「アイテム・コレクション」 著:安田均/グループSNE 出版社:富士見書房

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★はじめに

突然ですが、皆さんはRPGを遊ぶ上で何が必要になると思われますか?

もちろんルールブックは必要ですね。プレイヤー全員が同じルールの上で遊ばないとゲームになりません。


ではルールさえあれば遊べるかというと、それだけではまだ足りません。更に様々なデータが必要となります。

RPGは想像力のゲームでもありますから、人間が想像できる限り様々な場面があり、必然と多様性が求められる。

毎回毎回同じようなPCで、同じようなモンスターと戦って、同じ舞台で遊んでいたのでは物足りなくなりますしね。


その為にPCのデータ、モンスターのデータはもとより、世界の設定も欲しいし、魔法やアイテムに罠……枚挙に暇がありません。

しかもファンタジーだけがRPGではありません。ホラー、SF、ミステリー等、ジャンルにより相応しいデータがあります。

ある程度は想像力で補えないこともありませんが、それだって全くの無から生み出すのは難しく、何かを参考にしたいところ。


そうなるとそれを補うべく、様々なマニアックな資料が求められることになります。

最近では新紀元社さんが様々なジャンルのマニアックな本を出版されていて、なかなか想像力と好奇心を刺激されます。

もちろんその試みは他の出版社でも行われており、多くのリプレイを出版してきた富士見書房さんも例外ではありません。

そうして出版されたのが「富士見コレクション・シリーズ」です。グループSNEの古参作家達の共同執筆の本でした。

安田均先生や水野良先生、山本弘先生に北川直先生に吉岡太郎先生と、実に色々な方が参加されていました。


シリーズというからには色々なものがありまして、私の所有するものは以下のようになっています。

それぞれの内容はタイトルからお察しいただけるかと思います。正にその題材をコレクションしています。


もちろんゲームによって同じ題材でも特徴があり、他にはないオリジナルの設定が付加されることもあります。

一口に「魔法使い」と言っても、ゲームによって使える魔法の内容は本当に様々なものがありますよね。

同じ「ドラゴン」でもゲームによって能力は様々、立場も様々、敵もいれば味方もいて実に多様ですものね。

そうなると全てのゲームに完全に対応した記事にするのは非常に困難になりますので、あくまでも参考資料です。

ちょっと古い本ですが古書を探していただけると今でも入手できるはずです。未読の方にはお勧めします。


★何故アイテム・コレクションなのか?

では何故私が今回「アイテム・コレクション」のレビューをやろうとしているのか?

この本で紹介されているアイテムは必ずしも「フォーセリア」と直接関係しているわけではありません。

安田先生のまえがきによると、財宝は「D&D」や「AD&D」、武器は「T&T」が中心になっているとか。

ところが各項目でそのアイテムを使ったショートストーリーが挿入されていて、主役が"剣匠"ルーファスなのです!


多くの方は御存知かと思いますが、ルーファスといえばフォーセリアに欠かせない人物です。

ここでざっと彼の経歴を確認しておきましょう。その波乱万丈で勇者・英雄と呼ばれるに相応しい半生を。


新王国暦482年に城砦国家プリシスで生まれ、後にレイドの傭兵となったようです。

ところがロマールとの戦争に敗れた彼は捕虜となり、剣闘士奴隷として闘技場で戦うことになったのです。

これが新王国暦500年、オーファン建国の年でした。当時の彼は18歳ぐらいの若者でした。

しかしその剣の腕から無敗の王者として自由の身を勝ち取り、冒険者となって様々な冒険をこなしていきました。

しかもロマールの創始者の財宝を発見し、成功した冒険者として巨万の富を得て大陸での彼の活躍は終わります。


ところが彼の伝説はむしろここからでした。莫大な財宝を持った彼はロードス島に渡ったのです。

その知恵と財宝と剣の腕を遺憾なく振るい、風の部族の力となりました。これが新王国暦504年、22歳の時です。

その2年後の新王国暦506年には風の塔の精霊王ジンを解放し、砂漠の王国フレイムを建国したのです。

この時には彼は故郷の風習により秘密としてきた"真の名"であるカシューを名乗るようになっていました。


かくして"剣匠"ルーファスは"傭兵王"カシューと名を変え、舞台を変え、この世界で大きな役割を果たし続けたのです。

ルーファスの名は知らなくてもカシューの名は知っているという方は多いかと思います。人気のあるキャラですからね。

私も彼は大好きです。人間味があって、気さくで、強くて。ちょっと卑怯なこともするけど憎めない男ですよね。


そのみんなの人気者カシューの若かりし頃の物語がこの「アイテム・コレクション」に収録されているのです。

第一章「武器」では剣闘士として様々な武器で活躍し、第二章「防具」では後進に身の守り方をレクチャーしています。

第三章「装備」では剣闘士を引退して冒険者となり、ロマールの「奇跡の店」のおやじさんと友達になります。

「奇跡の店」の品揃えは素晴らしく、腕は立つくせに駆け出しに過ぎない彼に様々な装備を提供してくれます。

そして第四章「財宝」ではルーファスが持ち帰った戦利品を鑑定し、その役立て方をアドバイスしてくれます。


一つ一つの物語は本当に短くて、1ページにも満たないものもあります。

しかしどんなに短くても彼の人となりを読み取るには十分すぎる物語となっています。


第一章「武器」

ルーファスの物語はロマールの闘技場剣闘士奴隷として戦う時代から始まります。

レイドの敗残兵として捕らえられた彼はランス卿という貴族に飼われる形で様々な戦いに挑みます。


奴隷である剣闘士達は上の命令には従うしかなく、武器も防具も対戦相手だって命じられるままに戦うしかない。

当然不利な試合を組まされることもあり、彼を敵視するデュナス公という貴族の卑劣な罠に嵌められることもあります。

それでも剣闘士には逃亡は許されず、敗北は死に繋がる。己の命を賭けて全力で戦い勝つことが生き残る唯一の道です。


この章では様々な武器を用いて勝利を収め、"剣匠(ソード・マスター)"と讃えられるルーファスの活躍を見ることができます。

"剣匠"といっても彼は剣以外の武器も巧みに使いこなすし、剣以外の武器を使う相手にも勝ち続けます。

血に飢えた観客と主催者を喜ばせるために様々な武器が使われる闘技場の性質を上手く生かした章といえます。


なお各話は時に時系列が前後して収録されていることもあります。


★ダガー(短剣)

剣闘士としてデビューしたルーファスは破竹の勢いで勝利を収め、既に実力・人気共に闘技場NO1の座に上り詰めていました。

ところがそんな彼をよく思わない者もいて、命を狙われることもありました。この話では寝込みを暗殺者に襲われてしまいます。

一話目から闘技場外の暗闘とは、つくづく剣闘士とは恐ろしい世界です。こいつもデュナス公の放った刺客でしょうかね。


刺客は黒いローブに身を包み、鋭い反り身の短剣を持ちます。敵もちゃんとこの話のテーマに従ってくれています(笑)

その刃にはドラゴン・スパイダーという猛毒が塗られています。こういう不意打ちや暗殺に短剣という武器は適していますね。

短剣は普通の剣に比べれば刀身が短く、威力も低く設定されがちです。RPGではあまり主役を張れる武器ではありませんよね。


しかしどんな武器も使い方次第。暗殺者の手にかかろうとしたルーファスを救ったのも短剣でした。

暗殺者の接近に気づいたルーファスは敷布を跳ね除けてベッドから飛び起き、枕元に潜ませた愛用の両刃の短剣を取り出します。

そして相手の手首を掴んで万力のような握力で締め上げ、至近距離から敵の首を一閃して仕留めたのです。

こういう風に護身や格闘において役立つのも短剣の特徴ですね。隠し持つことが容易で、急所を狙えば十分恐ろしい威力となるのです。


★ショートソード(小剣)

今度の話はルーファスの剣闘士としてのデビュー戦です。いきなり一気に時間が巻戻っていますが気にしない。

デビュー戦なので剣闘士としては最下位の身分としての前座試合です。それでも命を賭けることに変わりはありません。

防具はつけておらず、武器は小剣の一種グラディウスで、他にはターゲット・シールドという円形の盾だけ持たされています。


RPGにおける小剣といえば、大抵の場合は普通の剣よりは短く、短剣よりは長い剣の総称ですね。

元は騎兵用の剣としてロングソードが考案されたから、従来の歩兵用の剣をショートソードと呼び分けたという話を聞いたことがあります。

まぁ元が何であれRPGにおけるショートソードは軽装の戦士や盗賊の武器であり、重武装の戦士の補助武器のようなポジションですかね。

ちなみにここでルーファスが使っているグラディウスは古代のローマ兵に使われていた武器ですね。剣闘士の武器でもあるので絵になります。

剣闘士をグラディエイターと呼ぶのもこの武器が語源なんだとか。実はルーファスは後に一般技能:グラディエイターが10レベルになる。


さて肝心の対戦相手ですが、こちらもルーファスと同じ境遇のレイドの敗残兵です。しかし戦友とはいえ戦わなければ生き残れない。

試合が始まるとルーファスよりも更に若い相手は生き残ろうと必死に攻めてきます。挿絵を見るととても18歳より若く見えない体格ですが(笑)

しかし小剣を使った戦闘で無闇な突進は効果が薄く、巧みに盾で攻撃をかわし続けるルーファスを相手にみるみる内にスタミナを使い切ります。


対してルーファスは小刻みに小さな傷を、しかし確実につけていき、派手に噴出す血を見て絶望に囚われた相手は捨て身の攻撃を挑みます。

ルーファスはその攻撃すらもかるくかわし、無防備な胸に必殺の一撃を放ち、心臓に刃を突き立てて勝利を収めたのです。

やはりどんな武器も使い方次第。力ではなく技巧によって防御を崩して急所を狙う、そんな細かい戦い方が小剣には合ってるのかもしれない。


こうしてデビュー戦を勝利で飾ったルーファスでしたが、心には対戦相手への哀れみがありました。

自分よりも更に若い相手が生き残る為に必死にあがいたのに、その命を摘み取ったのは他ならぬ自分ですしね。

もちろん剣闘士に情けは禁物です。生き残る為には勝つ、勝つためには強くあらねばならない。弱ければ死ぬし安易な同情は命取りになる。

それは戦場や冒険の世界でも同じですが、だからって心を捨ててしまうのは強さではない。むしろこの境遇で心を捨てないのがルーファスの強さです。


★ソード(剣)

チャンピオンの座を目前にしたルーファスはいよいよ最強の座を賭けた最後の戦いに挑みます。

対戦相手はデュナス公配下の剣闘士ケイド。闘技場随一の剣の使い手であり、ルーファスにも引けを取らない相手です。

実はこの2人の戦いはワールドガイドにも収録されていまして、そちらでは"無敵にして華麗なる"ケイドと呼ばれています。

この試合の勝者こそが大陸一であり、それこそが"竜殺し"リジャール以上の戦士であるという評判が立つほどのカードです。

多分2人ともファイター10とかなんでしょうね。最早闘技場の戦いで終わらせるのが勿体無い、ロードスでも滅多にない一騎討ちです。


余談ですが、実はこの戦いにはロマールの政争がかかっています。ランス卿とデュナス公の次の宰相の座を賭けた戦いです。

実はこの時ケイドは数年間チャンピオンの座にありまして、それを抱えるデュナスは国民から高い評価を受けていたのです。

ランス卿がそれを抑えて宰相になるためには、ケイドすらも倒す剣闘士を送り込むしかない。ロマールの悪しき風習ですね。

ルーファスが毎回毎回厳しい試合を組まされるのも、彼の強さを世間に知らしめようというランス卿の思惑があったからです。


雇い主の思惑が何であれ、剣闘士にできるのは戦うことなんですけどね。


この時のルーファスはバスタード・ソード一本。彼はこのバスタード・ソードの扱いに特に長けていることで有名でした。

片手でも両手でも使えて便利ですしね。どこぞの魔法戦士も愛用しているし、実戦向きの武器なのでしょう。

それにルーファスは俊敏さでは相手に勝るため、それを損なわないように重装備にならないよう配慮したのです。

本来剣闘士は装備を自分では選べないはずですが、規定されていない部分をどうするかは自由なので上手くやったのでしょう。


対するケイドは総金属製で意匠を凝らしたカイト・シールドに広刃のブロード・ソードです。

これは自分の美しさを際立たせるための選択だったとワールドガイドにはあります。本当にそうならナルシストなんですね。

2人の戦いは長時間に及びました。肉体も技量も互角、経験に勝るケイドが若干有利だったかもしれません。

しかし金属製の盾を持つケイドはルーファスよりも消耗が激しく、彼は盾を捨てて一気に勝負をつけようとします。


それまで耐え続けたルーファスは賭けに出ます。それまで両手持ちだった剣を右手に持ち替えて振り下ろしたのです。

ケイドはそれに反応して受け止めようとしました。しかしそれは牽制に過ぎず、剣はケイドの視界から消えます。

その瞬間ルーファスは更にバスタード・ソードを左手に持ち替えてケイドの胸を血で染め、更に唖然とするケイドの首を刎ねます。

ここに新チャンピオンが誕生しました。会場は"剣匠"の勝利に狂喜しましたが、デュナス公は彼への復讐を密かに誓ったのでした。


★シミター(曲刀)

