っています。
お姉さん2人が男の子の手を引いて両親のところに行こうとして、大型犬に邪魔されるという楽しそうな姿でした。
背景を観察するとスライムモールドと戦った庭に似ています。あの死闘のあった場所でこんな団欒があったんですね。
お姉さん2人についてはローラやコレットを幼くした感じです。推定ハルトムートの男の子はとても大切にされている様子です。
エア「お姉さん大好きだったのかしらね」
ジーク「いや、大好きすぎるだろ、こいつ」
ムーテス「この2人がいうと、なんか奇妙な感じだよねえ」
何しろホームビデオの合言葉にお姉さんの名前を設定しているぐらいです。ジーク以上のシスコンかもしれません。
それと登記の記録ですが、これについては妹の引越し先かもしれません。現地に行けば何か分かるかもしれませんね。
メッシュ「誰かに貸したり、売ったりしていたとしても、持ち主を辿れば、パルグレートの娘の居場所を明らかにできるかもしれません」
ただ60年経っているんですよね。当時10代だとしても既に70以上。もしかしたら既に他界しているかもしれない。
亡くなっていたとしても子供がいれば会うことはできるかもしれませんね。それこそ例のシモンとか丁度いい年代です。
こうして色々情報が出揃ってみると選択肢が色々出てきますね。
この中では時間的に1か2は厳しいかもしれませんが急げば間に合うかもしれません。以前の事件に似ているのも気になるし。
ちなみにシフェナがシモンから荷物を受け取ったのは3日前。届けたのは昨日です。ということはやっぱり1日でここまで来たんですね。
そうしてぞんざいズが悩んでいるとルーちゃんが急に不調を訴えます。
ルー「あ、あの……ね?ルー、すこしあたまがいたいかもしれない……」
エア「何ですってぇええ!」
ニゲラ「ルー様、お薬飲みましょう!"キュア・ディジーズ"いきましょう!」
どんだけ過保護なんだ。でもそうして慌てた様子の2人を見るとルーちゃんは失敗に気付いた顔をして主張を変えます。
ルー「え、えと、えと……わすれてたけど、たしか、だいじなごようを、あずかっていたとおもうの。
いそいで、もどって、それをしないと。《紫壁領》と《白峰領》どっちが、いいかな?」
自分がいるとぞんざいズが自由に動けないから気を利かせているんですね。慣れない嘘までついて。
ルーちゃんの用事があるなら修学旅行を早引きすることもできる。本当にいい娘や。
ここは好意に甘えるとして、やっぱり人的被害が出る恐れのある荷物の行方を追うことにします。
シモンは気になるけど以前は荷物のせいで何人か死んでいますしね。他2つは急いで調べる必要はなさそうだし。
このまま旅行に参加していても明日には帰りますが、1日の遅れが取り返しのつかないことになるかもしれません。
早引きについては教師に相談したらすんなり了承してもらえました。既に彼らが只者ではないことは分かっているので。
シフェナにはドラクロア将軍宛の手紙を《皇城領》に届けてもらうついでに家を調べてもらいます。
ジーク「女帝に直で、ゼルラントの取り調べの結果を聞きたいんだけどな。一応遠慮して将軍宛てにしといた」
ニゲラ「え?してるんですかぁ?」
帰りは当初の予定通りにコラーロ河で船に乗ります。行きは3日かかりましたが今度はもっと早いはず。
ところがこの時ジークの追っかけの女生徒の姿がありました。とてもがっかりした顔をしていました。
女生徒「えー、帰っちゃうなんてー」
ジーク「すげえ、女学生まだいたのか!女学生舐めてた」
GM「女の子の一途なおっかけ力を甘く見てはいけません」
それは一歩間違えるとストーキングなんですが、その辺のバランスが上手く取れないのもまた学生ならでは。
★《紫壁領》で待ちぼうけ
《紫壁領》に帰ってきたぞんざいズは早速荷物預かり所に荷物の様子を見に行きました。するとまだ受取人は現れていませんでした。
ムーテス「それは、正直僕は予想してない展開だったんすけど」
ニゲラ「ニゲラもー。てっきり誰かが持って行っちゃったかと」
エア「それは、実は公序良俗に反した、ぶっちゃけヤバいものが入っている危険性があります。お渡しください」
しかし受付の人はキッパリと断ります。そんな言葉だけで割符を持たない人に預かり物を渡せるはずがありません。
ただし荷物を遠くから見守るだけなら許可してくれました。あと取り置き期間が過ぎたら偉い人の許可があれば渡せるらしい。
そこでジークはルーちゃんをジャスティに預けるついでに許可を貰うことにします。領主とのコネって大切ですね。
荷物の見張りはメッシュとムーテスが交代で行います。ニゲラは<妖精の卵>の実物を知っているネリィに話を聞きに行きます。
ついでにメッシュは"マナサーチ"で荷物の魔力を確認しておきます。すると荷物の中から2つの魔力反応がありました。
メッシュ「<妖精の卵>なるアイテムが送られているのだと思っていたのですが……まさかの2個セットで」
エア「そりゃあ、1個を買えばさらにもう1個ついてくるという、あの番組の定番のように!」
あるある、「1個でいいからもっと安くしろ」という突っ込みが欠かせませんね。
これはバニラとアボラスみたいなノリで対になるような妖精がセットになっているかもしれない。
一方ローラを連れたニゲラはネリィと港の待合室で再会を果たしていました。