ここで時間は遡り、ルーファスが剣闘士として出会った友人が登場します。彼の名はキラールといいます。

黒い肌をした南方の出身で、陽気で巨漢の男です。愛用のシミターを使わせたら彼に適う者はいなかったそうです。

ルーファスとは同じランス卿配下の剣闘士だったこともあり、決して対戦することがなく仲が良かったようです。

2人の間には剣闘士には珍しく強い友情があり、ルーファスは彼にシミターの使い方を伝授してもらう間柄でした。


ところが2人の仲は突然終わりを迎えます。ある試合でキラールが戦死してしまったのです。

不運にも床の血糊に足を滑らせたところを嬲り殺しにされたのです。剣闘士の宿命とはいえ呆気ない最期でした。


それから半月後、ルーファスは友の形見であるシミターを手に、その仇である剣闘士との試合に臨みました。

普段はバスタード・ソードによる断ち切る戦い方をするルーファスでしたが、今回ばかりは切り裂く戦い方をします。

キラール直伝の技術で切っ先は弧を描くように華麗に舞い、瞬く間に敵も闘技場も真っ赤に染め上げます。

そしてキラールの二の舞にならないよう油断することなく戦い抜き、最後は相手の身体を剣ごと切り裂き勝利を収めたのです。


そして戦い終わった彼は友の姿を思い出し、天を仰いで祈りを捧げたのです。剣闘士の世界にだって友情はある。


★レイピア(細身の剣)

今回は闘技場から離れ、ルーファスはランス卿の代理人として決闘に挑むことになります。

剣闘士奴隷は主人の所有物です。決闘の代理を務めさせても問題はないということでしょうか。

今日の彼は黒いチュニックを着て、代理人を示す黄色い記章を胸にとめ、離宮で決闘相手と対峙します。

相手は派手ないでたちの若い子爵で、相手を見下しているのが明らかなキザ男です。いかにも貴族って感じですね。


なお貴族の決闘なので武器はお互いにレイピアです。断ち切るのでも切り裂くのでもなく、突き刺す武器ですね。

元々護身や決闘用の武器であり、あまり実戦向きではない。RPGでも大抵は貴族の嗜みみたいなポジションですね。

こういう場でもないとまず剣闘士とも縁がないでしょう。流石のルーファスもレイピアには不慣れな様子でした。


決闘は当初は子爵が優勢でした。正規の訓練を受けているらしく、意外にも隙のない攻撃を繰り出してきます。

しかしルーファスは百戦錬磨の剣闘士。勝利を確信した子爵の攻撃を自らの脇腹で受けて武器を封じたのです。

そして目にも止まらぬ刺突で一撃で心臓を串刺しにして勝利します。正に肉を切らせて骨を断つ、骨を断たせて髄を断つ。

剣闘士の戦いは常に生きるか死ぬか。命のやり取りをゲームと勘違いしていた子爵にはルーファスも同情することはなかったようです。


★ハンド・アックス(手斧)

ロマール闘技場の朝は早い。剣闘士たちは日の出前に叩き起こされ、奴隷頭による厳しい訓練を受けます。

ルーファスも同様であり、訓練の後に昼の試合を終えることでようやく自由時間を得られます。

昼の試合と簡単に言いますけど、これだっていつもの命懸けの試合だから場合によっては永遠に自由になる事もある。


その朝の訓練を終えたルーファスは訓練場の片隅で一心不乱に練習に励むキラールの姿を見かけます。

彼の手にはいつも愛用しているシミターはなく、小ぶりなハンド・アックスが握られていました。

ルーファス「珍しいじゃないか。今日はやけに熱心だな」

キラール「まあな、これもちょっとした思いつきさ。おまえもこのおれを見習って、もう少しまじめに練習したほうがいいぞ」

実はキラールは数日後に有名な短剣使いとの試合を控えていまして、ハンド・アックスはその対策に練習しています。

その短剣使いは相手の懐に飛び込み、両手に仕込んだ短剣で脇腹を突くという戦法を好んでいるらしい。

ならば接近させなければいいと剣を使って挑んだ剣闘士も何人かいましたが、敵を侮って命を落としているようです。


キラール「奴が短剣でくるなら、こっちは手斧ってわけだ。いざというときはこいつで片をつけてやる」

慣れない武器を使ったところで勝てるものではないとルーファスは言いましたが、彼の予想はいい意味で裏切られます。

数日後の試合では肉弾戦を挑んできた短剣使いの額をハンド・アックスで叩き割り、ルーファスは勝利の美酒を御馳走したのでした。


手斧は戦闘以外に野外生活でも活用でき、小ぶりで振り回しやすいため格闘戦でも使えるという点は短剣に似ていますね。

しかもその威力は短剣をも上回るため、格闘戦を避けられないのなら下手に長い武器を持つより効果的なのかもしれません。

また短剣同様に一撃必殺というほどの威力こそないものの、鎧のない急所を狙えば十分な威力を発揮する点も短剣と同じです。


★バトル・アックス(戦斧)

今回の話はルーファスが下級剣闘士から上級剣闘士に昇進した時のものになります。

常勝無敗の彼はみるみる内に人気を勝ち取り、短い下級剣闘士時代に別れを告げ上級剣闘士になる試練を受けたのです。

その試練は"デス・テスト"と言われ、デュナス公が主催するもので、公が飼っているモンスターとの戦闘になるのが特徴です。

しかし試練とは表向きのもので、実際は公が気に入らない剣闘士を葬るためのイベントだということは公然の秘密です。


今回のルーファスは敏捷性を損なわない革鎧と丸い大盾にバトル・アックスという装備で挑みます。

何しろ敵はミノタウロス。人間を上回る怪力と生命力の持ち主です。力で勝負しても勝てるものではない。

ちなみに敵の武器はモールです。人外の筋力で繰り出される一撃は、盾で受けても腕の骨が軋む強烈なものです。

そこでルーファスは持ち前の敏捷性で敵の攻撃をかわしつつ、バトル・アックスによる強烈な一撃を叩き込む戦法を取ります。


バトル・アックスはハンド・アックスと違い純粋に戦闘用に開発された武器であり、その威力は随一です。

長い柄の先につけられた刃はミノタウロスの胸板を叩き割り、さしものミノタウロスにも大ダメージを与えます。

しかし人間ならば致命的な一撃を受けてもミノタウロスはまだまだ怒りと闘志を燃やし、襲い掛かってきたのです。


続きは棍棒の章になります。


★スピア(槍)

日頃厳しい戦いを強いられる剣闘士も、雨の日には試合のない平穏な午後を過ごすことができます。

闘技場は現代のドーム球場などと違って屋根がないせいでしょうか。日差しを遮る設備はあったと聞きますが。

そんな日にはルーファスも自室で物思いに耽ることがあります。それは彼が剣闘士になるきっかけになった日のことです。


若くして手練の傭兵としてレイド軍に加わったルーファスでしたが、雨の中ロマール軍の挟撃を受けていました。

レイド軍は多くの騎兵からなる軍隊でしたが、狭い谷あいの土地で前後を包囲されてはその機動力を生かせませんでした。

ロマール軍は重装歩兵スピアを持って包囲陣を敷き、着実にレイド軍の戦力を削るという戦法に出たのです。

これではいかに騎兵が突撃しようとも槍ぶすまの餌食になるだけで、やがて統制を失った乱戦へともつれこみます。


こうなってはレイド軍は討ち取られるか、敗走するかです。ところが泥沼の乱戦の中、ルーファスだけは踏み止まったのです。

一度に大勢の敵を相手にしながらも一歩も引かず、剣を閃かせるだけで確実に敵を討ち取るその姿は猛虎さながら。

それも味方が完全に敗走し、彼自身が包囲されてはそれまででした。敵の槍を肩に受け、その槍は背中へと貫通して彼を倒します。

さしもの"剣匠"も圧倒的にリーチの違う槍を持つ敵に、それも雲霞の如く押し寄せる敵に囲まれては守りきれなかったのです。


ところがトドメを刺されそうになったところで彼を助けたのが、他ならぬ敵軍の指揮官ランス卿だったのです。


★ランス(騎兵槍)

闘技場のチャンピオンになってからもルーファスは1年はその座を守り続けていました。

そして引退も間近になったある日、彼はロマールの建国記念日に開催された武術会に座興として招待されました。

闘技場のすぐ横の広場で開催され、ルーファスは派手に着飾った貴族や将軍達の中、居心地の悪い思いをしていました。


ところがまたもハプニングが彼を襲います。馬上槍試合で勝利した青年貴族が王女様の祝福のキスを拒絶されたのです。

王女「あなたが本当の男なら、まだ闘うべき相手が残っているはずよ。
    こんなお遊びの試合に勝ったくらいでは、私の唇はあげられないわ。
    例えば、あの"ソード・マスター"のルーファスと闘ってごらんなさい」

彼女は以前からその貴族を嫌っていたのですが、まさかその処理をルーファスに押し付けるとは、我侭な人ですね(笑)

勝負は馬上槍試合の形式に則って行われます。重い甲冑を着て、ランスを持って、互いに突撃するのです。

傭兵時代に騎兵の経験もあるルーファスなら勝利は容易い。しかし勝てば青年貴族を敵に回し、負ければ王女の恨みを買う。


そこでルーファスは驚くべきことに引き分けを狙ったのです。通常馬上槍試合では先に落馬した方が負けとなります。

ルーファスは的確に相手を落馬させながらも、自らもわざと攻撃を受けて落馬し、全く同時に地面に落ちたのです。

試合は見事に彼の狙い通りとなり、ルーファスは両者の面目を保ちながらも自分の身を守ることに成功したのです。


棍棒

★クラブ(棍棒)

デュナス公の仕掛けた"デス・テスト"はルーファスがミノタウロウを倒したことで終わるかに見えました。

ところが今まで一度も"デス・テスト"で生存者を出したことのないデュナス公は怒り狂い、新たな敵を放ちます。

今度の敵はオーガーです。食人鬼とも呼ばれる巨人族であり、その怪力による一撃が強烈。ミノタウロスと同じパワーファイターです。


オーガーはクラブを持ち、美味そうな人間を目の当たりにして食欲を刺激されたのか襲い掛かってきました。

先程のミノタウロス戦では敏捷性を生かして攻撃を回避し、バトル・アックスによる攻撃で勝利を収めました。

しかし連戦ともなると体力の消耗が激しく、以前のような鋭い攻撃を放つことができずに逆に回避されてしまいます。

盾を構えて肉弾戦を挑んでもびくともせず、かえってクラブの攻撃をまともに受け、彼は膝をおってくずおれてしまいます。

クラブによる攻撃には技術は要らない。ただ純粋に力を込めて殴りつければいいのですが、使い手が怪力ならそれさえ脅威です。


しかし死を予感した彼に救いの手が差し伸べられます。

キラール「ルーファス!……こいつを受け取れ!

なんと親友のキラールが愛用のバスタード・ソードを投げてくれたのです。ルーファスはそれを空中で受け取りました。

そして全身全霊の力を込めて振りかぶり、クラブごとオーガーの身体を両断して勝利を収めたのです。

遠のいていく意識の中駆け寄ってくる親友の声を聞きながら、彼は"デス・テスト"に生き残ったことを確信したのです。


★メイス(槌矛)

午後の試合を控えるルーファスはキラールと共に、次の対戦相手の視察をしに訓練場を訪れていました。

その対戦相手は全身を黒光りするスーツ・アーマーで覆い、手にはゴツいグレート・ソードを持っています。

更にその鎧は全身にスパイクが生えており、その重武装でありながら普通に動き回れる怪力の持ち主でした。


キラール「あれだけの鎧を着けたままで、普通に動き回れるなんざ、まさに化け物だぜ。
      それに、噂じゃあ、奴は殴ってもまったく痛みを感じないって話だ」

ルーファス「それだけあの鎧が優秀なんだろうが、それが奴の弱点でもあるのさ。
       今までの連中はみな、奴と互角の条件で闘ったから敗れたんだ」

キラール「どうやら何か考えがあるらしいな」

ルーファス「まあ、見てろって。とにかく、今晩はおまえのおごりだからな

そして試合の時になるとルーファスは鎧を着けず、メイスと軽い盾だけを持って登場して観客を驚かせました。

試合が始まると彼は素早い動きで敵の攻撃を回避し、鎧の上からでも衝撃が伝わるメイスによる攻撃を繰り返します。

クラブより更に効率のいい打撃武器であるメイスの衝撃は、鎧越しにでも肉を潰し、骨を砕き、ルーファスを勝利に導きます。


控え室に戻ってきたルーファスは不敵な笑みを浮かべるキラールにつかまります。

キラール「負けたよ。ただし、今夜はやっぱりおまえのおごりだぜ……
      なぜって、おれが次の試合でちょうど十連勝を飾るからさ」

そう言い残して闘技場に向かうキラールに、ルーファスは穏やかな笑みを浮かべていました。


竿状武器

★ポール・ウェポン(竿状武器)

今回は再びルーファスのレイド傭兵時代の話となります。前回よりも更に前、ロマール軍と接触する直前です。

騎兵を多く擁するレイド軍は遮蔽物の無い台地に集合し、足元のロマール軍と合間見えようとしていました。

ルーファスの所属する傭兵部隊は左翼に展開し、最前線で敵軍を撹乱するという任務が与えられていました。

この時のルーファスは騎兵であり、重い甲冑にランスにナイト・シールド、バスタード・ソードは鞍に括りつけていました。


この時ルーファスにはロマール軍の様子がよく見えていました。大量の重装歩兵が槍を持ち、騎兵に対抗する布陣です。

しかし敵の武器は槍だけでなくポール・ウエポン、すなわち長い柄の先に斧頭や鋭い穂先をつけた竿状武器も多くありました。


ギリシャのファランクス(重装歩兵密集方陣)で使用されていた、長さ3m以上はあるパイク

これはこの本では槍の方にも分類してありますね。突撃してくる騎兵に突き刺したり、歩兵に対して振り下ろして使うらしい。


槍に似た広い穂先の根元から左右に刃が突き出たパルチザン。突いたり斬ったりするのに特化した武器です。


片刃の包丁のような穂先を持つグレイブ。水平に振り回して切り裂く、日本の薙刀に似た武器とよく言われます。


長い柄のバトル・アックスことポール・アックス。大抵片刃で反対側にはピックやハンマーがつくこともある。


そして槍の穂先と斧の刃と鉤状のピックを併せ持つハルバード。切ったり、突いたり、刺したり、払ったりの万能武器。


このような多種多様なポール・ウェポンを持つロマール軍に、ルーファスの脳裏には一瞬不吉な想いが過ぎりました。

しかし彼に迷いはありません。開戦を告げる鬨の声が上がると彼は突撃していきました。自分に待ち受ける運命を知らずに。


接近戦用特殊武器

★セスタス/ネット(戦闘用投網)/ウィップ(鞭)/ギャロット(絞殺具)

この項目にはルーファスの話はありません。特殊すぎて絡め辛かったのかもしれませんね。

しかしどの武器もSWで登場するものばかりです。いくら特殊でもRPGの武器の仲間であることに変わりはない。


飛び道具

★ボウ(弓)

引退を間近に控えたルーファスはランス卿に招かれ、一人カーナスの森へと向かいました。

そこは昼間でも薄暗い古い森で、ランス卿は供も連れずたった一人でルーファスを待っていました。


ランス「来たか、ルーファス……このたびは御苦労であった」

これはケイドを倒してチャンピオンになったことを言っているのですが、ここでワールドガイドとの齟齬が出ます。

ワールドガイドではルーファスはケイドを倒してから1年間はチャンピオンの座を防衛し続けたことになっています。

だから引退間近となればその戦いから1年は経っていることになり、つい先日のように語り合うのはおかしくなる。

まぁ防衛期間1年というのはたった一文のことですし、担当者間でコンセンサスが取れていなかっただけのことでしょう。


今回ランス卿がルーファスを招いたのは狩りに付き合ってもらうためです。ボウを持って鹿や雉を射止める、貴族の嗜みですね。

ボウは狩猟・戦闘で使われる飛び道具の代表格です。銃が登場しないRPGでは魔法を除けばほぼ唯一の長距離攻撃手段ですね。

その種類も様々で、素材により単弓(単一素材)、強化弓(単弓を裏打ち)、複合弓(複数素材)と分けることもある。

あるいは小型で扱いやすいショート・ボウ、大型で威力のあるロング・ボウ、複合弓であるコンポジット・ボウといった分け方もある。

今回ランス卿が使っているのは長弓と書かれていますが、素材的には複合弓のようです。とにかく射程もあって威力が高いのでしょう。


ランス卿はルーファスを誘って更に森の奥へ向かい、長弓に矢をつがえ、見事に一発で大鹿を仕留めてみせました。

ランス「どうだ、わしの弓の腕前もまだまだ捨てたものではないだろう。
     おまえは剣の技ではアレクラストでも一、二を争う達人だが、果たして弓はどうかな?」

するとルーファスはランス卿から弓を借りて矢を放ちましたが、その矢は動物ではなく大木の葉陰へと消えていきます。


ランス「ふむ、やはりおまえにも不得手なものがあると見える」

ところが大木からは黒い装束に身を包み、吹き矢を手にした暗殺者が転がり落ちてきたのです。

狼と狩人は時にどちらが獲物になっているか分からなくなる時があるという。他者を狙う者は、同時に他者に狙われることもある。


★クロスボウ(弩)

三度ルーファスのレイド傭兵時代の話です。今回は合戦から離れて要人の暗殺の仕事です。

標的はロマールの騎士隊長ローランド。敵軍のカリスマである彼を葬ることができれば敵も浮き足立つでしょう。

そのためにルーファスはクロスボウのみを持って敵陣奥深くに潜入し、ローランドのいる湖畔の城砦を目指します。

ローランドは城砦にある見晴台に姿を見せる習慣があるというので、それを見下ろせる対岸の岬を狙撃ポイントにします。


クロスボウは俗にボウガンとも呼ばれ、台尻に弓を直角に取り付けたもので、弦は弦受けに引っ掛けておけます。

あとは台尻に刻まれた溝に矢をつがえて、狙いをつけてレバーを押せば腕力の必要もなく機械的に発射されます。

その利点は常に発射できる状態を維持できるということですが、矢をつがえるのに時間がかかるという欠点もあります。

このためボウに比べると威力はあるが速射性に劣るため、完全な上位互換ではない。場合によって使い分けるのがいいでしょう。


この時点で既にクロスボウに矢をつがえてあります。ルーファスはここで3日間も標的を待ち続けました。

やがて甲冑姿のローランドが姿を見せるとルーファスは狙いをつけてクォレル(太矢)を放ちました。

次の瞬間見事に甲冑の防備が薄い首の付け根に矢が刺さり、ローランドを仕留めることに成功します。

直後に城内は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなり、ルーファスの姿を発見した敵兵が武器を片手に向かってきました。


退路を失ったかに見えたルーファスは慌てることもなく、岬から湖に飛び込み、無事に自軍の陣地に帰還しました。


遠距離用特殊武器

★スリング(石投げ器)/ボーラ/ブロウガン(吹き矢筒)/ダート(投げ矢)

この項目にもルーファスの話はありません。




第ニ章「防具」

この「防具」の章は剣闘士を引退するルーファスが後輩の剣闘士達に戦いの心構えを説く章となります。

ただし挿入される物語は「完全鎧」「部分鎧」「盾」の3つだけ。「武器」の章のようにそこから細分化はしません。

既に剣闘士としての最後の戦いを終えてただ語り合うだけの状態ですし、武器と違って地味だし、絡め難かったのかも。


完全鎧

剣闘士が生きて引退するには貴族との契約書の内容を満了する必要があります。

その条件は様々で、「1試合のみ」から「貴族が解放を認めるまで」と何でもありです。

一般的には30試合程度ともいわれますが、3試合終えた時点の生存率が2割以下だとか。


そんな中ルーファスの契約は期間によるものだったらしく、チャンピオンのまま期間を満了しそうです。

そこで仲間の剣闘士達がささやかながら彼の労をねぎらう会を開いてくれました。ちょっとした送別会でしょうか。

どうやらルーファスは後輩の剣闘士達に尊敬されているらしく、彼らはこぞってルーファスに質問をしてきます。


剣闘士「鎧は、どれが一番なのですか?」

ルーファス「武器と同じで自分に一番合ったものを選ぶにかぎるな。
       自分の特技、体力などを考えて決めるんだ。もっとも、お偉方が選ばせてくれたらの話だがね」