ネリィ「おひさしぶりー。あ、ローラも元気だった?」
ローラ「元気ゲンキー。ダーリンが相変わらず冷たくてもへこまないよー」
悩みが解決したお陰か以前より性格が明るくなっていますね。探られて痛い腹がないっていいですね。
彼女を連れて荷物預かり所に戻ってくると、オープンカフェのような場所でお喋りする振りをしつつ荷物を確認して貰いました。
どうやら似てはいるようです。しかし荷物の大きさが違うので確信は持てない様子です。何しろ今回は2つの反応がありますしね。
ネリィ「あれ、誰か取りに来るんでしょうね。前の……ローラの時には、結局誰も取りに来なかったんですよ」
そうして受取人が現れないせいで事件の発覚が遅れたんですよね。魔神は来ましたがそれでは割符の意味がない。
何らかの事情で取りに来なかったのか。それとも取りに来れなくなったのか。受取人の正体を探る必要もありそうですね。
そうしていると荷物を見張っている人に冒険者+知力の判定が発生します。それぞれ20以上の達成値でコレットを発見します。
ニゲラ「……あれ、拉致りますぅ?」
ムーテス「何か気になるしねえ。それもやぶさかではないって感じっすよ」
メッシュ「彼女、スカウト技能を持っていましたね?私が尾行してみましょう」
コレットは鼻歌でも歌っていそうなほどにご機嫌な様子で荷物預かり所に入っていき、受付の人に何やら話しかけました。
コレット「あのー。シモンさんっていう人からの、荷物を取りに来た人はいませんか?」
メッシュ「……これ、さっき我々も確認したことですよねえ」
エア「まんま、同じような趣旨のことをね」
彼女の目的も同じなのかもしれない。そして受取人がいないことを知るとまた来ると言い残して去っていきました。
ここでメッシュは《足跡追跡判定》で彼女を追います。コレットの方は《探索判定》で気付くかを判定です。
これは達成値18の彼女に対し、技能レベルの差から22を出したメッシュの勝利で無事に尾行することができました。
ただこれは文字通り足跡を観察して追跡するもので、リアルタイムで追いかけるなら《尾行判定》の方が適切だと思います。
尾行に気付かないコレットはレディスの可愛い服屋さんに入っていきます。……気付いてないんだよね?
GM「ひらひら、ふわふわ、店内がパステルカラーというよりもピンクに統一された感じの」
メッシュ「……。……"ディスガイズセット"。さらっと、何事もなくお嬢さまの服を取りに来た執事といった様子で、入っていきます」
エア「涙ぐましいわ……!」
確かに男1人では入り難いこと山の如し。仕事か付き添いでもない限りHENTAIお兄さんのレッテルを貼られかねません。
こういう時こそルーちゃんがいてくれたら何の問題もなく入れるんですけどね。エアは年齢的に本人がキツそう。
このお店でコレットは可愛い服を物欲しそうに物色していましたが、結局はワゴンの可愛い靴下のみ買いました。
エア「……おかしいわ。涙が……」
ムーテス「お金がなくて服を買わないのはわかるけど、何で靴下?」
ニゲラ「外から見えるオシャレで、一番安いモノとなると、ヘアアクセか靴下なんですよぅ!」←貴重な女性の意見
あんまりお金がないなりの精一杯のオシャレだったんですね。トランペットに憧れる少年の少女版というか何というか……。
その後も彼女を尾行すると今度は<アリッサのパン>というタイムセール中のベーカリーに突撃していきました。
高級志向のパン屋さんなので普段なら手が出ないけど、ここぞとばかりに買い込んで両手に紙袋を抱いて出てきました。
メッシュ「このままだと、延々と今日一日、彼女のプライベート満喫ライフを見せ続けられることになるような」
エア「それはそれで、マスターの限界にチャレンジ(親指ぐっ)」
GM「待て」
その後も尾行を続けますが、お金がないなりに休日を満喫する女の子をストーキングするだけでした。
水袋の水で喉を潤しながらパンを食べたり、わかりやすい観光地や名所を巡ったりと、本当に楽しそうだ。
コレット「わー。これがハウペリアの入り口かー」
メッシュ「そんなん近づくなー!暢気が過ぎますよ!」
これは《封鎖領》ハウペリアのことで、アイヤールの領内にありながらもその名の通り封鎖されている土地です。
この土地は「カースドランド」の舞台になっていて、とある大神に<暴食の膿夢>という呪いがかけられています。
この呪いによって領内に生き残っている人族と蛮族は肉体も精神も蝕まれ、凄惨な最期を遂げることになります。
呪いは伝染することもあるため領の出入りは厳しく管理され、住人はこの呪われた土地から生涯出ることはない。
そんな非常にヤバいところでして《紫壁領》にその唯一の出入り口があるそうです。観光するには代償がデカ過ぎる(笑)
やがて陽が落ちるとコレットは冒険者の店に取ってある宿に帰っていきました。
メッシュは彼女の部屋だけを確認して仲間のところに帰ります。今日一日の素行を見る限り後ろ暗いところは無さそうですが。
★領主の屋敷であわあわ
一方ジークは領主の館に行ってルーちゃんを預けました。あと色々報告して荷物を受け取れるようお願いもしておきます。
ジャスティ「じゃあ、取り置き期間がすぎたら、あんたたちがその港湾の預かり荷物を受け取れるように手配しておくわ」