これには一同苦笑い。彼らもルーファス同様に例え不利な戦いを強いられることがきっとあるでしょう。

それでも持てる能力を尽くし、運すらも味方につけなければ生き残れない。ルーファスは彼らの無事を祈って熱心に話します。


ここから「完全鎧」、すなわちそれだけで一つの鎧として機能する鎧の解説が始まります。

RPGに登場する鎧は大抵この完全鎧であり、全体をまとめて買うので部分鎧のように組み合わせを考える必要は無い。

また鎧の素材と完全鎧を混同することも多いのですが、ここではあえてその通りに説明されていきます。


ここで紹介される完全鎧は以下のものです。どれもRPGでは御馴染みのものばかりですね。

リング・スケイル・ラメラーあたりは構造が似ていてちょっと紛らわしいかな。ラメラーはスプリントとも呼ばれますしね。

ちなみにSWではレザーの上に金属板をつけたものをラメラー、チェインの上につけたものをスプリントと分類しています。

更にSW完全版ではスケイルはチェインより安価で同等の防御性能という問題からデータ自体削除された不遇の鎧でもあります。

モスの竜騎士が使ってくれているのがせめてもの救い。あるいは値段は同じにしてビジュアルだけの違いとしても良かったかも。


部分鎧

酒も回って程よく場が和んでくるとルーファスは自分が培ったテクニックを伝授します。

ルーファス「オレは軽装で戦ったことが多かったが」

それは大体上からの命令でした。前述通りに剣闘士は偉い人に決められた装備で戦わねばなりません。

軽戦士だと考えられたら革鎧しか装備できないし、重戦士なら逆に超重量の装備ばかり使わされます。

現在彼らが陣取っている控え室には大きな姿見が設置してあり、それで装備を確認して闘技場へ向かうのです。


それが剣闘士の辛いところですが、ルーファスは自分なりに工夫していました。

ルーファス「しかし、指定どおりのスタイルでも、少し工夫してやれば、自分の理想に近い武装になるものさ」

例えばラウンド・シールドを持った軽戦士は足が弱い。相手がグレイブなどを持っていたら確実に狙われます。

そこで規定通りに革鎧を着ておきながら、足にだけは金属の脛当てを装備して弱点をカバーするテクニックがあります。


するとルーファスより2年ほどベテランの剣闘士が口を挟んできます。

剣闘士「意外に姑息な手段を使ってたんだな」

ルーファス「まったく、そのとおりなんですよ。
       でも、名誉を重んじては生きていけないのは、戦場でいやというほど、教えられましたからね」

その最たるものが「英雄戦争」でのベルドとの一騎打ち。名誉を重んじる人だったらあそこで死んでましたしね。


ルーファス「そういえば、あなたのその言葉は、デュナス公も使っていましたよ。姑息な奴め、などと」

剣闘士「奴にその言葉を言わせるとは、たいしたものだ。きっと、それは褒め言葉だよ。
     なにしろ、彼は姑息という言葉をもっとも愛しているような男だからな」

これには一同歓声が上がります。嫌われてるなデュナス公。そして彼らは五回目となる乾杯をしました。

祝杯がぶつかりあう音が室内に響く中、ルーファスは彼らの無事を祈って酒盃を高々と差し上げるのでした。


さてここで重要なのは「部分鎧」、すなわち特定の部位のみを守る鎧のことですね。完全鎧のパーツとも言える。

鎧といえば防御力(どれだけダメージを減らせるか)が気になりますが、身体のどの部位を守るか?というのも大切なことです。

SWだと部位の概念は《部位狙い》ぐらいしかありませんが、胴体を守る鎧しか着ていないPCは四肢や頭部が無防備だと考えられます。

スピアのような突き刺す武器に対し、チェインメイルを着たPCは大した防御力が無いと考える事だってできますしね。

場合によっては四肢が落ちて能力が落ちたり、攻撃を受けた結果装備が破壊されたり、そういう処理だって考えられます。


「ガープス」なんかはこの辺にこだわりがありますが、リアリティの追求は処理の煩雑さを招くこともある。

RPGのルールがその世界のルールの近似だとすると、どの部分をどれだけ近似させるかにデザイナーの考えが出ますよね。

もちろんSWのようにどんな攻撃にも鎧さえ着ていれば一定の防御力があるというルールだっていいと思いますよ。

守りの薄い部分に当たったケースは防御ロールで1ゾロを出した時と考えられるし、それこそ部分鎧で補強してるかもしれない。


ここで紹介される部分鎧は以下のものです。RPG以外でもよく聞く名称もありますね。

頭部、胴体、手足。大まかに人体を分類すると確かにこんな感じですね。

そこから更に古今東西様々な部分鎧が存在するわけですが、それは必要に応じて設定すればいいでしょう。

ここで挙げられている名称もほんの一例です。それこそ新紀元社さんの本に驚くほど詳細なものもありますしね。


ついにルーファスが剣闘士を引退する日がやってきました。彼は個室の私物をまとめ、闘技場へと向かいます。

控え室へ抜ける薄暗い通路には男達の汗や血が染み付き、3年余りの剣闘士生活の思い出が蘇ってきます。


控え室では他の剣闘士達からの尊敬と羨望の視線を受けますが素早く立ち去り、控え室の隣にある部屋を訪れます。

そこは歴代の剣闘士達の装備が飾られた記念の間です。キラールのシミター、ケイドのカイト・シールド。

それ以外にも多くの剣や斧などが壁に展示してあります。その持ち主はもう闘技場にはいません。

ある者は幸運にも生きて闘技場を去り、またある者は志半ばでこの世を去り、ルーファスの軌跡もまたここに刻まれるでしょう。


やがてルーファスは部屋を出ると3年余りを過ごした闘技場から去ったのでした。


彼の腕を見込んでランス卿をはじめ多くの貴族が彼を召抱えようと申し込んできましたが、彼はそれを全て断りました。

最早他人に為に戦う気になれず、自分の為に戦いたいと彼は思っていたのです。そこで彼は冒険者の道を歩むつもりです。

この大陸には人の手が入っていない土地が沢山あり、古代の遺跡がある。そこには莫大な財宝も眠っているのです。

もちろんそこには危険もあります。魔物や自然の驚異、凶悪な罠。しかしそれすらも自分の剣は十分な力になると信じています。


さて、防具として鎧と並んで重要なのは盾ですね。RPGにおいては材質以上に形状や大きさで区別されることが多い。




第三章「装備」

剣闘士を引退して冒険者の道を歩み始めたルーファスは、まず冒険に必要な装備を整えようとしました。


剣闘士は奴隷の身分ではありますが財産を持ち、自分の試合において自分の勝利に財産を賭けて臨みます。

敗北に賭けるようなことは普通しません。それは大抵の場合死を意味するのですから、勝つ事が前提です。

そうして稼いだ配当金とファイトマネーは奴隷の身分から解放された時にようやく自由に使う事が許されます。

無敗の王者である彼はそれなりのお金を持っているでしょうから、装備一式を購入するのに不自由はない筈。


そうして彼が訪れたのは魔法の品を手広く扱うことで有名な「奇跡の店」でした。

扱っている商品は合法的なものばかりです。非合法のものも欲しければ有名なロマールの闇市に行けばいいでしょう。

もちろん普通のアイテムも売っていますし、どうやら「冒険者の店」も兼ねているらしい。

店に入ったルーファスは店主のおやじの熱烈な歓迎を受けます。どうやら剣闘士時代からルーファスのファンだったようです。


そしてこれが2人の友情の始まりでもありました。

おやじ「あんたのような有名人相手に商売できて、こんなにうれしいことはないな。
     自慢じゃないが、この店にはいろんな品物が置いてある。
     ほかの店には並べられていないような魔法の品々だってあるぞ。まあ、ゆっくりと選んでくれよ」

ルーファス「なるほど、変わったものも目につくな。だがおれが欲しいのは、そんな高価な品ではない。
       冒険に必要な装備を一式、それだけでいい。選ぶのはあんたに任せるから、すぐに揃えてくれないか」

おやじ「いいとも、あんたのためにとっておきの品物を用意してやろう」

ここの挿絵を見ると確かに普通の店ではまず見られない品物が並んでいますね。

魔導書と思しき書物や、何やら煙を出しているランプに、奇怪な意匠の杖や首飾りのような装飾品。

店頭にあるからには目玉商品のマジックアイテムなのでしょうが、店の奥には普通の装備も沢山ありそうです。


揉み手をしながら店の奥から出てきたおやじは、ルーファスの鍛え上げられた若い体を感心した様子で眺めて言いました。

おやじ「いやあ、剣闘士ルーファスもついに冒険者となるか。これはわしにとっても、大いに喜ばしいことだ。
     あんたが廃墟で拾ってきた宝は、みんなここで引き取らせてもらえんかね
     もちろん、あんたの損にならないような値を付けてやるよ。これでも、わしは正直者で通っているんだ」

折角の珍客を逃すまいと営業トークです。まぁ調子のいいおやじですが、悪い人では無さそうだし、誠実そうです。

多くの冒険者は自分の拠点となる「冒険者の店」を持ち、仕事の斡旋や財宝の換金などのコネにします。

その際大抵の場合は飲食や宿泊の施設も兼ねるのですが、「奇跡の店」は商店っぽいけどそういうのはあるのかな?


そこでルーファスもひとつこの店の馴染みになっておこうと決めます。

ルーファス「いいだろう、おやじ。取り引きはすべてあんたの店ですることを約束しよう。
       その代わり、いい情報があったら、真っ先におれに知らせてくれ。
       おれはどんなところにでも行くし、そして帰ってくる
       今まで、誰と戦っても負けなかったおれだ。その腕を信用してくれ」

おやじ「いいとも、いいとも」

いい冒険者を抱えた店は繁盛し、店が繁盛すれば冒険の話も転がり込んでくる。理想的な共生関係といえます。

上機嫌の親父はロープ、トーチ、スパイクといった色々な品物を引っ張り出してきて一番良さそうなものの選別に入ります。


ちなみに以後ルーファスはほとんどパーティを組みません。彼ほどの達人なら引く手数多でしょうにね。

それにパーティを組むのは彼自身の為でもある。剣だけでどんな問題も解決できるほど冒険は甘くない。

盗賊や魔法使いの力がどうしても必要な時があるはずです。まぁ臨時で必要な技能を持った人を紹介してもらう事はあるようですが。


装備

★照明器具

さぁここからおやじさんのスーパー営業トークの始まりですよ。結構凄い品を揃えているだけに勧めるのが上手い。


おやじ「冒険に欠かせないものはいろいろあるが、まずなんといっても明かりは必要だな」

暗視を持たない人間には照明器具が不可欠です。暗い洞窟や遺跡の中に夜の屋外、冒険は場所を選びませんから。

よく使われるのはランタントーチ(たいまつ)ですね。ここではおやじさんはトーチを勧めてきます。


おやじ「このトーチは、うちの特性の品でね。ほかの店で売っているものより、二倍は長持ちするよ」

ルーファス「トーチなんて、どの店に行っても同じなんじゃないのか」

おやじ「それが違うんだな」

トーチは通常布を先端に巻きつけていて、その布には松ヤニや油を染み込ませて長時間燃えるように工夫されています。

ところがこのトーチで使われている油には魔法がかけられていて、地面に落としてもしばらくは燃えるらしい。


おやじ「一人で冒険するなら、このトーチは絶対に必要な品だ。
     片手がふさがっていては満足に戦えないから、ランタンは使えないし、普通の店のトーチならかさばるしね。」

ルーファス「で、値段はほかの店とどれだけ違うんだ」←でもお高いんでしょう?

おやじ「質がいいからね、三倍の値段だが

ルーファス「二倍と半分だな」←値切った

値段は2倍長持ちする上に消え難いという特徴を加味しているのでしょう。ちなみに製作者は街外れに住む魔術師らしい。

それならマジックアイテムでもいいですけどね。"ライト"のコモン・ルーンなら12時間持続するし。

初期投資3000ガメルで使い放題なのは便利ですね。精神力を3点消費しますが、戦士なので多少は大丈夫。

ただしトーチやランタンは本物の炎を使うというメリットもある。蜘蛛の巣を焼き払ったり、怪物に火を放つ使い方もある。


★ティンダー・ボックス(ほくち箱)

ルーファスにトーチを渡したおやじは続いて火を起こす道具を取り出します。火が起こせなかったら無意味ですもんね。

ただしライターやマッチがない世界では火を起こすのも一苦労。そこで使われるのがティンダー・ボックス(ほくち箱)です。

フリント(火打石)とスティール(鉄片)と木屑がセットになっていて、これに火種をつけて火を大きくしていきます。

もっともフォーセリアではやはり"ティンダー"のコモン・ルーンがあったりするので、ほぼライター感覚で火が起こせますが。


ところがここでおやじが出してきたのは違う品でして、5センチぐらいの小さな棒の束、そうマッチなのです!

おやじ「こいつが、うちの自慢の品でね。やはり、町外れの魔術師が作ったものなんだ。
     よく見てごらん、棒の先に赤いものが付いているだろう。
     これを、靴のかかとなんかでこすると、たちまちのうちに火種がつくのさ

ルーファス「魔法がかかっているのかい」

マッチの形状をしているだけで、実は使い捨ての"ティンダー"がかかったアイテムなのかもしれませんね。

あるいは本当に現実世界にあるようなマッチを発明してしまったのか。だとしたら凄い発明ですね。


ルーファスが食いついた事に気を良くしたおやじは早速実演してみせました。

ルーファス「こいつはすごい。ルーンも唱えず、これだけの動作で発火の魔法が使えるなんて!

おやじ「値段は張って、金貨三枚なんだけど買うかい」

ルーファス「もちろんだとも。こんな偉大な魔法の品を今でも作れる魔術師がいたとはね」

ちなみにアレクラスト大陸の金貨三枚は150ガメルですね。ほくち箱は20ガメルです。

このマッチの正体が魔法であれ科学であれ、この世界の技術水準を考えると妥当な値段なのかもしれない。


★シーブス・キット

続いておやじが取り出したのは20〜30本ほどがセットになった鍵の束です。

おやじ「こいつが、うちの店の自慢の合鍵でね。どんな錠前にだって合うものがあるのさ」

ルーファス「おれは盗賊ギルドには、入っていないのでね」

おやじ「町中で仕事をしないかぎり、ギルドだって刺客を差し向けたりしないさ」

盗賊ギルドに所属しない者が盗みを働けば、それは立派なシマ荒らしですしね。

ただし盗賊ギルドの勢力は通常その町の中だけに限られる。町を出てしまえば管轄外でしょう。

もっともギルドに所属する者からすればギルドの恩恵を受けられなくなるという意味でもありますが。


おやじ「迷宮の中のものは、所有者があるわけじゃないから、盗みにはならないのさ。
     それに、この鍵は古代王国の錠前に合わせて作ってあるので、今の錠前にはちょいと合わないね。
     だからギルドにも公認されているってわけ。でなけりゃ、こんな品、店頭には置けないよ」

店頭でなければ置けるのかという突っ込みはともかく、これはなかなか凄い道具ですね。

カストゥール王国では"アンロック"の魔法への対策として機械的な鍵が発展していたそうなので使い道はあるし。


便利な道具ではありますが、どうせなら本職の盗賊と組んだ方がいいんですけどね。

おやじ「なんなら、いい盗賊も紹介してやるよ。トラッシュっていう通り名なんだが、けっこうなやり手でね」

ルーファス「信用できるんだろうな?」

おやじ「いつも自分の懐に気をつけていなければ、危ないぐらいにね

ルーファス「腕のほうは、信用できるってわけか」

いくら盗賊でも仲間の懐を狙うのは如何なものかとも思いますが、《スリ》が得意ってことですかね。

ロマール盗賊ギルドは大陸でも最大の規模と実力を誇る。恐らくは「スリ」か「体術」の部門に所属しているのでしょう。


ちなみにこの項目で扱われるのは鍵の束だけではありません。シーブス・キット(盗賊の道具)は他にもあります。

ここでは鍵開けの技が使えない時の金てこ、音を立てないための潤滑油、侵入用のロープや鉤等も上げられています。

鍵開けにしろ必ずしも合鍵があるわけではなく、その場合は工具類で鍵穴をイジることになるでしょうしね。

SWでも鍵開けで使う盗賊用の道具が100ガメルで購入できますが、鍵開け以外の道具が入っていてもいいと思います。


★袋

これまで色々な道具を買ってきましたが、旅や冒険に出る時に忘れてはいけないのはです。

道具を入れるための袋もそうですが、財宝を入れて持ち帰るための袋も必要です。意外と盲点になりますよね。

バックパック(背負い袋)サイド・バッグ(手下げ袋)サック(ずた袋)ポーチ(小袋)など色々な種類がある。


ここではおやじが麻袋を二枚ほど用意してくれます。

おやじ「廃墟に眠っている古代王国の金貨などは、こいつに放り込んで持って帰ってくるといい。
     丈夫な二重織りになっているから、少々詰め込んでも、決して破れないはずだ」

これは多分サックの類いでしょう。サンタクロースが背負っているアレみたいなものでしょう。

宝石や瓶などは傷つかないようにポーチに分けて入れてあげるといいかもしれませんね。


それとルーファスはウォータースキン(水袋)も注文します。脱水症状を起こす冒険者なんて恥ずかしいですからね(笑)

おやじ「海牛の皮でできているから、水洩れなんて絶対にしないよ。
     飲料水用酒用を二つ買うのが、いい冒険者ってもんだ」

ルーファス「なるほど、商売がうまいな。じゃあ、二枚もらっておこう」

保存食の類いはバックパックでいいでしょうかね。あと財布なんてのは冒険者でなくても必要ですよね。

ルーファスにはあまり関係ないけど、魔法使いなら咄嗟に魔晶石等の道具を出せるようポーチをベルトに下げるといいかも。


ルーファス「ところで、いい店の主人というのは、初めての客に酒をおごってくれるものだよな

カウンターの奥には酒瓶が何本かあるのが気になっていたらしい。海千山千の商人相手に上手い返しですね。

しかしというのもそれ自体が袋の代わりに、主に液体を持ち運ぶのに使えますよね。

戦士であっても魔法のポーションを使う時があるでしょう。もちろん水袋の方が壊れ難いというメリットはあるけど。


★キャンプ用品

これで道具類は揃いましたが、冒険者たるもの野営のためのキャンプ用品も必要になるでしょう。

そこでおやじは毛布と旅用のマントを一枚ずつ取り出します。テント寝袋でもいいけど、嵩張るし咄嗟に動けないので。


おやじ「このマントは、完全に水を弾いてくれる便利なものさ。保温性だって優れているし、
     より快適にすごしたかったら、この毛布をいっしょに持っていくこったね。
     こいつはとにかく、軽くて丈夫なんだ。そのまま鎧にしてもいいぐらいだよ」

雨露を弾くのに便利そうなマントですね。毛布だって地面に体温を奪われないために重要です。


ルーファス「フードつきのマントはないのか?」

おやじ「これは、盗賊みたいなことを言うな。自慢の顔が隠れてしまうよ」

ルーファス「それでいいんだよ。この顔を狙っている男だって、いるんだから」

剣闘士を引退したとはいえ、デュナス公の恨みを買っている身です。用心するに越した事は無い。


★乗用動物

これで手持ちの装備は揃いましたね。あとは必要ではないけど、乗り物も検討しておくといいでしょう。


代表的なものはやはりですよね。その用途に応じて色々な種類に分かれ、それに応じて名前も違う。

ライディング・ホース(乗用馬)ウォー・ホース(軍馬)ドラフト・ホース(馬車馬)などですね。

荷物を運ぶだけならロバラバ(ミュール)でもいいですね。砂漠の横断ならキャメル(ラクダ)でしょう。

もちろん騎乗できるのは普通の動物だけじゃありません。ペガサスグリフォンユニコーンドラゴン等だって候補です。


流石の「奇跡の店」も動物は売っていませんが、紹介はしてもらえます。

おやじ「小川のほとりのランバートの牧場に行けば、売ってもらえるよ。馬には乗れるんだろう?」

ルーファス「おれはこう見ても、もとは騎兵さ。それより、そこの馬の質は大丈夫なのか?
       質の悪い馬を買わされても、なんの役にも立たないからな」

おやじ「わしが推薦するんだから、間違いないよ。
     ちょうど、三年前に入った特上の牝馬の初仔が、
     今年で明け三歳になって、軍馬としての調教をはじめたって話だ。
     今のうちに買っておけば、きっと将来、役には立つよ。
     馬は、とにかく若いうちから馴らしておいたほうがいいというからね」

ルーファス「ずいぶんと力を入れて紹介するな。さては……」

牧場の回し者か。でも本当に質が良くないと加担はしないと思うから買って損は無いかも。


するとルーファスの視線に気づいたおやじはワインの栓を取ります。

おやじ「もう一杯どうだい。もちろん、わしのおごりだよ」←本当におごられてた

ルーファス「いいだろう。馬はどちらにせよ、必要だからな。ここは一杯のワインで、話に乗ることにしよう」

フォーセリアではやはり牧場で借りたり買ったりするのが主流でしょうから、今後のためにもいいコネです。

ラクシアだとライダーギルドという組織があって、専用のライダー技能というのもあって騎乗にも力を入れています。


★船

乗り物は何も生物だけではありません。馬車のような非生物の乗り物だって役に立つ時があります。

RPGの世界によってはバイクのような機械類や空を飛べる乗り物もありますが、何処の世界にも大抵あるのがです。


おやじ「川を渡ったりすることもあるから、舟もあれば便利なんだがね」

ルーファス「一人じゃあ、船は運べないだろう」

本当に何でも売ろうとするなこのおやじ。しかしこのおやじが実用性の無いものを扱うわけが無い。


おやじ「金貨一万枚払うつもりがあるなら、魔法の小船を売ってやるよ。
     これは、いつもは模型みたいに小さいんだが、
     魔法の言葉を唱えると、普通の大きさに戻ってくれるという便利なアイテムなんだが」

ルーファス「高すぎる」

金貨一万枚ということは50万ガメルですか。丁度リウイでも出てきた"船瓶"みたいなものですね。


ルーファス「いざという時には、筏を組むことにするさ」

おやじ「それなら、話はべつだ。筏を組むのにもってこいのロープを売ってあげよう。
     水に強くて、丈夫で軽い。うちの看板商品、船乗りの綱、なんと金貨十枚で十メートル」

十メートルで500ガメルですか。普通のロープは同じ長さで10ガメルなのでかなり割高ですね。

それともこのロープも魔法で強化してあったりするんだろうか。そうでもしないと高過ぎますしね。


これでルーファスの装備が整いました。バックパックにはティンダー・ボックスとトーチが二本。

一週間分の食料に、軽い麻のロープがひと巻き。他にもコンパスや小型のハンマーが入っています。

腰のベルトにはダガーとワインの入った水袋を留め、愛用のバスタード・ソードを下げています。

鎧は頑丈なプレート・メイルで、背中には大型のラウンド・シールドを括り付けて準備は万全。


ルーファス「じゃあ、おやじ、帰りをたのしみにな」

おやじ「なに、あんたなら、きっとうまくやるさ」

そしてルーファスは荒野へ向かって歩き出し、おやじはその背中を優しく見守りながら幸運を祈りました。




第四章「財宝」

ルーファスが冒険に出て数日が経つと、彼はサックいっぱいに戦利品を詰めて店に帰ってきました。

おやじ「おや、これはこれは、また変わったものをいくつも持ち込んだものだ」

ルーファス「ああ、しばらくここへ来なかったからな。冒険の戦利品さ」

おやじ「だけど、これだけ値打ち物を集めるとは、あんた、さぞかしたいそうな旅だったんだろうな」

あれだけ珍品を扱ってきたおやじが唸るぐらいだから結構な収穫だったんでしょうね。初仕事にして大したものです。


しかしルーファスは冒険中に魔法使い相手に苦戦したらしく、おやじに愚痴を零します。

ルーファス「だいたい、おれは魔法を使う奴らは苦手なんだ
       まともに剣の相手をしてくれるなら、誰にも負けない自信はあるんだが、
       奴らはわけのわからん術をかけて、きたないまねをしやがる」

おやじ「ほらな、だからわしが言っただろう。戦士にだって魔法の品は必要だと。
     あんたは自分が世故たけた人間だと思っとるようだが、わしの目から見るとまだまだだね。
     傭兵とか剣闘士というのは、しょせん、あるルールの枠の中で戦っとるようなもんだよ。
     魔法を使うやつらは、また別のルールの中にいるんだ
     こいつらの相手をするにゃ、やはりそれなりの魔法の品がないとな」

これは身を持って体験してきたルーファスも認めざるを得ないようです。やはり魔法使いの仲間がいればね。

ロードスに渡ってからスレインやディードといった優れた魔法使いの力を積極的に借りたのも、この経験があればこそかな。


おやじ「まあ、あんたも疲れとるだろうから、ここにしばらくいて、魔法の品やお宝のことを見ておくといい。
     だけど、その前に、あんたのその冒険とやらを、みやげ代わりにひとつ聞かせてくれないか……」

というわけでこの章ではRPGに登場する財宝やマジックアイテムを扱っていくことになります。

ある意味武器以上に多様なものなので、ルーファスが関わるのもそのほんの一端に過ぎません。

登場する財宝やマジックアイテムはルーファスが冒険で獲得したものもあれば、「奇跡の店」の商品もあります。


衣服

★衣服

ロマールの街の北西にはノミオル湖という湖があり、その北にはザクニートという街があります。

いずれもロマールの領土外の土地なのですが、ルーファスはこの土地で起きたある事件の調停役を任されたことがあります。


それはザクニートの染物業者が汚れた水をノミオル湖に垂れ流したことで起きました。

実はノミオル湖にはメロウという湖の妖精の王国があり、両者の仲が険悪になってしまったのです。

そこで以前メロウ達を苦しめていた大ガニを退治し、信頼を得ていたルーファスが調停役になったわけです。


なお、メロウは髪が銀色である以外はエルフに似た姿をしており、貝殻や石を使って湖底に住居を建てて生活しています。

性格は温厚で人間とも友好的に接しようとします。特技は精霊魔法で、女王クラスになるとかなり高度な魔法を使うとか。

また女性の比率が男性の二倍はあります。水中で生活することから衣服を纏わない習慣があるのも大きな特徴です。


ルーファスは両者を話し合いの末に和解させることに成功し、親善パーティをザクニートの公会堂で行うことになりました。

ところがそこでまたも問題が起きます。町長の夫人が気を利かせて用意したドレスを纏うのを女王と側近達が嫌がったのです。

女王「そんな布きれで私たちの体を束縛しろというのですか
    それにその毒々しい色!それは湖を汚した色ではありませんか」

ルーファス「がまんしてください。パーティには街の名士の方々もたくさんくるんです。
       ゲストが裸ではまずいんですよ。地上では私たちの習慣に従っていただかなくては

結局は渋々女王がこれを承諾し、彼女達の美しさに人間達は感嘆と羨望の溜息をつき、パーティは無事に終了します。


帰りがけに女王が言いました。

女王「今度は湖の底にある私どもの宮殿にご招待いたしましょう。
    水中でも呼吸のできる魔法の薬がありますから、溺れる心配はありませんわ。
    もちろん、水の中では私たちの習慣に従っていただきますけども

噂に名高い妖精の王国に招待されることを喜んで名士達はこれを快諾しました。

しかし彼女達の習慣に従うことが何を意味するのかを知って慌てふためいたのでした。

結局それがどうなったのかは謎です。断ったのか、前代未聞の全裸パーティが開かれたのか(笑)


この話の中では特筆するような特殊な衣服は登場しませんでしたね。むしろ裸がユニフォーム。

RPGに登場する衣服といえば、クロース・アーマーがあることから防御力を上げるものが多いですね。

または炎や氷などの特殊な攻撃に対する抵抗力を上げたり。あるいは透明になるとかいうのもありますね。


衣服とは少し違いますが、マントなら「ルナル・サーガ」に登場するシャストアのマントが面白いですね。

これは水竜マハノチの革で作られており、裾は刃のように鋭い。翻せば武器にも鎧にも盾にもなるというものです。

衣服は常に身に纏うものですし、造形美と機能美を両立させやすいアイテムとしてもっと色々なものが考えられますね。


★ブーツ

ルーファスはおやじに勧められた魔法のブーツを履いて、その効果を試すべく数日間の旅に出ました。

これは旅の疲れを感じなくなるという非常に便利なものであり、おやじもオススメの品でした。


ところが店に帰ってきたルーファスにブーツの値段を告げると思わぬ答えが返ってきます(ていうか売る気か)

ルーファス「いや、あいにくだけど、遠慮しておく」

おやじ「えっ、どうしてだい」

ルーファス「いや、疲れが少しも無いと、旅をした気分にならないんだ
       目的の場所に到着した喜びは、ある程度苦労したうえでないとね」

おやじ「うーん、そんなものか」

登山家のようなものですか。苦労して登るから面白い。ヘリで一気に山頂に行っても感慨がないという。

アイテムは便利であればあるほど良いに決まっていますが、便利すぎるのも考え物。まったく冒険者とは複雑です。


ブーツは衣服と並んで重要なアイテムです。足に関係することから移動力を上げるものが多いですね。

また水上や空中を歩くことで行動範囲を広げたり、足音や足跡を消したり偽造したりとやはり行動に関係するものが多い。


★眼鏡

ある日「奇跡の店」に一人の客がやってきます。彼は剣に刻まれた文字の解読をおやじに依頼してきました。

客「どういう意味かな?」

おやじ「『この剣の主たる者、戦場において矢傷に倒るることなし』と、書かれておるね。おめでとう、いいものを拾いなすったね」

すると客は満足そうに帰っていきました。


その様子を見ていたルーファスは感心した様子でおやじに話しかけます。

ルーファス「魔法使いでもないのに、魔法文字が読めるなんて、たいしたものだな」

おやじ「タネがあるんだよ。あんただけは特別に教えてあげよう。そのかわり誰にも話さないと誓ってくれよ」

すると親父は複雑な魔法文字が表紙に書かれた本と、愛用の眼鏡を一緒にルーファスに渡します。

ルーファスが眼鏡をかけてみると、本の表紙には『初等剣術教程、実戦編』と書かれているのが読めました。


おやじ「どうだい、すごいだろう。こいつはわしの一番の宝さ。
     ついでに、その本の価値でも調べてくれないかね。わしは剣の腕はからっきしなのでね。
     "ソード・マスター"ルーファスの推薦とあれば、その本の値打ちもきっと上がるだろうさ」