ジーク「恩に着る。ルー。いい子にしてろよ?」
ルー「うん、気を付けてね?みんなの土産話、楽しみにしてる」
ジャスティ「馬屋の子、ちゃんと忘れないように連れて帰りなさいよ。
さびしがって……132メートルダッシュしては、馬屋を壊して、軍馬や天馬をビビらせて大変なのよ」
ジーク「すまん!あとでメッシュに土下座させるわ!」
やっぱり15レベル妖精の扱いは難しいですね。騎獣として見ると適正レベル15というとんでもない奴だし。
妖精使いなら会話はできるから誘導するぐらいならできるでしょう。今回はメッシュに会えると言えば従わない筈はないし。
ところがそうして領主の館を去ろうとした時に早馬が駆け込んできます。騎手は「山賊」の覆面をつけていました。
ムーテス「すごい!顔を隠してるのに、きっと一瞬しか見えないのに……誰かわかる!」
ジーク「ちょっと待った!お前かー!」
山賊先生「おお。ラインハルト君!君は無事に到着できたようで何よりだ!」
どういうことかというと、ぞんざいズが帰った直後に女生徒のグループが行方不明になってしまったのです。
グループの1人が「面白いものを見つけたので、見に行っていいですか?」と先生に許可を貰いにきたことで発覚しました。
それは例の肝試しコースだったので先生は慌てて止めに行ったのですが、待ち合わせ場所には誰もいなかったのです。
先生方は《足跡追跡判定》などで懸命に捜索しました。しかし墓場の近くの森で足跡は忽然と消えていたのです。
その女生徒は5人グループで報告に来たのは1人なので、4人が神隠しにあったように消えたことになりますね。
話を聞く内にそのグループがジークに憧れていた例の集団だと判明します。
ジーク「……もしかして、謀った?」
GM「いいええ。追っかけを希望した人がいたので、ラッキーなんて思ったりなんかしてないですよ?」
ジーク「やっぱり、追っかけ連中か!くそ、不用意なこと言うんじゃなかった!すげえ、責任感じるだろうが!」
山賊先生はジャスティの報告へ向かい、ジークは仲間の所に帰ってこれまでの情報を共有します。
現時点でコレット、シモン、女生徒とマークしておきたい人物が色々といて迷いますね。
まずエアは教師としてその女生徒達のことを知っていなかったか判定します。これは運なので2Dで8以上で成功です。
エア「(ころころ)ほーら、よく知ってるわよ6ゾロ!!(Vサイン)」
どうやら幸運にも彼女達の教科を一部担当していたらしい。彼女たちが思春期によくある不思議ちゃんであることを知っていました。
占いとかおまじないとかが大好きで「きっと、運命ってあると思う!」「いま、運命の囁く声が聞こえたの!」とか言ってるタイプです。
こんな感じでジークに運命を感じちゃったりしたんですね。5人同時に同じ運命とかどう考えてもおかしいけどそういう年頃なんです。
ただしその中の1人は本当に妖精の声が聞こえる子だったらしい。実力的には"ティンダー"が精一杯だったらしいけど。
これはランク1の妖精魔法(炎)で可燃物に着火するという、マッチ1本分の火力を出すのが精一杯の魔法です。
フォーセリアの頃からあまり役に立たない魔法として、そして某ティソダー詐欺の事件で知られる由緒正しい魔法です。
2レベルあればランク2までは使えるようになるため、彼女は1レベル程度の本当に駆け出しの妖精使いだったようですね。
妖精魔法は感覚頼みの魔法なので理解者は少なく、運命に囁かれている友達と一緒にいるのは楽だったのかもしれない。
GM「妖精の声って、なかなか分かってもらいにくいし」
エア「あら、尾行に邪魔って置いてかれたスカディ・ローラが強く頷いてる」
ニゲラ「スレイプニールもヘッドバンキングレベルに激しく頷いてますー」
思えばあの土地は妖精が多かった。女性なのでドライアードの仕業ではないでしょうが、何かの声を聞いて魅了されたのかもしれない。
ジーク「やっぱ、戻らずに旅行の行程は踏んでおくべきだったか、とか考え込んじまう」
考えても仕方ないけど、それはそれで別の形で事件が起きていた気もする。責任を感じるのは分かるけど気にし過ぎない方がいい。
ここでぞんざいズはまずコレットから情報を聞き出し、それから女生徒を助けに宿泊地へ戻ることにしました。
ジーク「……よし!なるべく穏便に行くように、バラの花束でも買ってコレットをナンパでもするか」
エア「ちょっと待った、今の話の流れと、穏便とナンパの因果関係がわからないわ」
ジーク「いや、女の子といろいろ楽しくお話しするには、バラの花とデートだと我が家には伝わっている」
エア「間違ってるわ、デーニッツ家」
というわけでジークはメッシュのサポート付きでコレットをナンパすることにしました。
ムーテスと女性陣は荷物の見張りを続けますが、どんな報告が聞けるのかニヤニヤしながら期待しています。
★デーニッツ流の誘い方
ジークがコレットをナンパすることになったのでメッシュが宿まで案内します。
ただし現在のメッシュはローラとスレイプニールというオプション2つのせいで隠密には不向きです。
ローラだけならともかく、今は長い間放っておかれたスレイプニールがメッシュから離れようとしません。
そうなるとローラもメッシュから離れようとせず、15レベル妖精同士が牽制しあうというカオスな状態なのです。