恐らくは"トレンスレイト"の魔法が付与された魔法の眼鏡でしょう。未知の文字も読めるという、確かに凄い品です。

眼鏡は見るための道具ですから、必然と真実を見極める効果のアイテムが多くなりますね。逆に偽りを見せることもある。

いずれにせよ目に見えるものだけが真実ではないのですから、あまり頼りすぎるとかえって目を閉じることになるかもしれませんね。


薬品

★薬草

「奇跡の店」には冒険者以外の常連も数多く訪れます。普通の品では満足できない収集家、古美術商、細工師などです。

そういった常連達ともすっかり顔馴染みになったルーファスもまた立派な常連といえるでしょう。彼自身有名人だろうし。

そんな中で彼は薬草売りのアナルダという少女とも知り合いでした。多分店に薬草を卸すのが仕事なのでしょう。

普段は物静かで大人しい感じの娘です。ルーファスにも控えめな笑顔を浮かべ、無言で挨拶するだけの付き合いでした。


ところがある日、彼女が薬草を採取する森にゴブリンの一族が住み着いたのでその退治を依頼してきました。

ルーファス「いいでしょう」

アナルダ「ありがとうございます。ところで、報酬なのですが、
      なにぶん持ち合わせが少なく、これでがまん願えませんでしょうか」

ルーファス「なるほど、あなたらしい報酬だ」

彼女は一本の水色の花を差し出してきます。これはなかなか質素で洒落た報酬だとルーファスは快諾します。

元々報酬なんて受け取るつもりもありませんでした。ゴブリン如きなら何匹いようと負けるつもりはないのです。


ところがルーファスが気取ってその花を口に咥えようとすると、彼女は慌ててそれを止めます。

アナルダ「いけません!それには毒がありますから

どうやら一度火で炙って傷口につけることで止血と化膿止めの効果を発揮するらしい。

報酬が花一輪とかそんな洒落たものではなく、ちゃんと実利のある現物支給の報酬だったわけですね。

彼女のおかげですんでのところで毒が体に入らずに済んだルーファスでしたが、おやじには笑われました。


薬草は魔法のあるRPGの世界にあっても一般的な回復手段です。魔法は便利だけどそう多用はできないし、一般的でもない。

あるいは毒物としての側面もあったり、魔法の触媒に使われたり、人間の能力を変化させるものもある。

魔法ばかりがファンタジーではありません。才能がなくても知識さえあれば同じぐらい不思議なことができる薬草も重要なアイテムです。


★ポーション

「奇跡の店」の飾り棚には水晶でできた小瓶がいくつも並んでいます。中身はポーション(魔法の薬)です。

傷薬や解毒薬といった御馴染みのものもあれば、透明になる薬といった不思議なものもあり、おやじはいつも客に自慢します。

おやじ「その左端の赤い色の薬、それは怪力の薬だよ。飲めばしばらくのあいだ、あんたの筋肉の力を倍にしてくれるよ。
     その横はもっと強力だけど、効果が切れると疲れて動けなくなっちまうのが欠点だな。
     その黄色いのは、傷薬だ。金瘡、火傷、なんにでも効く。えっ、その緑のびんは何かって?
     よくぞ、聞いてくれました。これはね、実はね……」

ポーションの講釈をする時のおやじはいつも楽しそうです。本人が魔法を使えずとも魔法の効果を発揮するのだから浪漫がある。

ポーションもまた薬草同様に様々な効果がありますね。薬草と違って効果は魔法そのものだからより不思議なものを用意しやすい。

「ガープス」の霊薬(エリクサー)も似たようなものです。回復、強化、弱体化、変化……冒険のアクセントに最適なアイテムですね。


★ポイズン

ある日、ルーファスが「奇跡の店」を訪れるとカウンターにおやじの姿がありませんでした。

その代わりにチェスト(宝箱)が一つ無造作に置かれていたので、好奇心に駆られたルーファスはこれを開けてみました。

ところがチェストには毒針の罠が仕掛けられていたのです。いかに剣の達人といえども流石に罠にまでは気づきません。


ルーファスが毒針にやられた時、おやじが奥の倉庫から顔を出します。

おやじ「なんだ、あんた、こいつをいじったのか?
     どうもワナがありそうなんでほうっておいたんだが、これで手間がはぶけたってもんだ」

ルーファス「それより、おやじ!早く薬売りのアナルダを呼んでくれ!」

おやじ「なーに、せっかく開けてくれたんだから、葬式代くらいはサービスしとくよ。
     それより、毒消しのポーションは金貨で三十枚だが、いらんかね?」

1500ガメルか。どの程度の効果があるかによって高いか安いか変わってきますね。

いっそ神殿で"キュアー・ポイズン"を依頼した方が安く済む場合もありますが、命がかかっていると確実な方がいい。

そもそもこの毒がどういう毒なのか謎ですけどね。致命的なものなのか、麻痺や幻覚程度なのかも分からない。

しかし正体が分からないからこそ恐ろしい。目に見えない体内で徐々に蝕まれてはいかに剣の達人でもどうしようもない。


薬と毒は紙一重です。薬が多様なように、毒もまた多様。その使い方も、効果も、実に様々です。

使い方としては、武器に塗って傷口から入れるガス状や粉末状にして吸わせる食料や飲料に混入させる等です。

効果もダメージ、麻痺、幻覚、混乱と様々。遅効性即効性と効き方も様々。ただいずれにせよ毒は印象が悪い傾向にある。


PCが毒物を使用するのを原則的に禁じているRPGもあるし、毒の使用が公になれば世論を敵に回すこともある。

知恵と工夫で力の弱い者でも強い者を倒せるという意味では優れた手段のはずですが、どうやら卑怯という見方が主流らしい。

そのくせモンスターや暗殺者は容赦なく毒を使ってくるのだから不公平ですが、ヒーロー志向のRPGだと仕方ないのかな。


工芸品

★楽器

ルーファスは「奇跡の店」のカウンターの前のスツールに腰掛け、何気なく店内を見回していました。

すると並んだ品物の中に見慣れない竪琴を見つけて、思わず「おや」っと声をあげてしまいました。

おやじ「どうしたい、突然変な声を出して」

ルーファス「あそこに竪琴があるだろう。あれは昨日までは、なかったんじゃないかな」

おやじ「そうだよ。今朝、一人の男がやってきて、銀貨百枚と交換に置いていったんだ。
     おおかた、食うに困った吟遊詩人ってとこだな。で、あの竪琴がどうかしたのかい?」

ルーファス「べつに、ただ、冒険者の店に竪琴とは、不似合いだなと思ったから」

ちなみにSWでは楽器の値段は最低100ガメルです。売って半額になることを考えると普通の品ですかね。


しかし吟遊詩人が商売道具を売るとはね。バード技能持ちなら街中で歌ってお金を稼ぐ事もできるのですが。

ちなみに完全版ルールだと1時間歌うと「バード技能レベル×バード技能レベル×2D」ガメルです。

仮に1レベルでも1時間で平均7ガメル、数時間歌えば数十ガメルを稼ぐ。飢えることだけは無さそうですね。

まぁそれはあくまでもゲーム的な処理です。芸能の世界はある意味冒険者の世界よりシビアな所がありそうですしね。


さて、竪琴に目をつけたルーファスはおもむろにそれを手に取ります。

おやじ「おや、竪琴なんて弾けるのかい?」

ルーファス「少しだけだよ」

いざ弾いてみるとなかなかの腕前でバラードを奏でます。どうやら剣闘士時代に覚えたものらしい。

しかしその話をした時の彼はどこか寂しそうでした。キラールのように死に別れた友達から教わったりしたのかな。


おやじ「歌を交えて一曲聞かせてくれよ」

ルーファス「ワインを一びん、それが報酬だな」

おやじ「わかっているとも」

彼が手に取ったのは上等のワインでした。その栓を開けるとルーファスは演奏に合わせて歌いだします。

ちなみにSWでのカシューのデータにはバード技能はありませんが、多分趣味の範疇で弾ける程度なのでしょう。


思えば楽器もまたRPGに頻出するアイテムですよね。SWの呪歌みたいに戦闘で使う事もあるし。

楽器でなくても歌声で敵を操る技術があったりもするし、音楽という要素は武器や魔法とは違った良さがある。

それは多分武力に頼らずに人の心を動かすという魅力。それが時にどんな魔法より強い力を持つことがある。

「SWアドベンチャー」みたいに音楽活動をするパーティがいても全然おかしくありませんよね。

アラン・ディーン・フォスターの「スペルシンガー・サーガ」みたいに音楽家が主役を張るファンタジーもあるし。


★家具

ルーファスとおやじは店の倉庫にいました。さぞ珍しいものがあるのだろうと思いきや、宝の山というわけではない。

なにしろそこは冒険者が持ち込んだ品の中でも役に立たないもの、売り物にならないものが多く死蔵されているのです。


今回はその中でも一台のロッキング・チェアがほんの少し日の目を見ました。

ルーファス「こんなのが、本当に魔法の道具だっていうのか」

おやじ「本当さ。まあ、黙って見ていな」

するとおやじは椅子に座り、何やら合言葉らしきものを口にすると椅子が前後に揺れ出します!

……まぁそれだけですけどね(笑)。ちょっと洒落た品ではありますが、本当にただそれだけのものです。


いくらマジックアイテムといってもド派手な火の玉とか吹雪を出すようなものばかりではありません。

中にはこういった生活に根ざした、家具としてちょっと便利なだけのものだってあっていいと思いますよ。

空飛ぶ絨毯みたいにとてつもなく便利なものだってありますしね。戦闘以外で魔法の力を示すにはいい題材です。

問題は大体の家具は大きくて重たいということです。いくら迷宮で価値のあるものを見つけても持ち帰るのが大変。


★鏡

おやじはカウンターの奥で熱心に一枚の手鏡を磨いていました。そこで興味を持ったルーファスが話しかけます。

ルーファス「どうせ、ただの手鏡じゃないんだろ」

おやじ「そういうこと。まあ、ちょっと覗いてごらんよ」

鏡を覗いてみるとそこには店の様子だけが映され、ルーファスの姿は映されていなかったのです。

生物を限定して映さないようにする魔力でしょうか。なかなか面白いですね、知恵を出せば面白い使い道がありそう。


ルーファス「こいつはいったい何なんだ」

おやじ「おもしろいだろう。実はまだまだあるんだよ……」

するとおやじはカウンターの下から何枚もの鏡を取り出します。一枚一枚覗くのが面白そうだけど、ちょっと怖くもある。


鏡もまたRPGやファンタジーでは様々な魔力を持つ魔鏡が登場することで知られていますね。

昔は姿を映し出す鏡は神秘的なものだったでしょうし、現代においてもその神秘性は衰えを知りません。

時に真実を映し出し、時に虚実を映し出す。襲い掛かる力を跳ね返すことがあれば、覗ける筈もない過去や未来や遠方を見たり


童話「白雪姫」の魔法の鏡はあまりにも有名だし、日本では三種の神器の一つに数えられる。その他多くの魔鏡がありますね。

メデューサとの戦闘でペルセウスが鏡面になった盾を利用した物語も有名ですよね。吸血鬼が鏡に映らなかったり。

あるいは鏡の中に幽霊や妖怪が姿を見せたりと、よくもまぁこれだけ色々な役割をこなしてくれると感心してしまいます。


しかしいくら真実を映し出すといっても、それは左右あべこべです。左右のバランスが歪だと鏡面に映る姿も歪になる。

「鏡は悟りの具ならず、迷いの具なり」ともいいます。鏡に映った姿を気にしすぎるとかえって現実が見えなくなるのかも。


★壷

あるときルーファスは冒険に必要な情報を得るため、引退した冒険者アタナジオの館を訪れました。

彼はいわゆる成功した冒険者で、若い頃に数々の冒険に成功し、老人になった今は戦利品を切り売りして余生を過ごしています。

ルーファスが彼と会って気になったのは、彼が奇妙な装飾の施された壷をいじっていることでした。金属製で優美なものです。


アタナジオ「これはわしの若いころの戦利品じゃよ」

この壷はグリフォンの巣から持ち出したもので、それもまた命懸けの冒険だったそうです。

問題はこの壷が北方の部族の伝説によれば、世界を滅ぼす魔物が封印された壷であるということです。

ランプの魔神しかり、壷に閉じ込められた魔物はよくある題材ですよね。アトンみたいな精霊が入っていたらどうしよう。

また魔物に限らず封印のアイテムとしてとてもポピュラーなものですよね。「西遊記」の返事をすると吸い込まれる瓢箪みたいに。


そんな危険なものは厳重に保管すべきではないかというルーファスの意見も彼は笑ってやり過ごします。

アタナジオ「危険だからこそおもしろいのじゃよ。こうしていじていると、ときおり、ふと衝動的に栓を抜いてみたくなる
       そして栓に指をかけるが、すぐに思い直して指を離す……この繰り返しじゃ。
       世界の運命がわしの手の中にある――冒険に出られなくなったわしの、ささやかな気晴らしの遊びじゃよ」