ジークは100ガメル分の花束を買って単身宿へと乗り込みました。
店主「何だ、あんた、うちの客じゃねえな。何の用だ?」
ジーク「見てわからぬか」
エア「何故、武士言葉!」
店主「……グッドラック」
物分りのいい店主のお陰で難なく侵入に成功。そのままコレットの部屋に直行します。
部屋に近づくと何やら鼻歌のようなものが聞こえましたが、スカウト技能のないジークでは《聞き耳判定》に成功せず歌詞は不明。
それどころか扉越しにコレットに気付かれてしまいました。スカウトとしてはメッシュ程ではないにしても一人前ですからね。
コレット「だぁれ?」
ジーク「おっと、さすがスカウト。改めてノックをしよう」
コレット「はーい、ちょっと待ってね。誰ですかー?」
すると風呂上りっぽい薄着の姿で扉を開けました。これはスカウト以前に女の子として無警戒過ぎますね。
まぁ警戒心がないなら付け入る隙は大きくなるので好都合です。
ジーク「……しまった。ここまでのシチュエーションは考えていたが。この先はノープラン!」
一同(爆笑)
このシチュエーションに持ってくることで頭が一杯だった感じですね。
以前も誘われるだけで断ってみたかったとか言っていたぐらいだし、割とロマンで動く男です。
ところがそんなジークの杜撰さが霞むほどにコレットは警戒心がなかった。
コレット「……あ。顔見たことある」
ジーク「ジークハルトだ。デートの誘いに来た」
コレット「そうなの?じゃあ、着替えてくるね?」
ジーク「…………え?これで受けるのか?」
ムーテス「なんでジークがショック受けてるんだよ!」
ジーク「いや、普通不審に思うだろ。これ」
メッシュ「……よかった、安心いたしました。一応怪しいという自覚を持っていらっしゃったのですね」
しかしこの無警戒っぷりは本当に危ない。よく今まで悪い人に引っ掛けられずにやってこれましたね。
そしてこういう駄目っ娘は意外と世話好きなニゲラと相性が良かったりする。シフェナと似たような関係になりそう。
とはいえ今回のように情報が欲しい場合は有り難い性格です。
ジーク「ていうか、お前、俺たちに対して後ろめたいことがあるんじゃないのか?」
コレット「え?どうして?」
ジーク「色々と面倒見てやっただろ。……ニゲラが」
メッシュ「こんな時にも嘘をつかないジーク様、素敵でございます」
ジーク「お前のこと、すっごく心配してたんだぞ。……ニゲラが」
実はあの時コレットは逃げ出したわけではなく、単にお祭りを見に外出していただけだったらしい。
しばらくしたら帰ってきたようですが、その時には入れ違いにぞんざいズがいなくなっていたのです。
というわけで彼女としては本当に後ろめたいことはない。別に逃げたわけじゃないんで。
ジーク「戻ったのか?いつ?」
コレット「んーと、よくわかんない。お祭りに飽きたら」
ジーク「俺が言うのもなんだけど、アバウトだなお前!」←まったくだ
行動パタンがどっちかというとグラスランナーですね。ここまでくると彼女の生い立ちが気になるところです。
メタな見かたをすると、このGMは割としっかりと伏線を張るタイプですし。こうも露骨に世間知らずっぽくしているのは理由がありそう。
それからしばらくして着替え終わった彼女が出てくるとジークは無難に靴下を褒めました。
ジーク「……かわいいくつしただな(棒)」
コレット「え?かわいい?これ可愛い?やった!」
買ったばかりのさり気ないお洒落が褒められたら嬉しいでしょうね。この辺は年頃の女の子としては自然な反応だと思います。
ただ嬉しそうに飛び跳ねたりとやや世界名作劇場風のリアクションはちょっと幼い気もする。純朴というかすれていないというか。
しかもジークが手を繋ごうとすると当たり前のように応じたりする。一切照れがないのは小学生がお兄さんと手を繋ぐ感じです。
ニゲラ「こ、この子……大丈夫なんでしょうかぁ……いつかひどい目に遭うタイプに思えてしょうがないですぅ……」
エア「ニゲラ、あんた、ほっとけないタイプに弱いでしょ」
それからジークはコレットと買い食いしながら皆のところに戻ります。やがて荷物預かり所に近づくと彼女はまた受取人を確認しにいきました。
これについてはムーテス達が見張っていたので分かりますが、受取人はまだ現れていません。デート中に見に行く程度には気にしているようです。
こういったコレットの一切後ろめたさのない振る舞いに感心したジークは、彼女の相談に乗ってやろうとします。
ジーク「俺らこっちにきて長いから、何か困ってたら力になれるかもしれないぞ?よかったら話してみろよ」
コレット「え?ほんと?騙したりしない?」
ジーク「遅いわ!(笑)」
つまり無警戒な彼女ですら人に話すことに躊躇いを覚えることを抱えているということです。素直なだけで何も考えていないわけじゃないらしい。
それでもちゃんと話してくれます。どうやら例の荷物はコレットの知り合いが送ったものらしい。それがシモンですよね。
普段は荷物を受け取ったら返事が来るのですが、それがいつまでも来ないからコレットは様子を見てくるように言われたらしい。
その中身は何かの魔法装置らしい。魔法装置というと大型の物を思い浮かべますが、例の<妖精の卵>サイズでもそう呼ぶことがあるんですね。
ここまで喋ったところでこっそり聞いていた3人も参加します。
エア「話は聞かせてもらった!我々はこういうものだ!(聖印を見せる)」
ニゲラ「あなたには弁護士を呼ぶ権利がありまぁす!(同じく)」
ムーテス「詳しい事情を色々と聞かせてほしいんだけど。まず、キミの氏素性から」
コレット「え?え?なに?シモンおじちゃんの荷物が何?」
彼女には隠し立てすることはないと判断して4人で囲んでいる状態なんですよね。
まるで尋問を受けているようで、これには流石のコレットもちょっとひきつっています。おお、こわいこわい。
ジーク「ええと、悪い。お前の知ってること、全部詳しく教えてくれ。あの荷物の送り主は、お前の知り合いか?」
コレット「うん。そんなに親しいわけじゃないけど」
受取人については名前だけ知っています。ヴァレリオというそうで、直接会ったことはない。シモンの仕事仲間らしい。
またシモンのことを彼女は「シモンおじちゃん」と呼びますが、血縁のある叔父や伯父といった関係ではないらしい。
コレット「シモンおじちゃんは、お爺ちゃんのお弟子さんなの。ハルトじいちゃん」
ハルトというと例の養子だったハルトムートと似ていますね。本人だと考えた方がしっくりくるぐらい。
またシモンもパルグレート姓を名乗っていましたが、これはそのお爺さんが弟子を家族の一員だと考えていたためです。
このため弟子達は血縁がなくてもパルグレート姓を名乗ることにしています。ある種の門派のような感じでしょうか。
かく言うコレット自身もお爺さんとの血縁はありません。どうやら小さい頃にお爺さんに拾ってもらったらしい。
ただしハルト爺さん自身は自らをハルト・パルグレートと称したことはないため、弟子達はその姓の由来を知りません。
自分では名乗らない姓を家族に名乗らせるというのは複雑な心情が伺えます。やっぱり義母の件では何か事情があったのか。
ジーク「なあ、コレット、お前の出身はどこだ?」
コレット「あたしの出身は《皇城領》だよ。多分」
ニゲラ「ああ、もう……こんなに警戒心なくしゃべるなんてぇ。あんなに注意したのにっ……っ(ギリギリ)」
拾われた場所なんでしょうが、多分ということは覚えていなくて、別の場所で育ったようですね。
ではハルト爺さんの住んでいた場所はと聞くと、少し困った顔で「どこになるのかなあ」と悩みだします。
これは住処を転々としているというわけではなく、まして本気で住所が分からないという頓珍漢なわけでもない。
ジーク「ハルトじーさんって、多分妖精使いだよな?」
コレット「え?うん、あたし、そのこと言ったっけ?弟子って言われたら、大抵の人は妖精使いだとは思わないのに」
ジーク「もしかして、住んでる場所……《妖精郷》とか、いう場所じゃね?」
コレット「わぁ。自分から言わないのに、そのことを言ってくれた人、はじめてだよ!みんな、そんなものあるはずないって言うのに」
一同「マジで―――!?」
《妖精郷》は「フェアリーガーデン」の舞台になった場所で、その名の通り数多くの妖精達が住む場所です。
魔法文明時代にアラマユ・ハメスガダラスという女魔法使いが愛する妖精達と永遠の時間を過ごしたいと願い作り上げたものです。
そこはこの世の楽園と呼ばれるほどに素晴らしい場所でしたが、ある日突然にこの世界から姿を消してしまいました。
原因は定かではありませんが、今でもどこかにあって数多くの宝が眠っているという伝説が研究者や冒険者を惹き付けています。
このように一般的には《妖精郷》は発見すること自体が一つの困難なのです。邪馬台国の位置を特定する感じですかね。
ところが「フェアリーガーデン」では色々な理由で冒険者は《妖精郷》に迷い込み、そこから冒険が始まります。
色々な冒険がありますが、テラスティア大陸とは隔離された場所にあるため帰還すること自体が一つの目的になったりもします。
コレットがそういった世界で育ったなら世間知らずなのは仕方ないのかもしれません。人も妖精も仲良しで悪い人がいなかったのかも。
そうしてジーク達がコレットと話している一方、残されたメッシュはコレットの部屋を探っていました。
メッシュ「手紙を見つけたはいいのですが……地方語で書かれていて読めないのですよ!ルーンフォークで、すいません!」
そういえばそんな弱点がありましたね。何だかんだで人間が圧倒的マジョリティーであり、それ以外の人族は少なからず言語の壁がある。
とはいえ地方語だとザルツ地方出身のニゲラにも読めないはず。エアはこれだけセージ技能を伸ばしていれば取っているでしょう。
そもそもその《妖精郷》で育ったコレットはどこの地方語なんでしょうか。やっぱりハルト爺さんの出身地によるのかな。
そこでメッシュはその辺のおじさんを捕まえて読んでもらおうとします。勇気あるな。
メッシュ「私の故郷の両親から手紙が来たのですが、地方語で書かれていて読めないのです!申し訳ありませんが、読んでいただけませんか!」
すると人のいいおじさんは笑いをこらえながら読んでくれました。ていうか息子に読める言語で書けって話ですよね(笑)
ここでメッシュは"ボイスレコーダー"を起動して記録しておきます。
コレット。そちらの生活には慣れただろうか。水が合わなくて身体を壊しているのではないか?