今の彼は冒険ができない程に体の自由も利かなくなっているらしいし、退屈を忘れる遊びは貴重ですよね。


ルーファス「しかし、本当に栓を抜く気はないんでしょう?」

アタナジオ「いやいや、いまわの際に抜いてみようと思っとるよ
       いったいどんな魔物が入っているのか、見てみたいからな。そいつに殺されるのも一興じゃて」

ルーファス「でも、魔物が入っているというのはただの伝説でしょう?
       なんお秘密もない、ただの壷ということもあるのでは?」

アタナジオ「かもしれん。もしかしたら、からっぽなのかもしれん――それもまた、人生というもんじゃ」

後にこれが原因で世界の危機が起きたりはしていないので(公式では)、やっぱり伝説だったんでしょう。

仮に魔物が入っていても人間に対処できる程度のものだったとか。もちろんシナリオソースとして使えそうですが。


魔術用品

★お守り

ルーファスはある街でラクシーという若い冒険者と知り合いました。

彼は蛇の姿を刻んだメダルを首から下げており、これはあらゆる魔法・病気・災難を退けるお守りでした。

実際彼は非常に幸運で、戦闘で仲間が傷ついても一人だけ無傷で済むほどであり、あらゆる冒険に成功していきます。

次第に彼は素晴らしい幸運と過剰な自身に支えられ、言動は尊大になっていき、冒険仲間に羨ましがれ、妬まれました。


ルーファスはそれを疑問に思いましたが、気にした様子も無いラクシーはこのメダルを手に入れた経緯を語ります。

それは黒い沼の妖精から1年間の期限付きで借りたものであり、期限が過ぎれば1年間の成果の半分を譲る約束でした。

黒い沼の妖精で蛇の姿、これは他のフォーセリア作品にも例がない。力は本物ですが、何やら怪しいものを感じますね。


ところがラクシーにはその約束を守る気は毛頭なかった。

ラクシー「こんないいものを手放してたまるかよ。
      おれはこれを使ってもっともっと金と名声を集めるつもりさ。
      見てろ、いずれはこの国の王になってやる」

ルーファス「しかし、妖精を怒らせたら……」

ラクシー「はん!あの女に何ができる?おれを傷つけることは誰にもできないんだ。
      どんな呪いをかけてきたって、このメダルが全部はね返しちまうさ!」

翌朝、彼はベッドの上で変死体として発見されました。死因は絞殺、首には蛇が巻きついたような痣が残っていました。

メダルは失われていました。彼は確かにあらゆる災厄から守られていた。しかしメダルから身を守る術を持たなかったのです。


RPGではお守りは武器や鎧に並んで装備品として扱われることが多く、なかなか馬鹿にできない効果があります。

「エピソード魔法の歴史」ではお守りを三種類に分類しており、アミュレットチャームタリスマンとなるそうです。

いずれもお守りですが、順に病気や敵の攻撃から身を守るもの、敵に害を与えたり支配するもの、幸運をもたらすもの、です。

ただ身につけているだけで受動的に効果を発揮するケースが多く、その形状も効果も様々で非常に多様なアイテムです。


凄いのはこの科学が発達した現代ですらお守りが生き残っているということ。特にタリスマン系のものが後を絶ちません。

雑誌の広告や怪しいお店などで堂々と売られ、各宗教団体もちゃんと公認したお守りを販売しているぐらいです。

もちろん本当に効果があると期待している人ばかりではない。例え気休めでもいい、何かに縋りたくなる時はあるものです。

家族の交通安全や安産祈願や合格祈願のためにお守りを買って渡したとしても、それは何ら恥じる事はありません。

いわば無事に済みますように、という願いの象徴のようなもの。目に見える形でないとなかなか感情移入できませんしね。

ただしお守りはあくまでも守ってもらうだけのもの。何かを獲得したかったら自分の努力を欠かしてはいけない事も確かです。


★杖

おやじはルーファスが入手したワンドの鑑定を行っていましたが、深夜になってもその正体は掴めずにいました。

おやじ「やれやれ、こうなっては、あとは町外れの魔法使いに頼むしかないな」

例のマッチを製作した人ですね。レベルも高そうだし、"アナライズ・エンチャントメント"で一発ですね。

ただしそれで分かるのは魔法の効果だけです。金銭的・歴史的な価値はちゃんとセージ技能やシーフ技能で鑑定しないとね。


そうして寝室に引き上げようとした親父でしたが、窓辺に近付くと丁度一人の盗賊が侵入するところでした。

おやじ「この泥棒猫め!

おやじは夢中になって武器代わりに握り締めていたワンドを振りかざしました。

おやじ「ふむ、これで明日出かける必要がなくなったようだな」

どうやらこの杖には"ポリモルフ"の魔力があるらしく、おやじの足元には一匹の子猫の姿がありました。


杖はマジックアイテムの定番といってもいい。ロードスの太守の秘宝には2つも杖があるぐらいです。

魔法使いが携帯するアイテムとしてこれほどポピュラーなものもない。ローブを着て杖を持てば魔法使いにしか見えません。

杖自体に籠められた魔法の力も様々です。怪我を治したり、人を操ったり、火を出したり、天候を変えたり、本当に多様。

現代においても老人や怪我人が携帯したり、新体操で使用したり、王権の象徴になったり、魔法少女が持ったり大活躍ですね。


杖はその長さでスタッフロッドワンドの三種類に分類されるそうです。

スタッフは2m近くある長いもので、魔法使いが持つものは大体これぐらい。ガンダルフとか持ってそうな長さですね。

ロッドは1m弱ぐらい。老人が持つステッキぐらいの長さですね。先端を持って地面に突くことから端は握りやすい形状です。

スタッフは50cmぐらいの短いものです。王錫とかはこれぐらいですかね。魔法少女が持つ魔法のステッキもこれぐらいかな。


★指輪

その日もルーファスは面白いマジックアイテムを見せてもらいに「奇跡の店」を訪れました。

ところがおやじの姿はなく、がっかりして扉の取っ手に手をかけます。すると後ろから声をかけられます。

おやじ「おいおい、どこへ行くんだい」

それは確かに聞き慣れたおやじの声でした。しかしそこには誰もいない


おやじ「ちょっと待ってな、すぐに見えるようになるから」

するとカウンターの前に忽然とおやじの姿が現れます。ルーファスは目を丸くして尋ねました。

ルーファス「いったい、どういう手品なんだい?」

おやじ「何、ちょっとしたいたずらさ」

すると親父は右手を開いて、その上に乗っている小さな銀の指輪を見せました。

透明になる魔力がある指輪ですね。ルーファスが気配すら読めなかったところを見ると"コンシール・セルフ"かな。

しかし自分が声を出しても魔法が解けないとは、なかなか凄い魔力ですね。小さく見えてもかなり高価なものでしょう。


指輪といえば杖とは別の意味で象徴的なアイテムです。何しろ「指輪物語」の存在がありますからね。

「ニーベルンゲンの指輪」もそうだし、「カリオストロの城」でも宝に近付くための重要な品でした。

何かと強力な魔力を秘めたアイテム物語の鍵を握るアイテムとして登場しやすいですね。


古代ギリシャでは左手の薬指が心臓や心との繋がりを意味することから、結婚指輪の概念が生まれたぐらいです。

指は心に繋がる器官という印象がありますし、そこに嵌める指輪は支配する力・保護する力の象徴になるのかも。

RPGでもその携帯しやすい大きさから、敵に捕まっても隠し持てるし、遺跡で発見しても持ち運びやすい。

どんな魔力が秘められているのだろうという期待と、嵌めた時にどうなるのかという不安が入り混じったアイテムです。


★水晶球

ルーファスがいつものように「奇跡の店」を訪れると、そこには見慣れない老婆の姿がありました。

老婆「ほう、これが噂のソード・マスターかえ。なるほどなるほど、よい目をしておるわ。
    それに、なかなかの美形のうえに、鍛えぬかれた肉体。さぞ、宮廷のご婦人がたにもてはやされたことだろうて」

宮廷婦人どころか王女様に贔屓にしてもらったこともありますよね。ロクでもない事件でしたが。


どうやらこの老婆は隣の村から来た占い師らしく、ルーファスの未来を占ってやろうと水晶球を取り出します。

老婆「ほう、これはこれは。おまえさんの人生は、これから先も戦いに充ちておるよ
    しかし、輝ける星もまた、その戦いの中にある。
    良きにつけ、悪しきにつけ、とにかく強い運勢をお持ちじゃ
    運命がいかにおまえさんを運ぶか、まったく楽しみな話よの」

SWでは占い師のルールは用意されていませんが、どうやら本物みたいですね。

ルーファス自身平凡な人生なんて望んでいない。成功するか失敗するかはともかく、波乱を望んでいるのです。


ルーファス「ありがとうよ、婆さん。今の言葉、何よりの励ましの言葉だよ」

ルーファスは老婆の背中をポンと叩きます。するとたちまち老婆は咳き込みました。

老婆「年寄りは大事にするもんじゃ」

そして後にルーファスは再度老婆に占ってもらう機会があるのですが、それは次の項のお話。


水晶球もまた指輪や杖と同様にマジックアイテムの典型例とも言えますね。

「ドラゴンランス戦記」のドラゴンオーブしかり、「ロードス島戦記」の魂の水晶球しかり。

水晶自体に神秘性があり、更にそれが球体をしているとなれば魔法の関与があっても不思議はない。


指輪は個人的に強大な効果を発揮する印象がありますが、水晶球はもっと広範囲に影響を与える印象があります。

例えば結界を解く鍵だとか、ドラゴンボールのように幾つか集めると効果を発揮するとか。

ゲーム的な言い方をしてしまうとステージをクリアした証拠的な扱いをされる事が多いような気がしますね。


もちろん占いの道具としてもよく使われます。SW2.0のミスティック技能ではオーブで占いをします。

とりあえずフードを被って水晶球を持っていればもう占い師にしか見えませんしね。魔法使いの杖のようなものです。

また占いに関連して探知系の魔法に使われることも多い。SWの遠見の水晶球のように遠くの光景を映すものもある。


★カード

水晶球のお話から数日後、老婆がまたもや店を訪れました。

その時ルーファスはおやじと魔剣の引き取り価格で交渉していました。少しでも高い額で引き取らせるためにね。


おやじ「どうしたい、婆さん」

老婆「おまえさんにゃあ、用などないわ。用があるのは、そこにおるソード・マスターよ」

先日の占いの結果からルーファスの運勢が気になった老婆は、更に詳しく占おうとカードを持参してきました。

それは奇妙な絵柄が描かれた木札で、老婆は質問をしながらカードを操って何やら占っている様子でした。


カードの素材についてはちょっと珍しい気もしますが、フォーセリアなら仕方ない。

まさかこの世界に現代的なラミネート加工された紙やプラスチックのカードがあるはずもない。

「ギャンブル・ランブル」でもそうでしたね。パッと見風呂屋の鍵っぽいけどこれが一般的なのでしょう。


占いの結果、ルーファスの運勢はやはり只事ではないものでした。

老婆「ふむ、やはりそうじゃ。おまえさんの運勢は修羅道よ。現れた札とその並びがとても強い。
    これが吉と出るか凶と出るか。戦星に帝星、そして賢星をも備えた男など、この世に幾人もおらぬわ」