おいしい話には裏があるから、できるだけ近寄らないように。
現在進行形で変な冒険者に捕まったりしています。まぁ悪い人でなかっただけいいんですが。
保護者だったらこんな世間知らずを放り出すなんて不安でやらないような気もしますが。
ところで、おじさんが弟弟子のヴァレリオと、共同研究をしているのは知っているだろう。しかし、最近彼からの記録が途絶えてしまった。
研究用のアイテムを送れば、必ず受け取りと礼の返事が来るはずなのだが……コレット、お前を使ってしまい申し訳ないが、
《紫壁領》に住むヴァレリオが元気にしているかどうか、確かめてくれないだろうか。シモンが心配していたと、それだけ伝えてくれればいいから。
ここでヴァレリオが普段は身軽に生活していて、港湾の荷物預かり所で荷物を受け取るようにしていたことが分かります。
するとその荷物を受け取りに現れていないのは心配ですね。今回と前回で現れないし、そういえば前回は魔神に殺された人がいたような……。
それでは、コレット。身体には気を付けるように、時々、郷に戻ってあげなさい。みんな喜ぶよ。
あと同封のモノを、ささやかだが生活の足しにしなさい――シモン・パルグレート
まさかそのお小遣いで靴下を買ったんだろうか。靴下で精一杯ということは本当にささやかな額だったのかな。
メッシュ「手紙を読んでくれたおじさんに50ガメル渡して立ち去ります」
おじさん「ああ、ご両親に心配かけちゃだめだよ、コレットさん」
メッシュ「えっ……ああ。そうか。か、可愛い名前でしょう、私(ひくひく)」
ムーテス「しかも、渡された50ガメルが両親からの援助と思われたら通りすがりのおじさんも気が重いっすよ」
ニゲラ「本当ですよぅ、じっと50ガメルを見つめるおじさんが佇んでるかもしれませんー」
済んだことは仕方ない。メッシュは手紙を元の場所に戻し、更に鞄の底の方で指輪を見つけました。
珍しい綺麗な淡い紫色の水晶が付いていますが、魔法の品ではないしそんなに高価なものでもありません。
この指輪には繊細な彫刻が施されていて、魔法文明語の文字が刻まれていました。またも言語の壁が……。
メッシュ「読めへんわー!」
ムーテス「魔法文明語って誰が読めるの?」
エア「モシモシ、ワタシ、コンジャラー(挙手)」
しかしその場にはコレットがいる。止むを得ずまた大通りに出て読めそうな人を探します。
今度は地方語と違って学のある人じゃないと読めませんよ。魔術師や操霊術師っぽい人を探します。
すると今度は「パルグレートの一員として、アラマユとマージェリーに、敬意と敬愛を捧げる」とありました。
メッシュ「……ふむ。そっと再び50ガメルを握らせておきましょうか」
魔法使い「ありがとう。二股はやめたほうがいいよ」
メッシュ「ちがうわ!」
アラマユは《妖精郷》を作った人物。マージェリーはパルグレート家の女当主でしたね。
指輪も大事なものっぽいので元の場所に戻します。目ぼしいものは以上なのでメッシュは引き上げました。
ニゲラ「メッシュさん、割と本気でマギテックのレベルを伸ばしたほうがいいかもですよぅ」
確かに8レベルの"マナカメラ"があれば文字を撮影して後で翻訳することはできましたね。
9レベルの"マナディクショナリー"に至ってはその場で即座に翻訳できましたね。
とはいえ既にグラップラーとスカウトをほぼ平行で伸ばしている身。その上Aテーブルをそこまで伸ばすのは重い。
以上のように色々と情報を入手したぞんざいズは互いの情報を共有し、今後の方針を考えます。
ここまでくるとシモンさんに会って話がしたいものですが、受取人であるヴァレリオの行方も気になるところ。
そこでジークはジャスティに会って聞いてみることにします。領主の身分なら地元の妖精使いを知っているかもしれないし。
ジャスティは《深淵領》に騎士を派遣するかという会議を開いていてお疲れでしたが、普通に会うことができました。
ヴァレリオの名前とパルグレートという姓に心当たりがないか聞いてみると、彼女の顔は少し曇りました。
ジャスティ「……あたし自身にはその名前に聞き覚えはないんだけど」
そう言ってジャスティは1枚の書類を出します。それは以前魔神が港湾に現れた事件のものでした。
その時2名の死者が出て1人は港湾関係者で身元が確定していましたが、もう1人の外国人は未だに身元不明です。
しかし彼の遺品に「ヴァレリオ・P」という刺繍がしてあったようです。やっぱり殺されていたんですね。
ここでジャスティには事情を全部話します。今も前回の事件の時と同じアイテムが港にあると。
ジーク「だから、ヴァレリオを殺した奴が、また今回もそのアイテムを狙ってくるかもしれない」
ジャスティ「え?それって、危険なんじゃないの?」
ジーク「…………ほんとだ」
一同(大爆笑!)
そうですね、あの魔神どもは明らかに<妖精の卵>を狙っていた。同じものがあるならまた来るかもしれない。
そこでぞんざいズは合流してヴァレリオの遺品を受け取り、その中から5枚ほどの割符と通行証を見つけました。
どうやら予め沢山の割符を分け合っていたようで、その内の1枚が今回の荷物の割符と一致しました。
これにより受取人が死亡していることが確定し、ジャスティの権限で荷物はぞんざいズが受け取ることができました。
あとコレットにはヴァレリオの訃報を教えます。
GM「では、ヴァレリオさんの訃報を聞いたコレットは、後ろ3回転半の勢いで驚いてます」
ニゲラ「激しい子ですぅ」
ムーテス「しかも、半ってことは頭から落ちてるっすよ」
動揺のあまりスレイプニールの鬣を編み始めたりしています。さっきまでのほのぼのとした雰囲気とのギャップが凄い。
さて肝心の荷物ですが、迂闊に触るとまたローラとかスレイプニールみたいなのが生まれかねません。
そこでメッシュが細心の注意を払いながら梱包を解いて調べます。中には虹色に輝く直径20cmほどの球体がありました。
これが噂の<妖精の卵>ですね。卵というからもっと小さいものを想像していたけど、ダチョウの卵より大きいかも。
それと卵を置く台座と、手紙がありました。手紙の内容は「輸送中に暴走しないよう中身を分けて送る」とありました。
つまり2つ入っていたのではなく、1つのものを2つに分解していたから嵩が増していただけだったと。