ルーファス「言っている意味がわからないが」

老婆「婆にもわからん」←駄目じゃないか

まぁ何となく物凄いものが出ているというのは分かります。きっとこの人だって初めてなんでしょう。


老婆「ただ、おまえさん、一度は王冠をいただくことになろうよ。吉なる方向は南、立ち向うは炎

ルーファス「オレが王に?」

やはりこの婆さん、本物か。南のロードス島に渡り、王になって炎の部族と戦う未来を言い当てるとは。

あるいはこういう占いをしたからルーファスがそういう行動に出たのかもしれないけど、それにしては出来過ぎです。


しかし当の本人は信じられない様子でした。一介の冒険者が王になるなんて、リジャールのような特例中の特例です。

乱世ならまだしも、一応の平穏を得ているこの大陸では戦でも起こさないと駄目です。だからこその南なのかな。

ロマールは大陸の南の海辺にある国です。ここから南に行って国を興すのなら、それこそロードス島やクリスタニアです。


おやじ「いずれにしても、すごいじゃないか。王たる器のあんたが、金貨十枚を値切らせないとはね」

ルーファス「余を愚弄すると、死刑なるぞ

また仕様もない受け答えですが、これは将来彼が王になっても変わらない気さくさなのです。


カードもまたタロットカードのように占いの道具としてよく利用されるアイテムです。

プレイングカード(トランプ)のようにゲームに使われる事も多く、TCGなんてジャンルが成立するほどです。

SW2.0のマテリアルカードや、六門世界RPGの魔術カードのように、戦闘でも使えるものだってある。

また現代はカード社会と呼ばれるほどカードに様々な付加価値を求めており、最早下手な貨幣より多用されている。

カードの薄くて軽くて持ち運びが容易な形状は様々な場面で咄嗟に出すことを可能とし、多様な用途に役立つのかもしれない。


貨幣/宝石

★コイン(貨幣)

ルーファスはトラッシュという若い盗賊とコンビを組むようになり、いくつかの冒険を成功させていました。

今回の冒険でもそうなるはずでしたが、地下墳墓に潜った2人の前に予期せぬ光景が広がります。

それは床一面に広がる金貨の海でした。全て集めればひと財産、当然トラッシュはその部屋に入ろうとしました。


ルーファス「待て、この部屋はちょっと不自然すぎる。こんなところにはワナがあって当然だ。入るのはやめておこう」

トラッシュ「いや、これだけのお宝を目にして引きさがれるかってんだ」

相棒の制止を振り切って部屋に足を踏み入れたトラッシュを、天井から落下してきた巨大スライムが襲いました。

トラッシュはあっという間に溶かされ、ルーファスがスライムを退治しても残されたのは彼の所持品だった金貨のみ。


ルーファス「だから忠告してやったのに……この馬鹿野郎が!」

この部屋に広がる金貨の海は、彼のように欲に駆られて足を踏み入れた人達の遺品だったのです。

黄金の輝きは時にどんな魔法よりも強力に人の心を支配し、危険に足を踏み入れさせるのです。


ここまで様々なアイテムが登場してきましたが、忘れてはいけないのは貨幣というものです。

この貨幣があるからこそ、人間は物々交換の面倒くささから解放されて経済を発展させてきたのです。

それはあらゆる品物やサービスの尺度となり、また価値の保蔵取り引き手段としても使える万能の道具。

冒険者のような流れ者だって貨幣を報酬として仕事を請け、別の街に行っても貨幣があれば生活できるのです。


もっともあまりにも莫大な貨幣は持ち運びという観点から見ればむしろ邪魔になってしまいますけどね。

貨幣はその素材を価値の拠り所とする場合が多く、金や銀は価値こそあってもとっても重たいのです。

ファイブリアのクリュオみたいに貝殻を貨幣とする場合もありますが、いずれは限界が来るでしょう。


そういう時はもっと嵩張らずに価値を保てる宝石やマジックアイテムに替えるとか、誰かに預けるとかですね。

ただし銀行のような機関は成立し難いでしょう。紙幣のように法によって価値を認められるお金は国を出れば無価値です。

あとは何処かに隠すという手段もありますが、その場合盗まれないように気をつけないといけません。

それこそ迷宮の奥深くに隠し、罠や守護者も置くとか。もし志半ばに倒れても未来の冒険者達の報酬になりますね。


★宝石

冒険から帰ったルーファスは「奇跡の店」に寄り、冒険で入手したオパールを持ち込みました。

おやじ「こ、こいつは……いったいどこで手に入れてきたんだ」

鑑定をしたおやじは驚きます。このオパールには強力な災厄がかかっており、持ち主を破滅に導くというのです。

あまりにも危険な品なので、おやじはルーファスにオパールを町外れの魔術師に売るように忠告してくれました。

売られた魔術師は大丈夫なのか気になりますが、多分封印する手段とかを持っている高位の魔術師なのでしょう。


ルーファス「その忠告はありがたいが……どうやら、もう遅いようだよ」

既に店の玄関にはこの世ならざる奇怪な影が浮かび、二つの赤い瞳がオパールを見つめていました。


宝石は貨幣よりも小さくて軽く、貨幣よりも価値があるため、前項でも挙げられたように財産の保管手段に最適です。

美術品的美しさもあり、贈り物や賞与にも最適。貨幣とは別の意味で価値の象徴といえるでしょう。

また宝石そのものに魔力が宿っていることもあり、持ち主に幸運や不運を招いたりと曰くのある場合も多い。

それこそホープのダイヤモンドのように嘘か真かとにかく曰くのある宝石も実在するぐらいです。


書物

★呪文書

その日もルーファスは冒険の成果である宝石類のぎっしり詰まった袋を抱えて「奇跡の店」を訪れました。

おやじ「こりゃまた、ずいぶんな景気だね」

ルーファス「ああ、ここ最近では一番の豊作だよ」

更に今回のルーファスは一冊の本を持ち帰っていて、これの鑑定も依頼しました。


おやじ「あんた、ずいぶんな値打ちものを見つけたね。こいつは古代の呪文書だ。
     町外れの魔法使いなら、あんたの言い値で買ってくれるよ」

ルーファス「そっちはおやじさんにまかせるよ。なにしろ、この前の宝石のときには、ずいぶんな目にあったからね」

どうやら前回の件は何とかしたようですね。今回の呪文書なんて魔法使いでもないルーファスには無価値なものです。

しかしそこには古代の知識が詰め込まれている。貨幣と違って知識は主観に影響されて価値を増減させるものです。

本当に価値の分かる人に売り飛ばすのがベストでしょう。それにしても町外れの魔法使いって何者なんだろうか。


呪文書や魔導書、色々呼び名はあるけれど書物は知識の象徴といってもいいでしょう。

宝や魔物や歴史等の調べものをする時、新しい魔法や知識を身につけたい時、冒険の合間に読書をする機会は多い筈。

フォーセリアだと魔術師ギルドに所属していると図書館を借りることも可能ですし、好事家を頼るのも手です。

それに本が集まる所なら冒険で入手した書物を売る時にも頼れる。識字率の低い世界では買い手も限られますしね。

ただし知識は時にどんな魔法より恐ろしい結果を招く事もある。書物の内容と譲り渡す相手には注意が必要ですね。


RPGだと「クトゥルフ神話TRPG」でとにかく重要です。PCの弱いこのゲームでは知恵と知識こそ最大の武器です。

「ネクロノミコン」「無名祭祀書」「金枝篇」「エイボンの書」「屍食教典儀」「セラエノ断章」等枚挙に暇がない。

しかし読めば読むほどクトゥルフ神話に詳しくなる反面、正気度の最大値の減少を招くという、正に禁断の知識です。

「知らない」から「知っている」に移る事はできても、その逆は普通なら不可能。それが書物の魅力であり、恐ろしいところです。


★地図

おやじはしかめっ面をして一枚の古地図を見つめていました。熱中のあまりルーファスの来店にも気づかないほどです。

声をかけても返事はなく、呆れて大声でどなるとおやじは驚いて飛び上がりました。一体何にそんなに熱中しているのか。

おやじ「や、やあ、来てたのかい、それならもっと早く声をかけてくれれば……」

ルーファス「何度か呼んでみたのだけれどね。それより、何を見ていたんだい?」

おやじ「これかい、これはね……」

その地図はロマールの周辺を記している、虫食いだらけの古いものでした。ただし街の規模は今よりずっと小さい。


おやじ「こいつを持ち込んだ奴の話ではね、この町の創立者の財宝
     この地図に隠されているっていうんだけどね、あんたはどう思うね?」

ルーファス「ああ、創立者の宝の話なら、おれも聞いたことがある。おれが剣闘士のころの話なんだが……」

地図は部屋にいながらにして異なる土地の風景を想像させる。しかも宝の地図となれば男二人の会話は熱中して当然。

しかし地図に書かれていることは必ずしも正しいとは限らない。経年によって情報が古くなることがあります。

また初めから地図に誤りがあることもあるし、偽物だってありえる。宝の地図となれば本物かどうかも疑わしい。


それに地図は過去に記されたものばかりではなく、現在進行形で記される場合だってある。

RPGではマッピングがあるし、それをやるマッパーなんて役割もある。まぁGMがやってしまう事も多いんですが。

面倒ですが、それが冒険の軌跡となり、怪しい場所を浮かび上がらせ、危険を軽減するのなら価値のある行為といえます。

冒険の入り口にして出口までの道標。地図こそは冒険者にとって欠かせない、旅の仲間なのかもしれませんね。




エピローグ

町外れの古井戸の底に隠された創立者の財宝は莫大なものでした。

ルーファスはその三分の一をおやじに渡しましたが、それでも残った財宝はやはり莫大でした。

おやじ「わしは、道楽半分でこの店をやっているからいいとして、あんたはその金をどう使うつもりなんだ。
     貴族に仕えるつもりはないのだろう。なら、この町に館でも建てて、一生を過ごすのもいいんじゃないか」

おやじは親身になって言ってくれますが、ルーファスの目はずっと遠い所を見ていました。


ルーファス「おれは、この金で王になってみたいと思ってる
       占い婆さんの言葉を信じているわけじゃない。しかし、おれにだって野心はある。
       男として生まれた以上は、自分の国を持ってみたいという欲望が、抑えられないんだ」

おやじ「あんたには、その器があるさ。わしにだって、それぐらいはわかる。
     できれば、あんたにはここにずっといてほしかったが……。遠くへ旅に出るのだろう?」

ルーファス「おれは船に乗って南へ向かう。それがおれの吉なる方向だと言った婆さんの言葉に従って」

おやじ「南って、まさか、『呪われた島』……」

ルーファス「そうなるな。あの島なら、まだおれの剣の力で王になることもできるだろう」

おやじは唖然としましたが、圧倒的な自信を持って立っている男の顔は真剣そのものでした。

微かな笑みを浮かべながら、寂しげなその表情はおやじを本当に慕っていることを伝えてきます。


おやじは静かにうなずき彼の王になった姿を思い浮かべます。

この優しい男が王になったなら、きっとそれは平和な国になるはずだ。
普通の王が知らない悲しみや苦しみ、それに平民としての幸せを知っている男
これほど、王としてふさわしい人間がいるだろうか。

そしておやじも、ルーファスの事が大好きなんでしょう。これ程までに彼を理解しているのだから。


おやじ「王になったら、教えてくれ
     あんたの国で、商売をさせてもらいたいからね。もちろん、税は免除してくれるのだろう」

ルーファス「いつになるか、わからないがね」

そして彼はおやじに最後の挨拶を送ります。それは近い将来叶うのですが、約束がどうなったかは二人だけの秘密です。


おやじ「王国の名前も決めなきゃな。それに紋章も、船旅のあいだにゆっくりと考えておくこった。
     さよなら、ソード・マスター。あんたのことは、絶対に忘れないからね

ルーファス「ありがとう、おやじ。あんたの忠告に従うよ。しかし、王国の名前だけはもう決めてあるんだ。
       婆さんが言ってただろう。おれが立ち向わねばならないというものを」

おやじ「そう、たしか"炎"(フレイム)だったな」

ルーファス「それが、おれの王国の名前さ」

立ち向うべきものの名前を自ら冠するとは、でもこれで謎が一つ解けましたね。

初めてロードスを読んだ時は「何で風の部族の国なのにフレイムなんだろう?」と疑問に思ったものですが。


ルーファス「ところで、おやじ。最後にあんたの名前を教えてくれよ。おれはまだ、あんたの名前を知らないんだぜ」

そこそこ長い付き合いだろうに、ずっとおやじと呼んでたんですね。ここでおやじは涙混じりに名前を告げました。

数多くのアイテムが登場した本書で最後に暗に提示されたアイテムは名前なのかもしれませんね。

全ての現象・物体・生物に名前をつけて認識すること。国も種族も超えて文化あるところ必ず存在するものです。

それはただの記号に過ぎないのかもしれないけど、自分を知って欲しいのなら伝えるべきものでもあります。


ルーファス「ありがとう。友情の証に、おれもあんたにだけは、真の名を告げておきたいんだ
       おれの生まれた国では、名前は神聖な意味を持っているんで、めったに教えないんだが」

おやじ「その話は聞いたことがあるよ。そんな大事なものを、このわしに教えてくれてもいいのかね」

ルーファス「あんただから、教えたいのさ

そして彼はおやじの肩を抱いて静かに自分の名前を告げ、海の向こうの"呪われた島"へと旅立ちました。

後に自らの王国を興し、"傭兵王"カシューと呼ばれるようになるのですが、それはまた別のお話。







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