台座にこの球体を乗せることで<妖精の卵>として機能するようになるんでしょうか。
こうなると後はシモンさんに会いたいものです。卵自体が目的なら次は製造元が狙われるかもしれませんからね。
ただコレットは本当にシモンさんの現住所を知らない。手紙は冒険者の店に届けられただけでしたから。
コレット「でも、他のパルグレートの兄弟たちなら、詳しく知ってるかも……」
ニゲラ「そこはどこですかぁ?」
コレット「あたしが、ハルト爺ちゃんに育てられたところ……」
ジーク「つまり《妖精郷》か?」
コレット「うん……正しくは《擬似妖精郷》っていうんだって」
つまり「フェアリーガーデン」の舞台になっている《妖精郷》とは別のものなんですね。
擬似とはいえ《妖精郷》のように特別な場所に隔離されていて、他の家族はそこに住んで研究をしているらしい。
ニゲラ「ていうか、貴方みたいに危なっかしいのが、なんで出てきちゃったんですかぁ」
コレット「むぅ……妖精魔法に、ちーっとも素養がなかったの!だから肩身が狭かったの!」
それで故郷を飛び出して冒険者をやっていたと。それならせめてパーティを組んだ方が良かったですね。
では肝心の《擬似妖精郷》への行き方ですが、これは《深淵領》の例の宿泊地に扉があるらしい。
そこはハルト爺さんの故郷に近く、そこまでいけば向こう側の家族が扉を開けてくれるらしい。
ジーク「はーい、行方不明の女学生の場所、俺わかった」
そういえば足跡が忽然と消えていたそうですしね。そこに扉が開いて向こうに行ってしまったんでしょう。
それを知ったぞんざいズは準備を整え、ジャスティに女学生の行方を掴んだと報告します。
するとジャスティは迅速な保護のために「蒼穹騎士団」の飛行系騎獣で一気に現地に運んでくれました。
既に宿泊地からは生徒も先生方も撤収していました。
ジーク「さっそく向かうぞ。俺、さすがに《妖精郷》ってことで、わくわくもしてるしな」
ニゲラ「コレット、どんな風にいつも里帰りするんですぅ?」
コレット「わーなつかしい」
するとコレットは慣れた様子で女学生が行方不明になった森を進み、足跡が消えたという場所までやってきます。
そしてコレットは例の指輪を出して、まるで松明のようにゆらゆらと揺らして合図を送りました。
例の紫色の石がついていたやつですね。妖精は宝石を好むから何かしらの目印になるんでしょうかね。
ただ紫色の宝石自体はどの妖精が好むのかはっきりしないんですよね。
土の妖精は黄色や褐色。水・氷の妖精は青色。炎の妖精は赤や橙色。風の妖精は緑色。光の妖精は無色透明か光条のあるもの。
闇の妖精は黒や複数色の混合、また光源によって色の変わる石を好むらしい。色だけで言えば紫は青に近いかもしれない。
ただ紫色の水晶なら紫水晶なわけで、これ自体に多色性があり、角度によっては赤や青がかかった紫色にも見えます。
それならこの石自体は闇の妖精が好む石に分類されるかもしれない。闇の妖精が好む石を目印にするというのは何かの伏線だろうか。
そうしていると周囲に靄のようなものが立ち始めます。ちなみに本家《妖精郷》は薄桃色の靄が入り口になります。
ムーテス「いいなあ、その指輪!コレット、後で売ってくれない?」
エア「こらぁ!あの指輪は見るからに、帰省用のチケットでしょ!」
ニゲラ「そんなものに値段がつけられる訳ないじゃないですかぁ」
値段がつけられないからこそ、いざ値をつけるとしたらどうなるかは興味深いどころではある。
《妖精郷》へのチケットとなれば冒険者なんかはいくら出すか分かりませんね。まぁ擬似ではあるんですが。
エア「あのね。ムーテスあなたが飛空艇を持っていた時代、いくらでそれを人に売るかってことなのよ」
ムーテス「売るよ!そんなもの、いくらでも売るよ!飛空艇とかバカかと、何を夢見てるんだよ、人類は地上を歩けと言いたいね!!」
一同(大爆笑!)
メッシュ「すごいですな、ムーテス。単行本10冊越しで自分につっこみを入れるテクニック」
ムーテス「僕は今からっすよ!一歩一歩歩いていこうとして。目覚めたんだよ!商売の成功に近道なんてないんだよ!」
ニゲラ「……今のシャウトは、自称とはいえ、ショタっ子のセリフとは認めたくないですぅっ」
そのくせに冒険者なんて超近道を歩んでいる気もしますが、これはハイリスク・ハイリターンな投資だと言い返されそうです。
それはともかくコレットについていくと少しだけ身が軽くなった気がして、やがて視界が開けます。
そこは少し空気が重く、蒸し暑いそよ風が吹く荒野でした。なんだかイメージとは違いますね。
そうしていると前方から1人の老人が歩いてきます。例によってメッシュには見えませんが。
メッシュ「……くっ、すごっく屈辱なんですが……っ」
ジーク「てことは、俺には「魔物知識」しなくてもわかる奴か?」
いいえ、妖精は妖精でも古代種妖精という種類です。彼らは普通の妖精と違って妖精使いでも《魔物知識判定》しないと正体が分かりません。
古代種妖精はその名の通り現代のラクシアではあまり見られなくなった妖精で、複数の属性を持っていることで知られています。
今回登場したのはドモヴォーイという古代種妖精で、「イグニスブレイズ」で追加された妖精です。当時は最新のデータでした。
ドモヴォーイは11レベルの妖精です。性格は穏やかで長い灰色の顎鬚をはじめ、濃い体毛に覆われた老人の姿をしています。
姿を見せないように暖炉の中や地下室に住み家人を密かに守護しますが、家人を失ったり裏切られた時には火災を起こします。
妖精魔法限定11レベルで土属性と炎属性を魔力14で使用し、《魔法制御》《鷹の目》《魔法拡大/数・距離・範囲》等の《魔法適性》持ちです。
《家屋の守護者》として家の中の状態を五感で認識し、キャラクターに危害を加えない範囲で設備や調度品を操ることができます。
また《調度品投射》によって物理ダメージを与えることもできます。射程・命中力・ダメージは調度品のサイズによって変わります。
更に古代種妖精は複数属性を組み合わせた専用魔法を行使できます。ドモヴォーイの場合"アッシュバーン"という魔法が使えます。
これは効果範囲に高熱の灰を降らせることで威力0の土&炎属性魔法ダメージを与えるというものです。
この複数属性を組み合わせるという発想、まるでフォーセリアの混沌魔術のようですね。まさか清松先生のアイディアでしょうか?
結局フォーセリアの方で混沌魔術の詳細が明らかになることはなさそうですが、そのアイディアをこちらに流用してくれたんでしょうか。
ドモヴォーイ「おお。これはちゃんとコレットではないか。まったく、人違いもほどほどにせんと、追いかけるほうも大変なのだがな」
ニゲラ「は?もしかして……あなたたち、4人、女学生を迷いこませましたぁ?」
ドモヴォーイ「まったく、コレットがかえってきた、コレットがかえってきたとスプライトたちがはしゃいでいたと思ったら。
なにが、4人もコレットが帰ってきたじゃ」
コレット「イーディじいちゃん、ただいま」
何だか祖父と孫娘のようですね。これは本当に人族と妖精が家族のように過ごしている感じですね。
ちなみに女学生達はドモヴォーイの姿に驚いて逃げてしまいました。古代種妖精だから妖精使いの学生にも正体は分からなかったのかな。
なおスプライトは5レベルの妖精です。強い光を纏った身長30cmほどの光の妖精で、とても恥ずかしがりやらしい。
その正体は普段から纏っている強い光で直視できませんが、白い衣を着た長い金髪の女性だといわれています。
妖精魔法限定5レベルで光属性を魔力9で使用し、《魔法拡大/数》の《魔法適性》持ち。《飛行》状態にあります。
《光の守り》は魔法ダメージを5点カットします。《閃光》を発することで目を眩ませ、回避と命中に−2のペナルティを与えます。
ただしスプライトの知能は人間並み。なにやら馬鹿っぽい個体だったようです。
さてドモヴォーイはメッシュを見つけると興味深そうに観察します。
エア「相変わらず妖精に対しては、最強モテ男ね」
メッシュ「男妖精はいくらなんでも嫌でございますよ!」
ドモヴォーイ「コレは、わしらが見えん種族じゃの?」
ジーク「そうなんだよ。何とか見えるようにならないか」
こんなに興味深そうにしているということは、やっぱりこの《擬似妖精郷》にはルーンフォークがいない。
仮にいても非常に困りますしね。それを補うために本家《妖精郷》には<妖精の眼鏡>がありますけど。
しかしここでもその対策をしていたのです。
ドモヴォーイ「本来の妖精郷には、<妖精の眼鏡>と呼ばれる、そなたらのようなものにも
わしらが見えるように眼鏡があるとのことでな。我らもパルグレート一家と共についに開発したのだ!」
メッシュ&ムーテス「おおおお!」
メッシュ「ついに、悲願達成!」
ムーテス「金の匂い!」←分かれる意見
するとドモヴォーイは赤い半透明の板を取り出します。下敷きというか、日食観察用のメガネというか、そんな感じの。
ドモヴォーイ「これは実に優れもの、広い視界が得られて視界がオールクリア!防塵!防水加工もばっちりである!!」
メッシュ「……ちょっと試しに、顔の前に下敷きのような透明板をかざしてみます」
するとどうでしょう、そこには「ダーリーン」と手を振る美少女と、高速で股下潜りをしている八本足の馬がいたのです。
妖精達も悲願が叶ったのかとても嬉しそうでしたが。
メッシュ「……(そっと外す)……涙で前が見せません……(ほろり)。
……っていうか、こんなもん四六時中顔の前にかざして、碌に戦闘できると思うのですかーっ!」
でもちゃんとハンズフリー対策もしてありますよ。板の両端に穴があるので、お面の要領で糸なりゴムなりを通して耳にかけるのです。
ドモヴォーイ「時折呼吸で曇るのは注意しておくれ。あ、板の振動で、ちゃんと声も聞こえるので心配するな」
一同「…………」
ムーテス「……これ量産計画が立ったら、かなりの儲けだよね?」
メッシュ「う、うわぁあああっ!折角<妖精の眼鏡>的なものを手に入れたのに!
噂では、もっと、格好いいものだと思っておりましたのにー!(脱兎)」
ドモヴォーイ「えっ?何かおかしかったか?かなりの高性能じゃぞ!」
でも実際凄い発明ですよ。どうやって生産しているかは知りませんが<妖精の眼鏡>よりは安く済みそうですし。
これは世のルーンフォーク達に大ヒットするかもしれない。デザインをもっと改良すれば更に売れるでしょう。
本来は守護者のジィリッハと戦って勝ち取るものですが、今は留守なのでサービスしてくれたらしい。
ジィリッハは13レベルの妖精です。一つ目の巨人の姿で腕と足も一本ずつしかなく、胸から前方に突き出しています。
黒い羽がたてがみのように生え揃っています。妖精達の領域を守る守護者としての役割を担うことがあります。
妖精魔法限定13レベルで土属性と風属性を魔力17で使用し、《マルチアクション》《魔法制御》《鷹の目》等の《魔法適性》持ちです。
専用妖精魔法は効果範囲に砂嵐を巻き起こし、土&風属性魔法ダメージを与えて転倒させた上に盲目にする"サンドストーム"です。
ていうか見えない状態でそんなのと戦わせるとか鬼畜過ぎる。ここまでレベルが高くないと勝ち目がないし。
何でこいつが留守なのかも気になりますが、今回のお話はここまで。本格的な《擬似妖精郷》探索は次巻に持越しです。
折角ジークが13レベルになったのに戦闘がないのは残念だし、リアルタイムで1年待つのは辛いけど楽しみです。